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ラインの黄金

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第二幕その一


第二幕その一

                第二幕  ヴァルハラへの入城
 地下の国。周りは厚い岩に覆われている。その岩は漆黒でそれだけで闇そのものだった。
 光は松明にヒカリゴケによるものだった。その二つが映し出すものは酷使される人々だった。
「さあ、働くのだ!」
 アルベリッヒが居丈高に働く小人達に命じていた。彼等はツルハシやシャベル、それに一輪車を手にあちこちをあくせくと動き回っていた。誰もが薄汚れた黒い作業服を着ている。
 だが一人だけ白衣の者がいた。やはり小人で背は曲がっていて顔には疣がある。白い髭を生やしていて白い髪はやや薄い。作業服ではなく黒いスーツでその上に白衣を着ているのだ。
 その彼が今ツルハシを手にしていた。そうしてそのツルハシで何かを掘っていた。
「これを掘り出して」
「そうだ、わかっているな」
 アルベリッヒはその白衣の彼のところに来て意地悪く言ってきた。
「ミーメ、貴様のやることはだ」
「わかっているさ、兄者」
 弱々しい声で彼に言うのだった。
「わしが掘り出したこんお金で」
「貴様のその技術を使ってだ」
 アルベリッヒはその手の鞭をわざと彼に見せてきていた。
「細工を作れ。いいな」
「わかってるさ。だから掘っているんだ」
「掘るのが遅いな」
「わしは作る方だからだ」
 それは白衣を見ればわかることであった。
「だから掘るのはだ」
「掘るのはニーベルングの仕事だ」
 しかしアルベリッヒはこう彼に言うのだった。
「違うか?」
「それはそうだが」
「それに先に命じた細工だが」
「まだできてはいない」
「見せてみろ」
 弟の白衣のポケットにあるのを見た。そうしてそれを取り上げてすぐに見るのだった。
 その細工を見てアルベリッヒは。不機嫌な顔で弟に言った。
「完成しているな」
「まだだよ」
 苦しい顔で兄に返す。
「まだだ。手抜かりはないかと見ておるんだよ」
「そんなものがこれの何処にある?」
 その細工を彼の目の前にわざわざ持って来て問う。
「完全に鍛えてつなぎ合わせているな」
「それは」
「これをできていないとして後は失敗したということにして」
 ミーメの魂胆を完全に見抜いていたのだった。
「自分のものにしようとしていたな」
「それは違う」
「ふん、わかっているのだ。それにこれはな」
 見ればその細工は帽子だった。金と銀に輝く不思議な帽子である。
「被れば自由に姿を消せるし姿も変えられる」
「それはその通りだが」
「それを自分のものにしようとはけしからん奴だ」
「それは誤解だ」
 事実を隠す言葉であった。
「わしはそんなことは」
「どうやら仕置きが必要なようだな」
 アルベリッヒの言葉がさらに酷薄なものになった。
「それではだ」
「なっ、消えた!?」
 アルベリッヒが帽子を被った。するとその姿が見る見るうちに消えてしまった。ミーメは消えてしまった兄の姿を見回すが何処にもなかった。
「何処だ!?何処にいるんだ?」
「わしはここだ」
「うわっ!」
 ここでミーメは吹き飛ばされた。それと共に酷く焼けるような痛みと衝撃が彼を襲う。明らかに鞭によるものだった。アルベリッヒの鞭である。
「ニーベルングの者共よ!」
 姿を消したアルベリッヒが叫ぶ。
「わしは御前達を何処からでも見ているのだ」
 そしてこう言うのだった。
「わしの姿が見えなくともわしはいる。わしの目は誤魔化せぬぞ」
「そんな、それではわし等は」
「そうだ、わしには逆らえぬ」
 ミーメの嘆きに応えた言葉だった。
「決してな。わしは常に貴様等を見張っているのだ!」
「ああ、何ということだ」
 ミーメはへたれ込み嘆き悲しむしかなかった。
「これではわし等はもう終わりだ」
「ここです」
 彼が嘆いているとそこに。二人の異邦人が来た。黒い肌の男が隻眼の男に告げていた。
「ここがニーベルハイムです」
「ここがか」
「はじめて来られたようですね」
「そうだな」
 ヴォータンはこうローゲに答えた。
「ここに来たのははじめてだ」
「そうですか。しかし」
「しかし?」
「今日は随分と騒がしいですね」
 ニーベルハイムから聞こえてくる音を聞いての言葉だ。松明の赤と苔の白に浮かび上がっている洞窟の世界は嘆きと何かを打つ音で満ちていた。
 
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