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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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十七話~邦介の受難~

Side~Suzuka~

「本当にごめんね。心配かけちゃって」
「べ、別に私は心配なんかしてないわよ!」
「あはは……。アリサちゃんあんなになのはちゃんのこと心配してたのに」
「あー! すずか! それは言わない約束でしょ!?」
「にゃはは……」


目の前でなのはちゃんがアリサちゃんに申し訳なさそうな顔をして謝っていた。
アリサちゃん、本当は凄くなのはちゃんの事を心配してたのにあんなにツンツンしちゃって……。自分の本当の気持ちをストレートに出すのが恥ずかしいからって逆のことを言っちゃうなんて……可愛いなあ。


ジュルリ


「すずかちゃん。目が変なことになってるよ」


……あ、うっかり。


「戻った?」
「う、うん」


ちょっと戸惑ったような顔になりつつも、なのはちゃんが朗らかに笑ってくる。まるで憑き物が落ちたみたいな笑顔で思わず目を細めたくなるほど眩しい。あなたは太陽? それとも女神? 何て愛しいんだろう。なのはちゃんの為なら全てを投げ打てる。そんな気がする。

ほら、アリサちゃんもこっちを見てるし、同じような顔をしてる。


「……」
「……」


私達は無言で拳を突き合わせた。アリサちゃんとはずっと上手くやっていける。心が通じ合っているのだから絶対にいけるはずだ。


「二人ともどうしたの? 手を合わせたり何かして……?」
「なんでもないわ。ねえ、そうでしょ? すずか」
「うん。そうだよなのはちゃん。……それで、どうしてそんなに疲れてるの?」
「ならいいんだけど……えっとね」


怪訝な顔をしつつも質問に答えようとするなのはちゃん可愛い。上手い言葉が見つからなくて、あー。うー。ってもぞもぞしてるなのはちゃん可愛い。
そして、途中途中で「にゃの」って噛んでわたわたと訂正するのなんて鼻血ものだ。……ほら、アリサちゃんだって手で押さえてる。そして鼻から血……いや、愛が溢れ出ている。


美味しそうだなあ。


「すずか。口から赤いのが漏れ出てるわよ」


あ、うっかり。


……それで、なのはちゃんが今まで疲れた顔をしていたのは、知り合いが何か大事な物を失くしたみたいで、それを一緒に探しているからみたい。
散々私達を萌え殺して来た末になんとかその内容を理解することが出来た。


「なのは。それでその知り合いの探し物っていうのはどんな形なの? 私達も見つけたら連絡するわ」
「うん。それに私達に言ってくれれば喜んで一緒に探すのに……」
「にゃはは……ありがとう……二人とも」


なのはちゃんが目に少し涙を浮かべて笑いかけてくる。可愛い。
ふと、アリサちゃんを横目で見てみると、両手がなのはちゃんに抱き着くために向かって……いこうとしているのを必死で我慢しているのかプルプル震えている。


「そ、それで、探している形をはやく言いなさいよ!」
「うん! えっとね……こんな形をしてて青色の宝石なんだけど、見つけたらすぐなのはに教えてね」
「ええ。いいわよ」
「うん。分かったよなのはちゃん」


なのはちゃんが言うには菱形で青い宝石みたいだけど、宝石だったら他の人に見つけられたりしないのかな?
今度お姉ちゃんにも聞いてみよう。



「それじゃ! お昼ご飯を食べましょ!」
「うん!」
「なのはちゃんのお弁当、いつも美味しそうだね」


勿論、なのはちゃんも美味しそうだけどね。


「えへへ。そう? すずかちゃんのお弁当も美味しそうだよ」
「ちょっと! 私も混ぜなさいよ。私のお弁当もあげるから!」
「「えー……」」
「ちょっと!!?」


いつもお昼の時は楽しい。冬は寒いからさすがに屋上では食べないけれど、それでも屋上で三人一緒に食べるのは楽しい。今日は仄夏ちゃんが学校を休んだせいか少し平和だ。
仄夏ちゃんは恥ずかしい所も平気で触って来るから少し苦手だ。だけど、津神君達の方がもっと苦手だ。


……津神君達が偶に、いや結構な頻度でやってくるけど。


だけど、邦介君と東雲君も一緒に食べたらもっと楽しくなると思う。
邦介君も東雲君も見た目は暗くていつも無表情なのに加えて、自分からはほとんど喋らないから話しかけ難い感じがするけど、実際は違う。とても優しい。
例えば私が入学したてでまだ碌に自分の気持ちも伝えることも出来なかった頃、クラスの女の子に苛められていたことがある。

