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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第四十四話

「グアアアアアッ!」

 青眼の悪魔から一際大きい叫びがダンジョン内に木霊すると、通常のモンスターより遥かにデカいポリゴン片となって部屋中に四散していく。

 最後はここにいる全プレイヤーでの一斉攻撃で幕を閉じたが、恐らくトドメを刺したのは、気力を使い切ったかのように双剣を背中の鞘に納めたプレイヤー――キリトであろう。

「ふぅ……」

 かくいう自分も、もう一歩も歩けない……いや、歩きたくないような倦怠感に襲われたが、キリトと同じように日本刀《銀ノ月》を鞘にしまって倒れないように立った状態を維持することに成功した。

「傭兵……いや、ショウキ。貴君の協力なくしてボスは倒せなかっただろう、感謝する」

 初めてのボス戦に心身ともに疲れ果てた部下たちを休ませ、コーバッツが鎧をガチャガチャと音をたてながら俺に近づき、頭を下げて礼をしてくれた。

「……意外だな。そんなことを言われるとは思ってなかった」

「恩がある者には礼を尽くす。当然のことだ」

 流石に俺の言ったことは気に障ったか、フン、と鼻を鳴らしてコーバッツは反論してくる。
……なんとも、《軍》という名のギルドに所属しているのがまさに相応しい、昔ながらの軍人気質といったところか。

「というか、確かに足止めしたのは俺だが、助けてくれたのはアイツらだろ?」

 俺が指で示すのはもちろん、彼が持つユニークスキル《二刀流》のことで盛り上がっているキリトやアスナ、《風林火山》の面々のことである。

 《恐怖の予測線》があるとはいえ、俺に出来ることは所詮足止めが限度。
だが、今回のグリームアイズ戦での立役者は、間違いなく中心になってグリームアイズのHPを削っていった彼らであろう。

「……む」

 コーバッツとて、俺の言わんとしていることは当然分かっているだろうが、リーダーがリーダーなので《軍》のメンバーにはキリトのような、いわゆる《ビーター》について忌避感を持っている者は少なくない。
典型的な《軍》のメンバーであるコーバッツももちろんそうだろうが、俺のジェスチャーに耐えられなくなったか眉間にシワを寄せながらキリトにお礼を言いに行った。

 立役者はキリトたちとはいえ、《軍》のメンバーがボス攻略に多大なる功績を残したのもまた事実であり、コーバッツの目的である《軍》のプロバカンダは果たされたも同然なのだ、再び攻略ギルドに名を連ねてくれるだろう。

 そんなことを考えると同時、俺の身体はボス部屋の地面へと倒れ伏した。

 自らの弱さと恐怖を認め、生来見切りをやり続けたことで発現したのだろう《恐怖の予測線》――相手の攻撃を読めるというのは、元々見切りを得意としていた自分には最高のアシストとなり得るが、それ以上に自分自身に多大なデメリットを抱えているのだった。

 それもその筈、人間の脳は恐怖を視覚化することなど出来はしない……本来ならば。

 例えるならばテレビのチャンネルだろうか。
人間が普段脳で使っているチャンネルが4チャンネルだとして、恐怖を視覚化するチャンネルが8チャンネルだとしよう。
本来ならば脳の機能として4チャンネルしか見れないところを、無理やり8チャンネルを見ているとなればテレビ=脳がやがて壊れてしまうのは道理なのだ。

 ……自分で自問自答したこの理論は解りにくかったが、単純に言えば、本来備わっていない機能を使いすぎて悲鳴をあげているということである。

「ショウキ! 大丈夫かよオイ!」

 倒れた俺に一番最初に駆け寄ってくれたのは、やはりというべきかこのお人好しのカタナ使いであるクラインだった。
以前に「お人好しならテメェの方が上だ」と言われたことがあるが、そんなことはあり得ないと思っている。

