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形而下の神々

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過去と異世界
  地下室deトリップ

 ギギッ……バフン。

 と、重い音を立てて扉が閉まる。

「あの……ガッ!?」

 俺が話し出そうとした瞬間、突然脳天に衝撃。フラッと手放しそうになる意識を辛うじて留めて足に力を込め彼女の方を見ると、彼女は既にグランシェの元に居た。

「なっ!!何をぶッ!?」

 グランシェも何か言おうとしていたが、やはり油断していたのか顔面をひっぱたかれている。
 そのまま突き飛ばされてフラフラとよろけていた。

 ちなみに俺はさっきの衝撃のせいで既に立つ事で精一杯。何か硬い物で殴られたのか、血やら汗やらが流れている。

 ……多分ほとんどが血だ。

「まだ倒れないのね……」

 彼女が呟くと、また今度はヒュッと音がして顔面が半分持って行かれたかの様な錯覚に陥る。もしかすると本当に持って行かれたのかも知れないが。

「ンブッ!!」

 為すすべなく硬い地下の石に倒れ込み、俺はそのまま意識を手放した――。










 ――――どれくらいの時間が経ったのかは分からない。

 目を開けると、隣の壁でグランシェが手足を縛られていた。

「よぉ、目ぇ覚ましたか」
「あぁ、俺、顔面残ってる?」

 自分で確認したかったが、俺も手足の自由が利かない。

「大丈夫。睨めっこなら優勝出来るような立派な顔が残ってるよ」
「はは……笑えねぇ……」

 グランシェが肉弾戦で負けるとか、ガッツリ鍛えた傭兵だよ? マジで意味分からん。

「何が起きた?」

 早々と意識を失った俺は結局のところ何が何だか分からない状況なんだが、それはグランシェも同じだったらしい。

「俺も良く分からん。その女に聞きなよ」

 そう言ったグランシェの目線をたどった先には、相変わらず美しい一人の女性の顔が暖炉の炎に照らされていた。
 それは可愛らしい笑みを浮かべて声をかけて来る。


「ねぇ、この世の中で絶対の真理やルールって、一体幾つあると思う?」

 突然の問い。ってか何なんだこの状況。

「今、何時だ?」

 こういう時はコッチのペースに持ち込むのが良い……と思い、あえて無関係な質問を投げかけてみた。

 同時にチラリとグランシェの方を見るが、グランシェは無反応。こういう状況での対処はグランシェの方が得意だろうに。

「今は私が質問しているのよ?」

 が、あっさりと質問ははねられてしまった。彼女にはこんな手立ては通用しないらしい。

「ルールって、理由も無く人を殺しちゃいけないとかって事か?」

 と、今度は突然グランシェが彼女に聞いた。

「いいえ、それは人が作った勝手なルール。私が聞きたいのはそんな事じゃない」

 二人で会話が進む。

「う~ん……難しいなぁ」
「タイチさんはどう思う?」

 悩んで押し黙るグランシェから、今度は俺に視線を移して聞いてきた。
 グランシェが答えるなら俺もちゃんと答えた方が良いだろうな。

「無限に有るだろう。太古の昔から決まった事もあれば、現代になって変わった事もある」

 未来でも真理と呼ばれる物は変わって行くだろうしな。

「ぶっぶー。ハズレ~」

 突然、向こう側の壁へと歩き出しながら彼女は言った。

「答えは……いつの世も一つ」

 なんだよ、何処の少年名探偵だよ。


「『全ての物質は安定を求める』これが唯一の真理、答えよ」

 再び振り返ってこちらを向いた彼女の手には見事な日本刀。

 ……ハズしたら死ぬってオチ?


 ナツキはスッと手際良く鞘から白刃を抜いた。美しい輝きが露わになり、ついうっかろ一瞬だが見とれてしまった。

「全ての物質は安定を求めて動いている。だから化学反応が起きるのよ」

 まぁ、確かにそうだな。

「化学反応が起きるから、人間が生まれ、生命が誕生した」

 ドコの教師だよ。

「その真理は自然現象にも例外なく、それは人々に神を連想させた」

 ドコの教祖だよ。

「人間の作ったルールも、それに基づいているわ。要するに、全てのルールも自然現象も『全ての物質は安定を求める』という真理の延長でしかないの」

 これまたブッ飛んだ意見だな……確かにそうではあるが。

「極端な話だな」

正直な感想だ。

「そうかもね……まぁ、ここからが本題よ。私には8つの力が宿り、1つの呪いがかかっているわ」

 ……これまたファンタスティックな話だな。

「一つは呪い。『時間から弾かれる公式』これのせいで私は不老となった」

 ……公式?

「次は『時間を超える公式』これは私の力。そのままの力よ。3つ目は『時間を超えさせる公式』これ以上は教えない」

 そう言って、彼女は日本刀をこちらに向ける。

「世界の真理はいつできたと思う?」
「………え?」

 そして彼女は、ナツキはにっこりと微笑んで言った。

「答えは『つい最近』よ」

 ズチュッ……。

 のめり込む刃、刺すような痛み。というか刺された痛み。

「真理が通用しない世界で、貴方達には役目がある」

 心臓を貫く刃と優しい声を感じる。そうして意識が消し飛ぶ瞬間、俺は最後の声を聴いた。

「私を……救って?」 
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