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ナブッコ

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10部分:第二幕その五


第二幕その五

「言った筈だ」
 しかしナブッコには恐れは微塵もない。
「私は御前達の神殿を滅ぼし神を下したと。いや」
 そして言う。
「今や私は全ての神々の長となるのだ。このバビロニアの王としてな」
「神は唯一だ」
 ザッカーリアがそれに反論する。
「それでどうしてその上に立てるというのだ」
「では私を崇めぬというのか」
「元よりそのつもりはない」
 ザッカーリアはきっぱりと言い返す。
「私が仕えるのはヘブライの神のみだ。王よ、貴方に対してではないのだ」
「ほう、神々の長に対してそこまで言うのか」
 だがナブッコはその言葉を聞いても怒りはしなかった。むしろ自信と傲慢に満ちた笑みを浮かべてきた。
「私は貴方を認めない。いや、あえて言おう」
 そして言う。
「我々の神を認めないのならば貴方には神罰が下るであろう」
「神罰か」
 その言葉を聞いてもナブッコは身震い一つしない。
「ではそれを見せてもらいたいものだな」
「くっ」
「フェネーナ」
 ナブッコは今度はフェネーナに声をかけてきた。
「はい」
「ヘブライの者達から離れよ」
「どうされるのですか?」
「安心せよ、殺しはしない」
 王としての余裕と寛容を見せてきたのだ。
「しかしだ。その神罰を与える」
「神罰を」
「そうだ。兵士達よ」
 自分の後ろとアビガイッレの後ろにいる兵士達に命じてきた。
「ヘブライの者達を連れて行け。そしてそれぞれ鞭で打て」
「鞭でですか」
「剣は」
 この場合剣とは斬首をさす。すなわち死刑である。
「殺しはしないと言った筈だ。よいな」
「はっ」
「わかりました」
「鞭もだ。あくまで私の、神の罰を教えるという意味でやれ。よいな」
「わかりました」
「では適度に」
「そうだ。御前達に真の神罰を教えてやろう」
「まだ言うというのか」
 ザッカーリアはなおも己を神だと言うナブッコに怒りを隠せなかった。
「その様な不遜を」
「不遜ではない」
 ナブッコはあくまで傲然としたままである。
「その証拠をすぐに教えてやる。さあ」
 兵士達に対して言う。
「連れて行け」
「ええい、寄るな!」
 ザッカーリアは兵士達に対して叫ぶ。
「貴様等に掴まれはせぬ!これも神が与え給うた試練!」
「ふむ、まだ恐れてはおらぬか」
「わしが恐れるのは神のみ!そして」
 ナブッコを憤怒の形相で指差し叫んだ。
「天罰よ、下れ!」
「!!」
 その瞬間雷が落ちた。それはナブッコを撃った。
「何っ」
「王よ!」
 兵士達が驚いて声をかける。だがナブッコはそこに立ったまま何も発しようとはしない。
「どういうことなのだ」
「まさかこれが」
 その場にいた全ての者が顔を見合わせ語り合う。だが答えは出ない。
 しかしアビガイッレはその中で一人傲然としていた。そして他の者達に対して言う。
「王は今は失われた。だが次の王がいる」
「それは一体」
「私だ!」
 彼女は今ここにはっきりと宣言した。
「私がその王だ!よいな!」
「アビガイッレ様!」
「貴女が王に!」
「そうだ、私こそが次のバビロニアの王だ!」
「何ということだ」
「まさかこの女が」
 喜びに沸こうとしているバビロニアの者達に対してヘブライの者達は言葉を失っていた。
「今私はここに誓う。バビロニアの栄光を。そして」
 きっとヘブライの者達を見据えてきた。
「それにあがらう者達への容赦ない裁きを。今こそ!」
「アビガイッレ様万歳!」
「バビロニアの繁栄は貴女と共に!」
 兵士達の声が宮殿の外の民衆の声と重なる。そしてそれがさらに大きくなっていく。
 その中でアビガイッレはフェネーナを見据えていた。その強い目にフェネーナは怯む。
 しかしそこにイズマエーレが来て彼女を庇う。アビガイッレは彼も見たが今は何も言わなかった。
 ナブッコは最早抜け殻と化していた。王冠を持たない抜け殻になっていた。王冠はもうアビガイッレのものになっていた。彼女はそこで傲然と立っていたのであった。
 
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