| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第27話 夢魔が飛び、魔猫が舞う(4)

 
前書き
デビサバ2のアニメが楽しみ過ぎて遅れました。主人公チート過ぎワロた。新田さん、顔に似合わず呼びだしたのがごっつい!そしてピクシーさんがアニメで動いているのをみて感動しました。 

 

「ガアアアァッ!」

 少女の使い魔である狼が本来持つ野性に支配されたかのような雄たけびと共に、目の前の純吾に渾身の一撃を振り下ろした。
 しかしそれを【ハーモナイザー】の恩恵によって高められた力で迎え撃つ純吾。迫りくる攻撃に対して、短い呼気と共にくりだしたアッパーで攻撃どころか狼の巨躯すらはじく。
パァンという乾いた音と同時に、体が空中へ浮く。

「シャムス!」

「おっまかせにゃ! 【ガル】!」

 すかさず純吾の後ろにいたバステトのシャムスが魔法で突風を巻き起こし狼へぶちあてた。空中で思うように体勢を整えられなかった狼は、突風に流されるまま大きく後退されられる。

「…行く」

「あらほらさっさー、にゃん♪」

 狼と距離をとった純吾たちはくるりと後ろを向き、更にその距離を開けようと走り始めた。



(くそっ、何度やっても坊やの力に届かないじゃないか)

 目の前で自分に背を向け走り始める純吾達を見ながら狼――アルフは舌うちする。
 戦いと呼んでいいのだろうか、アルフが攻撃を繰り出し、純吾達に防ぎ弾かれそして今のように逃亡される、そんな事を何度も繰り返してきた。

 その事に、ギリと奥歯を噛みしめる。

 確かに、彼らは自分の主に負けた。戦闘に対する技術もなく、ただがむしゃらに向かってきただけだと聞いていた。
 だからと言って今回もまた簡単に勝てるだろうと踏んだのがいけなかった。相手は冷静に魔法とは違った力で強化された体を十全にコントロールしているし、さらにあの猫の様な魔導生命体が追加されたのだ。攻撃をする隙が全くなくなり、結果今のように惨めに小さい敗退を繰り返している。

 そう、今の自分は惨めだとアルフは前足を踏みならす。
 彼らをなめて自分だけでも十分相手できると考えた挙句、こうもあっけなくあしらわれ、段々と他の仲間との合流をされつつある。
 それでも全力で戦い、敗れて合流を許してしまったというのならまだ自分の中でも言い訳をつける事ができたかもしれない。
 けれども彼らは自分を顧みずもせず、まるで羽虫でも払う様に吹き飛ばし、一回だってまともに拳を合わせた事はない。

「坊や、坊やの傷つけない信念って言うのは立派さね……」

 本当は理不尽なのだろうが、アルフは抑えられない怒りと共に、再び純吾達を追いかけるために駆けだした。

「けど、その信念はあたしたちの“覚悟”を踏みにじるものなんだよ――」





『Photon Lancer』

「…これでっ、ファイア!」

 少女――フェイトの周りに発生した黄色の光球が彼女の声と共に矢のように射出された。数は十を超え、その速度は人の反応速度を超えている。
 けれども、

「よっ、ほっと」

 軽い掛け声とともに、標的の女性――リリーは何事もないかのように全てを回避する。時には大きく旋回し、宙返りをうち、時には体をずらす事でぎりぎりではあったがそれでもよけきってみせた。

「そ~れっ、【ジオ】!」

「くっ」

 そしてリリーが避けきると同時に出された電撃を、少女は身をよじる事で素早く避ける。

『Sonic move』

 体をよじった回転をそのままに、高速移動魔法によって距離を一気につめる。回転によって生まれ、高速移動魔法でさらに増した速度を杖の刃にのせてリリーに迫るが、すでにそれは読まれていた。

「残念でした…っと!」

 リリーは紙一重で蝶のようにひらりと体をひねり、斬撃を交わすと同時に、背中にあるかぎ爪のついた羽を少女へと叩きつける。
 ギリギリ杖の軌道を変えてかぎ爪を迎え撃つ彼女だが、その反動で吹き飛ばされるようにリリーと離れてしまう。

「……どうして」

 離れてもすぐに杖を構えなおしながらも、少女が若干息を乱しながらもそう呟く。

「その“どうして”は、どうして実力が上のはずの自分がこうも手玉に取られてるか、ッていう事でいいかしら?」

 肩をすくめながら、目の前の少女の言葉足らずな疑問に口を挟むリリー。そのまだまだ余裕たっぷりだとでも言わんばかりの様子に、少女は杖を握る手に力を込めなおした。

 確かに、彼女の聞きたかった事はそれである。
 彼女はこの年にしては有り得ないほどに魔法の才能に恵まれ、かつ、戦うための訓練を十分に受けている。彼女達は知るはずもないが、純吾が聞いた評価されたようにその研鑽を重ねて裏打ちされた実力は、下級とはいえ悪魔であるリリーを上回るほどのもののはずである。