苛められていたと言っても、筆記用具や教科書なんかが隠されていたくらいだからそこまで深刻なものじゃなかったけど、当時の私には学校にいくことが怖くなる程のことだった。
……今考えれば、上靴に画鋲が入れてあったり、物がぐちゃぐちゃに壊されていたり、机に落書きがされてあったり、物を投げつけられたり……数え上げればきりがないけどそういったことがされなかっただけマシだったと思う。


ある日、帰りの会が終わった後のこと。いつものように鞄に筆箱を入れようとしてそれが無いことに気付いた。そして、周りを見回すと背筋が凍りついたような感覚が一瞬で駆け巡るのを私は感じた。
十数人の子達がこちらを見ているのだ。しかも、思わず顔を背けたくなる程気持ち悪い笑みを顔に貼り付けた状態で。
苛めている人が誰なのか気づいたのは初めてで、こんなにも多くの人が私を苛められている事を知った時は、泣きたくなった。……いや、実際に涙が出た。
もう、学校になんて行きたくない。そうとまで思ってしまった。


嗚咽が零れそうになるのを必死で堪えている時だった。
そこで彼が言葉を発したのは。


「貴様らそんな恥晒してよく平気でいられるな」


隣の席から冷やかな声で、左腕だけに黒い手袋を嵌めた変な男の子、門音君が苛めている子たちに言い放った言葉でクラスの空気は凍り付いた。
急に辛辣な言葉が出てきたこともあるが、初めてだったのだ授業での質問に答える意外でまともに言葉を発することは。
……いや、私は入学式の時に一度だけあったが、それ以降話すことは無かったからどんな人かなんてことは分からなかったし、気にすることも無かった。


「……あ? 俺の言ってることが分からなかったか? 貴様らのことを言ってんだよ。ニヤニヤ笑っていた奴ら。そう。貴様らの事だ。いちいち俺に気付かさせないと自覚出来んのか。筋金入りの馬鹿共だな」


一人一人を指で指し示して、さっき苛めていた人達が自分の事を指さすのを見ると、不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、彼は見下したように笑った。
そして、私の机の上に何かが書かれた紙片を置きながら席から立ち上がると苛めていた子達の所に歩いて行き始めた。


私は涙を拭いて紙切れを見ると、綺麗な文字でこう書いてあった。



『今からやることは演技だから気いいにいすんなああああ。そして泣いてもどうにもならないぞ(゜Д゜。)』


思わず吹いてしまいそうになった私は悪くないと思う。


そこからは門音君のありとあらゆる罵詈雑言の嵐で、苛めていた子達が「分かった! もう分かったから許してくれ!!」と泣きながら土下座をしたことでその、門音君の言葉責めは終わった。


途中で津神君が「なに俺のすずかを苛めてんだよ!! このモブが!」って叫びながら、何故か門音君に殴り掛かってきたけど、門音君はその子の足を引っ掛けて、津神君の体全体を一瞬浮かせた。
そして、机の角に向けて津神君の鳩尾を思いっきり蹴りつけて津神君を気絶させてしまった。
私はその時の「……少しは空気よめよ」ってぼそりと呟いた門音君の言葉に思わず顔が引き攣る感じがしたが、なんとなくスッキリしたので心の中でそのことについてお礼を言っておいた。


色々とあったけど、その事にお陰で今の私があるし、なのはちゃんと友達になるまでずっと話相手になってくれたから門音君には感謝してもしきれない。

ただ、左腕の手袋の中身が何なのか見せてくれないことだけは不満だけど。



ふと、我に返るとアリサちゃんがなのはちゃんの胸元に掛けられた首飾りを弄りながら、興味深げに話かけていた。妙にその距離が近いのは気のせいだということにしておく。


「なのは。ずっと前から気になってたからこの際聞くけど、あんた、その首飾りを私達と初めて会った時からずっと着けて学校に来てるけど……それ、なんなの?」
「あ、それ私も気になってたんだ。そのお守りみたいな黒いのって一体何?」


初めて友達になった頃から持っていたけど、普通の長方形のお守りをしているのに模様も無くて、ただ黒一色だからそれがどんな意味を持ったお守りなのかも分からない。


「えっと……このお守りは気づいたら持ってたの」
「っえ?」


なのはちゃんから詳しく話を聞いてみると5歳の時神白君と佛坂君がやってきて何かよく分からないことが起きていて混乱しているうちに、いつのまにかその二人は気絶していて、その時奇妙な声を聞こえた時に首にお守りがかけられていた。
ということみたい。


