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さまよえるオランダ人

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第一幕その三


第一幕その三

「遠くからな」
「そうか、遠くからか」
「暫しここにいていいだろうか」
 今度は彼からダーラントに尋ねてきた。
「嵐でここに逃れてきたのだが」
「何、困った時はお互い様だ」
 ダーラントはにこりと笑ってそれを受け入れた。
「それに客をもてなすのは船乗りの義務じゃないか」
「それもそうだな」
 彼はにこりともせずそれに頷くのだった。
「その通りだ」
「それでだ」
 話の間にダーラントは彼のところに来た。それでさらに問うのだった。
「君の名は何というのかな」
「オランダ人だ」
 彼はこう名乗った。
「こう呼んでくれ」
「わかった。ではオランダ人」
「うむ」
 この呼び名で決まった。そのうえで話を続けていく。
「私は今から祖国ノルウェーに戻るのだが」
「ノルウェー。ここからすぐだな」
「そうだ。あと少しなのにな。ここに逃れてきたわけだ」
「そうだったか」
「とりあえず難を逃れたが。君の船は大丈夫かい?」
「私の船は大丈夫だ」
 こうダーラントに答えた。
「船は堅固で何らの損傷も受けてはいない」
「そうか」
「嵐と悪しき風に追われ私は海をさすらう」
 彼は言う。
「何年経ったか覚えてはいない。最早年月も数えてはいられない」
「何とまあ」
 ダーラントは今の彼の話を半分ホラと思って聞いていた。だから気付かなかったのだ。
「多くの国を見てきた。しかし安息の地を見つけることはできなかった」
「そうか」
「ノルウェーだったな」
 国を彼に確認してきた。
「貴方の国は」
「うん、そうだ」
「よかったら案内してくれ。謝礼はする」
「謝礼!?」
「そうだ。例えば」
 懐から金貨を出してきた。
「これは挨拶にだ」
「金貨か」
「これだけある」
 数枚出してきた。
「それにこれも」
「何と」
 今度出してきたのは宝石であった。しかも何個もある。
「他にもあるが」
「まだあるというのか」
「さあ」
 オランダ人が船に向けて左手を掲げるとすぐに陰気な男達が出て来た。誰もが白い顔をしていて亡霊の様に音を立てない。そのうえで何か木箱を持って来たのだ。
「これが宿泊の御礼になればいいのだが」
「いや、御礼などとはとんでもない」
 ダーラントはもうその木箱から覗く宝玉や真珠、黄金に目を奪われてしまっていた。心も。
「これだけのものを」
「私の船の中にはまだまだある」
 オランダ人は執着なぞないといった口調で述べた。
「全て貴方にあげてもいい」
「嘘だろう?」
「いや、本当だ」
 オランダ人はこう答える。
「それにだ。貴方には娘がおられたな」
「うむ」
 オランダ人のその問いに対して頷いてみせる。
「さっき言った通りだ」
「御会いしたい」
 オランダ人はこう言ってきた。
 
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