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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第5話 超能力の理論について


「……。
よくわからないな」
牧石は、先ほど磯嶋から手渡された大量の資料を眺めながら、ため息をついていた。



さきほどまで牧石は、食堂で夕食を口にしながら、いろいろと考えていた。
が、昼間にあったポニーテールの女性から、午後6時が閉店時間であることを指摘され、あわてて残りの食事を口にして自室に戻っていた。

ちなみに、この施設食堂は、研究員なら無料で食べられる。
牧石は研究員ではないが、磯嶋の被保護者であること、磯嶋の研究の協力者ということになっていることから、磯嶋の好意により無料で食べることができた。


磯嶋の配慮に感謝しながら、夜食用に作ってもらったおにぎりを口にする。
実は、昨日、磯嶋からもらったおにぎりも、ここの食堂で作ってもらったものだ。

牧石は、資料からいくつかの内容をノートに書き出していた。
ノートが、かわいらしい猫のイラストが満載なのは、磯嶋が牧石に手渡したものだからであり、牧石の趣味ではないことを付言しておく。

このノートに書き出す方法については、瑞穂から教わったことだ。
「自分の考えを整理するときに、ノートは役に立つ。
箇条書きでもいい。重要な項目、参考にすべきこと、注意しなければならない内容。これらを書き留めて置けば、読み返した時に自分の記憶が残りを補助してくれるはずだ」
「そんなものかい?」
「そんなものだ。もっとも」
瑞穂は、ニヤリと笑いながら、
「記憶喪失などで、メモをしたことすら忘れたらお手上げさ」
と、肩をすくめていた。


牧石が、今日の資料をもとに書き出した内容は、次のとおり。

「超能力は、誰もが備えている潜在的な力」

「超能力を発揮するには、意識を特定の状態にしなければならない」

「一般の人たちに、それがどのような意識レベルであるのか理解するのは困難」

「カリキュラムを受けることで、意識をコントロールする事が出来る」



牧石が半日で読んだ内容は、たくさんあったが、中学校を卒業したばかりの水準を超過した数式や理論が記載されており、理解不能な内容として飛ばして読んでいた。
牧石は、瑞穂なら理解したかもしれないと、かつての友人のことを思い出しながら、メモの内容を思い出していた。


「超能力は、誰もが備えている潜在的な力」
この内容は理解できる。
牧石が見たアニメでは、一定の訓練を受ければ誰でも超能力が使用できるということを知っていたから。


「超能力を発揮するには、意識を特定の状態にしなければならない」
牧石は、この内容がいまいち理解出来なかった。
牧石が知っているのは、怪我等により正常な精神状態ではない場合、うまく超能力が行使できないということであった。

微妙な意味合いの違いなのか、アニメ版と原作との相違なのか、牧石は理解出来なかった。
そのため牧石は、後で磯嶋さんに確認しようという結論を出した。


「一般の人たちに、それがどのような意識レベルであるのか理解するのは困難」
この内容についても、牧石は違和感を覚えた。
牧石が知る限り、一般の人が、訓練を受けずに超能力を発動することは困難を通り越して、ほぼ奇跡と呼べる確率だったからだ。


「カリキュラムを受けることで、意識をコントロールする事が出来る」
これも牧石にとって、不明な内容であった。
アニメで見た内容を思い出すと、「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」と呼ばれる力を手に入れることで、ミクロ的な世界を自分にとって都合が良いように改変し、超能力を発動させるという話だった。

そうであれば、この本に記載された内容と前世との知識との違いが何を意味するのか。
牧石は、しばらく考えているがやがて自分なりの結論を出す。
「ひょっとしたら、原作よりも後の世界なのか?」

牧石は、アニメの説明で能力開発の技術は確立していたが、意識のコントロールという表現ではなかった。

超能力の発動は、意識のコントロールというよりも、脳の計算能力によるものだったはず。
であるならば、原作よりも研究が進み新たな説が生み出された可能性も否定できない。

「原作の登場人物と会えない可能性があるな」
牧石は、ため息をついた。
「まあ、下手に事件に巻き込まれても、今の力では死ぬ可能性が高いだろうし。
死ぬことに比べたら、妥協するしかないか」
牧石は、また死ぬことはできない。

神様から転生してもらったとはいえ、この世界で死んだ場合に、再度転生させてもらえるという甘い考えは思っていなかった。


「まあ、疑問点を抜き出して、聞いてみるか」
結局、牧石は明日以降の訓練を受ければ、これらの疑問が解決するだろうと思って、眠りについた。

もし、牧石が原作を読んでいたならば、原作とも異なる内容があり、この世界が「とある」世界ではないことに気がついたかもしれない。
しかし、牧石は一度信じたことをなかなか疑わないため、違和感を「原作とアニメとの違い」と早とちりした。


