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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百九話 衝動の絶叫 罪の吐露

 
前書き
はい!どうもです!

さて今回は……多分シノンが人気になった要因でもあるシーンの一つではないかな?と僕が勝手に思っているシーンの、戦士達バージョンですw

では、どうぞ!! 

 
初めに立ち直ったのは、アイリだった。立ち上がり、焦ったような言葉で怒鳴るように言う。

「そ、そんな事言ってない……!!」
その言葉に対して、あっけらかんとした様子でリョウは答えた。

「……そだな。今そんな冗談言ってる場合じゃねぇわな」
「え……」
不意に声を出して笑ったリョウには、もう先程の雰囲気は残っていなかった。

「え、兄貴、今の話って……」
「あぁ、いや。ちっとな。気にすんな気にすんな!それよか、する事有るだろ?」
そういって、リョウは強引に話しを切り替える。それは話しの展開の持って生き方として相当に強引な話しだったが、しかし、キリトは正面から見たリョウの目に「これ以上聞くな」と言う無言の意思を察して、会えてそれに乗った。

「そ、そうだな……とにかく、彼奴を倒さないと……」
「えっ……?」
立ち上がりながらそう言ったキリトのその言葉に反応したのは、今度はシノンの方だった。

「彼奴と……死銃と、一人で戦うの……」
「そ、そんな……!?」
シノンの言葉に、アイリが再び立ち上がりかける。いかにも「危険だ」と言い出しそうな顔だった。
そんな二人に、キリトは苦笑しながら頭を掻く。

「いや……一人じゃないよ。多分ね」
「おーい、何で其処で “たぶん”を付けんだよ。どんだけ薄情だ俺は」
「っはは、だよな。と言う訳で二人だ。なんとかするよ」
そう言って首をすくめたキリトに、アイリが食いつく。

「じ、じゃあ私も……!」
「お前は残れ」
言おうとしたアイリの言葉をリョウが遮る。

「な、なんで……!?さっきの事……!?」
「チゲぇよ。つっても今更信頼も糞も無ぇか……」
そう言うと、リョウは少しアイリに近付いて、耳打ちをした。

「俺達が居なくなるとこの洞窟でシノンをガード出来る奴が居なくなる。しばらくお前らはここで休んで、俺達が死銃をぶっ飛ばすまで待っててもらいてぇんだ。それに、万が一にもさっきの“アレ”戦闘中に出されちゃ困る」
「う……」
言葉に詰まるアイリに、リョウは苦笑する。

「ま、お前の場合さっきみてぇなカーチェイスよりこっちのが向くだろ。ここに仕掛けて来るとなったらあちらさんも近接だしな。拳銃に気を付けつつ、なんとか耐えてくれや。音が聞こえりゃ駆けつける」
「え、う、うん……」
予想外に好的な言葉に、戸惑いつつもアイリは頷いた。胸の内には困惑とが渦巻き、ますますもってリョウの事が分からなくなっていたが、それでもシノンを守ると言う部分に関しては彼と意見が合致していたからだ。

「……あなたでも、彼奴が怖いの?」
不意に、シノンの声が聞こえてアイリとリョウはそちらを向く。
キリトとシノンが向かい合って何かを話していた。シノンの問いに、キリトが答える。

「……あぁ、怖いよ……昔の俺なら、もしかしたら本当に死ぬ可能性があっても戦えたかもしれないけど……今は、守りたいものが色々出来たし、それに……きっとこの人の前でそんな事言ったら、殴り飛ばされるし」
そう言って笑いながら、キリトはリョウを見る。腕を組んでニヤリと笑ってリョウは言った。

「今言ったから、殴り飛ばして良いんだな?」
「ちょ!?いや、ノーカンだろ今のは!?」
そんな事を言い合っている二人を、シノンはどこか無気力感を宿した目で見つめる。そうして、今度はその視線を、リョウに向けた。

「……リョウコウは?」
「あぁ?」
「貴方は……死銃が怖い?」
「妙な事聞くなぁ……」
言いながら、リョウは頭を掻く。シノンは、自分のリアルがリョウに知れている事を知らない。必然的に、リョウコウ=桐ケ谷涼人であることも知らない訳だ。なのでリョウは一瞬、この問いに関して詩乃の幼馴染として答えるべきか、それともリョウコウとして答えるべきか迷った。しかし状況を考えれば、自ずと答えは出る。

