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Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~

作者:廃音
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帝国陸軍2-シルバSide-

 
前書き
お気に入り登録が遂に100を超えました!
これからも頑張っていきますので宜しくお願いします。

今回の話は中途半端な所で切ってあります 

 
 シミュレーターを出た瞬間に数多くの帝国軍衛士の姿が視界に入る。

 それを見て自然と笑みを浮かべそうになるが、それをどうにか押し留める。今この状況こそ俺が望んでいた事。唯依中尉にXM3の性能を見せる事もあるが、それ以上に俺はこの状況を期待していた。

 XM3と言う新しいOSを積んだ撃震が第三世代の不知火に勝つ。

 つまりXM3の性能はそれほどに戦術機の性能を上げると帝国の人間に知らせたかったのだ。そしてそれを知る側である帝国の人間は集まった。後は俺が上手くやるだけで、帝国の人間の記憶のXM3と言うワードは嫌でも植えつけられるだろう。

 そんな考えを持ちながらも、この現状に戸惑いを隠せていない唯依中尉の元に向かう。

「新しいOSであるXM3は凄いだろう?」

 自分でもわざとらしい程の演技。

「は、はい!到底撃震では描けないあの機動。それが全てXM3の恩地だと考えると驚きが隠せません」

 唯依中尉は俺の考えを知ってか知らないでか、俺の思惑通りにXM3を推してくれる。

 当然そんな唯依中尉の言葉を聞いた帝国の人間は予め外で流してあったモニターを見ている事もあり、唯依中尉の言葉を確認するかのように復唱している。

 集団効果とは恐ろしいもので、一人がXM3と呟く事によって周りに居た人間にもどんどんその言葉が広がってゆく。恐らく今の言葉を聞いただけでは帝国の人間は新OS?と疑問に思うだけで信用しないだろうが、その事を予想し外のモニターに戦闘の様子を見せていたのだ。

 外のモニターに映像を流す事によって次第に集まり始める衛士達。そしてそのモニターで信じられない光景を見る事になる。其処に追い討ちを掛けるかのような唯依中尉の言葉。最早帝国の此処にいる衛士はXM3の事を覚えてしまっただろう。

 XM3と言う新しいOSは撃震でも不知火に勝てるほどの機動性を実現させてくれる、と。

 XM3の中身がなんなのか分からなくとも、撃震でも不知火に勝てるようになる、と言う事を覚えてくれれば俺はそれでいい。

 その事実さえあれば、今日のこの出来事は帝国内に間違いなく広がるのだから。

「それじゃあ次は唯依中尉が此方のシミュレーターに乗るか」

「了解です!」

 先程唯依中尉と約束した事もあり、唯依中尉を俺が入っていたシミュレーターの中に入るよう催したのだが、唯依中尉がシミュレーターに張ろうとしたその瞬間、群がっている衛士の背後から女性の声が聞こえた。

「何だこの騒ぎは!」

 …何か嫌な予感を覚える。流石に表立って動きすぎたか?シミュレーターをやる許可は取ってもらっていたが、こうなるとは言ってなかったからな…。

 少しの不安を抱きながらも、一旦唯依中尉にはシミュレーターから出てもらい、群がる衛士を掻き分けながら此方に近づいてくる人物を待つ。そして衛士の間から掻き分けるようにして出てきたのは赤い服を着た一人の女性。

「この騒動の原因は貴官からのものか?」

 その女性を見て唯依中尉は驚きの表情に変わり、慌てたように敬礼する。

 俺も目の前の女性が誰だかは分からないが、唯依に続き敬礼を取る。

「…恐らくはそうでしょう。此度自分が持ってきたOSを見に来て集まったものかと」

「貴官の名前は?」

「横浜基地所属シルバ・アルザーク少佐です。あなたは?」

「斯衛軍16大隊指揮官。月詠 真耶だ」

 16大隊指揮官…か。これまた偉い人間が出てきたものだ。

「それで、何故このような事になっているか説明してもらえるか?」

「はい。今回自分が持ってきた新概念OSであるXM3。その性能を見てもらうために此方の唯依中尉との戦闘風景をモニターに映していたからだと思います」

「ほう…後ろの衛士が驚いていると言う事は以外なものが見れたと言う事か。興味があるな」

 戦闘風景を映していた、と言う事を言った瞬間隣に立っていた唯依中尉から何か嫌な視線を受けた気がするが、今はスルーしておく。もし今回の戦闘風景をモニターに映す、といって変に緊張してもらっても困るからな。

