| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~

作者:廃音
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ヴァルキリー隊

 場所はPXから移り、格納庫内管制室へと変わる。

 今俺と涼宮中尉が見ているモニターにはヴァルキリー隊のメンバーが見ている映像が映し出されている。

 今回のシミュレーション内容は白銀の時同様、ヴォールクデータを用いたHIVE突入。

「前方二時に方角からBETA確認。数は800」

 隣に座るCP将校である涼宮はひっきりなしに現れるBETAの情報をヴァルキリー隊の皆に伝える。そして情報が伝えられた皆は伊隅の指示に従い、迅速に対応行動を取る。

 見ている限りでは中々に洗礼されている動きだとは思う。しかし、既に白銀の映像を見てしまっている俺はどうにも驚く事は出来ない。確かに個々の実力は白銀に及ばないにしろ、皆高い。だが、白銀に比べ圧倒的に速度が足りない。

 あの時の白銀は極力BETAを無視し、ひたすらに最深部だけを目指していた。使う弾薬はBETAが壁になり、これ以上進めないと判断した時のみ使う。推進剤は帰る事を想定していなかった為にかなり使っていたが、それでもあの動きはかなりのものだったと、伊隅達と比べて思ってしまう。

「ヴァルキリー02!フォックス3!」

 唯一の前衛である速瀬が突撃砲、又は長刀で群れるBETA郡に切り込み、中衛の伊隅や涼宮少尉がそれをカバーする。後衛である風間や柏木は道を塞ぐBETA群を高火力の武装で吹き飛ばしてゆく。

 そんな調子でヴァルキリー隊の皆は着々と最深部の方へと進んでゆくが、下層にさしかかったあたりで遂に全滅してしまう。

 これを見て分かったが、やはり白銀の操作技術は異常の領域に達している。上手い、なんてものじゃない。最早異常だ。二度世界をループしている、と言う事が大きいかもしれないが、あれは白銀自身の才能が大きく影響しているだろう。恐らくは一度目、二度目のループでもその才能を発揮していた筈。

 それでも仲間が守れない現実。例え単機が強かろうが圧倒的物量には勝てないと言う現実だ。その事実を突きつけられた俺も所詮は単機の実力。俺一人の存在は全体的に見ると余りこの世界に影響は及ぼさないかもしれない。

 だが、俺が持ってきたACの技術はこの世界に大きく影響を与える筈。今は日が浅いために結果は出ていないが、そう信じている。…いや、そう信じたいだけかもしれない。

「何時もはどれくらいまで行くんだ?」

「そうですね…調子が良い時は最深部まで行くんですが、やっぱり偏りがありますね」

 戦場では調子が悪かった、などとは言ってられない。俺もこの隊に入った以上、皆を死なせたくはない。…戦術機にも乗れない俺が指摘するのは可笑しいかもしれないが、後で俺が感じた事を指摘しておこう。

 個々の操作技術の方まで指摘したいが、何度も言うと俺は戦術機の操作はしらない、そうなると当然皆の操作の指摘が出来る訳もなし。…今度白銀辺りに頼んでみようか。いや、あいつはあのメンバーを守る事に忙しいかもしれない。ならば俺が一刻でも早く戦術機の操作を熟知し、皆を引っ張るしかない。

 それにしてもBETAの中にいるあの突撃級と呼ばれる存在。あいつはかなり厄介だな。見ていた分かったが、今現存する武装では奴の甲殻をぶち抜く事は難しいらしい。それと同時にこの世界にレーザー兵器がない事も分かった。…もし月光、つまりレーザー兵器がこの世界で使えるようになればあの突撃級の甲殻も容易に切り裂けるようになるかもしれない。

