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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第四十三話

 日本刀《銀ノ月》を構えて応戦する俺の視界に、一撃でもまともに喰らえば俺の身体はポリゴン片となるだろうという威力の大剣の《恐怖の予測線》が浮かび上がり、側面へとステップ後に全体重を乗せた斬り払いを迫り来る大剣の横腹に当てることで、グリームアイズの大剣は俺から起動を外してボス部屋を砕く。
そのままグリームアイズは大剣をなぎ払うように振るが、《恐怖の予測線》による三秒後程度後の攻撃が見えるというのは絶大なアドバンテージを誇り、既に俺は高々とジャンプすることで空中へと逃れており、クナイにて反撃するが微々たるダメージすら通らない。

 俺が今やっていることは、《軍》のメンバーの撤退だか再配備だかをコーバッツが果たすまで、グリームアイズの攻撃を斬り払って足止めしておくこと――本来タンク装備ではない俺にはやや荷が重い仕事である。
だが、敵の攻撃を見切って斬り払いした後のカウンター気味の攻撃というのは、《縮地》で相手の視界から消え失せてからの高速の斬撃と並んで俺の攻撃パターンの一つで、慣れているためあまり苦ではない――想像よりかは、だが。

 グリームアイズの攻撃自体も、《恐怖の予測線》を使わずとも攻撃の軌道が至極読みやすい、小手先の技に頼らない大剣という武器だから助かっているものの、合間合間に放ってくる噴気ガスという名のブレス攻撃は正直どうしようも――と、考えている矢先に俺の身体の全身を、くまなく《恐怖の予測線》が貫いた。

「――ッと!」

 このままでは噴気ガスに直撃してしまうところなので、なんとかブレス攻撃が来る前にバックステップによって《恐怖の予測線》が届かないところへと避けたのだが、すぐさま俺の胸を予測線が貫いたと知覚したと共に、その場所にグリームアイズの大剣が飛び込んできた。

 回避は間に合わないと悟った俺は、とっさに足を上げて足刀《半月》でグリームアイズの大剣を防いだものの、体積も質量もパワーも圧倒的に違うために、完全に防御しきれず吹き飛ばされて壁に衝突する。

 これは《恐怖の予測線》の弱点と言えば弱点の一つで、予測線が見えようと回避後などの隙を狙われてはとても回避は間に合わず防御に専念するしかないところか……いや、防御出来るようになるだけマシか。

 《回復結晶》が使えないためにハイポーションを口に含みながら《軍》の連中を見ると、未だグリームアイズの攻撃を喰らったショックとHPの回復が済んでいないのか、このまま立て直してボスと戦う派と一時撤退派に別れて言い争いになっているようだった。
……無理もない、いくらレベルが上で腕か立とうと、現場慣れしてないチームはあんなものだと何度も見ている。

 大剣を振るいながら俺に追撃しようと迫ってくるグリームアイズを視認し、グリームアイズと壁に挟まれては不味いとあえてそのまま突っ込んでいった。
攻撃とは最大の防御とはよく言ったもので、ここで下手な場所へと逃げて《軍》のメンバーがグリームアイズの標的になってしまうことが、一番の愚策とその結果なのだから。

 《恐怖の予測線》を利用して、グリームアイズの振るわれた大剣の横腹に日本刀《銀ノ月》を先程と同じように斬り払いをして軌道を俺からズラし、大地に直撃させてグリームアイズの大剣という名のありもしない『道』を創る。

「……《縮地》!」

 グリームアイズの大剣による第二波の予測線が俺を貫く前に、《縮地》によって『道』となった大剣を高速で昇っていく。

 俺は《縮地》に足刀《半月》や自身による見切りや斬り払い、さらには《恐怖の予測線》と防御・回避の手段はやたら充実しているが、攻撃方面はダメージディーラー装備のくせに、日本刀《銀ノ月》と威力は期待出来ないクナイしかない……それが、俺が弱い故の恐怖からの逃走を意味しているというのは、PoHととりあえずの決着をつけたあの日まで認めることは出来なかったが。

 だが、見切りにも使用する俺のこの『眼』は自慢出来ることの一つであり、少しでもダメージ量を増やすために、弱点については相手がプレイヤーだろうがモンスターだろうが常に観察している。
そのために使うのがクナイであり、時間差で当てられたクナイの一本が、他の部分より少しだけダメージ量が多かったのは見逃さない……!

