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吊るし人

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第四章

 ランニングをしていれば躓く、それでこけると。
「おいおい、あいつまたこけたよ」
「またかよ」
「一日何度もこけるな」
「どん臭い奴だな」
 こけた愛生にもその声が入る、そしてここでもだった。
 愛生は気弱な顔になる、しかし。
 ゆかりはすぐにこけた愛生のところに来てそして言った。
「気にしないでね」
「はい、すぐに立ってですね」
「怪我ない?」
「大丈夫です」
 愛生は自分の膝を見た。膝はグラウンドの砂で汚れているがそれでもジャージは敗れていないし怪我もなかった。そこまで確かめてゆかりに答えた。
「何でもないですから」
「そう。けれど少し休んでね」
 ゆかりは愛生を気遣って言う。
「それでまた走ろうね」
「休んで、ですか」
「少しそうしてね」
 そしてだというのだ。
「もう一度走ろうね」
「わかりました」
「気にすることないからね」
 ここでもこう言うゆかりだった。
「こけたらそれだけだから」
「それだけ、ですか」
「そう、それだけ」
 ゆかりは愛生にこう言って前に向かわせた、しかしだった。
 誰にも言わないがストレスは感じていた、人の面倒を見るということはそれだけでストレスになるものである。
 家に帰るとため息を吐いて寝ることが多かった、そうした日々だった。
 そんなある日町を一人で歩いていると不意に前から沙耶香が来た、沙耶香はその彼女を見て言ってきた。
「苦労してるわね」
「いえ、それは」
「隠さないでね。カードにあった通りだから」
「カードですか」
「あの吊るし人のカードね」
 沙耶香が言うのはこのカードのことだった。
「ほら、前の占いの時に」
「あの時のあれですか」
「吊るし人ですね」
「あの逆のカードね。その通りになってるでしょ」
「それは、何ていいますか」
「部活でそうなってるわね」
 沙耶香はあえて自分の力を使わずにゆかりに問うた。
「それはその」
「疲れてるわね」
 沙耶香はゆかりの表情も見て言う。
「結構」
「カードは嘘をつかないんですね」
「私は占い師でもあるのよ」
 魔術師であることは隠しての言葉だ。
「だからね」
「それでなんですね」
「そう、私の占いは当たるわ」
「じゃあ」
「疲れてストレスも感じてるけれど嫌にはなっていないわね」
「そういう気持ちはないです」
 愛生の顔を思い出しながら沙耶香に答える。
「別に」
「そうね。じゃあいいわね」
「悪いとは思っていないです」
 こう返したゆかりだった。
「別に」
「そうね。じゃあこのままいけばいいわ」
「このままですか」
「そう、このままね」
 これが沙耶香のゆかりへのアドバイスだった。
「進んでいけばいいわ。人間疲れることは何時でもあるしそれに」
「それに?」
「吊るし人は人間そのものなのよ」
「人間そのものですか」
「前は言わなかったけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「人間そのものなのよ」
「人間ってああして縛られて吊るされたりするんですか」
「今貴女は思った通りの展開じゃなくて疲れてもいるわね」
「はい」
「けれど最後まで嫌じゃない」
「嫌ではなです」
 晴れてもいないが暗くもない顔での言葉だ。 
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