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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode2 集団で戦うということ2

 素晴らしい連携をこなす三人のおかげで、探索は何の問題無くすすんだ。
 あえて挙げるとすれば。

 「『索敵(サーチング)』よろしくっ!」
 「ねえねえ、シドくん、『鍵開け』スキルって持ってるー?」
 「おおっ、この罠って外せるのっ!?」

 この三人、ダンジョン探索に必要とされるスキルを殆ど持っていなかったのだ。俺から言わせれば、自殺志願者としか思えない。そもそも未踏破ダンジョンを行って罠かもしれない宝箱を見つける機会も多いだろうに、なぜ鍵開け、罠解除を誰も出来んのだ!? そもそもパーティーに一人も『索敵』持ちがいないって本当に大丈夫なのか!?

 これもやっぱり顔に出ていたらしく、ソラが頬を膨らませながら「そんな言ったって普段は中層ゾーンのプレイヤーのファーちゃんとレミたんにそこまでの余裕はないよっ」と説教された。ああ、そうか。最近は一人でしかダンジョン潜ってなかったからこういうスキルはあるのが普通と思っていた。俺が普通じゃなかったんだ。

 ともあれ、俺は結局普段の探索と同じように罠の解除や宝箱の解錠、アイテム鑑定を主としたサポートを主に活動することになった。幸いソラはこの世界では珍しい人に指示を出す…というか、リーダーシップをとるのが得意な(というか、人使いが荒い)性質のようで、逐一偉そうに俺に指示を出してくれる。

 あえて普段と違う点を挙げるなら、『隠蔽(ハイディング)』をしなくていいことか。俺しか持っていないのであれば隠れても意味はないし、そもそも俺が普段隠れているのは一人ではさばききれない量のモンスターに一挙に襲われるのを防ぐためだ。パーティープレイでこれだけ乱戦に習熟しているなら、たとえ大群に遭遇しても問題なく薙ぎ倒していけるだろう。

 つまりは。

 「すっごいッスね。ソロプレイってそんなに探索系のスキル上げられるんスか?」
 「いや、俺は、クエスト中心でのプレイだから、使う機会多いんだ。無踏破のダンジョンとかいくこともあるし」
 「……すばやい」
 「ま、俺は『敏捷一極型』だからなぁ。このくらいないと困るんだよ」

 本来息詰まる探索を続けるべきダンションで、ささやかに談笑しながら進むことが出来る、ということだ。ちょくちょく聞き出すに、やはり俺のスキル構成と戦闘スタイルはかなり特殊なんだと自覚させられる。一極型とかは中層エリアでもやっぱり殆ど見かけないらしい。

 「うんうん、仲良くなってるねっ! おねーさんは嬉しいよっ!」
 「ぬかせ、喧し女。さっきのアラームトラップ、忘れたとは言わさんぞ」
 「まあまあ、みんな無事だったし、使ったのも回復結晶一個だけじゃんっ。過去を悔んでいては先にはすすめないぞっ、若人よっ!」

 にこやかに、というか馴れ馴れしく肩を叩いてくるソラを、ジト目で睨んでおく。普段から寝ぼけ眼のせいで迫力に欠けると言われる目だが、ジト目の粘着性には定評がある(現実世界での友人談だ)。

 「……阿呆。代わりに、二つ教えてほしいことがある」
 「おおっ、交換条件っ! なになに、何が聞きたいのっ!? 身長体重? スリーサイズ? ま、まさかもっと、きゃー!!!」
 「……そんなことには微塵も興味はないから安心しろ。一つ目、あの二人の装備品だ。あれはどこで手に入れた? ファーの方の装備はあのまま一式攻略組に出しても恥ずかしくないレベルだし、レミのブーメランなんて使い手もいなけりゃドロップもないような絶滅武器だ。それにあの威力、相当のレベルの素材を注ぎ込んで作ってるんだろう。…正気じゃねえな。そんな装備が、」
 「うん、正解っ!全部私が用意したんだよっ。二人にレベル的に無理して最前線まで来てもらうからには、安全を保証できる装備をあげたいしねっ」
 「つまりはオマ…ソラは、最前線…少なくともそれに近い位置で攻略を行っているプレイヤーで、結構なレベルの鍛冶屋の知り合いがいる、と」
 「おおっ! すごい、大正解っ! 鍛冶屋はかわいい女の子だから、そのうち紹介したげるよっ!」