「そこっ!」

 通常通りに戦闘していれば剣などが届かない場所である胸部に、日本刀《銀ノ月》による縦一文字の剣閃がグリームアイズに疾り、《縮地》による勢いも考慮されてか少しはグリームアイズのHPゲージが削れた。

 だがグリームアイズも黙ってやられるわけがなく、俺が空中にいて着地する前の身動きが出来ない状況で、噴気ガスによるブレス攻撃を示す《恐怖の予測線》が俺の全身を貫いた……まあ、それも計画通りだが。
前もって準備していたクナイをポケットから出し、噴気ガスを出そうとしているグリームアイズの口に向けてクナイを三本ほど投げ入れた。

 良くある話ではあるが、常に一番隠されている口が生物にとって克服出来ない弱点ではないかと考えたために、回避よりもクナイを投げることを優先してみた……のだが、口の中に直撃した筈のグリームアイズに何ら堪えた様子が無いのを見るに、どうやら推測は外れてしまったようだと悟る。

 グリームアイズからブレス攻撃が来る前に、急いで着地や否やボス部屋をゴロゴロと転がってなんとか攻撃を避けたのだが、急激な頭痛が俺を内側から襲った。

 俺が今使用していた《恐怖の予測線》のデメリット――長時間使い続けていると、急激な頭痛と共に《恐怖の予測線》が見えるモードが強制的に終了してしまうというモノ――予測線によって、『恐怖』という名の三秒後の未来の攻撃を見続けて脳と眼を酷使している証拠だろう。
時間経過でまた使えるようにはなるが、当然持続時間は短くなっているし、終了時の頭痛は接近戦の途中では致命的なデメリットだ。

 クリアになっていた独特の視界が薄れていき、脳のオーバーロードとアラートのように鳴り響いていた頭痛も収まり、《恐怖の予測線》が見えなくなっていく……ここまでが自分の限界だ。

 頭痛でよろめいてしまった俺へと、グリームアイズの大剣が頭上から――

「うおおおおおっ!」

「駄目ぇぇぇぇっ!」

 グリームアイズの背後から絶叫と共に白と黒の剣戟が炸裂し、いきなりのバックアタックにグリームアイズは俺への攻撃を中断して自身の背後を仰ぎ見る。

 そこにいるのは色が対になっている《黒の剣士》キリトに《閃光》アスナ、そして更に背後からクラインを始めとする《風林火山》がこのボス部屋へと駆け込んでいるのが見て取れる。

「ショウキ! それに《軍》の連中も、今の内に《転移結晶》で脱出しろ!」

「駄目だキリト! ここは《結晶無効化空間》だ!」

 第一層から攻略に携わっているキリトとアスナにはなおさら衝撃だろう、彼らの驚きがこちらにも伝わってくるが、グリームアイズはそんな彼らには構わず、今まで一番ダメージを与えていた俺の方へと再び大剣を振り下ろして来た。

「下がれ《銀ノ月》!」

 俺の背中方向から良く響く低い声――コーバッツの声に反応してグリームアイズの大剣をバックステップにて避けると、俺と《スイッチ》をして入れ替わるように《軍》のタンク装備部隊がグリームアイズの大剣を防ぎ、ダメージディーラー部隊がグリームアイズの足へと攻撃を叩き込んでいく……さて、どちらに決意が固まったのか。

「もはや退路はない! 今このボスを倒すのだ!」

 コーバッツが放った部下を鼓舞するような言葉に一瞬、「何を言っているんだ」と思ったが、俺や《軍》のメンバーたちがいる場所とキリトたちがいる出入り口の間にはグリームアイズが鎮座しているため、《軍》のメンバーの機動力では逃げ終わる前に数人は犠牲になってしまうだろう。

 そのことに気づかないで戦っていた自分もどうかと思うが、そのことを一瞬で判断するとは、流石は中佐を名乗るだけのことはある……ということであろうか?

「クラインさん!」

「……やるしかねぇか! 行くぞ野郎ども!」

 アスナとクラインの号令一下、あれでも攻略ギルドの中でも指折りの戦略を持っている《風林火山》のメンバーがグリームアイズに向かっていき、《軍》のメンバーとの即席だが挟み撃ちが完成する。

 これでグリームアイズが《軍》のメンバーに攻撃すれば、防いでいる間に《風林火山》の猛攻がグリームアイズを襲い、それに反応して《風林火山》のメンバーを攻撃すれば《軍》のメンバーの猛攻が始まる――という、グリームアイズの攻撃を二分割させられるパターンが偶然にも完成する。
タンク装備部隊にとって、一番対策すべき防ぐのが難しいブレス攻撃は、こんな時でも単独で遊撃を行うキリトが空中戦を行うことで、グリームアイズのブレス攻撃を誘導することに成功していた。

 すっかりグリームアイズはパターンに嵌まっていて、こちらが有利なように見えるものの、ポーションによっての回復を兼ねて全体を俯瞰していた俺には、タンク装備部隊の負担と全体的な火力が不足していることが目立った。
まさにエギルのようなプレイヤーの数が足りず、この中で一番火力があるだろうキリトも、グリームアイズのブレス攻撃を誘導するという、アイツしか出来ないような役割の為に攻撃のチャンスは少ない。