 あの壁がいなくなれば残りのBETAは皆柔らかい。十分現存する兵器でも殺せている。

 突撃級の攻撃を避ける為に跳躍、そして着地した瞬間の硬直を狙われ大破。ヴァルキリー隊の数人はこれでやられていた。

 更に突撃級は硬いだけではなく、その速度も凄まじい。不意を突かれた場合避ける事も中々に難しいだろう。要塞級の図体も中々に脅威だが、HIVE内で一番厄介な存在は突撃級と言った所か。

 後ろに回り込み撃てば簡単に殺せていたが、それでは意味がない。一々後ろに回りこむ時間ももったいなければ、後ろに回り込むと言う事はそれだけ背後を晒すと言う事だ。出来るなら真正面から簡単に殺せるようになりたいものだ。

 やはり今度香月に武装に関しての申請を出しておこう。得にレーザー兵器。元があればどうにかなる筈だ。

 何もレーザー兵器は要塞級を一撃で殺せるようになるだけが利点ではない。その最たるは貫通力だ。場合によっては一気に道を作ることも可能。無駄な爆風を生まず、必要な場所だけのBETAを一直線で殺す。中々に有効な兵器だと思う。

 グレネードと言った高火力武器も広範囲の敵を殲滅する場合はかなり有効だが、当然爆風が凄まじい。HIVE内の通路は狭いので、そんな中で高火力の兵器は無闇に撃てないだろう。だからこそHIVE内では余計な爆風などを生まないレーザー兵器が好ましいと思う。

「どうも皆はBETAを相手にしすぎだな」

「相手にしすぎ、ですか。どう言う事でしょう?」

「HIVE攻略において、一番重要なのはBETAを殺す事ではなく、あくまでも最深部にある反応路を壊すことだ。つまり進行するに当たって邪魔になっていないBETAを殺す必要はないんだ」

「な、なる程…」

 何故この世界に来て二日しか経っていない俺がこうも偉そうな事を言っているのか疑問だが、事実なのだから仕方がない。

「取り敢えず皆の所にいこうか。今の事も皆に言っておきたいからな」

「は、はい!」

――――――――――

「皆お疲れ様」

「シルバ!?」

 案の定と言うべきか、管制室から足を運び、皆が休憩を挟んでいる格納庫の方へと向かい、休んでいる伊隅達に声を掛けると驚きの声を上げられた。俺が皆の様子を見ていた事を知っていたのは涼宮中尉と速瀬だけだったからな。この様子を見る限り、速瀬は俺が見ている事を皆に言わなかったのだろう。

「まさか見ていたのか?」

「ああ、一応な」

「そうか…何か思う所はあったか?」

「そうだな。隊に入ったばかりの俺が言うのはおこがましいかもしれないが、皆HIVE進行の速度が圧倒的に足りない。それと一々BETAを相手にしすぎだ」

「中々に厳しい事を言ってくれるな」

 確かにBETAが無数に出てくるHIVE内で速度を上げろ、BETAを倒すな、と言う言葉はかなり無理があるかもしれない。だが、それがHIVE攻略に直結する事は白銀の映像により実証済みだ。その実現が難しくとも、実現しなければ死ぬのは自分自身だ。

「だが事実だ。HIVE攻略に置ける最大の目標はBETAの駆逐ではなく、反応炉の破壊の筈だ」

「…確かにそうだが、無数に出てくるBETAを抜ける事は中々に難しいぞ?」

 まぁ…そうだろうな。あんな無茶な機動を出来るのは白銀ぐらいだろう。まだ基本的な衛士の操縦、と言うものを見ていないから伊隅達が普通に見えてしまう。だが、この部隊が香月の直属である以上、ここにいるメンバーは皆、腕は確かな筈。だからこそコツさえ掴めば皆一気に伸びるとは思うのだが…。

 伊隅達の方にも言い分がある以上、俺も強くは言えない。白銀本人に指導してもらう手段はあるが…あいつはあいつで守るべき存在がいる。無駄な迷惑は掛けたくない。

 となると俺本人が教えれるのが一番なのだが…如何せん戦術機を操縦出来ないのが現状。これは今日からでも訓練を始めた方がいいかもしれない。今の現状で甘んじてはいけない。この世界はそんな事で生き抜ける程優しくはないだろう。

