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茨の王冠を抱く偽りの王

作者:カエサル
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22.祈りと紫苑

これが最終決戦だ!!
こいつを倒せばダァトの野望は砕かれる!!

「それでは、おしゃべりはここまでにして決着をつけましょうか、茨カイ」

「はなからそのつもりだ。来い!!」

処刑剣、聖骸布を取り出し、白衣の少年の二本の片手剣とぶつかる。
激しいぶつかり合い。

「少し、興味があるのですが、あなたの......いえ、イェット・トゥー・カムのヴォイドが砕かれるとあなたはどうなるんですかね?」

二本の片手剣が同時に振り下ろされた瞬間、処刑剣の刃が結晶となり砕けた。
その瞬間、俺に途轍もない激痛が襲う。

「グァァァァア!!」

「なるほど、所有者が死なない代わりに所有者に激痛が走るというわけですか」

白衣の少年は持っていた片手剣を投げてくる。
聖骸布のヴォイドで防ぐも続けてもう一本、さらに槍のヴォイドによって聖骸布が結晶となり砕ける。

「グァァァァア!!ク.....ッソ....!」

「さぁ、茨カイ。.......死になさい」

白衣の少年が長剣のヴォイドを俺の向け、そのまま上に振り上げる。

「さようなら、茨カイ」

まだ.......まだだ.......

「まだ、死ねぇんだよ!!」

ギリギリでロンギヌスの槍を取り出し、振り下ろされる長剣のヴォイド破壊し、さらにロンギヌスを白衣の少年に突き刺す.......が白衣の少年は姿を消し、再び姿を現す。

「まだだ.......シオンを助けるまでは.......死ねぇんだよ!!」

「往生際が悪い人ですね。それなら」

白衣の少年がさらにヴォイドを取り出す。
弓、銃、ビームサーベルを取り出し、それらのヴォイドを融合させる。
現れたのは.......ボウガンのヴォイド。

白衣の少年が空中に浮かび、ボウガンの引き金を弾く。すると、途轍もない勢いで光の矢が飛んでくる。
それをギリギリでよける。

「外しましたか。ですが、これだけの数はよけられますか」

白衣の少年が連続で引き金を弾く。無数に飛んでくる光の矢をロンギヌスとチェンソーのヴォイドで防ぐ。

だが、チェンソーのヴォイドが光の矢によって砕かれる。
またも激痛が体を襲う。

「ク......ッソ!!!」

痛みに耐えながら飛んでくる光の矢の一本の時間を俺のヴォイド......時を戻すヴォイドで戻す。
一本の矢が逆再生させたように高速で戻っていき、発射口の光の矢とぶつかり合い、ボウガンそのものが結晶となり砕ける。

ヴォイドが砕けたことは、所有者の死を意味する。
俺の目の前で3人の人が結晶となり砕けた。

ロンギヌスを支えとし、立ち上がる。

「まだ立ち上がりますか。そろそろ楽になってはどうですか、茨カイ」

「.......まだ、諦めねぇよ」

だが、俺に残されたヴォイドは、ロンギヌスの槍、戦輪、赤子のオルガン、聖杯、弩砲、そして........茨の王冠の6つ。
残るヴォイドの破壊は俺の身体が持たない。
茨の王冠を使えば倒せるかもしれないが、また暴走しかねない。今の俺には茨の王冠の戻すほどの力が残っているとは思えない。

「その熱心な思いだけは褒めてあげますよ」

白衣の少年がブーメランのヴォイドを取り出し、投げてくる。

それをロンギヌスで弾き飛ばす.......が、突然後ろに現れた白衣の少年が短剣でロンギヌスを真っ二つに折られる。結晶化し、砕け散る。

「グァァァァア!!!」

俺は再び床に倒れる。
残るヴォイド.........5つ。

「ついに始まったようですね.........四度目の黙示録が.......この世界の命の進化と淘汰が」

かすれる視界に映るのは氷の結晶のようなものが降り注いでいる。
そして、聞こえる絶望の歌。

「脆弱な肉体を捨て、結晶の中に永遠の思考を獲得する。それが次なるステージです。ヴォイドは前触れだったのです。心が物質となる新たな世界の.......まぁ、死にゆくあなたには関係のない話ですがね」

白衣の少年が再び結晶の剣を持ち俺の右腕に突き刺そうとしてくる。

「その腕を封じれば、あなたはヴォイドを使えなくなる」

右腕に向かい結晶の剣を突き刺してくる。

「まだだ!!!」

赤子のオルガンを取り出し、結晶の剣を赤子が喰らう。

「いい加減、楽になりなさい。ここまでくるとウザイですよ」

「......ウザくて.......結構.....だ」

さらに弩砲のヴォイドを取り出す。
右腕に赤子のオルガン、左腕に弩砲。

「そろそろ、終わりにしましょう。.......全てを」

白衣の少年は空中に浮かびその場にいる全ての人のヴォイドを強制的に融合させる。その影響でその場にいる人が一つのヴォイドへと姿を変えていく。
白衣の少年が出したヴォイドは.......地上に生える巨大な大砲。黒をベースに赤い光のラインが入り、先端には二つに巨大な発射口が光をはなっている。

