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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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二十四話~壊れてしまえば終わり~

母親であるプレシアから攻撃されたという事実に暗い表情をしているテスタロッサを連れて俺達はアースラ艦内に戻ると、リンディさんが出迎えてくれた。

「お疲れなさい。それから……フェイトさん? 初めまして」

その言葉に何の反応を示すこともなくテスタロッサは俯いたまま。
その姿を高町達は心配そうに覗き見ている。
ここに来るまでに津神、縁、佛坂が「俺がいるから安心しろ」などという、三人とも言葉こそ違うものの似たり寄ったりな内容をテスタロッサの肩に手を置きながら語りかけているが、一人の例外もなく手錠で繋がれた両手で叩き落とされているか、隠に叩き落とされている。今の所高町と隠、アルフだけがまともにテスタロッサに触れることが出来ているという状態だ。

その様子に心配になったリンディさんは高町に部屋に連れて行ってこれから見せる光景を見せないように念話で伝えるが、既に遅くテスタロッサはモニターに映る、武装局員が時の庭園に突入する姿を見て、目がモニターに固定されてしまった。
どうやら、そこから動くつもりは無いらしい。


二十数人いるような武装局員は王の間で、玉座があるような場所に座っているプレシアを包囲し、武装解除―――デバイスを待機状態にする―――ように促すが、ただ笑うのみ。
特に抵抗するような様子も見せなかったため、半分はプレシアを包囲したまま、半分は危険物が無いか周囲の調査に乗り出した。

そこで、ある一つの扉を開けた瞬間にプレシアの様子は変わる。

モニターにもその部屋の中の様子は徐々に奥まで映し出され、高町とテスタロッサは驚愕の表情を顔に浮かべる。


奥には一つの大きなカプセルが存在し、その中に液体が入っており、そこにはフェイト・テスタロッサと瓜二つの少女。いや、アリシア・テスタロッサが浮かんでいた。

……あれがそうなんだな?

―――……うん。間違いなく私の体だよ―――

武装局員がそのカプセルに触れようとした瞬間、その二人の武装局員がプレシアにより吹き飛ばされる。

「私のアリシアに……近寄らないで……!!」

まるで、幽鬼のような顔をプレシアはしていた。

「う、うてえええええええ!!」

指揮官である武装局員の号令で一斉に魔法を放つが、プレシアの体に触れる前に消滅する。
プレシアとの魔力量に差がありすぎて、まともなシールドを展開する必要がないのだ。

「うるさいわね……」

そう呟くと、辺り一帯に紫色の電撃が降り注ぎ、その後には死屍累々となった武装局員達の姿が。


「いけない。局員達の送還を!!」
「りょ、了解です!」

リンディさんが素早く指示を送り、エイミィさんがすぐに、座標を特定し武装局員達を送還し始める。


そこから語られるプレシアの言葉。
アリシアの肉体の前に縋り付くように座り込み、アースラ艦内にいるテスタロッサに向けて語られる。


心を折るために。


「もういいわ。終わりにする……。この子を亡くしてからの暗鬱な時間を……。この子の身代わりの人形を娘扱いするのも……」

その言葉を聞いてテスタロッサの体が凍り付いたように固まる。

「聞いている? あなたの事よ。フェイト。……折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ……。役立たずってちっとも使えない私のお人形……」

そこで、プレシアの事を調べていたエイミィの口から告げられる真実。
彼女が事故で実の娘、アリシアを亡くしているということ。
彼女は使い魔の研究ではなく、使い魔を超える人造生命の生成。
フェイトはその死者蘇生の秘術の彼女の研究に付けられた開発コードであること。


その言葉をプレシアは肯定し、作り物は作り物。命に代わりはないと語り、アリシアとテスタロッサを比較し、フェイトを貶め始める。

―――やめてよ……―――

「いいことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してからずっとね、私はあなたが……」

―――やめてよ、母さん―――

そして、とうとうテスタロッサの心は……

「大嫌いだったのよ」

折れた。

目を見開いた後に、目から光を失ったテスタロッサは床に崩れ落ちる。


そして、テスタロッサに高町達が駆け寄る中でエイミィから緊迫した声が届く。
どうやら、高魔力反応がいくつも時の庭園内で起きているらしい。
それと同時に時の庭園内に次々と現れるAクラスの魔力反応。普通の武装局員では太刀打ち出来ないレベルのランクだ。魔力反応は六十を優に超える。