 俺を含めたこのメンバーの生存率を少しでも上げる為に戦術機の操作を先ずは覚えるとしよう。そして操作を覚えると同時に各BETAに対する処理法を考え、最も有効な作戦を練る。対人戦も一応想定しシミュレーターは行うが、対人戦に関しては個々にいる誰よりも優れていると自負している。

「それもそうだな。まぁ俺の言った事は頭の片隅にでも覚えておいてくれればそれでいいさ」

 そんな俺の言葉に伊隅達は少しばかり顔を顰める。

「思った以上に簡単に引くのだな」

「まぁ…な。今現状でお前達に対して強く言える権利は持ち合わせていない。俺の言葉をどう受け止めるかはお前達次第なんだ。あくまで俺は一メンバー。上官ではない」

 辛辣な言葉かもしれないが、これが事実。

 ヴァルキリー隊の皆も昨日突然現れた人間の言葉をすぐさまに信用する事は出来ないだろう。俺はまだ皆の信用を得る程の事はしていないのだから。

「確かにそうかもしれないが…」

 俺の言葉に何か感じたのだろう。伊隅は視線を俺から逸らし、複雑な表情を浮かべる。

 隊の皆の命を預かる伊隅は容易な判断を下す事は許されない。もしかしたら、その容易な判断が皆の命を奪うかもしれないのだから。

 だからこそ伊隅は俺の意見を素直に受け止めず、ああ言ったのだろう。今の実力で速度を求め、無理に前に出でも皆が死ぬ可能性が上がる。その事にも気づき、恐らくはああ言ったのだと思う。上の人間としては正しい選択だと俺は思うからこそ、これ以上は何も言わない。否、いえない。

「…すまない。少し意地悪だったかもしれん」

「いや、いいんだ。お前が私達の動きをしっかりと見ていてくれた事ははっきりと伝わった。今度の訓練では速度重視を視野に入れて行う」

「有難う。邪魔して悪かったな。俺は戻る事にする」

 その場の雰囲気が何ともいえぬ雰囲気になってしまった為、俺はいち早くその場から足を退ける事にした。まさかこんな雰囲気になるとは思っていなかったのだろう、涼宮中尉は案の定俺の後ろで戸惑っている。

 伊隅達は伊隅達で俺に何かいいたそうだが、何か言われる前に俺は背を向け、格納庫から出た。

 …二日目にして早速やらかした気分だ。やはり今まで人とのコミュニケーションが少なかった分、難しいな。これから大丈夫だろうか。

 そんな不安が俺の中に芽生え始めるが、悩んでいても仕方がない。今は自分がやれる事をやるしかない。そう判断し、先程の事については頭から消し去る。

 部屋に戻ってもやる事がないな…武装の事に関して香月に相談してみるか?

 先の訓練映像を見ていて幾つかの武装が思い浮かんだので、それを香月に相談してみるのは有りかもしれない。…思い浮かんだ、と言うのには語弊があるが、この世界にレーザー兵器などがない以上、思い浮かんだでも間違いはないだろう。

――――――――――

 歩くこと数分。香月の部屋の前に辿り着いたので、扉の前に立ち、数回扉を叩く。

 …。

 だが中から返事は返ってこない。いないのか?と言う疑問が沸いて来るが、一応ノックはしたので、中に入ることにする。

 初日に香月本人から渡されたカードを通し、扉を開き中を確認する。相変わらず書類などが散乱しており、散らかっている様子だが、そんな部屋の中にしっかりと香月は居た。コンピューターを熱心に見ている当たり仕事の途中だったのだろう。