「んー……わかんね」
「え……」
「死銃が怖いってのはつまり、死ぬ事とか、戦う事とか、そう言うのが怖いかって事だろ?」
リョウの問いに、シノンはコクリと頷く。

「今は、死んでる自分の姿より、出来たかもしれねぇ事をしねぇで後悔する自分の姿の方が、はっきりイメージできるからな。そりゃ、実際「死ぬかもしんねぇ!」って時になりゃ怖くもなるかもしれねぇけど……どうせなら、明確にイメージできる方のめんどくさいのを潰しときてぇだろ?……だから、死ぬことが怖えぇってのは今一明確にはイメージ出来ねぇ」
特に感慨も無くそう言うリョウの言葉を、三人は口を開くことなく聞いて居る。

「まあそれでも……やっぱ、死にたくはねぇな。まだしてない事もあるし」
最後に付け足すように、苦笑しながらリョウはそう言って結んだ。そんなリョウの顔を少女二人は不思議そうに見て、キリトは小さく笑って小さな声で「らしいな」と言った。

「……なら」
少しだけ沈黙が降りたが、それは長くは続かず、シノンがそれを破る。

「このまま此処に隠れてれば良いじゃない。大会が私達以外の最後の一人になるまで隠れてて、そうなったら自殺すれば、その時点で大会は終わるんだから」
「おぉ、その手があったか。頭良いなシノン」
一瞬目を見張ったリョウが、楽しげに笑った。この状況でどうしてそうも明るく笑えるのかとシノンは問いたくなったが、意味が無いような気がして口を噤んだ。
キリトは一度微笑すると、しかしゆっくりと首を横に振った。シノンが予想していた通りだった。

「確かにその手もあるな……けど、そう言う訳にも行かないよ。今は彼奴も何処かでHP回復してるだろうけど、いずれまた動き出したら、誰にあの拳銃を向けるか分からないからな……」
「あぁ、そりゃそうか……」
落ち込んだようにリョウがそう言ったが、そもそも先程の言葉が冗談めかしていたので初めから彼も分かっていたのだろうことは知れていた。

「…………そう」
「…………」
シノンは小さな言葉でそれだけを返し、アイリは息を吐くように黙りこくる。

「さて、と、んじゃ行くかぁ」
「だな……」
キリトはリョウに返しつつ光剣のバッテリー残量を確認し、リョウはXMのコッキングレバーを引いてガシャッと音を鳴らす。ついでにM2の使い所を考え始め……

「……私……」
しかしその思考を、シノンの声が遮った。

「ん?」
聞き返したリョウの言葉に、呟くようなシノンの言葉が返ってくる。

「……私、逃げない」
「……えっ?」
「シノン……?」
「あ……?」
シノンはキリトやリョウ、アイリと目を合わせずに呟くように言った。

「逃げない、此処に隠れない、外に出て、私も彼奴と戦う」
「し、シノン!?」
「おいおい……」
戸惑ったようにアイリとリョウが言った。それに続くように、キリトが言う。

「駄目だ、シノン。彼奴の拳銃に撃たれたら、本当に死ぬかもしれない。俺は完全な近接型だから、防御スキルも色々あるし、兄貴となら互いの動きも分かってるからちゃんと連携取って互いをカバーできる。だけど君は違う。ゼロ距離から奇襲を受ければ、危険度は俺達の比じゃないだろ」
「だな。情けねぇ話しだが、いくらなんでも、今度ばっかりはお前の事カバーしながらはちときつい」
顔をしかめながら言ったリョウに、シノンは相変わらず静かに返す。

「してくれなくて、良い」
「はぁ?」
「一人でも、戦えるから」
そう言うと、シノンはゆっくりと立ち上がり、そのまま出口の方へ向けて歩きだそうとする。

「ちょっと、ま……」
「し、シノン待って……!」
「おいちょっと待て……!」
三人は止めるがシノンはそのまま歩いて行く。しかし……

「“詩乃”!」
リョウの上げたこの声で、シノンが足を止めた。
その隙にリョウがシノンの片腕を掴む。シノンはそのまま振り向くと驚いたような。顔で此方を見た。その顔を見て初めリョウは自分が一文字を付け加え忘れた事に気が付いたようで、顔をしかめる。

「……どうして……」
「……Bobが終わるまではやめとくつもりだったんだがな……」
「え……?」
片手で頭を掻くと、リョウはシノンの腕を掴んでいた手を離し、顔を上げて正面からシノンと向きあう。