 では、どうして彼女の攻撃は予測され、避けられ、そして反撃さえも許してしまうのだろうか? それは、このリリーの言葉に収束されていた。

「まぁ、本当は言う義理もないんだろうけどね~。経験よ、け・い・け・ん。攻撃の読みあいも、結局は相手にそれをぶちあてるためのだまくらかしあい。相手をだますって事に対して、悪魔が負けるわけないじゃない」

 なんでもない事のようにそう言いきるリリー。それから少しばかりの笑みを顔に浮かべ、言葉を付け加える。

「だからほらほら。本気で私の事倒したいって言うんでしょ? ならもっと速い( ・ ・ ・ )攻撃でももっていらっしゃいな」

 飄々と、絶対の自信があるかのように少女を挑発するリリー。そんなリリーの様子に、彼女への認識を大幅に変えた。手加減できる相手ではなく、今後ジュエルシード争奪において強大な壁になるだろう存在として。
 だからこそ、絶対に今ここでジュエルシードの争奪戦からリリーを離脱させようと、少女は杖を構える。



(……まっ、そんな風に大ボラ( ・ ・ ・ )ふいちゃったわけなんだけど)

 けれども一方、リリーはそんな少女に対して表面上だけは余裕そうに振る舞い、心の中で盛大に冷や汗をかいていた。

(たしかに攻撃の読みあいで勝ってる( ・ ・ ・ )のは事実ではあるけど、それが全てって訳じゃないのよねぇ。逆を言えば、勝ってるのってそれだけしかないんだし)

 そう、今の彼女が余裕ぶっているのは虚勢にすぎず、少女の攻撃に対応できているのは、ただ全力で彼女の相手をしているからにすぎない。

 確かに攻撃単体では単純かつまっすぐなものが多いが、その威力や速度は目を見張るものがあるし、近~遠距離どこでも攻撃手段があるのも痛い。それら全てを、高度な訓練を受けたであろう見事な連携で打ち込んでくる。
 正直言って、本当に余裕がない。

(ていうかっ! 下級とはいえ悪魔を相手取れる子供がいる世界ってどうなのよ! こんなの絶対におかしいわよっ)

 信じもしない神に向かって盛大に愚痴をこぼすリリー。前の世界では、悪魔と人の間には絶対の壁があった。それはただの人間の攻撃が無効化されるという事であり、それ以上に悪魔を傷つけられるほどの威力のある武器を持っていなかったという事であった。
 けれどもこの世界ではそれがない。自分が知らない魔法技術があるために。本当に、とんでもない所に来たと思ってしまう。

(けれども……)

 リリーは目の前で自分に対して過大なまでの警戒を示している少女を見ると、口の端を嬉しげに持ちあげる。

(まだ、私にはあなた専用の切り札( ・ ・ ・ )もあるのだしぃ? 最後の最後まで、しっかりと踊って頂戴ね♪)

 そして笑みを浮かべた自分を見て、更に全身に力を入れた少女を見やりながらリリーは右手に溜めた電撃を放った。



(やっぱり、リリーさんすごい……。あの子の攻撃を全部避けきってるの)

 なのはは始めの場所から一歩も動くことなく、リリーと少女の戦いをただ呆然と見上げていた。

 少女が無数の光球をばらまき、リリーがそれを避け時には雷で迎え撃つ。またある時は手にした斧のような杖と鋭い爪のついた羽を打ち合わせ、甲高い音と共に火花を散らす。空中を縦横無尽に飛び回りながら繰り広げられるそれは、さながら季節外れの花火のようにも見えた。

 そこまで考えて、なのははギュッと、手の中のレイジングハートを握りしめた。

(うぅん、違う。純吾君と、皆と約束したんだっ)

 今までの考えを放り投げて思い出すのは、初めてあの少女と会った日。そこで新しく出発をし直そうと約束をし合った事。
 いつまでも純吾とリリー達その仲魔に守られるだけでなく、本当の意味で一緒に頑張って行くのだと決めたのだ。

