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呉志英雄伝

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第二話~王とは~

「江賊の討伐、ですか?」


晴天が続く冬の長沙の宮城で、いつの間にか自らの机に積んであった竹簡に眼を通していた江は主である桃蓮に声をかけられた。
内容は江賊の討伐に同行してほしいというものだった。この時期には既に桃蓮の勢力は江東にまで及んでいた。
もっとも長沙の太守に赴任する前は江東に本拠をおいていたので、当たり前といってしまえばそれまでなのだが。


「そうだ。今回は蓮華の初陣となる。お前にその補佐をしてほしいのだ」

「分かりました」


桃蓮の『孫権の補佐をしてほしい』という要請を特に考え込む様子も見せずに快諾する。


「出発は明日の朝だ。それまでに準備を済ませておけ」


それだけ言い残すと、桃蓮は踵を返し、自らの部屋へと歩き去っていった。
江はそれを見届けると早速戦の準備に取り掛かるべく、自らの家・朱家へと向かった。










―――――――――――――――――――――




自室へ戻った桃蓮はフゥと息をつき、椅子に腰掛ける。そして机の上に広げられた書簡を手に取り目を通す。
送り主は焔、そして内容はその義理の息子である江のことであった。

一通り目を通し、桃蓮は書簡を元あった机の上に置く。


「喜怒哀楽をあらわすことが出来るようになり、心も幾分か強くなった、か…」


軽く眼を瞑って、座っていた椅子の背もたれに体を預ける。


「江は軍事においても呉の主力足り得る実力を既に持っている。そろそろ戦に出しておかないと、経験も周囲からの信頼も得られないだろう」


今回の江の参戦における最大の目的、それは孫権の補佐などという理由ではない。補佐には焔や冥琳のような後方支援に秀でた武将を置くのが好ましい。
本当の目的は江が今後の戦力になり得るか、判断することだった。
いや、正確にいえば、今後熾烈を極めることになるであろう乱世を生き抜くことが出来るほどの心の強さを備えたかを確かめると言った方がいいだろう。


だが



(…本当に大丈夫なのだろうか…。)


不安が桃蓮の頭の中をよぎる。
確かに保護してから5年、特に雪蓮たちと引き合わせてからの2年で江は様々な感情を取り戻すことに成功した。
だがそれはあくまでも長沙の城内での話。
この5年間で戦いを経験したことはない。


(もしかしたらまたあの『人形』のような状態に戻ってしまうかもしれない)


桃蓮が抱く危惧は江の内面にあった。
江は優しすぎるのだ。限りなく。
そしてその優しさは味方だけでなく、敵にまで向けられてしまう。戦場においてはこの優しさはただの『甘さ』に変わる。
そんな武将が果たして戦場で何の役に立つだろうか?いや、敵の得にはなれど、味方には損害を被る原因にしかなり得ない。
だからといって出会った時のようになられるのもよろしくない。あのような状態ではいずれ味方に見放されてしまう。


(焔の報告を、そして成長した江を信じよう)


しかし出陣を伝えてしまった以上、もう後戻りは出来ない。それならばこのような思考も無意味である。
桃蓮に出来ることは、次代の大黒柱になるであろう江を信じ、手助けをすることだけだった。







――――――――――――――――――――――






江賊を討伐する当日、長江上の湿った空気が冬の朝の空気に冷やされて霧が立ち込めていた。
現在、江たちは長沙を真北に進んだ洞庭湖と長江の合流地点にいた。
さて、出陣の折に孫権とあいさつを交わしたのだがその時の対応は冷ややかなものだった。
孫権といい、その傍に控えている副官といい、いささか江を軽視していた。


「何故戦の経験のない文官風情が孫権様の補佐なのだ」


とはその副官の言である。
どうやらこの部隊の上層部は江の実力を知らない者がほとんどを占めているようだ。
しかし基本的に事を荒立てることを好まない江は一切の反論をせず、わずかな直属の部下に大剣を持たせて孫権の横にたたずんでいた。