プレシアは魔法でアリシアが入ったカプセルごと浮き上がらせると、先ほど座っていた場所まで行き、そこで九つのジュエルシードを同時に発動させる。

「私達は旅立つの……。忘れられた都、アルハザードへ!!」

ジュエルシードは眩い光を放ち始め……

「この力で旅立って……取り戻すのよ。……全てを!!」

空間が揺れた。

「次元震です! 中規模以上!」
「振動防御! ディストーションシールドを!」

ジュエルシードの発動によって発生した次元震は更に強まり、アースラ内ではけたたましくアラームが鳴り響く。

―――……母さん―――

プレシアの狂ったような笑い声がアースラ艦内に響き渡る中、アリシアは悲しげな表情で母の姿を見つめていた。


……アリシア。何をそんなに悲しげな表情をしている。いくぞ。

―――え……? いくって……―――

ショックで頭までイカレたか? お前がプレシアを止めるんだろう?


そう、本来決められた暗い未来とは違った明るい未来を切り開くために。

―――そう……だね……。うん! いこう、母さんのもとに!―――

そして俺は皆がモニターを見ている中、アリシアを連れて、転送ポートへ向けて走り出した。



「邦介!」

走っていると、同じ方向に向かって走っているクロノに遭遇した。

「クロノか……。クロノはどこに?」
「現地へ向かう。元凶を叩かないと」
「そうか。俺も行こう」

話している間に前方から高町達が走る姿が見えてきた。
テスタロッサはアルフに抱えられている。

「あ、クロノ君。どこへ……?」

そこで、クロノが先程と同じような言葉を言うと、医療室へ向かうアルフとテスタロッサ以外が行くことになった。

(クロノ! 私も現地に出ます。あなた達はプレシア・テスタロッサの逮捕を!)
(了解!)

時の庭園内に転移すると、三メートル以上もある大きな機械の鎧が多く、歩き回っている。

「いっぱいいるね……」
「まだ、入口だ。中にはもっといるよ……」
「クロノ君、この子達って……」

人間かどうか知りたいのだろう。高町が心配そうに尋ねるとクロノは問題無いと言った。
近づいた敵を攻撃するだけのただの機械だと。

「そっか……なら、安心だ……」
「待て、僕が行こう。この程度の相手に無駄弾は必要ないよ」

そしてクロノが魔法を発動させようとするよりもはやく、背後から無数の武器が高速で射出され機械鎧を粉々に破壊した。

「この程度に時間を掛ける意味もねえ。さっさといくぞ!!」

後ろを見ると得意げな表情で津神が立っていた。どうやらこいつ、最初から全力でいくつもりらしい。

「すごい……」
「なんて力だ……」

どうやら、高町とユーノはこれ程の威力を出している場面を見たことが無かったのか、酷く驚いている。そして、神白やら縁は「あのチート野郎め」などと小さく呟いていた。

クロノを先頭に時の庭園内を走っていると所々床がボロボロに崩れ落ちており、そこからは黒い穴やら、紫、薄いピンクなどのような色が混在する奇妙な空間が広がっていた。

「その穴、黒い空間がある場所には気を付けて」
「虚数空間。あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ!」

クロノが注意を促し、ユーノが補足する。

「飛行魔法をデリートされる。もしも落ちたら、重力の底まで落下する。二度と上がって来れないよ」
「気、気をつける」

高町が顔を引き締めて言うが、隠はふと思いついたことを言うように口に出す。

「なら……機械ならばどうなんだ? ヘリコプターとは言わなくても、現代には背中に背負えるタイプの飛行機械もある」
「それは……分からない。ミッドチルダでは魔法と科学が合わさった技術だから、魔法が不可欠なんだ。だから試した人はいない」
「そうか……」

そして一際大きな扉を調子に乗った縁が蹴り開けるとそこは大広間であり、大量の機械鎧が待ち受けていた。だが、その数は十や二十どころではなく、百を優に超える数が銃口をこちらに向けて待ち構えていた。