 これだけの素材をそろえているということから前線近くで攻略を行っているとは容易に想像できる。それにブーメランや俺へ渡そうとした手甲など、あまり使い手のいない装備を頼めるということは、相当に親しい鍛冶屋がいるのも推測できる。

 問題は、もう一つだ。

 「二つ目。お前、さっきの乱戦で『両手剣』スキルを使ったな? さらに、レミが壁際に張り付くまでの間の援護、『短剣』スキルを使いながらも『投剣』スキルで安物の投敵短剣(スローイングダガー)を投げていたろう? 普段使っていた『片手剣』スキルと合わせて、ここまでで四つ。お前のスキル構成は、いったいどうなっている?」

 彼女の顔が、また笑う。

 それはそうだろう。スキル詮索はマナー違反、というのは、既にこの世界では不文律を超えて常識となりつつある。それでも、尋ねずにはいられない。この女、さっきの戦闘、両手剣と短剣を「使い分けていた」。本来は、戦闘中に変えるのは困難なはずの、扱うソードスキルの変更。

 「おおっ、よく見てるねっ!」
 「昨日の宿屋で見せた、ウインドウ操作の速さ。普通は敵のいない場所でゆっくり操作するのがふつうだ。それをあのスピードで操作できる。上達、ってのは大概必要に迫られるから起こるもんだ。たとえば、戦闘中に装備やスキルを変える、とかな」
 「うん。正解だよっ。そーだね、VRMMOの言葉で言えば、ビルド、って言うらしいね。私のそれは結構変わってるらしいよ。えーと、片手剣でしょ、両手剣でしょ、短剣、槍、あとは何があったっけ? とにかく、全部戦闘系、特に武器スキルだけで埋めちゃってねっ」
 「……」
 「それで、戦うときに合うような装備をいちいち選択するようになって、いっぱいのモンスターと戦うときに途中で変えられるように練習して、ってしてるうちに上手になってねっ」
 「うん、まあ、分かった。ソラはバカということがよく分かった」
 「なっ!!?」

 予感…特に、嫌な予感はしっかりとあたってしまった。この女、あろうことか戦闘以外…更に言えば攻撃以外のことを一切考えずにスキルスロットを埋めやがったのだ。この時俺が思ったのは、二つ。一つは、「よく今まで生きてこれたなコイツ」という呆れ。

 そしてもう一つは、戦慄。
 この女の戦闘のセンスは、一体どれほどに鋭いのか、と。

 普通はどんなプレイヤーでも、『武器防御』スキルや『盾』スキルといった防御系のスキルを最低でも一つはもつものだ。さもなければある程度の重量を持ち、種々の制限と引き換えとなるような重厚な金属鎧を纏うか。

 俺自身はそのどちらも持たないが、それを補うだけの敏捷性を持ち、それ以前に『隠蔽』で集団に囲まれないように細心の注意を払っている。鎧、盾を持たないキリトは『武器防御』スキルの達人だし、最近噂の『狂戦士』も、盾無しの細剣スタイルだがアーマーは確か現在最硬で超軽量のレア金属製の高級品と聞いた。

 だがこの女は、そのどれも持たずにここまで登ってきた。おそらく、パリィとステップだけで。

 βテスト経験者では無いにも関わらず、いやたとえβテスターだったとしても、その戦闘能力と環境適応力、そして戦いのカンは、間違いなく一線級。

 (…この女は、死なせてはならない)

 この女は、きっと将来ゲーム攻略のカギとなる。『血盟騎士団』や『聖竜連合』そしてキリトや『狂戦士』と共に。こんなところで死なせてはいけないし、その腕を磨き続けなけれなならない。この世界に囚われた、全てのプレイヤー達のために。

 …思えばこの時駆りたてられた、庇護欲って奴のせいで俺は道を踏み外したのかもしれない。


 
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