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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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レベル1 うんめい の よかん
  第1話 卒業してはみたけれど


「牧石君どうするの?」
「ハンバーグ定食で」
「私はボロネーゼ、あとパンセットAで。
……。
確かに、ここはファミレスだから、メニューを決めることも大事なことです。
だが、君の生活をどうするかという問題についても大事なことよ。
君に考えがあるのかな?」
磯嶋は、店員にメニューを注文すると、真剣な目で牧石を見つめた。

「……。
残念ながら。
今の状況も混乱していますし……」
牧石は、悲しそうな表情で首を左右に振る。


「そうね。
とりあえず、今の君の状況を整理しようか?」

磯嶋は、水を口に含ませてから話し始める。
「君の住居届は、受理された。
君は、サイキックシティの住民となるわ」
牧石の身分証明書には、サイキックシティ第7区に存在する「超能力開発センター」の住所が記載されていた。

この都市の名前が、「学園都市」では無かったのか?と牧石は考えていたが、身分証明書にはサイキックシティとカタカナで明記されていることを確認して、こちらが正式名称だと確信する。

その後、近くにある金融機関でカードの再発行及び暗証番号の変更を行った。
カードの再発行の理由は、牧石が持っていたカードは、サイキックシティの外で作られたものであるため、サイキックシティ内では使用できないことによる。

牧石は、神様の無駄に現実的な配慮に感心しているうちに、新しいカードが発行された。
身分証明書の汎用性と信頼性は高いようで、登録はすぐに終了した。

最後に携帯電話の申し込みのために、携帯電話会社に行ったが、牧石の知らない機種ばっかりであり迷った。
最終的に牧石は、磯嶋のアドバイスで決めることにした。

「この都市とほかの都市では、携帯の技術水準が3世代ほど違うからな。
迷うのも無理はない。
まあ、そんな人のために用意された端末もある。
これなんか、どうだ。
機能性現処理を施さなくても、そのまま街の外に出られるタイプだ」
「街の外にでる予定はありませんし、一から覚えますので、大丈夫です」
牧石は断言する。
「そうか、ならばこちらがいいだろう。
多機能であるだけでなく、何らかのトラブルに巻き込まれた場合は役に立つだろう……」
「GPSとかですか?」
牧石は思いついたことを言う。
「それだけではないわ。
まあ、後でマニュアルを一読した方がいいでしょう。
幸い、君はマニュアルを読むのを厭わないようだし」
「わかりました」

買い物が終わると、合格祝いということで、
磯嶋が牧石に夕食をおごることになった。
どうでもいい話だが、ファミレスのメニューは、前の世界とあまり変わらないようだ。

「君にとっての問題を突き詰めれば、生活費が必要だということになるわ。」
磯嶋は、経済が始まってから生み出された普遍的な問題を提示した。

「そうですね」
牧石はうなずく。
牧石の預金口座にはそれなりの金額が貯金されていた。
しかし、それらの金のほとんどは、「財団法人かしわば」が、奨学金として振り込んだものだった。
この奨学金については返済義務がないため、本来であれば何に使っても問題ない。

だが、車内から見た飛行船のニュース記事で知ったのだが、支援してくれるはずの財団法人が職員の不正経理及び着服により、解散においこまれた事によって状況が変わった。

精算団体が、債権者に返済するために、理事会で新たに下した決定。
それが、規則改正による奨学金の返還であった。

奨学金の返還については、規則により「当面の間請求はおこなわない」と記載されていた。
そして、奨学金の貸与条件については、貸し付け契約により「返済については規則の定めに従っておこなうこと」と記載されていた。
従って、規則が変更されることにより返還義務が生じたのだ。

牧石にとって幸いなのは、奨学金をほとんど使用していなかったことだ。
それでも、牧石は生活するための資金が必要になるわけで、生活を続けていくのなら、なんとかして稼ぐ必要があるのだ。

牧石は、転生した神様に対して、心の中で文句を言ったが、返事は返ってこなかった。


「とりあえず君は卒業したわけだけど、研究に協力するという名目で、君の部屋はそのまま無料で使用できるようになっているわ。
君が楽しみにしている食堂も同様に」

「すいません。
いろいろと、助かります」
「とりあえず、研究を始めるまでは、比較的余裕があるから」
「すいません。
研究の邪魔までして」
「気にしないで、牧石君。
私の研究は、長い時間が必要だから」
「長い時間ですか?」

「そうね。
君にはまだ、自分の研究について説明していなかったわね」
牧石は磯嶋をながめる。

そういえば、この人は原作に登場する人物なのだろうかと考えてみた。
しかし、アニメを見た限り登場しなかったので、これから先の話に登場する可能性もあるだろう。

「私は、元々生物学出身で、人類の進化について研究していたわ」
「そうなのですか」
牧石はハンバーグを食べながら答える。

「超能力は、科学により解明され、トレーニングによって誰でも使用できるようになった。
もっとも、君を最初に調べたときは、例外が出現したと騒いでしまったものだけど」
「そうだったのですか」
「まあ、君も無事能力が発動したことが明らかになったので、事なきを得たのだけど、能力を発動できるマインドレベルに達していながら、能力が発動しなかったことが、万一証明されたら、科学と超能力との融合が崩壊しまいかねないの。
もう一度、新たな理論を生み出す必要に迫られることになるのだからね」