「それでは......さようなら、茨カイ」

漆黒のレーザーがこちらに向かい一直線に飛んでくる。
俺も弩砲のレーザーと赤子のオルガンで防ぐ。

「これで終わりましたね........それでは、アダムの決着を見届けに行きましょうか」

「........ま...........まて.........よ」

「これは驚きましたね。同時に二つのヴォイドを破壊されながらも立っているなんて。そこまで、あなたを動かさせるものは何なんですか........やはり、椎名シオンですか」

「そ.......そう.......だよ.........でも......それ......だけじゃ.......ねぇ.......みんながっ..........みんながいるから........俺は.......生きなきゃ.........いけ......ない.......んだ」

「そうですか。ですが、本当のお別れのようですね。.........あなたのことは一生忘れることはないでしょう。僕の攻撃にここまで耐えた人間は初めてですからね。.........さようなら、茨カイ」

.......ゴメンな、シオン、綾瀬、集、俺、もう無理みたいだ。

ーー諦めないで、カイ。
ーーあなたの体はまだ動く。
ーーみんながカイを待ってる。

「し........シオン」

「何ですか、これは........」

白衣の少年の動きが止まる。
降り注いでいた氷の結晶のようなものと歌声が消え、代わりにいのりとシオンの歌声が聞こえる。

自然と体は軽い。
今ならいける気がする。

「そうだよな。まだ、俺は約束を守ってない。だから、まだ俺は死ねない。シオンを助けるまでは!!綾瀬との約束を守るまでは!!」

最強ヴォイド.......茨の王冠(ギルティクラウン)を操る!!

右腕がものすごい光を放ち出す。
これは新たなるヴォイドの出現に合図のようなもの。

これが俺の希望.......俺たちの最後の希望だ!!

右腕から現れたヴォイドは..........茨のヴォイド。
だが、このヴォイドはあの時、暴走したヴォイドとは違う。
もっと優しい茨。

「今さら、どんなヴォイドを出そうとあなたの運命は決まっています!!」

白衣の少年が再び漆黒のレーザーを放つ。

「........いくよ、シオン」

俺の前に巨大な金色の薔薇が出現し、漆黒のレーザーを防ぐ。

「そういうことか.......シオン。.........凛と咲く花(エンピレオ).......か」

漆黒のレーザーを金色の茨が包み込み、全てを消し去る。
金色の茨は、白衣の少年のヴォイドを飲み込み、強烈な光を放つ。

光が消えると白衣の少年と白衣の少年のヴォイドが跡形もなく消えていた。

「待ってて、シオン.......今から向かうから」

俺は重い足を一歩一歩、前へ前へと進めて行く。

体が重い......頭はふらつく......視界はかすむ.......でも、俺は、俺は、シオンを.......シオンを......

「ようやく......たどり......着いた。.......シオン」

かすむ視界の中、俺の視界に一つの光が見えた。

「.......し、オン.......やっと.....会えた」

一歩一歩、重い足を前へ前へと進めて行き、シオンの元にたどり着く。

「.......シオン.......やっと......会えた」

シオンの体は氷のように冷たく生気が感じられない。

「.......シオン」

向こうの方に空へと伸びる光が一筋。

「........集......なのか」

「そう......だよ.......あれは、シュウといのり.......だよ」

「.....シオン!?」

シオンの声がハッキリとする。
俺の目の前から。

「.......シュウは......全ての罪を......自分が受ける.....気だよ」

「あの、バカやろう」

シオンは今にも途絶えそうな声で俺に問う。

「ねぇ.......カイ........シュ....ウ.........を助けたい」

俺はうなずいた。

「カイ.......なら......言う......と思ったよ」

シオンの胸が光り出す。
だが、いつものような光ではなく、微かな光だ。

「それじゃあ、王様........最期に......私を......使って」

かすれた視界にシオンの笑顔が映る。

「.......シオン.......最期なんて......そんなこと.........最期なんていうんじゃねぇよ!!!!!」

右手をシオンの光る胸へと........