「そうか、ここから二手に分かれる。君達は最上階にある駆動路の封印を! 僕はプレシアのもとへ行く」

そして、道を切り開くために杖を振り上げようとするのを、秋山さんが手で制止する。

「待って、クロノ君。あなたでも流石にこの数を相手にするのは骨が折れるわ。だから、ここは封印作業が出来ない私達が引き受ける。あなた達……クロノ君とユーノ君と……なのはちゃんは先に進んで」
「分かった。ここは頼んだぞ」
「仄夏ちゃん……」

秋山さんが俺ら……転生者を指さして、ここの敵を引き受けるということを言い、原作組の三人を名指しで言っていた。
……だが、高町の名前を呼ぶときだけ辛そうな顔をしたのは気のせいだったのだろうか。

「皆先に進めええええええええ!!」

津神が雄叫びを上げながら王の財宝を発動し、三人のための道を作る。
そして、十数体の機械鎧を倒すのに対して射出された武器の数はおよそ三十だったことから、ここの機械鎧は、一撃で三体壊れるような入口にいた機会鎧とは、硬さがまるで違うようだ。

「っち! かってえな!!」
「すまない! 頼んだぞ、君達! 恐らくこいつらはAAAクラスある。絶対に死なないように気を付けてくれ!!」

そして、三人は扉の向こうへ消えていく。


「いくぞ。AAAクラスで二人一組で戦った方が良さそうだな」
「隠さんの言う通りよ」
「ああ。さすがに王の財宝でもここまでとは思わなかったぜ……くそっ」

そして、秋山が話を先導して、チーム分けをすると俺と隠、佛坂と縁と秋山、神白と津神というグループになった。
……しかし、何故原作組と転生者を綺麗に分断するような真似をしたのだろうか。
突然頭の中に疑問が思い浮かび、もしかしたら秋山が俺を殺すため。という突拍子もない事を思いつくが、すぐに頭の隅に追い払う。
今はそんなこと考える暇はない。考える暇があれば駆逐しろ。

「……足手纏いになるなよ? 門音」
「隠こそ……ああ、そうだ。万が一避けられない攻撃があった場合に備えて魔法を掛けといてやる」

他の組が機械鎧へと向かうなか、俺は隠の体を覆い隠すように闇属性の魔力を放つと、数秒隠の姿は見えなくなり……すぐに魔力は体に溶け込むように消えた。

「……特に変わった様子はないようだが?」
「まあ、これで生存率は上がったと思っていい。それじゃいくぞ」

そして、手近な機械鎧に向けて魔力で強化した左腕を機械鎧に向けて打ち込むと、肘まで埋まり、すぐに引き抜くとその機械鎧は爆散した。
これでやられるレベルならそこまで魔力を使う必要はないな。

―――いつ見てもそれはどうやってるのか不思議だねえ―――

昔、小さい頃に父さんに体で覚えこまされた技だよ。俺が死なないように手加減はしてくれてたみたいだけど、何度も内臓は傷ついたし、血反吐が出たなあ。

―――体でって……そ、そんなことより! ホースケはいかなくていいの? 母さんの所に!?―――

その様子を想像したのかアリシアは顔が青くなるが、すぐに表情を引き締めて言う。

いや、俺じゃなくてフェイト・テスタロッサと共に行くべきだ。あいつは絶対に立ち直ってここを通る。

―――そう……―――

そういえば隠は大丈夫なのだろうか。見た限りじゃ、パワーファイターではないように見えるが。
そう思い隠の姿を探すと、右手で機械鎧を殴り飛ばし、数メートルも吹き飛ばして一発KOする姿が見えた。

「……どうした、門音?」
「いや、お前パワーはそこまで無いはずだよな?」
「ああ。確かに俺は馬鹿みたいな力は無いが、拳に魔力を集中させれば簡単だ」
「そうか……これなら二人一組になる必要は無かったのかもな」

話しながらも俺達は機械鎧を駆逐するのを止めない。
どうやら、あちらも順調に壊していっているらしく、頻繁に豪快な破壊音が響いている。

「ああ……。だが、油断すれば簡単に死んでしまう程の力は備えている」

そして、十分も経った頃には約百体もいた機械鎧は全てただの鉄屑へと変貌していた。
先ほどの駆逐作業でテンションが上がったのか、縁は張り切り始める。

「よっしゃ!! さっさといくぜえええええ……え?」

だが、縁の言葉は不自然に途切れた。
途切れると同時に赤い液体が噴水のように飛び出し、縁の周囲にいた、佛坂と神白に降りかかる。
何故降りかかる? そもそもあの赤い液体は何?
その疑問に当然のように頭は回答を導き出す。

縁が秋山に剣で首を刎ねられたから。そこから血が噴出しているから。

なら、何故秋山は縁を斬った?