「なにそれ? ホラー?」
「なのはちゃん。その時の声って何て言っていたの?」
「うん。びっくりしちゃったから覚えてるよ。『お嬢ちゃん。今日は危ないからすぐに家に帰りなさい。それとその御守りを外に出るときは絶対に外さないようにな』って言ってた」
「なにそれ? なおさら怪しいわね……」
「うん。だけどこれ着けてると前みたいな事をされても何も起きなかったからずっと着けてることにしてるの」
「そうなんだ。……それちょっと触らせてもいい?」


その布ってどんな素材なんだろう。


「うん。いいよ」
「ありがとうなのはちゃん」


早速なのはちゃんから借りて触ってみる。
中身を見るための穴は無い。汚れも無い。
そして触り心地はスベスベで糸のほつれも無い。
……どこかで触ったことがあるような………。


っあ。


「思い出した。この触り心地って門音君の手袋の触り心地に似ているんだ」
「そうなのすずか? ……あいつのと同じ?」
「うん、前にも触ったことがあるから間違い無いよ」
「えっとー……門音君って……誰?」
「ほら、あれよ。どんな時でも左腕に黒い手袋を着けてる奴がいるでしょ? あいつが門音邦介よ」


変人のくせに頭が良いのよね。ってアリサちゃんがぼやいてる。確かに邦介君はいつも二位、三位を維持してるから頭良いよね。
そう。アリサちゃんは邦介君に少しだけ苦手意識を持っている。
何故なのかと言えば、学校でのテストでは毎回一位は取っているアリサちゃんだけど、アリサちゃんと邦介君だけで勉強の勝負をしたら必ず邦介君が必ず勝ち、その時には必ず鼻で笑って去っていくからなのだ。
多分、邦介君としては本心から馬鹿にしているんじゃなくて、ちょっといじっているっていう感覚だと思うんだけど、アリサちゃんはプライドから高いから苦手意識を持っちゃったみたい。



「んー…あまり気が進まないけど、あんたのお守りのことを何か知ってるかもしれないから聞いてみましょう! 素材が同じだったら元を辿れば何か分かるかもしれないわよ」
「うん! そうだね。少し門音君にお話しに行こう!」




「それで俺の所に来たと。帰りの会が終わって、さあ帰るか! と意気揚々と鞄を持った俺を引き止めてまで聞きたかったことだと言いたいのか」


放課後になってすぐに邦介君を三人かかって捕獲したけど、捕獲された当の本人は凄く面倒くさげだ。


「なによ。あたし達と喋れるっていうのよ! 少しは感謝しなさい!」
「あーうん。了解した。昨日の秋山さんに続いて今日は月村達か……」


そう言って邦介君はアリサちゃんを拝み始めた。……感謝しているつもりかな?
それに最後の方の言葉は小さくて聞き取れなかったけど、何て言っていたんだろう。


「ふざけないでちゃんと話を聞きなさい」
「了解。サー。それでどんな用事だ?」
「あんたの手袋を外しなさい」
「無理」
「何よそれ!」
「アリサちゃん落ち着いて。邦介君、触らせてもらうだけでいいからちょっと外してくれない?」
「触るだけならいいけど外すのは無理。それに何で触りたいんだ?」


事情を話すとあっさり触ってもいいって返事をくれたけど、なのはちゃんのお守りも触らせて欲しいらしい。なんでも自分でも本当に同じ素材なのか気になるみたい。


「ほい。しっかり触って感触を覚えたまえ」


邦介君が左腕を差し出して、私達がそれを皆して触る。
はたから見れば変な光景だけど、人が来ない屋上まで連れてきたから大丈夫。


「……やっぱり同じみたいだね」
「そうね。色も感触もほとんど同じよ。あんた、この手袋どこで手に入れたの?」
「正直俺も何処で手に入れたか忘れた。親戚の人が誕生日にくれたからな。それと高町さん、お守りちょっと貸して」
「うん、いいよ。はい」


なのはちゃんからお守りを受け取ってから色々な角度から眺めている邦介君。
一分くらい経つとなのはちゃんに返してくれた。


「確かに俺のと似てるね。まあ、俺も今度この手袋をくれた親戚に会ったら聞いてみるよ」


そう言って邦介君は屋上を去って行った。


 
 

 
後書き
今回はすずかの過去話と、三人娘の会話ですね。


 
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