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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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切れない糸(あるいは物件を選ぶ際の注意事項)

 
前書き
この小説ではこのような設定にします。
1年 代表候補生7人⇒10人
2年 代表候補生2人⇒7人
3年 代表候補生1人⇒6人
全員出すかは解りませんが、調和を考えて  

 
独立。IS学園は事実上、独立していると言ってもよい。各国のナショナリズム的な問題を始め、利害絡みの全ての干渉をはね除ける事が出来る。だが、全く国からの影響が及ばないかと言われれば、実態はそうでないと言わざるを得ない。流石に露骨な要求は突っぱねる事が出来るが、小さな要望――例えば、学食に関する改善要求など――などは、提案など言い方をマイルドにして通っている事が多い。切嗣がイギリスに召喚されたのは例外中の例外と呼んで差し支えがない。名目上、学園の生徒の生命を第一の目的として各国暗黙の了解のもと行なった初めての強権的要求だった。最も、束のお陰で学園の存在意義を大きく揺るがすことは無かったが。
閑話休題
さて、今回のラウラとシャルの組み合わせの件だが、案の定ドイツとフランスからの要求がそもそもの発端だ。名目上はナポレオンによる神聖ローマ帝国解体、及びその後のビスマルク体制下のフランス孤立政策、ベルサイユ宮殿でのヴィルヘルム1世の戴冠に関して、以後どこか過去の負の遺産に対してどうしても感じてしまう痼を清算しようという国家間の思惑だ。上に挙げたナショナリズム的な問題の解決にたち、代表候補生にも二国間の友好を示すものとしてタッグを組んでトーナメントに参加して欲しいというものだった。これに関して、本来学園にナショナリズム的な問題を持ち込むのは御法度という意見が飛び交った。しかし、あくまで友好関係の発展を前提としたものであるという点が強調されたことにより反対意見は鎮圧されていった。それに何より、この要求を通したとしても当の二国に目立った利が一切無いので、ドイツ、フランスを敵に回してまでわざわざ反対する理由はなかった。結果、シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの一年最強タッグが完成した。
ここまではいい。トーナメントのチームにダークホースが生まれただけだ。しかし、もし、この状況がドイツ、フランスに加えて日本によって仕組まれた状況だとしたらどうか?
少し、日本と学園の力関係について書いておこう。学園はその活動の、実に9割を日本の出資によって支えられている。つまり、学園の活動はどうしても日本の意向を多少は汲まないとならない。ここで要求を断ると、日本からの出資金にも影響が出、活動に支障をきたす。他国から支援を受けようにも、学園の活動を完全に賄える程の資金を持っているのは、日本を除けばアメリカとEUのみだ。だが、EUはあくまで共同体であって国では無い。出資しようにも、様々な構成国の意図が複雑に絡み、出すに出せない。アメリカは……借金地獄で火の海だ。ただ、資金にあてがあるか?と問われれば出せないことも無いだろう。ただ、出資した金が回収しきれないと踏んで、援助は常に最低限しか行なっていない。要するに、学園からの利益回収は諦め、独自の研究にその資金を費やしている。
最近は中国も経済的に台頭してきたが、他国とのイデオロギー闘争や、環境の回復など早急に解決しなければならない問題が山積みで学園を支える程の資金は出せない。
……最も日本も、学園から利益を多少なりとも回収しないと直ぐに足に火がつく状況だ。多額の資金を出す代わりに、ある程度の意向を汲んで貰う。そこから得る利益で何とか学園を経営している状態だ。赤字経営だが……
まぁ、要するにだ。ナショナリズム的な問題は建前でしかない。実態はもっと単純な利害絡みの都合だ。日本はISに関しての何らかの情報が欲しい。特に切嗣のISに関しての。そこでドイツ、フランスに話を持ち掛け、切嗣のISを調べようという話になった。まず、フランス、ドイツが最強コンビをつくり、日本が学園に干渉し切嗣の対戦相手を決定する。これが舞台の裏側だ。一応これでも干渉はギリギリにしてあるが、学園が日本に有るが故に出来る力業だ。
ところで、今回このような日本の思惑に一番とばっちりを受けたのは切嗣ではなく……
「ごめん……切嗣」
「いや、気にしないでくれ。シャルのせいじゃないさ」
実はシャルロットだったりする。
今、二人は夕方の食堂の片隅で食事をしながら予想外のこの事態に当惑していた。この提案が公式に発表されたのは切嗣が更識楯無と接触した二日後、トーナメント開催の1週間前だ。それまでシャルロットは完全に切嗣と組む積もりだった。それがいきなりご破算になったのだ。心中は察して然るべきだろう。
