| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第6話 リラクゼーション



「トリップですか」
牧石の表情は、磯嶋の言葉を聞いたとたんに険しくなる。

牧石は、「とある」世界で聞いた言葉ではないため、類推するしかなかった。
牧石は「トリップ」という言葉で、薬物の使用による精神の状態変化を連想する。
もっとも、牧石に経験がないため、映像等によるイメージしか思い浮かばない。

あまり、良いイメージが浮かばないが「とある」世界での超能力開発の方法は、薬物投与と暗示と脳波の操作で行われたことを考えれば、納得できる。

能力開発の副作用については、「とある」世界では、大きく取り上げられていないため、牧石は覚悟を決める。

牧石は、おそるおそる、ユニフォーム姿の上に白衣をまとった磯嶋に質問する。
「薬を使用するのですか?」

磯嶋は、驚いた表情で牧石をじっと見つめると、やがて、
「牧石君。
あなたが、いったい何を想像して言ったのかはわからないけれど、基本的にこのセンターでは、超能力の開発に薬物は使用しません」
と断言する。

「えっ」
「昨日手渡した資料のなかに、超能力開発の歴史があれば確認できますが、超能力開発の黎明期において、薬物が使用されていたのは事実です。
しかし、現在は薬物使用による超能力開発の危険性が明らかにされています。
そのため、国際条約により超能力開発での原則薬物の使用は認められていません」
「そうなのですか?」
「まあ、ごく一部の研究機関が新薬開発という名の下に、臨床試験において薬物投与が行われている可能性は否定しません。
それでも、薬物を用いない超能力開発は、既に方法論を確立しています。
ですから、わざわざ薬物を用いる必要はないのです」
薬物ダメ、絶対ということか。

牧石は安堵するとともに、磯嶋に対して神妙な表情を示す。
「……。すいません」
「いいのよ、牧石君」
磯嶋は、気にしてないといった、柔和な表情で、
「超能力への誤った認識は、今に始まったことではありません。
超能力という名称からして、すでに過去の呼称であるといっても過言ではありません」
「過去の呼称?」
「そうです。
超能力開発の基本的な技術が確立した現在、すでにこの能力は、特異なものではありません。
自動車の運転技術ほど、人間にとって一般的ではありませんが、フィギアスケートのトリプルアクセルほど、限定されたものでもありません」
磯嶋は、いたずらっぽい笑みを浮かべると、
「トリップについての、説明がまだだったわね」
といって、話を戻した。

「トリップというのは、精神を超能力が発動しやすい意識下に置くことを言います。
発動しやすい環境は、ひとそれぞれだけど、脳波を調べることで確認することができます」

「脳波ですか?」
再び、牧石は暗い表情を見せる。
「どうしたの?」
「……。
直接脳に電極を刺すのですか?」
牧石は、「とある」で見た説明を思い出した。

能力開発に必要な手段としてヒロインによって語られていたはずだ。

「しません」
磯嶋は即座に否定する。
「さきほどの、薬物の説明と同じです。
能力開発に脳に電極をさすことはありません。
脳波を測定するだけなら、あれを使えば触れる必要すらありません」
磯嶋は、コンピュータールームの中央に鎮座する円柱を指し示す。
「そうですか」

「話を戻すけど、トリップをするために必要なのは、リラクゼーションと呼ばれる瞑想をおこないます」
磯嶋は、端末を操作すると、牧石の近くの床が開いて、下からマットが現れた。
「瞑想についての説明は、コンピューターが行います。
コンピューターに向かって意識を集中して下さい」
「?、わかりました」

牧石は、よくわからないままも、磯嶋の指示に従った。
「リラクゼーションは超能力開発の基本です。
繰り返し練習してください」
「!」
牧石は、驚いて周囲を見渡す。
磯嶋とは異なる中性的な声が、牧石の脳に直接働きかけられた。

「それが、コンピューターの声です」
磯嶋は、驚いた牧石をなだめるように話しかけた。

「それにしても、……」
牧石が、コンピュータを眺めながら、昔の世界の知識を引き出す。

「とある」世界において、ツリーダイアグラムと呼ばれたスーパーコンピューターが存在した。
あのコンピューターは、一ヶ月先の気象情報を完璧に解析できるほどの能力を持っていた。
そのコンピューターは、アニメの中で、衛星軌道上に存在していたが、既に破壊されている。
一方で、目の前にあるコンピューターは、計算能力とは別の能力を備えているようだ。
「第5世代コンピューター?」
「あら、牧石君詳しいのね?」
「……、それほどでも」
牧石は言いよどむ。

