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こうもり

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10部分:第二幕その一


第二幕その一

                第二幕 謎のハンガリーの美女
 白く磨き抜かれた床には何やらキリル文字が描かれている。天井にはギリシア神話から様々な絵が描かれそれは壁にもある。柱には女神の彫刻が為されカーテンは白いシルクである。そうした豪奢な宴の場に着飾った紳士淑女達がいて朗らかに笑っていた。その中にアデーレもいた。
 見れば髪を綺麗に整えて化粧もしている。ドレスは赤い見事なものだ。その姿で誰かを探していた。
「あっ、いたいた」
 青いドレスに黒い髪に青い目のアデーレにそっくりの女性に声をかける。顔はそっくりだがよく見れば青いドレスの女性は痩せている。そこが違っていた。
「姉さん」
「アデーレ!?」
 姉のイーダであった。彼女はアデーレを見てその目を顰めさせた。
「貴女、どうしてここに」
「どうしてって」
 姉の言葉に思わず引いた。
「姉さんが呼んだんじゃない」
「私知らないわよ」
「えっ!?」
 意外な言葉が出て来た。
「そんなの」
「そんなのって手紙くれたじゃない」
「私そんなの書いてないわよ」
 イーダはまた言った。
「全然」
「どうなってるのよ」
「いえ、それは私の言葉よ」
 イーダはそう言い返す。
「何がどうなってるのか」
「話が見えないんだけれど」
 アデーレもそれは同じであった。だから言うのだ。
「まあいいわ」
 だが流石はアデーレの姉であった。ここは機転を利かすことにした。
「貴女は女優ね。いいわね」
「女優なのね」
「そう、わかったわね」
「わかったわ。私は女優」
「それで公爵様に紹介するから」
「公爵様というと」
「オルロフスキー公爵よ」
 イーダは述べた。
「わかったわね。上手くやりなさいよ」
「わかったわ」
 真剣な顔で頷いてきた。
「任せて。そういうのは得意だから」
「期待しているわよ」
 同じ顔の人間が向かい合って話す様はまるで鏡のようであった。だがイーダの方が痩せているし髪と目の色が違うのでそれはわかる。だが実に奇妙な絵画に見えるのであった。
「で、公爵様は」
「あの方」
 スラリとした長身をタキシードに包んだ美男子であった。茶色の髪と目に朗らかな笑顔をしている。変わっているのはタキシードの上にマントを羽織っているのだ。黒い絹のやけに大きなマントであった。
「また変わった人ね」
「ロシアでも変人で有名らしいわよ」
「やっぱり」
 さりげなくとんでもないことを話している。
「けれど気前のいい人だから安心して」
「お酒が好きみたいね」
 見ればグラスを手から離さない。
「ロシア人だからね」
「成程」
 またしても身も蓋もない話であった。その公爵はグラスを手にファルケ博士と話をしていた。
「ほう、芝居ですか」 
 公爵はその端整な顔からは想像もできない低い女の声を出していた。しかしその外見は紛れもなく美男子である。どうやら声だけがそうであるらしい。それがやけにミステリアスであった。
「はい、そうです」
 博士はそれに応える。
「大晦日の。冗談芝居です」
「冗談芝居」
「作用、題名はこうもりの復讐です」
「面白そうですね」
 公爵はタイトルだけを聞いてもう期待を抱いていた。
「何か」
「ええ。もう女優が一人見えていますし」
「女優ですか」
「ほら、あちらに」
 そこに都合よくアデーレがイーダに連れられてやって来た。そして公爵の前で恭しく挨拶をする。
「お久し振りです、公爵様」
 まずはイーダが挨拶をしてきた。
「そして博士も」
「はい」
 公爵はにこりと笑って彼女に応えた。
「フロイライン、今日もお美しい」
 博士は彼女ににこやかに声をかける。同時にアデーレを見ていた。
(おやおや)
 見ながら心の中で呟く。
(いい具合に化けているな)
 だがそれはあくまで心の中だ。口に出しては言わなかった。
「今日は何の御用で」
「妹・・・・・・いえ、友人を紹介したいと思いまして」
 イーダは述べる。
「妹さんを」
 博士は思わず言ったがすぐにそれは打ち消された。
「いえ、友人です」
「おっと、そうでしたな」
 イーダに笑って返す。
 
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