 邪魔してはいけないな。そう思い扉を閉めようとしたのだが、そのタイミングで丁度香月と視線が合った。

「あら、居たのね」

「一応な。邪魔ならまた時間を置くが?」

「構わないわよ。入りなさい」

 本人からの許可も貰ったので、遠慮なく室内に足を踏み入れる。

「何をやっていたんだ?」

「機密事項だから言えないけど…まぁ重要な事よ。白銀が持ってきた情報のおかげで一気に進んじゃってね。こっちは大変よ」

 そう言う香月の表情は非情に気分の良いものであり、大変といいながらも本人はそう感じていなだろう。

「ふむ…俺には関係のない事か」

「いえ、あなたにも関係のある事よ。今話す事は出来ないけど、時が来たらあなたにも説明するわ」

 俺にも関係あると言う事は…俺が世界を移動した事か。

「で、此処に来たからには何か用があるんでしょ?言ってみなさい」

 香月からそう言われたので、早速武装の事に関して切り出そうと思ったのだが…手元に何もない事に今更になって気づく。一応昨日の夜にACとその武装の事に関して簡易的に纏めていたのだが、それを忘れてしまった。

 …まぁ口頭でもある程度は伝わるだろう。

「新しい武装に関しての事だ」

「へぇ…ACに付いてる武装の事?」

「ああ。特に一番開発して欲しいのが、レーザー兵器。ストレイドにも付いている腕部と背面の武装だ」

「ッ!?あれってレーザー兵器だったの!?…またトンでもないもの持ち込んでくれたわね」

「一応元はあるからな。お前に言えば作れると踏んで此処に来たのだが…」

「流石にこの世界にない技術をいきなり理解するのは私でも難しいわよ?…まぁ当然やるけど」

 流石は天才だ。まだ見ても居ないレーザー兵器の存在に対しやると言い切った。

 と言っても実際に香月ならレーザー兵器程度の技術、普通に理解してしまいそうだ。唯一問題となるのはその動力源ぐらいだが…其処も何とかしてくれると信じたい。
 
 どうにも香月に頼りっきりになっている感がかなりするが、技術者でない以上、それは仕方のない事だと割り切るしかない。その代わり、俺は香月の期待に答えればいい。ストレイドを用いれば無理のある依頼もこなせる可能性は十分にあるしな。

「でも時間は掛かるわよ?何せ00ユニットからXM3にAMS。そんでレーザー兵器。やる事が多すぎてこっちも人手が足りないのよ。本当に猫の手も借りたいくらいだわ」

 00ユニットが何か分からないが、確かにやる事はかなり多そうだ。

 俺自身、脳の処理速度はかなり速い。脳と統合制御体でデータのやり取りをしているのだから当然といえば当然だが、香月の役には立たないだろう。…最も、俺の処理速度が速いのには他にも理由があるのだが、それは置いておこう。あまり人に言っていい事ではない。それが香月だとしてもだ。
 
 何れその事が必要だと俺が判断した時に明かせばいい。今はその時ではない。香月の様子を見ても切羽詰まっていると言う訳ではなさそうだしな。

 だがこの状況で他の武装の事に関しては言えなさそうだな…。グレネードと言った広範囲武器の事も頼みたかったのだが。あまり無理を言うのもなんだから今回はこれで帰るとしよう。

「頼んでばかりで済まない」

「ん?いいのよ。あなたがこの世界に持ってきたものは全て有用なものよ。間違いなく世界は変わるでしょうね。だからこれからも何かあったら私にいいなさい」

「…済まない。感謝する」

 これが人の上に立つ人間なのだろうか。香月に会ってまだ二日だが、香月と言う人間を何となくだが理解出来てしまった。それと同時に強く惹かれてしまった。香月と出会えた俺は本当に運が良い。白銀には感謝しないといけないな。

「それでは俺は帰るとする」

「あら、もう帰るの?」

「ああ、言いたい事は一応言えた。また何かあったら直ぐ来るさ」

「そ。それじゃあ期待して待ってるわ」

 最後の香月に言葉に答える事はせず、俺はそのまま部屋を後にした。 
 

 
後書き
  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