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薔薇の騎士

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第一幕その八


第一幕その八

「一人知っている人間がいれば違います。私もまたそうですし」
「貴方もですか」
「ええ。息子をですね」
 つまり私生児というわけである。夫人もオクタヴィアンもそれを聞いて驚かなかったことは私生児という存在は当時の貴族社会では普通だったからだ。とりわけブルボン王家の貴族社会では普通であった。そもそも結婚が縁組のビジネスに過ぎないから不義もまた当然の世界であったのだ。
「レルヒェナウの顔がよく出ていますが私の従僕長にしております。気が利く可愛い奴です」
「そうなのですか」
「いずれ騎士にしてやるつもりです」
 さりげなく親馬鹿ぶりも見せる。
「機会があれば御会いして欲しいものですが」
「ええ、またの機会に。それではマリアンデル」
 今度はオクタヴィアンを自分のところに招き寄せて保護した。そのうえで彼女、実は彼に言う。
「あのメダイヨンを」
「!?テレーズ」
 夫人の通称の一つである。
「一体何をするつもりなの?」
「任せて」
 にこやかに笑ってオクタヴィアンに囁く。
「いいわね」
「わかったよ。それじゃあ」
 彼女のその言葉に頷く。そうして彼女の芝居に合わせるのだった。マリアンデルに戻って。
「レルヒェナウ家は修道院も建立しましたし代々領民を守り愛したのです。それが我が家の誇りでして」
 またそれを自慢しだす。
「ケルンテンやヴィンディッシュ=マルクの世襲執事長でもありました。私もまた領民の為には本当に心を砕いているつもりです。少なくともフランスの貴族達のような真似はしませんぞ」
 離している側からオクタヴィアンが小室に入ってそこからメダイヨンを持って来ていた。夫人はそれを見ながらまた男爵に述べてきた。
「それで薔薇の騎士ですが」
「それは誰にされますか?」
「私の若い従弟でして」
「ええ」
「オクタヴィアン伯爵です」
 つまり彼女はオクタヴィアンとはそういう関係なのだ。従姉と従弟の関係なのである。
「お名前は聞いたことはあります。これ以上はない高貴な存在ですな」
「それで宜しいでしょうか」
「はい。伯爵様には感謝致します」
 こう答えてきた。満足したようである。
「このことには」
「そう。ではこれを」
「メダリヨンですか」
「ここにある顔ですか」
 そう言いながら男爵にそのメダリヨンを見せるのであった。そこにあるのは。
「似ていますね」
「ええ、確かに」
 そこにあるのはオクタヴィアンの顔であった。そう、オクタヴィアンのである。男爵はマリアンデルを見て交互にそのメダリヨンの顔も見て目を白黒させていた。
「いや、本当にそっくりで」
「この伯爵殿はロフラーノ家で」
「それはもう御聞きしましたが」
「侯爵閣下の二番目の弟殿なのです」
 それがオクタヴィアンなのであった。つまりは三男なのだ。
「その方です」
「私にとっては願ってもない方」
 爵位の関係と礼儀作法のうえからへりくだっての言葉であった。
「実はこの娘もその縁者ですし」
「おや、貴族の」
「彼の遠い親戚なのです。帝国騎士の娘でして」
「そうなのですか」
「ですから側に置いています」
 こうも述べた。
「おわかりですね」
「お言葉ですが奥様」
 釘を刺す夫人に対して反論する。
「私はこれでも貴族であるつもりなので女性に対しては紳士であるつもりです」
「本当ですか?」
「女性にかけるのは言葉だけ」
 ここはあくまで強調してきた。それが彼のもう一つの誇りであるようだ。
「腕力にも策にも訴えるようなことは決してしませんので」
「その言葉信じさせてもらいます」
「是非共。レルヒェナウ家の名にかけて」
「ではレルヒェナウ男爵」
 あえて彼をその名で呼んでみせてのあらたな言葉であった。
 
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