そして現在に至るわけだが、江の意識はすでに敵へと注がれていた。
報告によれば、敵の数は800。率いる者の名前は甘寧。この辺りでは名の通っている猛者だ。
故にこちらも南から孫権率いる囮の部隊で敵の意識を集中させ、その間に長江下流に潜んでいる桃蓮率いる本隊が横撃を仕掛けるという手はずになっていた。
両方とも配置につき、あとは霧が晴れ、孫権部隊の始動を待つのみとなっている。しかしここで事態は思わぬ方向へと流れていく。












「この霧にまぎれて、敵に奇襲を仕掛けましょう!恐らく敵はこちらの存在に気付いておりません」


孫権のそばに控えていた副官は孫権にそんなことを進言した。
こんな馬鹿げた提案が通るわけがない。江はそう思い込んでいた。



「・・・確かに一理あるな。全軍に通達せよ」


しかし、そんな思い込みを孫権の一言が粉々に打ち砕く。
そのことに呆気にとられた江はすぐさま意識を引き戻し、孫権に進言する。








「奇襲には反対です。そもそも敵は長江を本拠地とする者たち。霧が出ることも承知していたでしょう。それに甘寧は名の通った賊。
兵法をわずかでも知るものであるならば霧にまぎれて奇襲に来ることなど容易に予測できましょう」



「戦を知らない文官殿がよくもまぁそこまで言い切れますな。戦とは机上の論理が通用しない。ましてや敵は賊。こちらの動きなど
読めることはありますまい」


「…そうですか。ならば御武運をお祈りいたしますよ」



江の意見を真っ向から否定する副官。そして様子を見る限り、孫権の意見もどうやら副官側のようだ。
結局江は交戦の意見に従うこととし、孫権は部隊に出撃の命令を下し、前線の兵士は敵がいると目される河岸の根城に攻撃を仕掛けた。








―――――――――――――――――――――







孫権部隊が突撃を開始してから間もなく、桃蓮の下にそのことを告げる伝令がやってきた。
報告を聞いた桃蓮以下数名の将たちは深い溜息をついた。


「やはり動いてしまったか…」

「やはり、じゃないわよ。だからアイツを副官につけるのに反対したのに」


アイツとはもちろん孫権に攻撃を進言した副官である。
彼は武勇は人より少し秀でてはいるが知に関してはからっきし、いわゆる猪武者というやつだった。


「そのために江をつけたのだがな」

「よく言う。あ奴らが江の実力を知らないことなど分かっていたじゃろうに」

「全くよ。…そろそろ本音を明かしたらどう?」


桃蓮の言葉に祭、焔が追い打ちをかける。
そしてとどめは冥琳が放った。


「あの男をダシにして、江の実力を我が軍に示すのが目的、ですね?」

「…半分正解、といったところか」

「ではもう半分は?」


自分の答えが5割といわれて、内心驚きを感じている冥琳が残りの半分について桃蓮に問う。
そんな冥琳に桃蓮は逆に質問を返した。


「お前は蓮華をどう見る」

「どう、とは?」

「私や雪蓮に比べて、という意味だ」


ああ、と冥琳は顎に手を当て、少し考えるとすぐに口を開いた。


「はっきり言ってしまえば、軍事においては足もとにも及ばないでしょう」

「ほぉ、『軍事においては』か」

「はい、あくまでも軍事に限って言えばそうなります。しかし私が思うに蓮華様の真価はそこではないと思うのです。彼女は周囲を見ることに長けている。おそらく雪蓮、そして桃蓮様よりも『王』としての資質があるかと」