牧石は、うなずいた。
牧石は、前の世界でニュートリノの実験結果で物理学が大きく変わる可能性があるというニュースを思い出したからだ。

「話を少し戻すと、人類は科学により超能力を使用できるようになったのだけど、人類は本当に超能力で進化したといえるのかしら?」
「進化ではないのですか?」

「たとえば、君は宙返りができるかな?」
磯嶋は、牧石の身体を見ながら質問する。
「できません」
「たとえば、ここに誰でも宙返りを行うことができるマニュアルがあったとしよう。
このマニュアルを活用して、君が宙返りを身につけたとして、君は進化したと思う?」
「思いません」
牧石は即答する。

「そうだね、君の体にはあらかじめ宙返りをすることができるように出来ていたからだ。
これは、超能力も一緒だね」
「……?
そうですね」
牧石は曖昧な表情をしながらうなずく。
磯嶋の言っていることは難しいのだが、中学校時代にさんざん瑞穂の話を聞いていた牧石にとっては、慣れたものだった。

「では、超能力を身につけただけでは、人類は進化したと言えないとはいえ、超能力が普及し発展した先には何があるのか知りたいと思わないかい?
私の研究は、そういった超能力の先にあるかもしれない進化を研究しているのさ」
「そうですか、すごいですね」
牧石は素直に、賞賛する。

「どうだろうね」
磯嶋は自嘲気味に話す。
「そうか、君は知らなかったな?
せっかくだから教えてあげよう。
予言の話を」

「その予言は「ビジョン」と呼ばれるもので、とある超能力者が知った未来といわれている。
1989年に示されたものらしいが、詳細は判っていない。
それでも、示されたビジョンは今のところすべて的中している。
君も知っているだろう?
大統一場理論により、物理学の中に超能力が組み込まれたことによって、すべての力を示す方程式が生み出されたことを。
それが、2013年に実現することを、既にそのビジョンで示されていたのさ。
そして、そこから人類の進化がはじまるということも……」
磯嶋は話し終わると、飲み物のお代わりをするために席をたった。

牧石は、磯嶋の話しを考えたが、一向にアニメの内容にあっているのか、あっていないのか判らなかった。

結局、これも原作で語られる内容であるのだろうと牧石の中で結論づけた。
このことにより、牧石がこの世界が「マインドシーカー」とよばれるゲームの世界を元にしていることに、後々まで気づくことはなかった。

「やはり、仕事を探すしかないか」
牧石は、つぶやいた。
磯嶋の好意はありがたいが、早く研究所から出た方がいいだろう。
天野みたいな研究者もいるだろうし、アニメに登場する研究者たちとは、あまり関わりたくはない。
特に「木原」と呼ばれる、実験の為なら、周囲がどんな犠牲になっても関係ないと考えている人間達とは。

幸い、超能力を活用した仕事があるだろう。
なにしろ、すべてを思った通りにできない能力だ。
聞いただけでは、使えない能力だが、逆の事を考えればうまくいくのだ。
明日から、仕事をさがすか。

「話が、大分飛んだわね。
君の今後はどうするつもりかしら?」
席に戻った磯嶋が質問する。
「はい、明日から探すつもりです」
考えをまとめた牧石は、元気よく答えた。
「そう、悪くない選択ね。
4月をすぎたので苦労するかもしれないけど、君の能力なら大丈夫ね。
でも、私が勧めてもいいけど」
磯嶋は、自分が考えていたことを牧石が考えていると思ってうなずいた。

「いえ、これ以上磯嶋さんに苦労をかけるつもりはありませんから」
「気にしなくてもいいのよ」
「ありがとうございます。
でも、これは自分で決めた方がいいと思いますから」
「そうね。
でも、困ったら教えてちょうだい。
いつでも、助けてあげるから」
「はい、ありがとうございます」
こうして、磯嶋の初めての外出が終わった。



翌日の朝、牧石はハローワークに訪れた。
場所は、研究所から歩いて20分程度の距離だ。
「久しぶりに運動したが、大丈夫か」
牧石は、運動部に所属していなかったが、それなりに運動はできた。

特に3年になってから、瑞穂のわけのわからない遊びにつきあわされてから顕著になった気もするが。
それでも、10月以降は本格的に受験勉強に向かったため、そして転生してから、昨日までは毎日超能力の訓練を行っていたため、普通の力は衰えていると思っていた。
それでも、まだ、梅雨に入る前だったので、気分良く歩くことが出来、疲れを見せることもなかった。

牧石は、ハローワークの入り口に入った。
室内はそれほど求人はいなかった。
「これが、サイキックシティ景気というやつか」

サイキックシティは、科学技術が他よりも進んでいるために、多くの外貨を稼いでいた。
このため、人的資源の確保が優先されている。

第5世代コンピューターの開発が成功しているのであれば、人間の代わりに仕事をするコンピューターが出てもおかしくないと思ったが、いまだに量産はされていないようで、人の手が必要な仕事は多いようだ。

牧石にとって、ハローワークに来るのは生まれて初めてだったので、目の前の端末をどう操作していいのか判らなかった。

タッチパネル方式だったので、普通に使用できるとは思っていたが、受付にいる女性が暇そうにこちらを眺めている事に気がついたので、話しかけてみることにした。
「おはようございます」
「職を探しているのですが……」 
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