「……俺が誰だか……分かるか?」
リョウのその問いに、シノンは一瞬目を見開いた後、かすかに首を横に振った。

「……子供の頃も、同じHNよく使ってたよね」
「あぁ……さっきぶりだな……」
「うん……」
シノンはそう言うと少し俯き加減に地面を見た後、顔を上げてリョウの目を見た。

「……考え直せ」
「……嫌」
リョウの言葉に、殆ど間もなくシノンが返す。
リョウが眉根を寄せた。

「……なんでだよ。此処に居る方が良いって理由はさっきキリトが言ったろうが。死ぬかもしれねぇんだぞ……?」
「……私」
シノンはポツリと口から言葉を紡ぐ。

「さっき、すごく怖かった。死ぬのが恐ろしくて、五年前の私よりも、弱くなって……情けなく悲鳴上げて……そんなんじゃ、だめなの。私は……そんな私じゃ居たくない」
「だから一人で行きたいってのか?」
「…………」
そこで、少しだけ息を詰めるように、再び詩乃は俯いた。リョウは続ける。

「意味分かんねぇな。一人で戦って一人で死ぬってでも言う気かお前は?」
「それが、私の運命だったんだよ……初めから……」
そう言いながら、シノンは眼を逸らす。リョウは若干イラついたようにノータイムでシノンに返す。

「なんだよその運命ってのは、俺は初めから蚊帳の外か」
「だから一人で戦えるって言ったの……これは私の、私だけの戦いなんだから……」
「お前なぁ……!」
リョウは徐々にイラつきを増しているようだった。元々お世辞にも丁寧とは言えない口調が更に荒くなる。

「よしんば、その理屈で戦って、死ぬのは誰かじゃねぇ。自分なんだぞ!?本当に分かってんのか!?」
「こんな私のまま生きてるくらいなら……死んだ方がましよ!!」
枯れた声でシノンがそう叫んだ。瞬間、パァンッ!と言う痛々しい音が、洞窟に響いた。

「……っ」
「あ、兄貴……」
「リョウ、やめて……!」
「…………」
頬を殴られたシノンは一瞬大きく左に首を振らされるが、すぐにリョウに向き合い、その眼を睨みつける。先に口を開いたのは、リョウだった

「自殺を許すつもりはねぇって、さっき言ったからな、謝ってはやらねぇ、二回は殴らねぇから、もう一回言ってみろ」
リョウの瞳をしばらくシノンは正面から睨み続けていたが……やがて再び口を開く。

「こんな……こんな私のまま、死ぬことにおびえ続けて、死銃(アイツ)から逃げ続けるような私のまま生き続けるくらいなら…………死んだ方がましだって、そう言ったの!!!」
叫んだシノンへの、沈黙は一瞬だった。

「手前、美幸にも同じことが言えんのか!!?」
「っ……!?」
押し殺したような、声量的な大きさよりも、意思を具現化したような物理的な重さの有るその言葉に、シノンはおろか、キリトとアイリすら、少しだけ後ずさる。

「言ってみろよ。お前だってわかってるよな?彼奴がどんだけ手前の事心配してたか!彼奴がお前の傍に居られ無かったってだけで、どんだけ手前を責めたのか!!その彼奴の目ぇ見て、今の台詞が吐けんのか?アァ!!!?」
「そ、それは……そんなの、今言い出すなんて卑怯でしょう!!!?」
「卑怯も糞もあるか!こっちはお前が生きるか死ぬかの話してんだぞ!!」
「う……」
シノンは言葉に詰まる。そこに、更にリョウの言葉が飛んだ。

「一人で戦って一人で死ぬ!?馬鹿も休み休み言え!テメェが死ぬって事はな、美幸の中に居るお前も、俺の中に居るお前も、お前が今まで出会った全員の中に居るお前が死ぬってのと同じ事だ!もう既に一人じゃ居られねぇ人間が、今更一人で死ぬなんざ出来る訳がねぇ!」
「だってその中の誰一人も、私と一緒に戦ってくれる人なんて居なかった!!」
「今ここに俺が居るだろ!!」
「それは結果論でしょう!?それにリョウ兄ちゃんは、私に戦うなって言った!」
「お前のトラウマとの戦いが本当に死ぬ恐怖と闘う物である必要はねぇだろう!なんでそれが分かんねぇ!?」
「違う!今アイツと戦わなきゃいけないの!!そうしなきゃ私は……!」
「お前のトラウマの原因にアイツを重ね合わせんなよ!!お前がトラウマと戦う事と、アイツと戦う事は別の問題だろうが!」
「だって……だって……!」
言いながら、シノンは嫌々するように頭を振った。その眼からいつの間にか幾つもの水滴が滴り落ちている事にも、それが涙である事にも、彼女は気が付かなかった。

