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ドラゴンシティ

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第五章

「こちらです」
「こちらですか」
「はい、宮殿です」 
 まさにそこだと総督に答える。
「こちらがです」
「中にも案内して頂けますね」
「そこに王がお待ちです」
 ゴールドドラゴンはあくまで礼儀正しい。
「我等の王が」
「わかりました。それでは」 
 総督が応える。そしてだった。
 五人はその目も眩むばかりの外観の宮殿に入った。宮殿の中も金や銀、宝玉で飾られ見事なものだ。そこにはドラゴンの集めた富とその技術の粋があった。
 学者はその宮殿の中を見回してこう呟いた。
「私もこれまで世界中を巡り見て聞いてきましたが」
「これだけのものはですか」
「はい、ありませんでした」
 驚きの顔と声で書記に答える。
「遠い東の皇帝の宮殿にも若い頃行きましたが」
「東のあの大国ですか」
「そのさらに向こうの島の黄金の国にも」
 そこにも行ったことがあるというのだ。
「そして西の海の彼方の山の上の王国にも行きましたが」
「そこよりもですか」
「山の上の王国も黄金に満ちていました」
 ジャガーという獣の姿の神や翼のある緑の蛇を神々として崇拝する国だ、その国の黄金よりもだというのだ。
「それでもこの宮殿程は」
「黄金は多くありませんか」
「これ程の贅を尽くした宮殿はありません」
 学者はこう断言した。
「他にはとても」
「そうですか」
「これは見事です」
 学者はまた書記に言った。
「これだけのものとは」
「ですがです、ここはドラゴンの宮殿ですぞ」
「そのことを忘れないで下さい」 
 司祭と騎士は周囲をしきりに見回し警戒しながら学者に告げた。
「敵の真っ只中ですから」
「いきなり何をされるかわかりませぬ」
「この宮殿がどれだけ見事でも心を奪われてはなりませぬ」
「このことは肝に銘じて下さい」
 こう言って学者と書記を注意するのだった。彼等は宮殿の奥のドラゴン王の間に案内されていた。やがて彼等の前に巨大な白金とダイアの眩い扉が現れた。
 そこの左右にはそれぞれ赤と青のドラゴン達が控えている。衛兵らしい。その彼等が控えている扉が開けられ。
 中に入るとこれまで以上に眩い部屋だった、そしてその部屋の奥の中央に。
 様々な宝玉で造られた玉座があった、そこには虹色に輝く巨大なドラゴンが蹲る様にして座していた。目は黄金で翼は銀に輝いている。
 そのドラゴンが自分の前に来た五人に対してこう言ってきた。
「客人達よ、よく来てくれた」
「貴方がこの町の主ですね」
 五人はまずは深々と頭を垂れた。総督はそのうえで顔を上げてから玉座のドラゴンに尋ねた。
「そうですね」
「如何にも」
 虹色のドラゴンは地の底から響く様な声で総督に答えた。
「私がこの町の主だ」
「ドラゴンの王ですか」
「その通りだ。そして諸君等にここに来てもらった理由だが」
「何でしょうか」
 総督は内心身構えた、彼は表情は出してはいないがそれでも警戒はしていた、やはり危険も頭の中に入れていたのだ。
 その覚悟を胸に置きドラゴン王を見上げる、そのうえで問うたのである。
「それは」
「条約を結びたい」
「条約を?」
「そうだ、諸君等の町と条約を結びたいのだ」
 つまり外交関係を樹立したいというのだ。
「そうしていいだろうか」
「条約ですか」
「友好的カツ相互援助的な条約だ」
 条約といっても様々だ、ドラゴン王が今言う条約はこうしたものだった。
「それを結びたい」
「そうですか」
「君達人間との友好関係は我々にとっても有り難いものだ」
 これは五人、ドラゴンに好意的な立場の学者や書記にとっても意外な言葉だった。二人もその言葉に目を丸くさせていた。
 それで学者がこうドラゴン王に尋ねたのだった。
「あの、ドラゴンは」
「強大だというのだな」
「そうです。この町の数だけあれば」
「魔界も占領できるというのだな」
「その通りです。それで何故人間と友好的な関係なぞ」
 築き上げる必要がないというのだ。これは学者だけでなく他の面々もそう考えていた、だがドラゴン王はこう言った。 
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