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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode2 集団で戦うということ3

 「と、いうわけなのだよっ。大丈夫かなっ? シドくん」
 「……問題無いんじゃね? たかがレベル30くらいだろ?」

 ダンジョン最深部、とうとうやってきた俺の見せ場。

 というか、ここまでで既に一時間以上が経過している。にもかかわらず、俺の手持ちの回復アイテムはほとんど(アラームトラップの時の回復結晶くらいしか)減っておらず、他の三人にもさしたる疲労の色は見えない。

 俺いらなくね? と思いはじめたあたりで、恐らくこのクエストの山場であろうポイントへと到達した。壁に無造作に立て掛けられたレバー。そしてさっきまでよりやや広い道幅の道とその先の広間、そして重厚そうな大扉。

 先に挑戦した三人の話によれば、このレバーを起こせば、アラープトラップ並みの敵の大群がやってくると同時に広間の大扉がほんの数分だけ開くらしい。その間に扉の向こうにあるレバーを動かして固定することで、先に進めるようになる…だろう、とのことだった。

 だろう、とつくのは、そこまで彼女らではそれが出来なかったからだ。なんでも三人のうちで敏捷性が一番高いソラでも、とても間に合わなかったらしい。というわけで、名前がそこそこ知られている人間のなかで敏捷値自慢の俺を探していた、という流れだったそうだ。

 (…まあ、そのくらい)

 もともと大群の隙間を縫っての敵集団スルーは俺の得意技だ。
 そこ、「非マナー行為だろそれ」とか言わない。

 「んじゃ、たのんますよっ! さーん! にー! いーち! ごー!」

 カウントと同時に、俺が数々のスキルを同時展開する。『隠蔽』、『忍び足』、他にもいくつものをスキルを組み合わせ、敏捷値の補正を一気に引き上げて走り出す。恐らく三人からはまるで俺が消えたように見えたことだろう。

 同時に、狼が、まるまると太った蝙蝠が、巨大なトカゲが一気にこちらに殺到してくる。だが隠密行動技能全開の俺を正確にターゲット出来るものは、ごく少数に過ぎない。それも最初の一撃を俺が避けたらもう追いすがることすら出来やしない。他のモンスターたちは後ろの三人へと向かっていくが、ファーと重量級のガードランスを装備したソラが二人がかりで前線を支えている。

 ほんの数秒で通路を駆け抜け、そのまま壁際へと飛ぶ。この広間、当然クエストボスが現れるに違いない。このゲームは、ストーリーは基本的に王道。依頼の最後にボス、というのはお決まりだ。

 「うおっと!」

 殺到したのは、獣の群れ、では無く、狼の頭の獣人の賊だった。
 次々と繰り出される剣戟を、転がるようにして回避しながら、敵を見る。

 数は五匹。
 武装は剣だの槍だのまちまち、防具は革鎧だ。

 「さて、どうしたもんか、ねっ!」

 うまい具合に一匹で突っ込んできた奴にカウンターの回し蹴りを叩きこむ。『体術』スキル、《ロール・スラッシュ》。俺の持つスキルでは有数の威力を誇る技だが、それでもHPバーは三割も減っていない。もともと俺の好む『体術』スキルは、他に比べて極端に威力が低い。

 流石に五匹全部相手をしていたら、時間が足りないだろう。となれば隙を突いてたおさずに扉をくぐりたいところだが、どうやら敵は特殊なAIを組まれているらしく必ず一匹が扉の前に張り付いて守っている。短剣だの片手剣装備だったらそいつだけを突進技で弾き飛ばして駆け抜けていいのだろうが、なんの武器も無い俺では流石に一撃で沈められはしないだろう。脇をすり抜ける、というのも、中ボスクラスに対して行うのは若干賭けになるしな。

 「ま、しゃーない、っと!」

 まあ、ほかに手段がいない以上、迷っても仕方ない。

 一気に勝負をかけるべく、俺は八割に制限していた敏捷値を一息で最大まで引き上げる。突然の加速についてこれなくなった四匹を置き去りに、扉を守る一体に真正面から突っ込み、

 「…ふっ!」

 最近スキルスロットに現れた、俺の奥の手たるエクストラスキル、『軽業(アクロバット)』スキルの一つ、《ファントム・ステップ》を発動する。敵の目の前で有効な防御スキルで、スキル熟練度が十分に高ければ、相手が一瞬俺を見失うスキル。

 これで、駆け抜けて、

 (ちぃっ!)

 一瞬狼剣士の目が泳いだが、見失うには至らなかった。

 脇を駆け抜ける俺をにやりと見つめ、その剣を肩より上に振りかぶられ、ソードスキルのエフェクトフラッシュを帯び、

 「ガルルッ!!?」

 飛来した紫の光の刃に砕かれた。

 『投剣』スキル、《パワフル・シュート》。

 威力を大きくブーストするそれが剣の横腹に命中したのだ。驚いて後ろをみると、はるか後方で投擲後の体制のままのレミ、そして彼女を守るソラとファー。

 (おいおい、ここまでは30メートルはあるぞ…)

 確か《パワフル・シュート》は威力をブーストするのみで、その投擲武器の描く軌道や命中精度に補正はなかったはずだ。現実世界で何をやっていればそんなコントロールが身につくのか想像がつかないが、どうやらレミはそれができるやつらしい。

 驚く俺の目線の先で、三人が笑う。
 ソラが、ぐっ、と親指を立てる。

 もちろん、俺も笑う。

 「うっ、しっ!」

 武器を失って狼狽する一匹を、追い縋ろうとする四匹を振り切って、一気に扉を駆け抜ける。

 細道の左右の壁にさっと目線を走らせ、無造作に突き出たレバーを見つけ、すぐさまガチャリと作動させる。それだけの動作で、重厚そうな音を立てて閉まろうとしていた扉が止まった。

 やったーっ! という歓声が聞こえたが、とりあえずはモンスターを排除するのが先だ。

 俺はすぐさま身を翻して広間に戻り、憎々しげにこちらを見つめる五体のモンスターと正対する。名称は『フェンリルシーフ』、レベルは34。さっきは余裕が無かったために見ていなかったが、この二十七層にいるにしてはなかなかにハイレベルなモンスターだ。さすが中ボス。

 だが、俺のレベルは今42。五体まとめて倒すのは難しいだろうが、俺のスキル構成を以てすれば逃げ続けるだけなら余裕をもって対応できるレベルだ。次々と繰り出される攻撃をいなしながら、広間を駆け回る。

 時間さえ、稼げばいい。
 俺はもう、三人が通路のモンスターを殲滅して援軍に来てくれることを、疑っていなかった。


 
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