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ロミオとジュリエット

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第一幕その三


第一幕その三

「僕はまだ一人の女性も知らない」
「そうなのか」
「だから女性がどんなものかも」
「まあそれはそのうち嫌でもわかるさ」
 マーキュシオの言葉はまだシニカルなものを含んでいた。
「そのうちね」
「引っ掛かる言い方だね」
「そうかな」
 その言葉にはあえてとぼけてきた。
「何事も経験でわかるのさ」
「そんなものかな」
「君も恋を知ればわかるよ。僕みたいにね」
「恋、か」 
 そう言われてもまだロミオには実感が沸かない。
「どんなものか」
「おいロミオ」
 ここで仲間内の一人が彼に声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
「あれ、見ろよ」
 そう言って宴の中央を指差した。
「あれって!?」
「見ろよ、凄い奇麗な娘がいるぜ」
「本当だ」
「な・・・・・・」
 それは仮面を着けたジュリエットであった。その白く美しい姿を見てロミオは忽ちのうちに心を奪われてしまったのであった。これは運命であった。
「何と奇麗な娘なんだ」
「おい、言った側からか」
 これにはマーキュシオも驚きを隠せなかった。
「これはまた」
「マーキュシオ」
 ロミオは胸の高まりを抑えられない様子で彼に問うてきた。その少女を見たまま。
「まさか今の僕の気持ちが」
「彼女を手に入れたいと思うかい?」
「ああ、何か急に」
「じゃあそれだよ」
 マーキュシオは述べた。
「それが恋なんだ」
「これがか」
「そうさ。それでどうするんだい?」
「そうするって言われても」
 彼には何と言っていいかわからなかった。
「今出会ったばかりで」
 だが彼の運命は大きく動こうとしていた。そしてそれはジュリエットも同じであった。
「ねえ婆や」
「はい」
 ジュリエットはまだ三十代後半の気品のある女性に声をかけていた。
「何か疲れてきたわ」
「それは大変です」
 その婆やジェルトルードはそれを聞いて彼女を気遣う。
「お嬢様に何かあれば」
「いえ、そこまではいかないけれど」
 ジュリエットは言う。
「ただ。何か」
「それではこれを」
 ジェルトルードはそっと杯を差し出してきた。
「これで元気を出されて下さい」
「ワインね」
「はい」
 彼女はそれをジュリエットに手渡して頷く。
「少し疲れた時は一杯飲まれると元気になられます」
「そうね」
 ジュリエットはにこりと笑ってそれを手に取った。
「それじゃあ私も。けれど」
「何でしょうか」
「私も近いうちに結婚するのよね」
「そうですね」
 ジェルトルードはそれに応えてまた頷いた。
「いつも申し上げていることですが」
「ええ」
「私がお嬢様の頃にはもう結婚していました」
「夢みたいな話ね」
 彼女にとってはどうも実感の沸かない話であった。
「結婚だなんて」
「ですが本当のことでございますよ」
 そうジュリエットに語り掛ける。
「そして子供も」
「私の子供」
「そうです。うちの息子も結構大きくなりました」
「それで婆やには今度お孫さんが産まれるのよね」
「そうでございます」
 こう答えてまたにこりと笑った。
「おかしいですか?私がお婆ちゃんになるなんて」
「いえ」
 そうではないがジュリエットには実感がないことも事実であった。
「そうではないけれど」
「まあ生きていればわかってきますよ」
「そうなの」
「そうですよ。私だってそうだったんですから」
「婆やも」
 そう言われてもどうしても実感が沸かなかった。
「私も恋をして」
「ええ」
 ジェルトルードは答える。
「私をうっとりとさせる夢の中に生き、優しい炎を宝物の様に見詰め、若さの陶酔の中に身を浸して」
「そういう日がすぐに来るのです」
「時として涙にくれ、心は恋に溺れる。陰気な冬から遠ざかり、薔薇の花びらの香りの中に愛の炎を感じられれば。私はそんな恋がしてみたいのだけれど」
「それはすべでお嬢様のものに」
「私のものに。そうなればいいのだけれど」
 ジュリエットは祈っていた。恋が自分にも訪れることを。彼女はこの時はまだ恋に恋をしているだけであった。だがその時に。その恋が近付いてきていた。
 
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