「アイツに勝てないと……戦わずに、逃げたりしたら、私はきっともうダメになる!!!」
それは胸の内に湧き上がった救いを求める心と、自らの破滅を願う衝動とが混ざり合ったような、混沌とした叫びだった。

「この世界でなら、私は銃を怖がらずに居られたの!だからこの世界で一番強くなれば、全部忘れて。現実の私も強くなれると思ったのに……なのに、アイツに、アイツに襲われた時、発作になりかけてた!!このままじゃ……このままじゃ私、もう普通に生きる事も出来なくなる!!もう、怯えたままなんて、生きて居たくない!!!」
そう言って、シノンは、リョウの胸に顔を押し付けるとその胸をどかどかと叩いた。もう、頭の中が滅茶苦茶になっていた。

「お、おい……」
肩に触れたリョウの手を、思い切り振り払う。

「わ、私は……もう、普通にリョウ兄ちゃんの前に居るのがおかしいくらいなんだよ……!?だって、だって私、人殺しなんだよ!?」
「…………」
その言葉に、リョウは動かずにそのままそこに硬直する。いつの間にか膝から力が抜け、それに合わせるようにリョウが屈んだ事で、シノンはリョウに寄りかかるような形でその場でしばらく泣いて居た。

────

「……ごめんなさい」
リョウによっかかったまま、シノンは小さく言った。
頭の上で小さく苦笑する気配。

「ははっ、急にしおらしくなったな。ま、俺は良いさ。それよか大変だったのはこいつ等だろ」
「あははは、まぁ……」
「えへへ~……でもなんか、得した気分……」
後ろでキリトとアイリも苦笑する気配がした。ようやく二人の存在を思い出したシノンは顔を真っ赤にしてリョウの下から飛びのくか一瞬迷ったが、今更慌てる方が格好が付かないと判断して、そのままリョウに寄りかかる。

そのまましばらくシノンの頭を撫でていたリョウは……不意に、真剣身を帯びた声で、言葉を紡ぎ出した。

「シノン……今から話すことは……全部本当だ」
「え?」
「それを聞いてお前がどう思っても、俺はお前に対する態度を何一つ変えねぇ。……俺を嫌っても構わん」
「な、何?突然……」
突然なうえに、少々内容が物騒であったためか、シノンは体を起こし、リョウの顔を正面から見た。その瞳にはただ真剣な光だけがこもっていて、シノンは思わず身構える。

「俺もな……お前と同じだ」
「え……?」
「俺も人を殺した。それも……一人二人じゃねぇ」
「……っ!?」
一瞬沈黙してしかし、即座にその言葉の意味と、息をのみ込む。

「二年前と去年、俺、御袋の墓参り行かなかった事……覚えてるか?」
「う、うん……どうしたんだろうって思ってた……」
小さく頷いたシノンに、リョウは続ける。その瞳は相変わらずシノンをしっかりと見ていたが、しかし先程までと比べると何処か遠くを見ているような目だった。

「その時な……俺ぁずっとVRMMORPGの中に居たんだ。三年前から去年まで稼働してたVRMMO……タイトル、分かるか?」
答えるまでの間は、殆ど無かった。何故ならその期間稼働しているVRMMORPGは、歴史上、たった一つしかないからだ。

「《ソードアート・オンライン》……」
「正解」
道理で母親の墓参りに来ない筈だった。そもそもこの世界にすら、彼は居なかったのだ。

「今俺達を狙ってる死銃も、元々そのゲームのプレイヤーでな……まー、不本意ながら会ったことも有るかも知れん。まだ直接会ってねえから分からねえけど……」
「死銃も……って、じゃあキリトも?」
シノンが彼の方を見るとキリトはばつが悪そうに頬を掻く。リョウが首を傾げた。

「ん?何で分かった?」
「前に死銃と別のゲームで顔見知りだった……って……」
「成程な……」
苦笑しつつ、もう一度キリトを見やると、相変わらず頬をかりかりやっていた。それから一瞬だけアイリを見たが、彼女は何処か複雑そうな表情でキリトをみており、すぐに目線を正面に移す。