「ああ、ちょっと疲れただけだ……ところでクライン。少し、頼みがあるんだが……」

「お? オメーから頼みなんて珍しいな……良いぜ、いつもお世話になってるしな」

 ……そういうところがお人好しというのだ、と指摘したかったが、そんな場合ではないので今は遠慮しておこう。

「ちょっと47層に用事があるんだが、肩を貸してくれないか?」

 《恐怖の予測線》のデメリットのせいで倒れてしまったため、ずっと《二刀流》で戦っていたキリトと同様、一人で歩ける自信と体力がないのだ。

「そんぐらいなら構わねぇけどよ……お前、ボス戦の後にまた依頼かよ?」

 「まあそんなもんだ」とクラインに返すと、いつの間にやらこちらに戻って来ていたコーバッツが俺とクラインに《転移結晶》を握らせた。

「これを使え。代わりと言ってはなんだが、責任を持って次の層のアクティベートは我々がやらせてもらう」

「そりゃ頼もしいな……転移! 《リンダース》!」

 コーバッツに後を頼み、この部屋を支配していたグリームアイズが消えたことによって使用できるようになった《転移結晶》で、俺とクラインは第四十七層《リンダース》へと転移していった。



 ダンジョン内では解らなかったが、アインクラッドはもうすっかり夜という時間だった。
クラインに肩を担がれてリンダースに歩を進めた俺を出迎えたのは、もはや見慣れたピンク髪の少女だった。

「ショウキ!?」

「リズってことは……そういう予定なら最初から言えよショウキコノヤロー!」

 肩を支えていてくれたクラインの叫びが耳元で響く。
今日の朝、《軍》の依頼を正式に受けることになる前にリズとした約束で、今日の晩御飯を一緒に外へ食べにいこう、という約束だ。

 クラインはやや乱暴に、力が入りきっていない俺を強引にリズへと引き渡すと、「爆発しろ」と言い残して転移門へと消えて行った。

「ちょっとあんた、大丈夫? 今度は何したのよ?」

「大丈夫だ、ちょっと74層のボスの攻撃を斬り払いしてただけだからな」

 もう信じらんない、そんな感情がひしひしと伝わってくる表情をしたリズに、クラインに代わって肩を支えられる。

「ボス戦って……ダンジョンの攻略だけじゃなかったの?」

「《軍》の連中がいきなりボス戦始めてな……ま、放っとくわけにもいかないし」

 そんな感じで今日のことをお土産話のように話ながら、リズと二人で目的地であるレストランへの道を歩き始めた。
なんだかんだで情報通のキリトに紹介されたそのレストランは、キリトが昔ここを活動拠点にしていた時の行き着けだったらしく、食い意地が張っているキリトが太鼓判を押しているレストランとして、俺もリズも気に入った場所の一つである。

「全く、あんたは危なっかしくて放っとけないんだから」

「リズだって店先で寝てたりするじゃないか。アスナとハンナさんがいなかったら、店が潰れてるかも知れないぞ?」

 歩いている内にやはりこういう雑談……というか言い争いに落ち着いてしまった時、ふと、俺はリズに違和感を感じた。

 いや、違和感と呼ぶべきか……俺の数少ない自慢出来る点である眼は、実はただの節穴であったのかもしれない。

 リズは、私服だった。
いつも着ている、《閃光》アスナプレゼンツのエプロンドレス姿ではなく。

 いや、確かに珍しいがリズの私服姿は見たことが無いわけではないため、今ここで重要なのは、その私服姿を見たことが無いという点だ。

「それ、新しい服だよな。……似合ってる」

 遅ればせながら、俺の心からの賛辞の言葉に対してリズはそっぽを向き、

「……気づくのも言うのも遅いわよ、バカ」

 と、俺に見せている耳まで真っ赤にして答えたのだった。
 
 

 
後書き
ちょっと訳あって湖に沈んで風邪引いた……頭が痛い……そんな状態からの投稿です。

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