| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4話 投資話




「ええっと、あなたは?」
「久しぶりですな、牧石くん。
編入試験では試験官をしていましたよ。
覚えているかな?」
牧石は、少し鋭い目つきの男の顔を眺めながら、編入試験の日の事を、思い出そうとする。

確かに、試験会場に入室したときに視野に入った試験官と似ているような気がする。



牧石は試験官を名乗る男に誘われて、近くのファミレスに入った。

研究所の食堂で働く小早川さんが作った食事は大変おいしいのだが、たまには別の場所で食べてみたい。
入店前に、牧石は小早川さんにお詫びのメールを送った。

牧石にとって幸いなことに、給付金が入金されたことで、懐事情は改善されている。
浪費は厳禁だが、一食程度外食してもかまわないはずだ。

「まずは、自己紹介をさせてもらおう」
男は、牧石に一枚の名刺を手渡す。
羽来(はねらい) 雄二郎(ゆうじろう)だ。
金融コンサルタントをしている」
牧石は名刺に記載された内容を確認する。
肩書きには、「リーディングコンサルティングフィナンシャルマネージャー」と記載されている。

牧石が疑問に思っていることを感じたのか、羽来が説明をしてきた。
「一言で言えば、私には投資能力がある」
「透視能力ですか?」
「ええ、予知能力と金融工学とを融合させることで、新しい投資理論を産み出したのだ」
羽来は、牧石に金融工学の簡単な特徴を説明し、金融工学の弱点である、「想定外の出来事」と呼ばれる理論の前提条件が破綻した場合に生じるリスクを、予知能力であらかじめ回避するという、理論の概要部分を説明する。

「はぁ」
だが、牧石は投資能力を透視能力と勘違いしたことから、羽来の話への理解ができなかった。
もっとも、勘違いしなかったとしても、牧石が理解できたという保証もない。

「まあ、難しい理論を話すのが今日の目的ではない。
君の将来性を見込んで、投資話を持ちかけたのさ」
羽来は、鞄から一枚のパンフレットを取り出す。

「新投資理論により、豊かな生活を目指しませんか」という宣伝文字と、ヨーロッパの古城のような建築物のなかで優雅に生活する若い男女の写真が掲載されていた。
牧石は、自分が「透視」と「投資」を誤認していたことに気がつくとともに、パンフレットの内容を確認していた。

「今回紹介するのは、この投資信託だ」
羽来は、ページを3枚めくるとそこには、「新投資理論により、リスクを完全回避。選ばれた人への最強の投資信託」
と書かれたタイトルと、先ほど羽来が説明した理論の内容。
そして、高い利回りとリスクが生じないことを視覚化するための様々なグラフが記されていた。

「本来であれば、すでに優雅な暮らしをした人たちだけに用意したプランなのだが」
羽来は、これまでの鋭い眼光を初めてゆるめると、前髪をいじりながら、
「将来性のある、君のような超能力者に声をかけているのだよ」
「ただ、僕には金がないですけど?」
「その点は心配いらない。
君の将来を前借りするのさ」

羽来は、牧石に次のように説明した。

牧石は優秀な編入生である。
他の超能力者と違って、高いレベルに到達し、多くの収入を得ることになるだろう。
そうなった時に、もらえることになる金額を原資として投資することで、今から優雅な暮らしを約束するということだった。

「なるほどね」
牧石は、羽来の説明にうなずいた。


「ああ、牧石君すまない。
別のお客様から電話があったようだ」
羽来は、振動する携帯電話を取り出して会話を始めた。

「ああ、山場市議様ですね。
先日の市議会ではお世話になりました」
羽来は、電話越しの相手に頭を下げる。
「ええ、先生が昨日お話した、投資の件ですね。
はい、ありがとうございます。
はい?
増資がしたいということですか……」
羽来は少し、牧石の表情を眺めたあとで、
「先生、申し訳ございません。
今回の投資枠が埋まっておりまして、次回は来年と言うことになります」
羽来は再び頭を下げていた。
「なんとか、とおっしゃられましても。
1時間、いえ30分お待ち願いますか。
もしかしたら、投資枠が空く可能性がございます。
ええ、後ほど改めてお電話しますので。
はい、失礼いたします」


