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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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番外編
  仮面の男

 
前書き
カーバンクルが追い上げてきた。今回は番外編。ユキとゲツガの初めての出会い。 

 
 私は、このゲームでゲツガ君に会ったのは二十三層のある洞窟だった。しかし、ゲツガ君が覚えているか分からない。だけど、あの声と温かさで分かる。あの男はゲツガ君だったと。あれは、私はまだ攻略組に入っておらず、ただレベル上げを主にやっていた頃……

「やっ!!」

 剣を猪型のモンスター《チャージボア》の横側に横一文字に斬りつける。それを食らったチャージボアはポリゴン片となって消えていった。その瞬間に、ファンファーレが聞こえる。

「ふー、これで二十八になった。長かったなー」

 そう呟いて、腰に剣を納める。今のトコは攻略組に入ろうとかそんなことはまったく考えていない。ただ、はじまりの街にもう留まりたくなかった。外に出れば男どもに話しかけられ、少し話しただけで、俺に気があるんだと思い、どんどん、エスカレートしていく人もいた。人付き合いの苦手なわけではないがとても居づらい場所だった。

 そのため、ああいう男たちと会わないため、基本的に昼の時間帯はこうやって、不人気のダンジョンに入ったり、部屋で過ごしたりしている。

(……友達……明日奈がいればいい……そう思ってたけど、この世界に来て、本当に一人ぼっちになっちゃった……)

 親が厳しかったせいで親の許した友達としか付き合っちゃいけない厳しすぎたせいでほとんど友達が作れなかったが、一つ学年の上の従妹、明日奈がいたからよかった。話かけてくれるし、相談相手にもなってくれた。だから、明日奈がいればよかった。しかし、この世界には大切な親友はいない。ちょっとした孤独感を今更ながら思い出したユキは、とぼとぼと歩き出す。

 少し先に行ったところに、隠し通路を発見した。
 
(まだ、こんなところにも道があったんだ)

 その通路に入る。直進だけの道なので迷うこともない。しばらく直進し続けると少し大きめの部屋に着いた。その部屋の中心には宝箱(確かネット用語でトレジャーボックス?)が二つあった。

(絶対に一つはトラップだ……)

 そう思うが、罠などを外すスキルは入れてないし、罠ではなく両方ともレアアイテムだったら、そんな考えが頭をよぎる。しばらく考えた。結果は一つだけ開けて帰ろう。そう思い転移結晶と呼ばれる、転移アイテムを片手に持ち、片方のトレジャーボックスに近づく。

 そっと開く。開いて何も起きなかったので安心して中を確認する。中に入ってたのは靴だった。

《ヘルメスの靴》、装備すると敏捷力が3アップする。

「やった!!当たりだ!!」

 そう叫んでから、素早くその靴を装備する。少しからだが軽くなった気がした。これが入ってたならもう一つもいい物が入ってるんじゃないか、欲が出てしまい、もう一つの宝箱に手を出す。だが、それがいけなかった。

 手を掛けた瞬間、部屋が赤く照らされ、どんどんモンスターがポップしてくる。

「まずっ!!やっぱ一つにしとけばよかった!!」

 毒付きながら転移結晶で素早く脱出をしようとする。しかし、街の名前を叫んでも転移しなかった。

「もしかして、結晶無効果フィールド!?」

 その瞬間、このモンスターの群れを倒さない限り自分は出られないことを悟る。

「もう、なんて日なのよ!今日は!!」

 そう叫んで、武器を構え、敵軍に突っ込んだ。しかし、数分もしないうちに武器が破損した。その理由は、クラッシャーと呼ばれる爪を装備したゴブリンが数十を超えるか数でいたからだ。そのせいで、武器の消耗が急激に上がり、すぐに壊れてしまった。装備の片手剣を三本しかなく全て壊れたため今は盾バッシュで何とかしているが、もうそれも持ちそうにない。自分の死を悟ったかのように走馬灯が見える。小さい頃に姉と遊んだ日、明日奈と一緒にショッピングした日、たくさんの思い出が横ぎっていく。そして、盾も壊れて完全に無防備な状態になった。体術のスキル持っとけばよかったな、そう思いながら、キュッっと目をつぶる。その瞬間、

