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アルジェのイタリア女

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第二幕その七


第二幕その七

「アッラーに誓ってな」
「成程、その御言葉二言はありませんね」
「何度も言っておろう」
 イザベッラの言葉にもう彼女が誰だかわからない有様で述べる。
「わしは嘘はつかぬと」
「そういうことですか」
「そういうことじゃ。エルヴィーラがいればそれでよいのじゃ」
 そう言うとそのまま大の字に倒れ込んだ。それを確かめてからイザベッラはにこりと笑って部屋の入り口の方に顔を向けた。そして言った。
「聞いたかしら」
「ええ、確かにね」
 ズルマが出て来た。その後ろにはハーリーもいる。
「聞いたわよ」
「俺もだ」
「御后様もですよね」
「え、ええ」
 そこにはエルヴィーラもいた。彼女はまだ信じられないといった様子で酔い潰れている夫を見ていた。
「聞いたけれど」
「これが旦那様の本音なんですよ」
「嘘みたい」
「私にはちゃんとわかってましたよ」
「私も」
「私もです」
 ズルマだけでなくハーリーやイザベッラ達までそう応える。彼等にとってはこれはわかりきったことであるので驚くものではなかった。だがエルヴィーラは違っていたのだ。
「そんなに私のことを」
「好きだから意地悪したりもするのですよ」
「うう、エルヴィーラ」
 ムスタファは夢の中で彼女の名を呼んでいた。
「もっとわしと共にいよう、ずっと一緒にな」
「あなた・・・・・・」
「ですからね、御后様」
 ズルマが言う。
「御心を悩ませることはないのですよ」
「ええ」
「旦那様は御后様じゃなければ駄目なのですから」
「勿論私のことは全然目に入っておりませんでした」
 イザベッラも述べる。
「御后様ばかりで」
「そうだったの」
「単なる意地悪ですよ。おわかりになられたでしょう?」
「そうね」
 エルヴィーラの顔が少しずつ晴れてきていた。
「けれど何故こんなことを」
「それは御后様のことしか考えられないからですよ」
「そうなの」
「ええ、ですから御気になさらずに」
「女はいちいちそんなことを気にしてはいけません。笑って済ませないと」
 イザベッラまでエルヴィーラにこう述べた。
「ですからね」
「わかったわ。それじゃあ」
 エルヴィーラも意を決した。
「これからは。そうさせてもらうわ」
「はい」
「是非共」
「では御后様」
 イザベッラはあらためてエルヴィーラに挨拶をした。
「私はこれで」
「何処に行くの?」
「彼女は国に帰るのですよ」
 ズルマが答える。
「国に」
「そう、イタリアへ。皆を連れて」
「そうなの。本当は駄目だけれど」
 今回のことで借りができた。だからそれはよしとした。
「いいわ。今度のことは有り難う」
「いえいえ。ではリンドーロ」
「うん」
 リンドーロが頷く。
「タッデオさんも」
「もう船も用意できていることじゃし」
 タッデオもそれに頷く。
「帰るとするか」
「イタリアへ」
「輝かしいヴェネツィアへ」
「今度は捕まるんじゃないぞ」
 ハーリーが彼等に言った。
「流石に二回も捕まるとは思えないが」
「勿論よ」
 イザベッラがにこりと笑ってそれに応えた。
「一度失敗したら二度はしないのがイタリア女」
「ほう、いいねえ」
「そして失敗を成功に生かすのよ」
「じゃあ今度会う時は奴隷じゃなくて友達としてだな」
「そうね。一度ヴェネツィアにも寄って」
「言われなくてもな、今度交易で行かせてもらうよ」
 この時代はまだ海賊と商人の区別は曖昧なものであった。これは何処でも同じで倭寇もそうであった。彼等も私的に交易をしたり海賊になったりであったのだ。
 
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