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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第5話 勉強会




ここ最近の、授業が終わった後の牧石の行動パターンは、固定化されつつある。
牧石は、授業終了後の定例行事である、教室の掃除当番が掃除を終わらせるのを教室で待っている。

当然、牧石がどこかの掃除当番であるのならば、他の清掃場所を掃除しながら教室の清掃作業が終了するのを待っていた。

ちなみに、この教室の清掃は、簡単なモップがけで終わらせている。


2年ほど前に、とあるクラスで超能力を使用した清掃法を考え、実行に移した生徒たちがいたのだが、窓ガラスが割れ、机やその中の荷物が散乱し、床が5cmほど水浸しになった。

おそらくは、ひとりずつ順番に超能力を使えば問題はなかったのだろう。
複数の生徒たちが、思い思いに超能力を同時に使用した結果、能力同士がぶつかった場所で力が制御できなくなり、結果として教室が竜巻が通過した後のような惨状となった。

その惨状を目の当たりにした学校側が、すぐに清掃時間における超能力の使用を校則で禁止した。
それは、今でも変わらない。


牧石は、掃除が終わり、少しだけきれいになった教室に入ると、資料を机の上に準備する。
資料を準備し終わった頃には、教室には牧石と樫倉しか残っていない。

生徒の多くは、部活動に専念したり、下校したり、1ーGの現状を視察したりしていた。

現在、1ーGを視察している生徒は、先日の転入生騒ぎのように、男子生徒が滝山の麗しい姿を眺めるためという理由はほとんどなくなった。

今、生徒たちが1ーGに行く理由は、席替えの推移を見守る為である。

先日まで戦国絵巻のように、混沌としていた1ーGの状況ではあったが、生徒会及び教師たちの半強制的な介入により、事態は急速に鎮静化した。

しかし、転入生滝山マリヤの魅力は、席替えというそれほど重要ではない学園イベントですら、悲喜劇に変えてしまう。

委員長が用意したくじにより、配席を決めようとしたところ、
「透視能力者に有利だ」
「いや、予知の能力者も有利だ」
「これらの能力は、努力により勝ち得た能力だ。
能力を行使して何が悪い」
「超能力による、過剰な行使は超能力使用の制限に関する法律で制限されている」
「席替えで使用することは、超能力の行使が推奨される授業中のことならば問題ない」
「去年の地裁判決を知らないのか。
超能力の使用によるくじびきは、改正景品法に基づく不正行為に該当すると判決があったはずだ」
「いや、被告が控訴したから、まだ判例にはなっていない。
だいいち、席替えのくじびきで超能力を行使したことで得られる利益は、改正景品法に該当しないだろう?」
「それよりも、はやく帰りたいのだが。
俺の席は適当に決めてくれ」
「福西は黙っていろ!」
「リア充の貴様に、議論に参加する資格はない!」
「議論に参加する資格がないのなら、帰ってもかまわないだろう?」
という事になり、サイキックシティが入札や選挙の時に使用する対超能力用くじを使用することになった。

今日は、そのくじ引きの日であり、生徒会が講堂を準備して多くの観客を集めていた。
この学校の生徒会活動は、こんなもので良いのだろうか?

「予備抽選と本抽選の2回抽選がある。
課外活動と認められなければ、絶対休んでいた」
というのが、昼食時に聞いた福西の感想である。
「まあ、そうだろうな」
牧石は、福西と迫川を目の前にして素直な感想を述べた。
目黒は、会場設営プロデューサーとして、講堂でイベントの最終確認を行っていたので、ここにはいない。
まったく、目黒は何をやっているのだ、何を。
「今の時間だと、最終リハーサルを通しで行って、問題がないか確認していることだろうね」
福西は、あいもかわらず自分の知りたいこととはズレた答えを返してくれた。


ちなみに、牧石自身はいまだに滝山の姿を見かけたことはない。
滝山の教室が、牧石の教室と階が違うこともある。
牧石は昼を食堂で済ませるのに比べて、滝山は教室で弁当を食べていた。
牧石が、福西に頼めば写真データをみさせてくれるかもしれないが、頼んだことはない。



「……牧石君、準備は良いかしら?」
牧石は考えごとに夢中で、目の前にいる樫倉委員長に気づくのが遅れていた。
牧石は、机の上に何も無いことに気がつくと、慌てて机の中から、教科書を探す。
「あれ?」
今度は、鞄の中を確認するが、物理の教科書が見つからない。
「あれ、あれ?」
「何を探しているのかな?」
樫倉は静かに牧石に声をかける。
「物理の教科書を……」
「目の前にあるわよ」
「そんな、……あった」
牧石の目の前にはいつの間にか、物理の教科書が置いてあった。
「……」
おかしい、先ほどまで何も無かったのに。
最近妙に疲れが出ることが多くなったり、よく物にぶつかったりする事が多くなった。
それでも、目の前の教科書が見えないというのは異常である。
後で、磯嶋先生に相談した方がいいかもしれない。
それにしても……
信じられない表情をしている牧石に、樫倉が声を出す。