 それにしても…これは予想外の大物が釣れた。16大隊指揮官ともなればその影響力は多大なるものだろう。更に月詠と言う名前には聞き覚えがある。確か五摂家に最も近しい有力武家の一つだった気がする。どうにも記憶が定かではないが、有力な人間である事には間違いない。此処でこの人との繋がりを作る事が出来れば後に大きく響くかもしれない。

「なら…私と一戦交えてみませんか?」

 俺の言葉に月詠はピクリと肩を震わせると、少しの笑みを浮かべる。

「ほう、面白い。やるからには本気でいかせてもらうぞ?」

「ええ。そうでなければ意味がありませんから」

 いつの間にか周囲に漂う雰囲気は険悪なものへと変わる。隣で先ほどから何も言わない唯依中尉も少し戸惑っている様子。彼女の事だから、私がXM3を体験したい、などと言い出さなければこんな事には…!みたいな事を思っているだろう。後で謝っておこう。流石に月詠なる大物が出てくるとは予想していなかったが、初めから皆の視線に晒される事は予想していたのだから。

「設定は唯依中尉の時と同じく自分がXM3を搭載した撃震。そちらは不知火で構いませんか?」

 俺の言葉に月詠は思う所があるのだろう、一瞬だけ何かを言おうとしたが、思い留まったようだ。

 恐らくは俺の設定に無理があると思ったのだろう。しかし、この衛士が群がる状況を作ったのだから、間違いなく只の撃震ではないと察した。だからこそ何も言ってこなかったのだと思う。

 そして、そう判断したのならば、シミュレーション内で月詠は一切の手加減をしてこない筈。此方も最初から本気で行かなければ負ける可能性がある。相手は斯衛軍16大隊指揮官。恐らく唯依中尉よりもその腕は確かなものだろう。

「ああ。それで構わない」

 月詠の了承も得られたので、そのままシミュレーターに乗り込み、主電源を入れ、戦術機の設定をし、シミュレーション開始の合図まで互いに無言の時を過ごす。

 そしてシミュレーションの合図が鳴ると同時に、俺は先程同様、最高出力を持ってして真ん中を割るように突っ切った。

 作戦なんてものは特に考えていない。この短時間で考える作戦なんて穴だらけで意味を成さない。ならば実力での真正面勝負を挑むしかないだろう。恐らくは月詠も小細工なしで真正面から来る筈。少ししか会話は交えていないが、あのプライドの高さならば俺の期待を裏切るような事はしないと思うが…。

「…来たか」

 そう思った矢先、レーダーに反応が現れる。方向は真正面。やはり向こうも同じ考えを持ってくれたようだ。

 問題は此処から。相手の動きを先ずは理解する。

 そう判断し、威嚇射撃の意味を込めて段々と姿が見え始めた不知火に発砲する。

 当然月詠には回避されるが、その回避ルートを瞬時に割り出し、その着地地点にもう左腕で構えていた突撃砲を発砲した。まさか回避先に撃たれるとは思っていなかったのだろう、跳躍途中に不可解な動きを見せたが、咄嗟の判断と動きにより空中で更に跳躍ユニットを噴かせ、此方に接近してきた。