 だからこそ、今だってただ戦いを見てるだけじゃなくて、自分にできる精一杯をしにいかなくてはならない。そうなのはは気合いを入れなおし、腕の中にある愛機に声をかける。

「…レイジングハート」

『All right, master. Flier Fin』

 打てば響くように自分の望む魔法を選択してくれたレイジングハートに微笑みながら頷くと、なのはは一気にリリーの元へ加速していった。




「リリーさんっ!」

 少女と雷撃と光球の応報の最中のリリーの背中に、なのはの声が後ろから唐突に聞こえた。
 その声にリリーは背を向けたまま吠えるように答える。対峙する少女の攻撃に、気を抜く余裕が少しもなかったからだ。

「どうしてでてきたのっ、今は危ないから下がってなさい!」

「だって、だって皆と約束したから、これから本当に一緒に頑張って行くんだって!」

「それはぁ、そうなんでしょうけどぉっ!!」

 言葉とともに、虎の子の【マハジオ】を金髪の少女に向けて打ち込む。何本もの雷光が壁を作りだして光球を全て弾き飛ばす間になのはの手を掴んで少女から大きく距離をとるために森の中に突っ込む。
 しばらく森の中を飛んで少女が見えなくなってから、リリーはなのはを大声で叱りつけた。

「今までのあの子の戦いぶり見てたでしょっ。あの子今のなのちゃんが束になったって敵わないの! 無茶してなのちゃん怪我したらどうするつもりなのっ!?」

「うぅっ。でも、じっとしてられなかったの。リリーさんが必死になってるのにまた見てるだけだなんて」

 せっかく固めた覚悟をリリーの手でくじかれて、怖気づいたような声で答えるなのはに対して、「はぁ~~」と、リリーは長い溜息をもらした。

「…なのちゃんがちゃんと魔法を上手に使えるようになってからなら、あの子とやりあっても良かったんでしょうけどねぇ」

 彼女の目的はとジュエルシードを回収する事と、自分たち以外にもそう言う事をする者たちを排除する事だ。今までは散々リリーが挑発をしていたから、何とか少女にとっての本命であろうなのはの事を視界から外される事ができたが、なのはが自ら飛び込んできてしまってはもう遅い。

 そして、そんな2人が固まっている今を少女が逃すはずがない。
 【マハジオ】による壁がなくなってからリリー達を探し回っていた少女はついに彼女たちを見つけ、牽制の光球を何個もリリー達に向けて放った。リリー達はそれに対して慌てて会話を打ち切り、その場から飛び避ける。

「くぅ…。やっぱりなのちゃんの事もしっかりマークされちゃったわね」

 ちらりと後ろを向けば、繋いだ手の先にあるなのはの不安そうな顔が見えた。
 リリーの手助けをしたい一心で、人と争った事などないのにこの場に来たのに、自分のせいでこうも状況が悪くなってしまったのだ。後ろから迫ってくる圧迫感と併せて、彼女の中の不安や後悔がどんどん膨れ上がっているのだろう。

(だからこそ、私がどうにかしないというけないわよねぇ。ジュンゴにも頼まれちゃったんだし、ね)

 そんな彼女の心中を察しつつ、リリーはもう一度振り返った。

「時間がないから良く聞いて、なのちゃん。これから私あの子にもう一度突っ込んでいくわ」

「えっ?」

「囮になるの。私があの子の気を逸らしてる間に、なのちゃんの一番得意な魔法をあの子にぶつけちゃって頂戴」

 話している間にも木々の間を飛び回り続けながら、少女に負けないための今とれる最も良い役割分担をリリーが伝える。唐突な事であり、しかも自分が重要な役割を担うと知ってなのはが目を白黒させて慌て始めた。

「あぁもうっ、もう時間がないの! なのちゃんはただ魔法を準備してそれをぶち込む、それだけでいいの。あの子を狙いやすい場所に誘導もするし、足止めだってちゃんとするわ。そういうわけだから、よろしくねっ!」

 それだけ言い残すと、リリーはなのはを掴んでいた手を放して急反転する。後ろから聞こえるなのはの慌てた様子の声を置き去りにして少女に向けて疾走。急な反転に対応し切れていない少女に向かって、上へかちあげるような軌道で羽を振るった。

「くぅぅっ!」

 かろうじて杖で受け止める少女もろとも木々を抜けて月下に飛び出て、羽を振り切ることで距離をとった。しかしそれも一瞬、すぐに杖を斧状にした少女が飛び掛ってきて、羽と光の斧が火花をあげて打ち合わされる。

(やっぱり、尋常な技量じゃないわよこの子っ!)