翌朝、牧石はコンピュータールームを訪れた。
牧石が想像していたコンピュータールームとは、複数台のパソコンが整然と並べられた教室のようなものと想像していた。
しかし、牧石の想像は大きく裏切られることになる。

施設の中心に存在するブルーを基調とするその部屋は、中心に天井から床まで届く、大きく透明な円柱が据え付けられていた。
周囲は、窓が存在し青い空が見える。

牧石は、アニメで見た学園都市の理事長のことを思い出したが、違うだろうと頭を振った。
理事長は、円柱の中に逆さまの状態で存在していたが、牧石がみる円柱には誰もいない。
そもそも、自分のような怪しい存在と面会することなどありえない。

その代わりに、緑色の透明な液体の中心には、白い三角柱があり、それはゆっくりと反時計回りに回転してた。
牧石はそれを眺めて、ふと「とある」世界に登場していたものを思い出す。

「とある」の世界では、「AIM拡散力場」と呼ばれる超能力者が無意識のうちに発生させる小さなフィールドが存在する。
そのフィールドにより構成された存在が、「とある」の世界にいたが、その存在の核となる部分もこの円柱と同じように三角柱の構造をしていた。
ただし、それは光り輝いていたが。

「こんなところにあるわけないか」
牧石は即座に首を横に振って、自分の考えを否定した。

であれば、この円柱は一体何だろうと、考えてみた。
「となると、これがコンピューターなのか?」
牧石は、小さくつぶやいて、円柱の周囲を見渡す。


円柱の周囲には、円卓上のテーブルと椅子が用意されている。
一方で、テーブルには一つだけ、操作パネルのようなものが置かれていたが、肝心なディスプレイと思われるものが存在しない。
となると、何らかの理由で、コンピューターが撤去されたけれども、コンピュータールームという名称は何らかの形で残ったと、牧石は考えた。
それでも、中央に鎮座する円柱上の存在がわからなかったが。

牧石の思考では、目の前の存在が、コンピュータとは思わなかった。
無理して見れば、1980年代にミネアポリスに本社があったスーパーコンピューター製造会社が作った製品に少しだけ似ているが、そんな昔のコンピュータを利用する必要性を感じない。

そもそも、CPUの性能だけで言えば、自分が転生する前に家族で使用しているパソコンの方が上なのだから。


そのようなことを、牧石が考えていると、背後から女性の声がした。
「おはよう、牧石君」
牧石を出迎えたのは、当面の被保護者である磯嶋であった。
いつものように、白衣を着ての登場だが、
「?」
「どうしたの、牧石君?」
「いえ、何でもないです」
「遠慮することないわよ」
「いえ、そんなことはないです」
牧石は、心配そうにのぞき込む磯嶋になんでも無い表情をしたが、実際には疑問でいっぱいだった。

磯嶋は白衣の下に白地に濃紺の野球のユニフォームをまとっていた。
背中にはかすかに20という数字が見える。
前世では広島に本拠地を置いていた球団のユニフォームだったが、「とある世界」で野球のチームがどうなっていたかという描写がされていなかったので、黙っていることにする。

万一、違っていたら変に思われるだろう。

ひょっとしたら、磯嶋が身につけているものは野球のユニフォームではなくて、ベースボーノレとか別の競技のユニフォームあるいは、普段着の一種という可能性もあるかも知れない。

「ああ、これね?
寝間着代わりにきていたものよ。
寝泊まりするときは、野球のユニフォームが気楽でいいのよ。
きちんと、汗も吸い取るし。
出張の際も、必ず用意するようにしているわ」
「そんなかっこうで、旅館やホテルをうろついているのですか?」
「さすがの私も、この格好のままうろつくなんてありえないわ。
ちゃんと、出張の時は、ビジター用のユニフォームを用意するわよ」
「そうですか……」
牧石は、濃紺に白地のユニフォームを想像してから、自分の質問に違う意味で答えた磯嶋にため息をつく。

「試してみる?
投手王国時代の背番号は揃っているから、好きな番号を選ぶといいわ」
牧石の想いを知らないままユニフォームのすばらしさを説く磯嶋に対して、牧石は、野球のユニフォームに興味がなかったので丁重に断ると、今日のトレーニングについて質問する。

「磯嶋さん。
今日のトレーニングについて教えて欲しい」

「そう、わかったわ。
まずは、しばらくの間、基本的なトリップをマスターするための訓練をしましょう」
「と、トリップですか?」
牧石は焦った。 
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