「本人を目の前によく言ってくれる」

「とは言え、今はまだ考え方が堅いですが…」


冥琳の率直な言葉に苦笑を浮かべる桃蓮。
しかし冥琳の見立ては桃蓮が考えていたものと同じだったために反論もとがめもしなかった。


「まぁそういうことだ。つまりゆくゆくは蓮華がこの国をまとめることになる。しかしその時には隣で支えてくれる誰かが必要なのだ」

「それでこの戦をきっかけに蓮華と江を仲良くさせようってわけ?」


雪蓮の言葉に桃蓮は首肯を以て応える。
その行為に雪蓮は頬をふくらませ、口をとがらせる。


「ちぇ、それなら私にもきっかけをくれればいいのにー」

「お前はきっかけなんざなくとも勝手に近づくだろうが」


戦のさなかだと言うのに軽口をたたき合う2人。
そんな2人に周囲の将、そして兵たちはため息をもらす。軽口が言い争いに発展し、双方が武器を構えるまでに至ったので、焔

は桃蓮の代わりに兵たちに指示を出した。


「別動隊が危機に陥ったらすぐに突っ込めるようにしておきなさい」


そう告げて、現在戦っているであろう息子のいる方角へと目を向けた。
辺りはまだまだ濃い霧に覆われていた。







―――――――――――――――――――――







一方その頃敵の根城へと攻撃を仕掛けた孫権部隊は困惑していた。
何せ敵の根城には人っ子一人いなかったのだから。


「何!?何故いないのだ!」






副官は怒り狂い、報告をもたらした兵を怒鳴りつける。
傍で聞いていた江は「奇襲が読まれていたからに決まっている」と呆れながら心の中でこぼした。


「ええい、探せ!探し出して攻撃を仕掛けるのだ!」


声を荒げ、敵を捜索するように指示を出す副官。


「…はぁ、もう無駄ですよ。恐らくは…」





敵の攻撃が来る。
そう続けようとした江の言葉をさえぎったのは味方の焦燥の声だった。



「申し上げます!背後に敵が出現!どうやら長江から洞庭湖に入り、我が軍の背後に回り込んだ模様です!」


この情報にあたふたと慌てふためく副官。
そして慌てる上司を見て、配下の兵たちも動揺し始める。部隊は最早烏合の衆という言葉が当てはまるまでになっていた。
しかしそんな雰囲気は一変した。



「静まれ!」



大音量の叱責が部隊内に響き渡り、突然の声に兵たちはシーンと静まり返る。
声を上げたのは江だった。



「たかだか敵が背後に現れた程度で隊列を乱すな!それでも孫呉の兵か!」



静寂が支配したその場に江の声のみが響く。




「今から部隊を2手に分ける!それぞれ敵の突撃を左右に分かれてかわし、横撃せよ!その他の指示はその都度伝える!以上だ!」




その言葉でようやく我にかえった兵たちはすぐに隊列を組み直し、来る敵の攻撃に備えた。
そんなとき江に声をかけてくる者がいた。
副官であった。


「き、貴様、孫権様の許しも得ずに勝手に兵を動かしたな。これは重罪だぞ!」

「ならば作戦を無視して、攻撃を仕掛けた貴方がたも軍律違反ですね」


副官の言いがかりに、迷うことなく反論をする江。
その言葉に副官は言葉を失う。


「それにこのままでは孫権様のお命すら危ない状況。そこで指示を出さない方がよほど重罪と思われますが?」


そう言う江の眼には嘲りの色が灯っていた。
と、江の視線が別の方向へと向けられる。副官もそれにつられてそちらの方向を見ると、そこにはちょうど孫権と同じくらいの年の女子が立っていた。


「だ、誰だ!」


突然の来訪者に再びうろたえる副官。
しかし、江のほうは驚きもせず、ただその少女を見つめていた。


「…なるほど、いい眼をしています。貴女が甘寧ですね」

「………」



返ってくるのは無言。
そしてその少女は武器を構えると、副官たちの視界から霞のように消え去った。



「っ!?」


次に副官がその視界に彼女を捉えた時には既に孫権に得物を振りかざしていた。
敵に背後をとられてからずっと空気と化していた孫権は、突然のことに状況を飲み込めないのか、ただ呆然と突っ立っていただけだった。





「孫権様!」





副官が声を張り上げるが、敵の少女は得物を孫権に振り下ろしていた。
もうダメだ。
副官が内心でそんなことをつぶやいたとき、本来聞こえるはずのない鉄と鉄のぶつかり合う音が聞こえた。


