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西部の娘

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第三幕その二


第三幕その二

「やられたらやりかえせ、西部の鉄の掟だ」
 そう言いながらも彼の顔は晴れなかった。
「たとえそれが天が許さなくてもな」
 罪悪感に満ちた声だった。それは自分でもわかっていた。
「そしてラメレス、貴様だけは地獄に送ってやる」
 彼はそこで表情をキッとさせた。
「貴様のせいでこうなったのだからな」
 その時遠くから再び声がした。
「よし、追い詰めたぞ!」
 ランスは周りの者に対して問うた。
「縄の方はどうなっている!?」
「もう出来てますよ」
 一人が言った。見ればそうである。
「ならいい。もうすぐだな」
 彼は遠くに見える木に掛けられた縄を見て言った。
「あの男が腐った果実になる時は」
「よし、もう逃げられねえぞ!」
 暫くしてまたもや声がした。
「保安官」
 ソノーラがやって来た。息を切らしている。
「どうやらいい話のようだな」
 ランスはその様子を見て言った。
「ああ、捕まった」
「よし」
 ランスはそれを聞いてニッ、と笑った。
「これであの男もおしまいだな」
「ああ」
 ソノーラはそれに対して答えた。
「しかし骨が折れたよ」
「だろうな。見つかってからやけに時間がかかった」
「手強かった。まるで猟犬に追い詰められたコヨーテみたいだった」
「奴も必死だからな。そうなるだろう」
 ランスはそれを聞いて言った。
「しかしな」
 彼はそこで顔をソノーラから離した。
「これで奴もおあしまいだな」
 その眼の向こうには縄があった。
「さあ、早く来い!」
 声がした。
「来たな」
 ランスはその声に再び振り返った。
「ミニー、見ておくがいい」
 彼はミニーの小屋がある方へ顔を向けて呟いた。
「あんたの愛しい男はこれで最後だ」
 そして葉巻を捨てた。足でその火を消す。
「今から盗賊に相応しい褒美を与えてやる!」
 声は次第に近付いて来ている。
「恨むのならあの男を恨むんだな。逃げ遅れたあの男を」
 やがて声の主である一団が見えてきた。皆歓声をあげ誰かを引き立てている。
 その男も見えた。ジョンソンである。腕を後ろで縛られ小突かれながら引き立てられている。
「さあ歩け、もっと早くだ!」
 アッシュビーが言った。ジョンソンは顔を顰めている。
「俺は約束を守った。潔く引き下がった」
 あの時のカードの勝負が脳裏に甦る。
「だが今回はそれとは違う」
 彼は再び呟いた。
「あの男は逃げられなかった。そして捕まった」
 それはその通りであった。
「そうなればどうなるか、西部に住んでいたら嫌でもわかることだ」
 一団はもうすぐそこまで来ていた。アッシュビーがこちらに走しって来た。
「俺は掟に従っているだけだ。この西部のな」
 自分に言い聞かせる様に言った。
「しかし・・・・・・」
 彼はここで表情を再び暗くさせた。
「何故だ、どうしても気が晴れない」
 そこへアッシュビーがやって来た。
「おう、やっと連れて来たぜ」
「ああ、有り難う」
 ランスはそれに対し言葉を返した。
「で、もう準備は・・・・・・ああ、もう出来ているな」
「ああ、手際良くやってくれた」
 ランスは縛り首の用意をした男達を親指で指し示しながら言った。
「じゃあいいや。おっ、来たぜ」
 ジョンソンが引き立てられて来た。彼はランスを睨み付けていた。
「久し振りだな」
 ランスは勝ち誇った声で声をかけた。
「・・・・・・そうだな」
 ジョンソンは言葉を返した。声には媚も諂いも無かった。強い声だった。
「大したものだな。この状況でそんな態度を取れるとは」
「生憎な。伊達に盗賊の頭をやっていたわけじゃない」
「うむ、盗賊だな、確かに」
 ランスはその言葉に対し頷いて言った。
「だとすればわかっているな」
「・・・・・・・・・」
 ジョンソンは答えなかった。
 
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