 ――ならば、俺のやることは一つ。
クナイをグリームアイズの顔へと投げて、わざと奴の注目を引きながら着地したキリトの近くへと走り抜けた。

「キリト。もう出し惜しみしてる場合じゃない……ここは任せて、お前はアレを準備しろ」

「……わかった。十秒だけ耐えてくれ!」

 元々の性格や過去の出来事から、出来る限り目立ちたくないキリトは、普通ならば人目につくところであのスキルを使いたがりはしないのだが、俺は偶然にもあの最低のクリスマスで体感した為に知っている。
少し躊躇したようであったが、火力不足であるという俺と同じことを考えていたのだろう、アイテムストレージを操作しながらキリトは後退していく。

 ならば俺の役目は、キリトの代わりにグリームアイズと空中で大立ち回りを演じることである。

「任せろよ……ナイスな展開じゃないか……!」

 胸ポケットにある《カミツレの髪飾り》を触りながら、本日二度目となる《恐怖の予測線》の発動に、脳と視界がクリアになっていく。

 ……そして、《恐怖の予測線》がグリームアイズを中心にぐるりと一回転しているように貫いているように気づく。

「全員タンクの側に隠れろ!」

 グリームアイズが何をやろうとしているのが《恐怖の予測線》から悟った俺は、力の限りに警告の声を叫んだ。
離れたキリト以外の全員が、俺のボス部屋に響き渡る異様な警告の声に反応してくれたおかげで、先んじてグリームアイズから離れた俺とキリト以外の全員が防御姿勢を整えた直後、グリームアイズの攻撃が全員をまとめて襲った。

 その攻撃とは、自分の周囲をまとめてなぎ払うことが出来る大技――いわゆる『回転切り』である。
その回転切りによって、グリームアイズを取り囲んで挟み撃ちにして攻撃していた《軍》のメンバーと《風林火山》メンバー+アスナたちは、タンク装備部隊による防御には成功したものの、すぐには立て直せないほど隊列が崩れてしまっていた。

 これがHPを減じさせたグリームアイズの隠し玉かと思ったが、本日最大クラスである特大の《恐怖の予測線》が俺に降りかかった。

 ――そう、グリームアイズの隠し玉の攻撃は未だに終わっておらず、回転切りをした勢いそのままに遠心力をつけ、大剣を片手持ちから両手持ちにすることで威力を最大にして振り下ろしてくる……標的はもちろん、その特大の《恐怖の予測線》が示すように、俺……!

「ナイスな展開じゃないか……! 《縮地》!」

 これからやろうとしていることに失敗は許されないため、口癖によって自らを鼓舞して恐怖を乗り越えると、《縮地》によって《恐怖の予測線》が示す恐怖の象徴――つまり、グリームアイズの大剣へと高速で『向かって』いく。
回転切りで出来た勢いと遠心力はどうしようもないが、大剣が振り下ろされていない今ならば、まだ勢いをつききっておらず最大瞬間火力には程遠い筈だ。

「抜刀術《立待月》!」

 これで三回目の使用となったため、残りの使用回数は二回となった《縮地》、その高速移動のスピードを乗せた抜刀術が抜刀術《立待月》である。
そして抜刀術《立待月》が狙うのは、俺が《軍》のメンバーの為にグリームアイズを足止めした時、毎度斬り払いしていた大剣の横腹……斬り払いする際に全て同じポイントを狙って斬り払いされており、そのポイントだった。

「布石は打ってあるっ……!」

 何度となく同じポイントに斬撃を受けてきていたグリームアイズの大剣は、トドメの抜刀術《立待月》に中ほどから切られてしまって空中を舞う。
そのまま折れた大剣は、グリームアイズの回転切りの際の勢いを殺さないでくるくると回り、グリームアイズ自身の肩に深々と刺さっていく。

 そこまでして俺は失速してしまうが、後は任せろと言わんばかりのキリトが俺の背後から大剣を失ったグリームアイズ目掛けて向かっていく――その手には、黒と白の二本の剣を持って。

 ユニークスキル《二刀流》。
この世界でキリトしか持ち得ぬ剣技相手に、自分の得物の大剣が中ほどまで折られてしまっているグリームアイズでは対抗出来ることもなく、キリトの《スターバースト・ストリーム》を始めとする、《二刀流》の息もつかせぬソードスキルがグリームアイズのHPを削っていく。

「総員、総攻撃!」

 キリトだけにボスへの攻撃は任せていられない、先の回転切りから戦線を立て直した《軍》のプレイヤーと《風林火山》とアスナが、コーバッツの指揮と共にグリームアイズへと突撃していく。

 もうプレイヤー側も限界故に、防御を多少度外視した全プレイヤー攻撃の前に――遂に、山羊の頭をした第七十四層《The Gleameyez》はポリゴン片となり四散した。
 
 

 
後書き
グリームアイズ戦でした……ちょっとチートすぎた気がする《恐怖の予測線》……

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