「お、ここ、いいレベルあげになりそうじゃん。なあ、この狩場もらっていいか?って言ってもお前が死にそうだから勝手にもらうけどな」

 この絶望的な状態にとどいた声は、このモンスターの群れを見ていっさい怯まず、自分のレベルあげにちょうどいいと言い出した。目を開けて声の方を見る。その男は身長は百六十の私の頭一個分背が高く、顔は額から鼻まで隠す仮面をつけ、表情は見えないが、少し焦っているように見えた。そして、男は素早く両手剣を背中から取り出す。すると奇妙な構えをした。両手剣を逆手に持ち、中腰、もう片方の手を両手剣を持った手首の上辺りに構えを取った。

「じゃ、行きますか!」

 彼のスピードは早くなかった。しかし、攻撃は私の目にはとてもじゃないが追えなかった。彼が構えたら、もうすでに振り終えているところまでいた。そして、次々と敵を薙ぎ払っていく。そして、十分もしないうちに部屋を満たしていた敵がもういなくなっていた。

「あ、ありがとうございます」

 助けてもらったためお礼を言う。男は優しい口調でいいよと言う。

「だけど、もう危ないことはするなよ。こういう部屋のアイテムはスキルレベルの高い罠師とかいなきゃ確実に引っかかる仕組みなんだからな」

「す、すみません」

「でも、ほんと無事でよかった。目の前で人が死ぬトコなんてあんま見たくないからさ」

 そう言ったときの仮面の彼の感じは、どこか哀愁を帯びていた。

「まあ、こんな話は無しにしといて、これ飲んどけよ」

 そう言って、ポーションを渡された。栓を外して飲む。酸味のある抹茶のような味が口に広がる。それを飲み終えるとHPが少しづつ、回復していく。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るから」

 そう言って仮面の男は、部屋から出て行こうとする。

「ま、待ってください!!」

 男を呼び止める。

「どうした?」

「こ、ここまでしてもらって報償も無しでいいんですか?」

「ん、別にいいよ。人助けは別に見返りが欲しくてやるもんじゃねえだろ」

 こんな人もゲームの中にいたんだ、そう思った。

「そ、それじゃあ、もう一つ、頼みを聞いてもらえますか?」

 それを聞いた男は、しばらく考えて言った。

「いいけど、出来る限りのことだけだぞ」

「すみません。それじゃあ、このダンジョンから脱出したいんですが……」

「そんなことか。別にいいぞ。俺も、もうここには用がないから」

「あ、ありがとうございます」

 そう言うと、男は口をへの字に曲げる。

「敬語、やめてもらえるか?敬語を使われるとどうも、むず痒いんだよ」

「は、はあ」

「よし。じゃあ出口に行くか」

 男はそう言って歩き始めた。

 なんか、すごい人なのかよく分からない人だな、と思いながら、彼の後を追った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「そういえば、なんでこんな不人気ダンジョンに来てるんだ?他にもたくさんいい場所があるのに」

 不意に仮面の男が聞いてくる。

「えっ……まあ、一番人が少ないと思ってたから」

「まあ確かに、ここは不人気だしな。武器破壊をメインにしたダンジョンだし」

「でも、ここは特にアイテムが残されてたし、もしかしたらレアアイテムがあるかもしれなかったから」

「確かにな、まあ俺が来たときはあんまなかったけど」

「多分、全部私だ。ここに結構潜ってたし。で、あなたは、どうしてこの場所に?」

「俺?武器の強化のために素材集めに来ただけ」

「そうなんだ」

 その時ちょうどモンスターが現れる。ブレイクゴブリンだ。このモンスターは、さっきのモンスターハウスでも出てきた武器破壊を目的とした爪、クラッカークロウを装備したモンスターだ。しかも大型のゴブリンで、腕の太さは丸太くらいある。

