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形而下の神々

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過去と異世界
  ホレズ修道院

 約束の日が来た。
 機内でグランシェと待ち合わせ、二人でエコノミーの席に落ち着く。

「よぉ、居場所は分かったのか?」

 開口一番、グランシェがそう放った。

「勿論だ。ルーマニアのトランシルヴァニア山脈にある、ホレズ修道院。そこに居るはずだ」
「ほぉ、良く分かるな。流石はタイチだ」

 なんだか良く分からない感心をされてしまったが、あれだけ資料があれば誰だって分かると思う。



 そして空の旅を満喫した後ルーマニアに付き、ケータイを開くと一通のメールが届いていた。

『約束の場所は分かったかしら?』

 白井菜月からだった。

『もちろん、正午に待ってるよ。ホレズ修道院でね』

 ドヤ顔でメールを打つ。

『素晴らしいわ、タイチ。正確よ。私は少し遅れるから、中で待っていてください』

 時刻はまだ日も昇らぬ午前5時。寒さでかじかんだ指で分かりましたと返事をし、ホレズ修道院への足を探す。

 一体彼女は何処から来るんだろうか。ここはルーマニアの首都ブカレスト。
 修道院までは約200kmだから、まだ余裕で間に合うと言える。

 と、その時グランシェが話しかけてきた。

「なぁタイチ、腹減った」
「あぁ、俺もだ」

 機内食はキチンと出たんだが、その規格外のマズさの為にほとんど食えなかったのだ。

「美味いもんが食いてー」
「あぁ、俺もだ」

 俺達はバスの時間を確認するとすぐにマクドナルドへ入った。


 安定のマクドナルド。旅のお供のマクドナルド。お口直しのマクドナルドだ。
 そんなマクドナルドで腹が膨らむと、バスの時間まで適当に時間をつぶしてバスに乗り込んだ。

 ……地獄のバスに。


 車内は思ったよりも広く、荷物を置くスペースは充分にあったので助かったが、結局俺たちは車内で荷物を床に置いたことを酷く後悔する羽目になる。




 午前11時37分。

 長い長い悪路を超え、俺達はようやくホレズ修道院に到達した。

「なぁタイチ、腹減った」

 またもグランシェはそう言った。たらふく食ってからだいたい5時間くらいか。

「あぁ、俺もだ」
 しかし俺たちは普段の5時間分より遥かに強烈な空腹に見舞われていた。それもこれもあの地獄のバスが悪いんだ。

 あの悪路を猛スピードで飛ばすバスの振動に耐えるには、それなりの筋力が必要だったのだ。しかもスピード感がハンパない。怖くて怖くて……もう二度と乗りたくねぇ。

 もしかすると、訓練とかが必要な乗り物なのかも。ロケットみたいなノリで。


 無駄に使った筋力と、常に俺達を襲う横転の恐怖と緊張感のせいで、俺達の腹にはマクドナルドのかけらも残ってはいなかった。

「美味いもんが食いてー」
「あぁ、俺もだ」


 しかし困ったことに安定のマクドナルドはこんな山奥には存在しない。

 仕方がないので無駄に観光地値段で美味くない昼食を取り、寒さに凍えながらホレズ修道院に入った。


 荘厳な空気を纏う室内は、暖炉の火から伝わる温もりをもって俺達の身体を解凍してくれた。祈りを捧げる者、何やら読書に勤しむ者、何もせずボーッとしている者。色々な人が居たが、俺達はとりあえず何もせずボーッとしている者達の仲間入りだ。

 時刻は正午を回ったばかり。
 白井菜月にはあとどのくらいで会えるだろうか。

 と、その時後から声がかかった。

「タイチさん初めまして、グランシェさんお久しぶり」

 二人仲良く、バッと勢い良く振り返る。

「お久しぶりです!!」

 グランシェが元気良く言った。

「しっ、修道院の中ではお静かに」

「あっ、すみません」


 優しくグランシェをたしなめた女性は、短い黒髪を綺麗に切り揃えたなんとも可愛らしい人だった。確かに見た目は二十歳かそこらだろう。

 スッと伸びた足に、優しい微笑み。腕は後ろに組んでいるから分からないが、恐らく長く美しいのだろう。
 どこかで見たような女神のピアスをしていて、ネックレスも同じものが綺麗な首からかかっていて、洋服との絶妙な統一感が彼女のセンスの良さを思わせた。
 別段似ている訳ではないがそれは俺にあの白い女神像を思い出させ、俺はカバンからあの女神像を出したくなったが、そこはグッと我慢した。
 これは最後のお楽しみだ。

「あの……」
「まぁ、つのる話も有るでしょうから、あちらの扉の向こうで話しましょう」

 俺が声を出そうとすると、彼女はそれを遮って左手で修道院の奥にあった重厚感漂う扉をさし、スッと俺達の前に立つとその扉まで歩いて行く。

 ギギッと音を立てて開くその扉の奥は地下へと繋がっていた。

「この下に沢山の資料が有ります。火を炊いていますので、そこでお話しましょう」

 彼女について階段を下ると、そこにはまた、重厚感溢るる重い扉。

 ギギッと音を立ててその扉も開いた。

 奥には絨毯と暖炉。かなり奥に有る。
 細部までは暗くて見えないが、相当広いな。

「さ、どうぞ」

 彼女に誘われるまま、俺達は地下室へと足を踏み入れた。
 
 

 
後書き
 個人的にやっとここまで来たかって感じです。
 ……まだ何もしてませんが(汗)
 さて、次話からとうとう本格的なお話が始まりますので、本格的に宣伝活動とかしていきます。
 温かく見守ってやってください。



 ──2013年04月18日、記。 
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