 何合も打ち合っていると、段々とリリーが押され始めてきた。なのはから意識をそらさせるために、中・遠距離での攻撃を封じしかも攻撃に徹するしかないから、戦いに関する技量の差が如実に出始めているのだ。それでも何とか動けなくなるような攻撃は防ぎつつ、なのはの準備が整うまでリリーは耐える。

「リリーさんっ!」

 あと少しで少女につき崩されそうになる、その瀬戸際にようやくなのはの声が聞こえた。

 その声が届いた刹那に、リリーは翼を大きく羽ばたかせ風を巻き起こしながら少女から離れる。突然の突風にリリーと対峙していた少女はつかの間腕を前に出し目をかばう。
 すぐに風はやみ、それと同時に辺りを見回す少女だったがつい数瞬前まで彼女と戦っていた女性は見えず。代わりに自分と同じ年頃だろう少女の声が、圧倒的なまでの魔力の高まりと共に下方から届いた。

「ディバイーン――」

『―Buster』



「うっわぁ…。これ、本当ならオーバーキルもいい所じゃないの?」

 自身の隣にいる、彼女をも覆い尽くさんとするほどの太さの砲撃を放つなのはを見てリリーがうそ寒そうに呟いた。
 先ほどまでの少女といい、隣にいるなのはといい、どうしてこうも飛び抜けた才能の持ち主がいるのだろうかと、戦いが終わって緊張が解けたのもあり、呆れを通り越して感動すら覚えてしまいそうな心境だったからだ。

「だっ、大丈夫ですっ! ちゃんと“ひさっしょう設定”ってなってるの確かめたもん!」

 なのはが、リリーに物騒な事を言われた不安やら自分の役割を何とかこなせた安堵やら様々な感情がごっちゃ混ぜになった、泣き笑いにも似たような顔で必死に釈明を求めた。いくら非殺傷設定だからといっても、初めて自分から相手に魔法をぶつけるなんて事をしているのだから、今だけは心に不安が巣くってもしょうがない。

「非殺傷設定、ねぇ。ずいぶんとお優しい( ・ ・ ・ ・)魔法なのね、この世界の魔法っていうのは」

 リリーが、今度は明確な呆れを顔に浮かべて肩をすくめた。それから「ふぅ」と息を吐いて気持ちを切り替えると、もう一度なのはに顔を向け微笑む。

「なんにせよ、これでひと段落ついたはずよ。なのちゃん、結構無茶苦茶な事いったと思うけど、こうやってちゃんとやってくれてありがとうね」

「あ、あぅ…。わ、私なんて言われたとおりにしただけで。リリーさんがしっかりと整えてくれたからですよ」

「あらそう? じゃあ、そう言う事にしときましょうか。そろそろ、あの子をどうするかも考えないといけないでしょうし」

 リリーはそう言って段々と光の勢いが衰えつつあるレイジングハートを見やる。これからなのはの魔法によって気絶してるであろう少女を回収し、あの狼をどうにかして、それから彼女たちに山ほど尋問をしなければならない。

 それ自体は面倒この上ない事だが、狼をどうにかするという事は純吾と会えるという事なので心持ち頬を緩めたリリーは、ふとレイジングハートを持つ手の先にあるなのはの顔を見て、不審に眉をひそめる。彼女の顔が先ほどまでとは打って変わり、驚き、恐怖を抱いたかのような顔になっていたからだ。

「嘘でしょ……」

 その表情に慌てて振り返ったリリーが呆気にとられた様子で言う。
 彼女達の視線の先には、バリアに包まれてほぼ無傷の少女が浮かんでいたからだ。2対の視線を受けても、何の感情をその顔に浮かべることなく、少女が口を開く。

「魔力の量には驚いた。これほどまでの魔力量は、ミッドチルダでもそうはいない」

 全身を覆っていたバリアを解除して、杖をリリー達に向ける。金色の宝玉が付いた杖の先に電撃をおびた光球が生まれ、大きくなっていく。

「でも、それだけ。術の制御も其のデバイスに助けられて、ただ量が多いだけなら防ぐのは容易い」

 そう話す間にも光球は大きくなり、電撃はその周りで弾ける様な凶暴な音を立てて明滅する。

 少女がそうしている間、リリー達は驚きで動くことすらできていない。そんな彼女たちを少しだけ落胆の色が混じった瞳で見据え、少女は最後の言葉を淡々と告げた。

「あなた達は、ここでジュエルシード回収から脱落してもらう。これ以降傷つきたくなかったら、二度と私達の前に現れないで」

 そして、リリー達に向かって必殺の魔法を放つ。

「サンダー…、スマッシャー」



「っ! 離れなさい!!」

 深夜の森に、落雷の轟音が響き渡る。






 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