「さて、んじゃあ俺の話をする下準備に、まずは死銃の話からするか」
「え……?」
のんびりと、そんな事を言ったリョウに、今度はシノンが首を傾げた。疑問の光を宿した瞳で自分をみる彼女に、リョウは肩をすくめる。

「その方が、分かり易いからな……今でこそ死銃なんつーガキみてえな名前名乗ってるが……向こうでの彼奴は、《ラフィン・コフィン》っつー、レッドギルドに所属してた野郎だった」
「レッド、ギルド……?」
その言葉の意味、何処か分かるような気がしつつもシノンはあえて聞き返した。
理解が正しいとは限らないから……いや、それ以上に、理解したく無かったのだと思う。

「SAOん中じゃ、他人を傷つけたり、システムに認識される盗みなんかをするとな、カーソルがオレンジに変わって、そう言う連中は《オレンジプレイヤー》って呼ばれてた。んで、このオレンジ連中の集団が《オレンジギルド》って訳だ。そんでもって……」
リョウは其処で少しだけ息継ぎをするように言葉を止めた。とは言っても、この世界で呼吸は必要無いので、それが少しだけその先を言うか迷ったのだと言うことはシノンにも分かった。

「その中でも、PKを積極的に楽しむ奴等の事は、《レッドプレイヤー》っつー風な呼び方をしててな。まぁその呼び方自体連中の方が名乗りだしたらしいが……とにかくだ。その集団が、ラフィン・コフィンみてえな《レッドギルド》だったわけだ」
「PKって……」
呆然とした様子のシノンに、リョウは途切れず緊張も無く、まるで世間話でもしているかのような調子で話を続ける。

「PKはPKだ。連中はフィールドとかダンジョンで他のプレイヤー襲って、金とアイテム根こそぎ奪っては相手のHP全損させるっつーのを繰り返してたわけ」
「でも、あのゲームでHPが無くなったら、現実の人間も……」
「死ぬ。……だからこそ、かもしんねえな……人の本質ってのは綺麗になんか出来てねえ。罰され無いって分かった途端、殺人に快楽見出す奴が出て来ちまったんだよ。それも、十人二十人じゃねえ。百人単位でな」
「…………」
完全に、シノンの身体は固まっていた。そんな事が有ること事態、想像したことすらなかったからだ。
しかし今、リョウの言葉を聞いて、シノンは一瞬だけイメージする。
あのゲーム……SAOに捕らわれた人々は、約一万人。内、初めの1ヶ月で二千人が死んだと言う。つまり、単純に計算して、八千人の内百人以上の人間が、この現実世界では普通の人間として生きていたであろう人々の中の、それだけの数の人間が、法律やモラルと言うルールから解放された途端に、殺人に快楽を見出す異常者と化した。
八千人の内の、百人。全体の1.25%……四百人に、五人の確率……

不意に、自分の前に要るリョウと目が合った。その瞳から、目が離せなくなる。
先程リョウが自分で言った言葉が、頭の中で反響する。

『人を殺した。それも……一人二人じゃねぇ』

まさか、と思って……しかし直ぐにその考えを頭の中で否定した。
それまでに見てきた涼人を信じたから。と言うのも勿論ある。だがそれ以上に、先程、アイリや自分に対して見せていた命に対する執着じみた態度は、明らかに命を消し去ることを快楽とする人間の目では無かったと、直感的にそう思ったからだ。
ややあって、リョウが苦笑しながらその口を開いた。

「お前は優しいっつーか……思った事、そのまま口に出したって別に良いんだぜ?」
「……」
そんなリョウの様子にシノンは一瞬微笑んで、すぐに首を横に振った。

「あり得ないから。リョウ兄ちゃんは、人を殺すことを楽しいなんて思ったりしないでしょう?」
「……っ、そう、だなぁ……」
一瞬怯んだようにリョウの表情が曇ったように見えたが、それを確認する間も無く、リョウは真顔に戻った。

「俺はな……あの世界じゃ、PKK(プレイヤー・キラー・キラー)だった」
「っ……」
「「…………」」
リョウの言葉に、シノンは息を詰め、キリトは奥歯をきつく噛みしめ、アイリは俯く。

「フィールドに出たりしてると、どういう訳かPKやらオレンジやらがやたら寄って来やがってな……そう言う事が多いもんで、俺は何度もそう言う連中と武器を突き付け合ってたよ……んでもって……その殆どをぶっ殺した」
「!!」
場の空気が固まるのを感じながらも、リョウは話をやめようとはしない。