第5世代コンピューターについては、瑞穂から聞いたことがある。
確か、歴史の授業の後で、瑞穂から聞いた内容だったと思う。



「人工知能?」
「そうだ、第5世代コンピューターは、既存のコンピューターとは異なる進化を目指した。
人類の脳と同じように、コンピューターが自立的な思考ができるよう開発された。
成功すれば、SF世界のように、人類の代わりにロボットが仕事をするようになるだろう。
成功すれば、人類の歴史が大きく変わることになったはずだ」
瑞穂のよどみない、話しぶりに関心しながら
「おもしろい話だな」
「まあ、計画自体は失敗したがな」
「そうだな」
牧石はうなずいた。
自分の近くに、高度な人工知能を持ったコンピューターを見たことがない。

「失敗した原因はいくつかあるが、最大の原因は、開発当時はまだ人間の知能が十分に解析されていなかったことだ。
いくつかの、人工知能に関する思考実験を答えることができなかった状況では、早すぎた研究と言われても無理はない。
結局、当時の国の官僚が予算を確保するためにぶちあげた内容だったからな。
結局ソフト事業の必要性など、予算確保の観点からあまり重要視されてなかったからね。
まあ、ハード面でのアプローチ事態はそれほど間違ってはいなかった。
現に推論マシンと呼ばれるハードウェアは完成した。
しかし、予算確保のために「人工知能」とかぶちあげた人の声を鵜呑みにした連中からすれば、失敗にしかみえないだろうねぇ」
「だったら、逆に人工知能を得るために必要なソフトが開発されたら、成功したのか」
「そうだな。
まあ、残念ながら現実は難しいね。
実現するために必要な、解決すべき問題が多すぎる。
まあ、理論面の難題を無視して、一番てっとりばやく解決する方法は、生きた人間をすべてシミュレートすればいいのだろうが……」
「できるのか?」
「さすがに、そこまでハードは追いついていないよ」
「まあ、そうだよな」



「コンピューターの話は後でするとして、訓練を始めましょう」
磯嶋の指摘で現実に戻った牧石はうなずいて、再びコンピューターに向き直す。

再び、コンピューターが牧石に声をかける。
コンピューターが説明を続ける。
「リラクゼーションの意味は、意識と肉体の緊張を取り除くことです。
緊張したままでは、うまく超能力を発揮することができないのです」
コンピューターの声は、抑揚もしっかりしており聞き取りやすい。
「それでは、基本姿勢から練習しましょう。
マットの上に座ってください」
牧石は先ほど床から現れたマットの上に座って、コンピューターの方に視線を移した。

「一番楽だと思う姿勢を作ってください。
そして、そのまま全身に力を入れてください」
牧石はコンピューターの指示に従い、全身に力を込める。
「これ以上我慢できないと感じたら、一気に全身の力を抜いてください」
牧石は、力を抜くと意識が軽くなった気がした。
「これがリラックスのポーズです」
コンピューターからの声が聞こえる。
「それでは、くりかえし練習してみましょう」
牧石は、コンピューターの指示に従い練習を繰り返した。

「リラックスのポーズができたようですね。
次は呼吸法の練習をします」
どれくらい、時間が経過しただろうか。
牧石は、時間についての意識を忘れていた頃に、コンピューターから、新しい指示が来た。

「おお!」
牧石は、自分の目の前にスクリーンが表示されたので驚いた。
「だから、スクリーンがなかったのか」

「説明を続けます。
呼吸はトリップをするための入り口です。
まずは、身体にエネルギーをとりこむつもりでゆっくりと大きく息を吸い込みます」
「そのまま、少しの間息をとめます」
「そして、すったときよりもややゆっくりと少しずつ息を吐きます。
焦らずに、何度も繰り返すことが大事です。
それでは、画面にあわせて練習しましょう」
スクリーンには、人体イメージが表示され、
呼吸のイメージが示されていた。

「意識の目覚めを少しは感じたようですね。
その感覚は、超能力を使用する上で非常に大切なものです。
最後に、パワーイメージの練習をします」
練習を真面目に取り組む牧石を評価しているのか、コンピューターの声は少し上機嫌なように牧石には聞こえた。

「パワーイメージ?」
「超能力を発動するためには、力をイメージする必要があります。
そのために、必要なイメージを構築する訓練のことをパワーイメージと呼んでいます」
コンピューターは、牧石の質問に的確な解説をした。
「わかりました」
「玉を表示します。
玉をそらさずにじっと見つめます。
しばらくすると、玉が点滅を始めます」
スクリーンの中央に玉が表示される。
「点滅を始めたら目を閉じましょう。
そして、目を閉じたときに見える玉の残像に意識を集中させてください。
玉の持つパワーを感じることが大切です」
牧石は、目を閉じて残像に意識を集中させる。



どのくらい、時間が経過したのだろうか。
「感じられたでしょうか?」
磯嶋から声をかけられた牧石は、磯嶋に意識を向け、小さくうなづく。

「それは、よかったです。
実際のトレーニングと能力測定は、明日行います」
「ありがとうございました」
牧石は、お礼を言って、コンピュータールームを後にする。



翌日、牧石の能力測定の結果を見て、磯嶋は驚嘆の声をあげた。
「なんですか。これは……」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