俺達を殺すため。


「……え?」

呆然と目を見開きく神白を見て、俺は瞬時に電気属性の魔力を体に流し込み、全力で神白のもとへ走り出す。直感で理解したのだ。次にこいつが殺される……と。
呆然とする神白を余所に佛坂はニヤリと口元を歪めて、瞬時に後ろに飛び退く。

次の瞬間巨大な大剣が突き刺さるが、そこに神白の姿は無い。

「っち! 外したか……」

「っは、っは、っは……おい、生きてるか」
「あ、ああ。助かった。ありがとう」

俺と神白をタックルするような体勢で倒れこんでいると、またも二つ目の武器が射出され、襲い掛かる。

「っち! おい。お前ら……どういうつもりだ」

隠がデバイスで武器を受け流し、目の前で気味の悪い笑みを浮かべる三人に冷静な声で聞くが、無理矢理冷静にしようとしているのかその声は震えている。

「うふふ……どういうつもりですって? それは勿論そこのゴミを殺そうとしただけですよ? 私のハーレムを邪魔する奴らは死んでしまえばいいんです。……そう、こいつらを殺してしまえば……まだ私にもチャンスはある……」
「そう! お前ら転生者はただ大人しく殺されていればいいんだよ!!」

秋山が何か自分に言い聞かせるように不気味に答え、津神もそれに追随するように叫ぶ。

「だからね……」

ただただ、殺す殺すと連呼するだけなら性質の悪い転生者で通すつもりだったが。

「俺達のために……」

なんだ……

「「「死ね!!」」」

……ただの悪人か。



三人が叫んだ瞬間。俺は三人の前に移動していた。
なんてことない。ただの数メートル程度……肉体の痛みを度外視すれば、まばたきするよりも速く到達することだって可能だ。
一瞬で目の前に現れた俺に秋山と津神の体は驚きで硬直し、佛坂に至っては腰を抜かしている。……軟弱な奴だ。
無言で俺は秋山の顔を右手で、津神の顔を左手で掴み、呪う。
効果は視力を一年失うこと。
代償は五ヶ月のリンカーコアの停止。

呪いが成功した証として二人の足元から黒い煙に溢れ出て、包み込む。その色は隠を包み込んだ黒色とは違い、禍々しい色をしている。

「な、なんだ!? 目の前が真っ暗になったぞ!?」
「わ、私の目はどうしたの……? 何? 真っ暗じゃない! 何をしたのよあんた!!」

すると二人は目を抑えて悶え始めたため、手刀を二人の首元に落として気絶させる。
佛坂も気絶させようかと振り向くと、既に隠が佛坂をバインドで捕獲していた。
それに近づき、同様に気絶させる。

「門音……。お前、二人に何をしたんだ?」
「呪った。多分一年は何も見えねえだろうな。俺の能力の一つだ」
「そうか……」
「それより……テスタロッサ!! そこにいるんだろう?」
「なに!?」

俺が呼びかけると隠も知っていたのか動揺することなくテスタロッサがいるであろう方向を見るが、神白は呆然としていたからなのか、かなり驚いていた。
少し待つと、俺達が入ってきた扉から警戒しながら出てきた。

「……いつから知ってたの?」
「ここに転がってた女が縁を殺したあたりで」
「そんなに早くから……」
「まあな。母に会いに行くんだろう? 急ぐぞ」

テスタロッサが無言で頷いた事を確認すると俺達は走り出した。

「神白鋼。一人で大変だと思うが、こいつらをアースラに戻してやってくれ。出来るだろう?」
「おう。そこまで魔力を消費してないはずだからいける。……何て事情を離せば良いんだろうな」
「知らん……。自分で考えろ」

精々歪曲して報告されないことを祈る。
 
 

 
後書き
ううむ・・・。色々と思うところがありますが、次を書きましょう。 
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