「この状況に陥った原因は…お分かりですね?」



大剣を以て、孫権に迫る凶刃が受け止められている。その大剣の持ち主は問うた。



「…っ……あぁ、お前の進言を無視したからだろう?」



苦々しく彩られたその表情で、キッと江を睨みつける蓮華。
しかし江の首は横へと揺れる。


「違います。孫権様は桃蓮様や雪蓮のように成ろうとしておられる。それこそが原因ですよ」



そう言うと江は得物を全力で振り上げる。
華奢な体躯の甘寧は驚きの声を上げながら、勢いよく飛ばされる。


「母様や姉様を目指して何が悪いのだ!!」


孫権は激昂した。
それに対し、江は止めの一言を投げる。











「貴女では彼女たちのようにはなれませんよ。いくらあがこうとね」


「なっ!?」











そこには先ほどまで蔑んでいた男の姿があった。
その男は微笑みながら、孫権に声をかけるとゆっくりと少女の方に目を向けた。


「それにしても名乗りもしないとは…まぁ私も人のことは言えませんがね」


そう言うと江は大剣を力任せに振り切り、鎬を削っていた少女を吹き飛ばす。宙で一回転し、器用に着地した彼女の表情は明らかに驚愕に満ちていた。


「我が名は朱君業。お手合わせ願いましょうか。江賊頭領、甘興覇」

「…いいだろう。我が鈴の音は黄泉路に誘う道標と心得よ」


チリンと鈴の音が鳴り響く。
すると先ほどと同様に甘寧の姿が掻き消える。しかし江が慌てる様子はまるでない。



ガキッ



「なっ!?」


思わず驚きの声を漏らしてしまう甘寧。
彼女の全身全霊を込めた急所の一撃は、左手に持たれた江の大剣によっていとも簡単に防がれたのだ。


「圧倒的な速度で敵の急所を狙い、一撃で仕留める。その闘い方は戦場において重要なことです。…しかし」


江はスッと左手の力を抜く。
すると今まで押し負けまいと得物に力を込めていた甘寧の体が支えを失い、前のめりになる。その隙は致命的なものだった。
江の手刀が甘寧の右腕に放たれ、握られていた得物がカランと乾いた音を立てて地面に落ちる。
そのまま江は甘寧の服の襟をつかむと片手で地面にたたきつける。


「がはっ!」


すさまじい衝撃をその小さな体に受けた甘寧は息を漏らす。
そして気づけば、首筋に冷たいものが押し当てられている。ゆっくり眼を開け、確認してみれば案の定大剣であった。


「速度を得るためには防具は軽装、そして攻撃も軽いものとなってしまう。更には、その軽武装により、狙いが明らかです。防がれたときのことを考えておく必要がありますね」


敵である甘寧ににっこりとほほ笑みかける江。
甘寧はただ呆然とその笑みを見つめていた。
しかし江はそんな様子に気づかずに宣言した。


「敵の首領・甘寧、この朱君業が生け捕った!」




そしてこれが戦の終わりを告げる合図となった。







―――――――――――――――――――――――







「どうかお願いいたします」


周囲にいる人間は、将兵問わず皆呆然としている。それは捕えられた賊たちにも言えることだった。
今自分たちの目の前で繰り広げられている光景はそれほどに珍しいものだったのだ。


「俸給などいりません。どんな命令でもお引き受けいたします。どうか配下にお加えください」


あの鈴の甘寧が頭を下げて嘆願しているのだから。
しかもその相手が


「頭を上げてください。私は文台様の部下ですから、私の一存では何も言えないのです」


江である。
主である桃蓮を差し置いての嘆願に江は驚き、周囲は凍りつく。そんな中ただ一人、桃蓮だけがニヤニヤといやらしい笑みをこぼしていた。


「江の思うとおりにするといい」

「なっ!?」


予想外の事態に江には珍しい驚きの声が漏れる。
江は腕組みをし、しばらく考えたのち何かひらめいたような表情で口を開く。


「そうですね。孫権様に仕え、そしてよく支えることが出来たのであれば願いをかなえましょう」

「…わかりました。必ずや遂行いたしましょう」


江が提示した条件に甘寧は渋々了承の意を示す。
ちなみにこのことに関して孫権は何も言わない。さきほど桃蓮からこっぴどく叱られたこともあるが、自らの命を救ってくれた
江に対して文句はいえないのだ。