「ちょっと、下がってろ」

 その指示に従い後ろに下がる。男は、ゆっくりとモンスターに近づいていく。しかし、武器は出さずに。そしてある一定の距離まで近づいたためか、ゴブリンはその男に飛び掛る。
そして爪が男を切り裂こうとした時、爪のついた腕が止まる。

「嘘でしょ……」

 その男は、爪のついた腕を片手で止めていたのだ。

「悪いが力勝負じゃ負けねぇからな」

 そう言って男はゴブリンの腕を両手で持ち、そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばした。しかも相当な速さで。叩きつけられたゴブリンはHPが半分も減る。そして叩きつけられたゴブリンに追い討ちをかけるように手を重ねて拳を作る。すると黄色い光が手を包む。確か、あれは体術スキルの《兜割り》だったような気がする。振り下ろされる手はゴブリンの頭に直撃しポリゴン片へと形を変えた。

「終わったか。おし、進むぞ」

 たった二回の攻撃で敵を沈めた。その攻撃力もさながら、判断能力がすごかった。呆然としていると先に進んでる男が叫んでいた。

「おーい、早く来いよ。置いてくぞ」

「う、うん」

 そして男の後に着いて行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ね、ねえ」

「何だ?」

 さっきの事が今まで見た中で一番ありえない光景だったのでとりあえず聞いてみる。

「答えれなかったら答えなくていいけど、さっき、あの丸太みたいな腕のゴブリンの腕を片手で止めたり、投げ飛ばしたり……あなたの筋力ってどうなってんの?」

「俺?レベルが上がった時に貰えるポイントを全部筋力に注ぎ込んだ」

「は?」

 この男は、スピードを無くす代わりにパワーを上げていたようだ。

「それで、大丈夫なの?ある程度バランス的に振り分けとかないと厳しいんじゃ……」

「大丈夫大丈夫、俺にはバランス的な野郎には負けない速さも出せるし、スピードタイプとは少し劣るけどなかなかの速さ出せるから」

 何を言っているかがよく分からないが生返事を返しておく。そして何度かの戦闘があったが男が一撃または二撃で沈めたため疲れなかった。そして、ようやく外に出れた。

「ようやく、外に出たな。ああ、日の光があったけー」

「今曇りで、日出てないよ」

「おい、少し気分を良くしようとした俺の優しい心使いにまじめに突っ込むな」

 その言い訳にクスクスと笑いながら答える。

「それだったらもう少しましなことを言うといいよ。例えば、空気が美味しいとか」

「確かに、そっちの方が良かったな。なんかさっき言った自分が恥ずかしい」

 そう言って男は顔を背けた。

 その行動を見て、またクスクスと笑う。すると、男がウインドウを開く。
 
「ん、もうそんなに進んだのか……」

 男がメッセージを呼んでいるのかそんなことを呟いた。どういう内容か気になったので聞いてみた。

「ねえ、なんかあったの?」

「ああ、もう会議を始めるから早く来いって来たんだ」

「会議?」

「ああ、だからここでお別れ。じゃあまたどこか出会えるといいな」

 そう言って男は転移結晶を取り出し、転移場所を叫んで消えていった。

「……」

 会った男性の中で唯一気軽に話せる人物だった。そのせいで警戒心がなくなったのか、ユキはもう少し一緒に居たかったななどと思ってしまった。

(何考えてんの私!!たまたま助けてもらっただけじゃない!)

 心の中でそういい続ける。そして、男の正体を考える。

(あの強さからして、絶対に攻略組だ。それに最後に会議って言ってたし、それに最前線の街の名前も言ってた)

 男は攻略組の誰かだと言う見当がついた。

(あの人にちゃんとしたお礼を言いたいし、肩を並べられるくらいのつよさになって見たい)

 そう思った。それでユキは、自分もあの仮面の男と同じ場所に立ってみたいという目標が出来た。

(今から頑張ってレベル上げしたら、すぐに追いつけるかも)

 そう思い、近くの村に軽い足取りで戻った。 
 

 
後書き
仮面をつけている理由は、筋力値アップだったため。その後はその仮面よりも少し大きく上がるバックルを手に入れたため現在はストレージの奥に埋まっている。 
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