「待たせたね、牧石君」
携帯電話のやりとりを終えた羽来は、牧石に向き直る。
「聞こえたかもしれないが、今回の投資話は申し込みが殺到していてね。
もうすでに打ち切りとなっているのだよ」
羽来は鋭い視線を牧石に向けながら、会話を続ける。
「でもね、運用責任者枠と呼ばれる私だけが持つ運用枠があるのだよ。
私はその枠を、君たちのような有望な少年たちに投資しているのだよ。
君たちが力を発揮して、社会が良くなることを期待してね。
ああ、もちろん今聞いた相手に迷惑がかかるから、相手のことは秘密にしてくれないかな?」
羽来は、牧石がうなずくのを確認すると、注文したコーヒーに口を付ける。

「君に残された時間は、僅かしかない。
だが、人生はいつも短期間で選択を迫られることが多いのだ。
手続きの関係もある。
後15分だけ、時間をあげよう」
羽来は、右手につけた高級腕時計で時間を確認しながら宣言した。

「少し考えます……」
牧石は、頼んだ料理に手を付けることなく、考え込んでいた。



その表情を眺めながら、羽来はこれからの事を考えていた。
羽来は、情報処理等のコンピューター関連の授業を担当する普通の教師であった。

しかし、投資に手を出して失敗。
巨額の借金を抱えた。
羽来はその借金の返済の為に、生徒の交付金の債権化に目を付けた。

交付金の債権化については、経済力の弱い一人暮らしの若者が自動車等の高額の商品を購入する際に、高利のローンを組まなくてもすむように開発されたのがきっかけである。

「将来を奪うのではないか」
「いや、自分自身に責任を持つような人材育成につながる」
等と市議会では意見が対立したが、最終的には賛成多数で可決された。

投資会社の社員を名乗り、有利な配当をうたうことで、学生から債権を預かり、借金の返済に充てる。
債権は、一般の市場で売買されており、サイキックシティからの交付金が担保されているので、市債並の信頼度を持っている。
サイキックシティはそもそも、技術力で世界の頂点にいるため、財政は潤沢である。
だから、羽来はすぐに大金をつかむことができた。

それでも、配当金の支払いが必要となるため、自転車操業となる。
なので、羽来の計画は、適当に金を集めて夜逃げするというものだった。
今のところ、配当も滞っていないため、生徒たちからは疑いの目は向けられていない。

当然、話しかける相手も選んでいる。
教師の権限で、学生の能力を閲覧し、予知能力の高い生徒は対象からのぞく。
あと二週間後に、次の配当の支払日が来る。
それまでに、国外に逃亡し、後は亡命といって外国の研究機関に就職する。

そのようなことを、前髪をいじりながら考えつつ、羽来は目の前にいる牧石啓也という名前の獲物の様子を観察する。

目の前の少年は、数ヶ月前にこの都市に編入してきたばかりの生徒で、既にレベル2に到達した超能力者である。
彼のような、急激に成長する超能力者は、そのまま高いレベルに到達する可能性を持っている。レベル4は確実でうまくいけばレベル5にも到達すると思われる。

既に彼の能力内容をもとに、融資可能な金額を算出している。
間違いなく、マンションを購入できる金額は融資できるはずだ。
目の前の少年が、札束に見えてしまう。

そして、この都市の滞在期間が短く、本来であればサイキックシティでの常識を習うはずの予備校すら通っていない少年であれば、多少変なことを話しても怪しまれないと確信していた。
現に、牧石は羽来に一つも疑問を口にしなかった。

羽来は自分の話術が向上したことも、交渉の成功についての自信に繋がっていた。
途中に携帯電話が鳴ったのも、自演であり、相手など存在しない。
後で、調べられると困るので実在する市議会議員の名前を使用したが。

羽来は、視線を牧石に戻す。
牧石は、考えをまとめたようで、疲れた顔を見せながら返事を口にした。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