「では甘寧の件はこれにて終了だな。城に戻ろう」


桃蓮の言葉によって軍は撤退を開始した。











その道中でのことだった。


「命を救ってくれたことには感謝する」

「そ、孫権様?」

「だが、お前に聞きたいことがある」



孫権の顔はあくまでも憤りに満ちていた。


「先ほどの言は本心か?」


もし本心なのであれば…
そう続けられた言葉に江はキョトンとした顔をせざるを得ない。
彼をして、あの言葉は何ら侮蔑の意味はなかったのだから。ただ皮肉を交えて言ったのは否めないが。


「ええ、本心ですよ。…ただあなたは一つ勘違いをしておられる」

「ほう、この期に及んで言い訳か」


孫権は軽蔑を隠そうともせず、江を冷笑を以て見やる。
それに対し、江はやれやれと首を振りながら答えた。


「…しかし、あの言葉の真意が分からないとは…どうやら私の見込み違いでしたか…」


「真意…?」

「言った通りですよ。大体、貴女がもし桃蓮様や雪蓮のようになってしまったら孫呉は終わりです」









「は?」


あんまりな言葉に絶句する。
というかこれは間違いなく不敬ではないのか。周りの兵も呆気にとられている。


「………国というのは人がいなくては話にならない。それは民草から将兵、役人そして統治者も同じこと」

「何を当たり前のことを」

「ええ、当たり前のことです。そしてこれも当たり前の話。その統治者がやたらと直感に頼るのは論外です」



そう言って江は軍列の中央辺りを眺める。そこには己が主君とその長女がいるはずだ。


「直感に頼れば、部下の経験は積まれない。試行錯誤が為されないのにどうして孫呉は成長するのです?」


この言葉で孫権は話を理解し始めた。
つまり、もし母、姉に何かがあった時に、誰も対処が出来ないという事実。


「その点、孫権様は視野が広い。自分よりも良い意見を持っている者がいれば、迷わずそれを用いるでしょう。…まぁこの度は私が文官であると偽っていたので、上手く行きませんでしたがね」


反省の弁を宣う江に、全く反省の色は見えないが。


「自分で決断をし、時に部下を用いる。そうして、自他共に成長を図る。それが的確に出来る者は、正に『王』の資質を持つと考えます」

「朱才…」

「孫権様、あなたが歩むべき道は、桃蓮様、雪蓮のような天下の猛将の道に非ず。貴女は『王』の道を歩んでください」



そう言うと、あれほど饒舌だった江の口は開かれなくなった。
全て語り尽くした。言外にそう告げていた。
しばらく沈黙が続き…




「朱才よ」

「はい」

「……………私の真名は蓮華だ。立場は対等、呼び捨てで構わん」

「しかと承りましたよ、蓮華。私のことは江とお呼びください。」


「あ、ああ、よろしく頼む」


江と蓮華は握手を交わす。
その後、そこに傍で見ている甘寧も参戦し、結局甘寧の真名である『思春』を呼ぶことを許されたのは余談である。











ある程度打ち解け、3人でしばらく雑談を続けていると後ろから焔が近づいてきた。


「母様?どうかしたのですか?」

「少し付き合いなさい」


江が用件を聞くと、焔は言葉少なに答える。いつもと違った様子に江は余計な詮索をせず、あとをついて行った。
2人は行軍中の部隊から離れ、馬を走らせた。


「…それで何か?」

「近くまで来たからね。墓参りよ」


寂しげな表情を浮かべた焔はただただ前を見据えていた。 
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