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ラインの黄金

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第二幕その二


第二幕その二

「本来は掘ったり作ったりする音ばかりなんですがね」
「こんなふうではないのか」
「ええ。あれは」
 ここでローゲはあたふたと歩いてきたミーメに気付いた。
「ミーメです」
「確かアルベリッヒの弟だったな」
「はい、そしてニーベルングきっての腕の持ち主です」
 こうヴォータンに話すのだった。
「何かを作ることでは天才ですよ」
「そこまでの男か」
「そうです。おいミーメ」
 ローゲはそのミーメに対して声をかけた。
「どうしたんだ?えらく苦しんでるな」
「何でもない」
 ミーメは苦々しい顔でローゲに答える。
「どうせあんたにも何もできないさ」
「私にもかい?」
「そうさ。だから放っておいてくれ」
 こう言うだけだった。
「わしのことはな」
「また随分とやさぐれているものだ」 
 ローゲはそんな彼の言葉を聞いて述べた。
「どうしたものだか」
「今の兄者はどうしようもない」
「アルベリッヒがか」
「そうだ。どうしようもない」
 やはり忌々しげな言葉であった。
「あいつの手にはニーベルングの指輪がある」
「ラインの黄金から作ったあれか」
「あいつは愛を断った」
「愛をか。そういえばどうやってだ」
「男でなくなってだ」
 それによってだというのだ。
「それによってだ。とはいっても女でもないがな」
「ふむ、それはまた随分と無茶をしたものだ」
 ローゲはミーメの言葉が何を意味しているのかよくわかった。そしてそれによりどうなるのかも。よくわかったのである。手の中にあるように。
「最早子を作ることもできないな」
「租してそれにより手に入れた魔力でわし等を支配しているのだ。ニーベルングの夜の軍を」
「ニーベルングの」
 それを聞いたヴォータンの顔が曇った。
「ではやはり」
「そしてわし等のような憂いなき鍛冶屋が今まで作っていた」
 ミーメの嘆きは深まる。
「女達の飾りや美しい細工も今は作れず」
「あいつの為のものばかりか」
「そうだ。あいつだけの為に働かされ」
 それが今の彼等の置かれた立場なのだった。
「この国の鉱物を全て掘らされあいつの強欲を満たさせられるのだ」
「そして御前はどうしてそこまでしょげているのだ?」
「わしも惨めなものだ」
 こう言ってまた嘆くのだった。
「姿を消せる帽子を作らさせられそしてそれで姿を消したあいつによって」
「殴られでもしたか?」
「鞭でな」
 ただ殴られただけでなかったのだ。
「あれだけは手渡したくなかったのにだ」
「御前にしては随分とヘマをしたな」
「あいつに奪われてしまった。できてそれを何処かにやろうとしたところで」
「それで御前がその帽子であいつから指輪を奪おうとしたんじゃないのか?」
 ローゲはそのままずばりと彼に言ってみせた。
「実際は」
「それは」
「まあそれは聞かないでおこう」
 あえて、であった。
「それはな」
「そうか」
「しかし。あいつには指輪だけではないのだな」
「そうだ」
 このこともはっきりと言うミーメだった。
「あの帽子もある。あれで姿を隠しそのうえ何にでも変身できるのだ」
「ふむ。では中々難しいかもな」
「わし等はもう終わりだ」
 また嘆くミーメだった。
 
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