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愛の妙薬

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第二幕その五


第二幕その五

「いいお顔してるわよね」
「本当、こんな立派な人そうそういないわよ」
 彼女達は笑みを浮かべながらそう言い合っている。
「立派な顔だなんて」
 ネモリーノもそれに驚いている。彼も自分の顔は知っている。お世辞にも男前だとは思ってはいなかった。
「皆一体どうしたんだい!?」
(まさか)
 彼はそう言いながらも思った。
(もしかして薬が効いてきたのかも) 
 そう思うといてもたってもいられなかった。立ち上がって尋ねた。
「皆、本気なのかい!?また僕をからかってるんじゃないだろうね」
「まさか」
「冗談でこんなこと言わないわ」
 彼女達は答えた。ネモリーノにはとても冗談には見えなかった。
(ううん)
 彼はそれを聞いてまた考えた。嘘には思えない。無論お世辞にも。少なくとも彼にはそう思えた。
(間違いない、薬が効いてきたんだ)
 彼は確信した。これも願いは適ったのだと思った。
 娘達はそんな彼の周りに集まりだした。ネモリーノはそれを上機嫌で見ていた。
(やったぞ、これでアディーナは僕のものだ!)
 彼は兵隊にとられることも忘れて喜びに支配された。そしてこれから起こることに思いを馳せていた。
「はて」
 そこに騒ぎにつられてドゥルカマーラがやって来た。
「あの騒ぎは一体何じゃ」
 見ればネモリーノがいる。
「またあの若者か。何かと人騒がせな御仁じゃ」
 だがそれまでと様子が全く違う。何と若い娘達に囲まれて上機嫌であいるのだ。
「何と」
 ドゥルカマーラはそれを見て目を瞠った。
「本当に娘達に囲まれておるわ。これは一体どういうことじゃ!?」
 あの薬がインチキであることは彼が一番よく知っている。その薬が効いている筈がないのだ。
「おかしいのう、そんな筈はないのじゃが」
「あ、先生」
 ネモリーノがここで彼に気付いた。そして娘達から離れて彼のところに来た。
「有り難うございます、おかげで願いが適います。これも全て先生のおかげです」
(むむ)
 ドゥルカマーラは彼を見て内心色々と思った。
(まさか本当じゃったのか?いや、幾ら何でもそれは)
 考え込んでしまう。どう考えても唯のワインにそんな効果がある筈がない。
 しかしそんなことを言える筈もない。彼はここはいつものインチキとハッタリに徹することにした。
「ほっほっほ、そうじゃろそうじゃろう」
 彼は顔を崩して笑った。
「何せわしが丹精込めて作った薬じゃからな」
(丹精込めて入れ替えただけじゃがな)
 とりあえずは自分の功績にした。だが実際は不思議で仕方ない。
(様子を見るか、暫くは)
 今までの経験でそうすることにした。ここでまた騒ぎにつられて人が来た。アディーナであった。
「えっ!?」
 彼女は目の前の光景を見て思わず我が目を疑った。
「これは一体どういうこと!?あのネモリーノが」
 ネモリーノはまた娘達に囲まれていた。それでアディーナには気付かなかった。それでも彼は喜んでいた。
(アディーナもすぐ来るさ、そして僕の側に)
 だがそう浮かれるあまり実際に彼女が来ても気付かなかったのだ。滑稽な事態であった。
「先生」
 アディーナは側にいたドゥルカマーラに顔を向けた。
「一体何事ですか!?」
(おや)
 ドゥルカマーラは彼女を見てそこに他の娘達とは違ったものを感じた。
「いや何」
 だが今はそれについて思いを巡らさずアディーナの話に答えることにした。
「あの若者はわしの薬を飲んだのじゃ」
「薬を!?」
「そうじゃ、愛の妙薬をな」
「愛の妙薬」
 それを聞いたアディーナの眉が怪訝そうに歪んだ。
「うむ。飲めばどんな娘にも惚れられるという魔法の薬じゃ。わしの誇る自慢の薬じゃよ」
「そうなのですか」
「うむ。普通は飲んでから一日経ってから聞くのじゃがのう」
「一日」
 アディーナはそれを聞いてハッとした。ネモリーノの言葉を思い出したのだ。
(まさかあの時私に一日だけ待ってくれって必死に頼んでいたのは)
 彼女は事の真相がわかってきた。
「ところがのう」
 だがここでドゥルカマーラがまた言った。
「あの若者はすぐに効いて欲しいとまた買ったのじゃ。たっぷりとな」
「たっぷりと」
「そうじゃ。かなり切羽詰っておったな。それでお金を作ってわしのところにまた来た」
「お金を作って」
「そう、兵隊に志願しての」
「兵隊に!?」
 アディーナはそれを聞いて思わず声を挙げた。だがすぐに口を閉ざした。しかしそれはネモリーノには聞かれていなかった。
「ネモリーノ、あっちへ行きましょう」
 ジャンネッタ達が彼を誘っていた。
「木の下で舞踏会。皆で踊りましょうよ」
「うん」
 ネモリーノは口元も目元も極限まで緩めてそれに応えた。
「行こう、そして皆で踊ろうよ」
「ええ」
 そして彼等はネモリーノの家から少し離れた木の下に向かった。その場にはアディーナとドゥルカマーラだけになった。
「先生」
 アディーナはあらためて彼に尋ねた。
「それは本当の話なんですか!?ネモリーノがそんなことを」
「本当です」
 ドゥルカマーラは答えた。
 
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