(しかし、日本政府がそこまで血眼になって干渉してくるとは……)
それは少し予想外だった。確かに切嗣はこの学園に入ってからただの一度しかその力を晒していない。便宜上の編入試験の時、真耶と闘った一戦だけだ。だが一応、弾薬などを調達するために武器の情報は政府に公開している。
(やはり、それだけでは不足だったか)
今回のトーナメントの組み合わせは切嗣に向けられた暗喩を含んでいる。
――いい加減、ISの情報を晒せ――
本当は、自分はシャルロットの補助に徹し、ラウラやセシリアなどの厄介な敵だけ戦闘に参加する予定だった。裏を反せば、シャルロットの戦力にかなり期待していたという事だ。聖杯戦争みたく、戦場をセイバーに預けたように。
だからこそ、その喪失はかなり手痛い。一年の中でシャルロットと拮抗する実力をもつのは、現状セシリアくらいだ。その次に凰鈴音が位置し、後はその他若干名のクラス代表が足にかかる程度である。
しかも、彼女達は一夏と組むだろう。ラウラ・シャルロットペアに勝つことを考えれば、少なくともシャルロット相手に一分持たせられる人を選ばなければならないだろう。生憎だがラウラを相手に仲間の援護を行えると考えるほど切嗣は自惚れていない――いや、寧ろ本来はシャルロットが先に相手を倒し、その後2対1に持ち込む予定だったのだ。一度ラウラの戦闘を映像で見たから解る。あれは1対1では無類の強さを誇ると――最も正攻法で戦えばの話だが。
(どちらにしろ、シャルが敵にまわるのは厳しいな)
恐らく政府の誰かが、切嗣がシャルロットやラウラと組むのを懸念して、先にシャルロット・ラウラというペアを作ったのだろう。仮に切嗣がシャルロットやラウラと組んでしまえば、先程切嗣が考えたように戦闘の大方を相方に預けてしまうだろう。そこで先にその二人を埋めてしまったわけだ。厄介な事に、その乱れ打ちのような策がどんぴしゃしてしまった訳だ。
しかめっ面をしながら水を飲んでいると、少し不安げにシャルロットが口を開いた。
「切嗣は……」
「ん?何だい、シャル?」
「切嗣は誰と組むつもりなの?」
「ああ……そのことか」
確かに気になるところだろう。
「正直なところ未だ目星がついていないんだ。即戦力になりそうなセシリア・オルコットや凰鈴音は恐らく一夏と組みたがるだろうし、後はISに初めて触れて間もないのが殆どだ」
は~、と長い溜め息をつくと気だるそうに残りのセリフを吐き出した。
「正直、一人で闘った方が気が楽で良いかも知れない」
「あ、あはは……でも独りじゃそもそも参加出来ないよ。明後日までに決めないとランダムで決められた人と組むことに……ちょっと待って。一夏が未だ空いているんじゃ……」
「いや、わざわざ一夏と組む理由が見当たらない。力量的な物差しで見てもシャルと渡り合うには実力不足も甚だしいし、何より百式はエネルギー消費が悪すぎる。勝手に自滅しそうな勢いがある分、第二世代機で戦ってくれた方がまだマシだ」
と、理にかなった建前を並べておく。実のところ一夏の突破力にはギャンブルながら希望が見える。だが、ある理由から切嗣は一夏とのペアを拒む。
「まぁ、仕方無いさ。今の所関係が良好な本音ちゃんと組むことにするよ。全く知らない相手と組むよりは格段に良いし」
この話はここまでと示すように、ミネナルウォーターを煽った。
「あ、あのね、切嗣」
しかし、未だ話し足りない事が有るとでも言うようにシャルロットが引き留める。
「ごめん、話はまた後で。ちょっと部屋の移動を今晩中にしてしまわないといけないんだ」
しかし、切嗣は多少強引に話を中断する。
「部屋の移動……ああっ!!」
言葉を反芻する途中で何かに気付いたように、シャルロットは頬を真っ赤に染め上げた。
「も、もしかして切嗣のルームメイトって……」
「多分想像している通りだと思うよ」
優しく微笑む切嗣。そんな切嗣を見て、ただでさえ既に真っ赤な肌を白熱させる。そんなシャルロットに気付いてか気付かないでか、切嗣は淡々と事を進めていく。
「さて、シャルロットの荷物は朝の内に運んでしまったから……」
「僕も手伝う!」
「うわっ」
途端、急にシャルロットの多少大きな声で驚く切嗣。それを見てシャルロットは声が大きすぎた事に気付き、慌て周りを見渡し、誰も居ない事に安堵した。
「気持ちは嬉しいけど、荷物は大して無いから手伝わなくても十分も在れば終わっちゃうよ」
「いいの!僕が手伝いたいの!」
一人でやっても二人でやっても大して効率は変わらない、にもかかわらず二人でやると言い張るシャルロット。嘗ての切嗣ならば非効率だと切って捨てただろう。だが、今はそんな効率の悪さが、ナゼだかいとおしく思われた。
「……ふふ。それじゃあお願いしようかな、お姫様」
そう調子に乗ってシャルロットの手を恭しくとった。
「おおおおおおおお姫様って!?」