 まさかこの一瞬で判断し此方に突撃して来るとは思っていなかったが、問題はない。

 此方に跳躍しながら撃って来る不知火の突撃砲をビルを盾にする事で避けながら、その間に突撃砲を長刀と切り替える。

 そして不知火が着地し、硬直した瞬間を狙い跳躍ユニットを最大出力にし一気に加速する。

 一気に加速した速度を緩める事なく、不知火に近付き長刀を横に振るう。

 しかし、月詠はこの硬直に俺が来る事を予測していたのか、まさか紙一重の絶妙なタイミングで戦術機をずらし、避けた。

 タイミング的には完璧だったため、こうも綺麗に避けられると流石に驚きを隠せないが、此方はまだコンボが続いている。一度目の横を避けてもその返しが待っている。

 そう思い、その場に留まり返しの長刀で一太刀浴びせようと思ったが、月詠はその返しを避けようとはせず、逆に突撃砲を此方に突き出してきた。

「っく!」

 返しの刀が間に合わないと判断し、すぐさま行動をキャンセル。撃震の状態を真後ろに逸らす。逸らすと同時に視界の全てを埋めるマズルフラッシュ。どうにか直撃は避けたが、胸部に少しの被弾を許してしまった。

 …強い。

 唯依中尉はあの2連コンボの長刀に怯みを見せたが、月詠が乗る不知火は怯むどころかまさか反撃までしてきた。伊達に斯衛軍16大隊指揮官はやってないって事か…。

 しかしコンボ攻撃が避けられるとなると結構不味いかもしれない。この短期間の間で白銀と俺の手によって幾つかのコンボは入力し終えているが、それでも取れたデータはやはり少ない。俺の動きに完全に合っている訳でもないし、其処には白銀のデータさえも入ってしまっている。

 そうなると当然長期戦は避けたい。だからこそ受身を取らずにひたすら攻めの構えを取る。

「まだ!」

 不知火の突撃砲を避ける事により、撃震の姿勢が大きく後ろに逸れてしまったが、其処か跳躍ユニットを使い後ろに回転。どうにか態勢を整え、そのまま突撃砲に切り替え、威嚇射撃を行いながら不知火との距離を離す。

 さて…此処からどう攻め様か。突撃砲による中間距離戦闘も近距離戦闘も経験地はあちらの方が上。XM3がなければ俺は間違いなく今頃負けているだろう。だがXM3があれば本来勝てないこの戦闘にも勝てる事は事実。俺の動きがまだ素人レベルだろうが、このXM3の中には世界を二度ループしている白銀の経験が詰まっている。その経験は間違いなく月詠に負ける事はない。

 …本来ならば余り使いたくなかったが、俺の実力では負ける可能性がある以上、白銀の動きを使わせてもらうしかないだろう。所詮鏡写しの動きに過ぎないが、それでも驚愕に値する動きには違いない。

「行くか…!」

 小さく息を吐くと同時に離れた距離を一気に詰める。

 その機動は最初の俺のような直線的な動きではなく、ビルとビルの間を飛び回りながら動く白銀の三次元機動。恐らく月詠からしたら乗っている人物が変わったような錯覚を起こすだろう。

 此れがXM3の最大の利点ともいえるコンボ。予め戦術機の機動をインプットしておけば、それを起こすキーを入寮するだけでその動きが出来てしまう。極端に言えば白銀の動きを誰でも取れる、と言う事だ。最も其処には反射神経などの素質も大きくかかわってくるが。

 話が逸れたが、白銀の動きを模した撃震の動きに不知火の動きが付いて来れず、突撃砲の弾丸は全て俺が跳躍した後に飛来する。

 そしてそのまま滑り込むように不知火の近くに隣接。相手にタックルをかますと同時に突撃砲を長刀に切り替え、斬りかかる。

 流石にタックルを受けた不知火は機体の態勢を大きく崩し、撃震が振るった長刀をもろに受ける。

 その瞬間視界に現れる終了の文字。

 最後はあっけない終わり方だったが…どうにか勝つことが出来た。

 そう実感したと同時にドッと疲れが押し寄せてくる。唯依中尉には失礼だが、唯依中尉と戦った時以上に神経をすり減らした。…出来ることならもう二度とやりたくない相手だ。


  
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