A FEW YEARS LATER


あの事件から数年の月日が流れた。
今日は久しぶりにみんなで会う日だ。

「おう、八尋」

「早かったじゃないか」

「仕事急がしいの?」

「まぁな。でも、今日は早めに切り上げてきた。ここ構いませんか」

「どうぞ」

「綾姉、アールグレイで良かった?」

「優しいのね、ツグミ」

「今日だけはね。もう教員の試験近いんだから、帰ったらまた鬼だよ」

「あいつらはまだ」

「来るわよ。すっごく楽しみにしてたんだから」

「あっ!来た!」

「ゴメンね。遅れちゃって......ホラ、シュウも早く」

「そんなに押さないでよ、祭」

遅れて現れる、右腕が偽手の杖をつくシュウと祭が現れる。

「あれ、まだ来てないんだ」

「そうなんだよ、いつも遅れて来る。ホント、マイペースだよなあいつは.....」

「綾姉、何か知らないの?」

「あいつ、昨日は家に帰って来なかったから」

「家に帰ってきてないって......まさか」

「颯太君!!変なこと言わないの!!絶対来るよね」

「うん、彼は遅れてくるのがいつものことだよ」

「みんな.......ハァハァ、お待たせ......」

息を切らせて現れたのは、スーツを着ているが走ってきたせいか、形が崩れシワができいる。.........彼、茨カイ。

「遅いぞ、カイ!!」

「まぁ、いつものことだが」

「お疲れ様、カイ君」

「大変だったね」

「ほらほら、早く座って座って」

「カイ、あんたどこから走って来たのよ?」

「ちょっとな」

「壊.......久しぶり」

「おう、久しぶり、集!」

カイが来て皆が揃った。

「それじゃあ、今年も」

颯太君の掛け声で皆がグラスを持つ。

「「「「「「「「カンパイ!!!」」」」」」」」




「なぁ、綾瀬.......俺のやったことって良かったのかな?」

食事会も終わり夕暮れに染まる空のした俺と綾瀬は家に帰っていた。

「そんなの私に聞かれても」

「だよな」

「でも、カイがやったことで不幸になった人はいないんじゃないかな。大切な人が戻ってきた人だっているんだし。私たちも祭が戻ってきて良かったって思ってるでしょ?」

「そうなのかな」

俺は右腕を空に掲げる。
右手の薬指にはめられている青紫色の指輪を見ながらあの出来事を思い出す。

数年前の事件........四度目の黙示録。
俺が最期にシオンから引き出したヴォイド.......厳密にいえば、俺の時を戻す腕のヴォイドとシオンの指輪のヴォイドの融合によって誕生したヴォイド........時を戻す指輪。

このヴォイドの神に等しき力。アポカリプスウイルスの存在そのものをなかったことにするが如く、アポカリプスウイルスの時が全て戻った。
アポカリプスウイルスによって結晶化した街には、結晶が消え去りロストクリスマスが起きなかったと思わせるほどに都心は回復していた。
これは見方によっては、神への冒涜と呼ぶものもいるだろう。
このヴォイドはさらにアポカリプスウイルスやヴォイドの破壊によって結晶化し、消滅した人々をこの世に戻した。
でも、このヴォイドは万能ではなかった。ヴォイドやアポカリプスウイルスに近づきすぎた者はこの世に蘇ることはなかった。
そのため、シオン、いのり、マナ、ガイの時が戻ることはなかった。

「ねぇ、カイ」

「何だ、綾瀬」

「何で、私と結婚してくれたの?」

夕暮れに染まる中、綾瀬の顔は赤く染まっていた。

「そんなの好きだからに決まってるじゃないかよ」

「でも、カイはシオンのことが.......」

綾瀬は少し下を向いて言う。

「確かにシオンのことは好きだった。俺が今、好きなのは綾瀬だ。シオンは俺の中で生きてるから」

「そうだね」

綾瀬はいつものように笑顔を振る舞う。

「カイはもう慣れた仕事に」

「まぁ、だいたいな。でも、意外と国際機関って面倒なんだよ。........綾瀬もうすぐ教員試験だよな」

「うん。そうよ」

「頑張れよ、綾瀬。お前なら絶対大丈夫だって」

「ありがと、絶対に合格してみせるわ」

夕日を背に俺たちは家に向かい一歩一歩、前へと歩いて行った。





「なあ、集........"王の力"って結局なんだったんだろうな?」

「いきなりどうしたの、壊?」

星が光る夜空の下、海を見ながら俺と集は話す。

「"王の力".......人の心を形となす力。........本当にそれだけだったのか気になってな」

「僕が思うに"王の力"は........人の心を形となし......人と人の心を繋ぐ力だと思うんだよね」

「.......そうだな。.........そろそろ行くか、集」

「そうだね」

「これが俺たちの最後の仕事だ。行くぞ、集!」

「うん、全てを終わらせよう、壊!」

夜空が徐々に明るくなっていく。

俺と集は一歩一歩、確実に道を歩く。
すると朝日の中に二人の姿が

ーー頑張って、カイ。
ーーシュウ、頑張って。

「.......集、今のって」

「.......うん、いのりたちだ。行こう、壊!!!」

「待てよ、集!!!」

朝日を背に俺たちは全てを終わらせるためにその足を駆け出すのだった。 
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