「牧石君、準備は良いかしら?」
樫倉の言葉は先ほどと同じ言葉が繰り返されたが、最初の言葉よりも、切れ味が鋭くなっている。
「……待たせたかな?」
牧石は、樫倉の表情を確認しながら答える。
樫倉の表情は、冷たい。
ひょっとして、かなり待たせてしまったのではないだろうか。
「ええ、それなりに」
樫倉は、努めて冷静な表情で教えてくれた。
かなり、待たせたようだ。
「ごめんなさい」
牧石は素直にあやまった。

「時間がないから、始めるわね」
樫倉は、牧石の誠実な対応に、少しだけ表情を緩めると、さっそく教科書を開いて説明を始めた。
「今日は、バネを使用した場合の物理法則を説明するわね」
「お願いします」
牧石は、真剣な表情で樫倉の説明を聞いていた。

牧石は、樫倉からのお願いに対する報酬として「勉強を教えて欲しい」とお願いした。
樫倉は、牧石の提案に了解の返事をすると当面の間勉強を教えてもらうことになった。

当然、樫倉が委員長の仕事が入っていたり、牧石に研究所での実験や、保健委員の仕事が入っていたりする場合は休みとなる。
牧石は委員会活動として、保健委員になった。

牧石の学校における保健委員の活動は、運動会等のイベントでの対応や、献血等における早朝の啓発活動ぐらいで、夏休みなどは参加する必要がなかった。

それならば、行動に制限を受けないと考えて牧石は保健委員を引き受けた。
ちなみに、このクラスにいる牧石以外の保健委員は、無口な女生徒だった。

牧石が、勉強を教えてもらうようにお願いした理由は、「夏期補習に参加したくないから」である。
牧石はがんばって勉強したおかげで、中間試験に相当する編入試験はそれなりの成績を取っている。

しかし、学校の授業内容と試験内容は少しズレているため、この時期に編入した生徒にとって、期末試験は難易度が高くなる。

そして、学校側は編入生たちが、今後の授業で苦労しないように、編入生には期末試験における補習対象の難易度を上げることにした。

具体的には「中間と期末試験の合計点が60点未満」という基準であり、どの生徒にも当てはめているのだが、中間試験を受けることができない編入生にとっては、「期末試験のみで60点以上を取る」必要に迫られるため、難易度が跳ね上がることになる。

ただし、この措置は補習の対象者の話であり、1学期の成績は中間試験の点数を期末試験と同等の点数と見なして評価をつける。

牧石は、中間テストの成績が張り出された紙を見て、樫倉の成績を確認した上で牧石に勉強を教えてくれるようにお願いした。


牧石は、自分の考えが正しかったことを、実感していた。
樫倉の教え方は、簡潔でありながらポイントを抑えてあり、「努力している秀才」という表現に当てはまるような指導法であった。

そして、牧石がわからないところを、納得するまで説明してくれるところは、非常に丁寧であった。

「樫倉さん、ありがとう。
教師に向いているとおもうよ」
今日の勉強会が終わったところで、牧石は樫倉にお礼を言った。
いつもなら、少し調子の外れた吹奏楽の練習音で時々集中が乱れることもあったが、今日はイベントにかり出されており、静かなものだった。
もう少し暑くなれば、吹奏楽の演奏もうまくなるだろうが、今度は蝉の攻撃がはじまることだろう。
「おせじでも、うれしいな」
樫倉は、牧石の言葉に喜んでいた。
「おせじじゃないよ、補習が回避できたら樫倉さんのおかげだよ」
「牧石君ががんばっているからだよ」
「いやいや、樫倉が上手に教えてくれたから……」
「牧石君が、しっかり私の話を聞いていたから……」

牧石と樫倉がお互いに譲り合いを続けていると、突然激しい音とともに、教室のドアが開かれた。
「牧石!
大変だ、すぐに来てくれ!」
目の前に現れたのは、くじイベントで総合プロデューサーをつとめていたはずの目黒だった。

「プロデューサーにはこれが必要だろ?」
といって、奮発して購入した黒いサングラスをかけている。

「イベントはまだ、終わっていないだろう?」
「そんなことは、どうでもいい!
早く来るのだ」
目黒は、有無をいわさず牧石の腕をとり、連れだそうとする。

「わかった、ついていくから腕を放せ!」
牧石は、目黒の腕をふりほどくと、樫倉に一言、
「ありがとう、先に帰って」
といった。



ひとり、教室に残された樫倉は、
散らかっている、牧石の机の上を片づけてから、
「どうしたのかしら、目黒くん……」
と、小さくつぶやいていた。 
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