無論、シャルロットの顔がまた朱に色づいたのは言うまでもない。
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切嗣の部屋はシャルロットの転入により漸くまともなものになった。
「な、何……コレ?」
しかし、以前の――設備が最悪だった頃――部屋が気になる人もいるだろう。シャルロットの眼前に広がる光景、それが答えだ。
「何って……物置?」
そこは物置のような粗末な部屋という言い方がお世辞に聞こえるような部屋だった。物置だって、その気になれば雨風くらい防げる。
「ねえ、壁に穴が空いて寒いんだけど」
「まぁ、物置だし」
「天井から水が落ちてくるんだけど……?」
「上にある水道管が水漏れしているみたいなんだ。まぁ、物置だし」
「壁に血みたいな赤黒い何かが付着してるんだけど!?」
「絵の具かなんかじゃないのかい?まぁ、物置だし」
「壁に血文字で『助けて』ってオドロオドロしく書いてあるんだけど!?」
「演出かなんかじゃないのかい?まぁ、物置だし」
「いや、幾ら物置でも酷すぎるよ!?」
本当にここは世界に名高いIS学園なのか?あと切嗣。全部物置で説明する気か? しかし少し騒ぎ過ぎたか、寮長の巡回に引っ掛かった。
「五月蝿いぞ!何を騒いで……なんだ、衛宮とデュノアか」
「織斑先生……すいません。少し五月蝿くしてしまったようで」
「はぁ~、一応時間外の外室許可は今日に限りだしたが余り騒ぐなよ」それだけ告げると、千冬は他の部屋の見回りにいこうとして、シャルロットに引き留められた。
「織斑先生、ちょっと!」
「デュノアか、どうした?」
「ここ、ホントに部屋何ですか!?」
顔を青ざめさせながら部屋(笑)の中を指差す。
「直径20センチ程の穴を筆頭に、至る所に細かな虫食いの様に空いた壁があるんですけど」
「夏の暑い日などは生徒に大人気だ(冬は知らん)」
「天井の右側半分から水が落ちて来てるんですけど……」
「部屋の中で小雨が見れるなんて風流ではないか。それに喉が渇けば迅速に水分が補給出来る(飲めるかどうかは知らん)」
「壁にベッタリと血痕とダイイングメッセージがこべりついているんですけど!?」
「去年精神崩壊した生徒が……(神経を張り巡らせる事により、常にISに乗っているような緊張感が味わえるぞ)」
お~い、建前と本音が逆になってるぞ。
「何でトイレの扉が血と引っ掻き傷だらけのうえ、大量の御札だらけなんですか!?」
「……除霊効果バッチリだから問題ない」
え、出るの?出るの!?
「……今の所は」
出るのかー!!
「最後に……何で切嗣の部屋に大量の掃除用具があるんですか?」
すると、千冬は一度切嗣と目を合わせるとお互い頷いて、せ~ので答えた。
「「まぁ、物置だし」」
「結局物置じゃないですか――!!」
シャルロット、未曾有の出来事に半分泣き目で阿鼻叫喚。
「いや、ほらあれだよ。どれだけ豪華な家よりも大切な人と過ごした素朴な家の方が」
「いや、母さんと過ごした家だってここまで酷くなかったよ!!て言うか、この部屋にそもそも思い入れ何て無いでしょ!!それだったらデュノアの家に住んだ方がマシだよ!」
それから三人で馬鹿騒ぎをし、寝ていたところを起こされて不機嫌になった本音に拳骨を貰った……千冬もろとも。
「布仏本音、恐ろしい子!」
自分に拳骨を落とした本音を見たとき、千冬が某月影先生みたいなタッチになり何か叫んだのは気のせいだろう。
閑話休題
「さて、私は巡回に戻るが余り騒がないようにな」
そういうと決まり悪そうに千冬は廊下の向こうに消えていった。叩かれた頭を押さえながら……
「……僕達もさっさと荷物を移動させてしまおうか」
「……うん、そうだね」
そこにはドでかいたん瘤を頭に作って、二人で段ボールを持つシュールな光景が出来上がった。
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二人が荷物を運び終えた時には時計の短針は12をさしかけていた。流石に疲れたのか会話は無い。
「今日はもう寝ようか……シャルはどっちのベッドを使う?」
「窓側……おやすみ、切嗣」
「おやすみ、シャル」
そういうと二人は眠りに堕ちていった。
(あれ、そう言えば確か、切嗣に言わないといけないことが……何だったけ?)眠る直前、シャルの頭の中に走馬灯のように今日一日の事が蘇る。が、肝心の事が思い出せない。
(まぁ、忘れてしまうくらいだから大したことじゃないよね……)

シャルロットは夢にも思うまい。箒の告白紛いな宣言が拡大解釈されて、男子とペアを組んで優勝すればその男子と付き合えるという謎の事態になっているから、一夏と組んでと言おうとした等とは夢にも思うまい……それほどまでに幸せなのだから。 
 

 
後書き
あれ……実力的に考えても本音と組んでも問題無くね? 
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