「元々攻撃一辺倒なビルドだったからな。数が有るからってタカ括って、レベル差考えねぇで襲ってきた奴に一撃二撃当てると、面白いように死んでった。自己防衛だからってんで、手加減もしなかったしな……気が付きゃ、《オレンジ殺し》みてぇな二つ名まで付いてた……結局のとこ、レッド連中と同じ事やって、襲われた側って体を盾にしてたから、オレンジにはならなかったし、誰にも咎められなかっただけさ」
「…………」
聞きながらシノンは、リョウに奇妙な近さを感じていた。
詩乃もまた、大きな罪を犯しながらもそれを罰っされる事は無かったからだ。しかしシノンとリョウには、決定的に違う所があった。

「……ある意味俺は、レッド連中より質悪ぃかもしれねぇな……殺した奴の顔すら殆ど思い出せねぇし?名前なんて知りもしねぇ奴等ばっかりだ……おまけに、罪の意識なんて、考えたこともねぇし……まぁ、あいつらがどうかなんて知りゃしねぇけどな?」
苦笑しながらものんびりと、相変わらずさしたる事も無げに話すリョウを、シノンは黙って見ていた。しかし……。やがてやがて漏れ出るように、一つの問いが詩乃の口から溢れた。

「リョウ……りょう兄ちゃん」
「ん?」
「私は……りょう兄ちゃんのしたことに何も言えないし、言う権利も無いから……何も言わない。でも……一つだけ聞きたいの……リョウ兄ちゃんが今、そうやって過去を振り切って、過去に勝って、そんなに……強くあれるのは、どうして……?」

その問いを、りょうは予想していたのかもしれない。一瞬だけ微笑すると、その女性めいた顔立ちに、思わず見とれてしまいそうなほどの、強く、真剣身を帯びた光を宿して詩乃の事を正面から見る。そうして、静かに行った。

「……俺は、強くなんてねぇよ」
「え……?」
「よく聞け。詩乃……お前がもし、過去を忘れて、自分と過去を切り離して、罪を無視して生きていられる事をもし本当に《強さ》だと思ってんなら……それはな詩乃。一から十まで、全部間違いだ」
「!?」
リョウの言葉に、シノンは眼を見開く。その瞳が小さく震えていた。

「そんなもんは、絶対に強さなんかじゃねぇ……そんなことしてる奴はな。本当なら、この世に居るべきじゃねぇ位の本当のクズ野郎だ」
「兄貴……!」
「な、なんで……」
戸惑う詩乃に、りょうは続けた。

「人を殺したならな、たとえ原因が何だろうが、どれだけ辛かろうが、自分が殺した奴の無念背負って、自分奪った命の重みや罪と向き合って、一生考え続けるのが正しい姿だ。そうしなきゃいけねぇんだ」
「そ、そんな事……」
再び詩乃は眼を伏せた。そんな事は出来ないと、そう思ったからだ。しかし……

「目を逸らすなっ!!」
「っ!?」
りょうに肩を掴まれて、詩乃は驚きながら正面を向く。りょうと目が合い、目をそらせなくなった。

「自分のしたことから、過去から目を逸らすな!どんなに辛かろうが、苦しかろうが、時間を巻き戻すことなんか出来ねぇし、過去は消せねぇんだ……!向き合うのは、お前の義務なんだよ詩乃!!」
「でも、でも……」
現実の詩乃の苦しみや辛さは、永久に続く。そう宣告される事は、彼女にとってはあまりにも恐ろしい事だった。震えながらそう言った詩乃に、りょうはそれでも引くことなく、押し殺したような声で言った。

「もし苦しかったら、いくらでも支えになってやる。俺も美幸も、全力でお前を助けてやる。だから、向き合う事からは逃げるな、止めるな!頼む。詩乃……」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、詩乃は見た。

「“俺みてぇになるな……!!”」
自分を見るりょうの瞳に……強い、本当に強い、懇願の光が宿った事を。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

今回は久々にリョウも怒鳴ったり口論したり。結構熱い彼が出てきた回でした。

ちなみに、原作だと

「──なら、あなたが私を一生守ってよ!!」

に当たるこのシーン。結構個人的に初めてシノンの心からの叫びが出ていた、気に入っているシーンです。
なので本当は入れたかったのですが、他人ではないりょうにそれを言うのには少々違和感がぬぐえなかったので、断念w
近すぎて入れられないとは……つくづくGGOは難しい……

ではっ! 
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