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チェネレントラ

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第一幕その七


第一幕その七

「男爵」
「はい」
「彼女も宮殿に呼んではどうかね」
「ご冗談を」
 彼はそれを聞いて笑った。
「この娘は単なる使用人ですよ。それを」
「構いません」
 しかし彼はそれでもそう答えた。
「わかって言っているのです」
「しかしですな」
「続けろ」
 ラミーロはダンディーニにそうハッパをかけた。
「いいですから。それとも彼女を宮殿に入れては何か不都合でもあるのかな」
「いえ、それは」
 そう問われてやはり口ごもった。
「では問題はなし、ということで」
「いえ、そういうわけにはいきません」
 それでも彼は引き下がらなかった。
「こちらにも何かと事情がありまして」
「次の国王の命令でも?」
「滅相もない」
 そう言われて彼は顔を真っ青にさせた。表情も凍りついてしまった。
「何故殿下のご命令に逆らえましょうか」
「ならばわかってるな」
「しかし衣装が」
「それなら問題はありません」
 ここでラミーロが出て来た。
「全てこちらで用意しますので」
「しかしですね」
「あの、もういいです」
 だがここで当のチェネレントラがそう申し出た。
「私のことはいいですから。皆さんもう私のことは気になさらないで」
「しかし」
 今度はラミーロがそれを止めようとした。だがチェネレントラの方が早かった。
「構いませんから」
 そして台所の方に姿を消した。ラミーロはそれを追おうとしたがここであの髭の老人が出て来た。
「先生」
「殿下」
 彼はラミーロに小声で言った。
「ここは私にお任せ下さい。いいですね」
「わかりました」
 彼はそれに頷いた。そしてここは彼に任せることにした。
 老人はまず裏手に回った。そしてそこから台所の方に来た。そこからそっと中に入った。見ればかなり酷い台所である。まるで廃墟のようであった。
「こんなところで料理ができるのだろうか」
 老人はそう思いながら中に入る。そして中を見渡した。
 そこにはチェネレントラが蹲っていた。そして一人泣いていた。
「これ」
 老人はそんな彼女に声をかけた。チェネレントラはそれを受けて顔をあげた。
「貴方は・・・・・・」
「悲しむことはないよ。私の名はアリドーロという」
「アリドーロ」
「そうじゃ」
 まずは彼女を安心させる為に名乗ってみせた。
「貴女の力になる為にここに参りました」
「けれど私は」
「悲しまれることはないのです」
 拒もうとするチェネレントラに優しい声でそう語った。
「貴女の本音を御聞きしたいのですが」
「はい」
「今の状況から出たいですね」
「はい」
 彼女はそれに答えた。
「今の惨めな立場はもう・・・・・・。けれど私にはどうすることも」
「できるのです」
 アリドーロはまた言った。
「貴女にはその力がおありです」
「そうでしょうか」
「はい。今あそこにいる者達ですが」
 マニフィコとその娘達を指差す。
「あの者達は所詮は道化です。近いうちに道化に相応しい目に遭うでしょう」
 そして今度はチェネレントラに対して言った。
「ですが貴女は違います。貴女のその御心は私は知っているつもりです」
「有り難うございます」
「ですからその御心に相応しい幸福があらなければなりません。そしてその幸福は」
 言葉を続ける。
「私が授けましょう」
「貴方が」
「はい」
 アリドーロはそれに答えて頷いた。
「その為にこちらに参ったのですから」
「お気持ちはわかりますが」
 だがチェネレントラの不安そうな顔は変わらなかった。
「何故私にそこまでして下さるのですか」
「先程の御礼です」
 アリドーロはそう答えた。
「貴女は先程私にパンとコーヒーをくださいましたね」
「はい」
「それへの御礼です」
「そんなことで」
 だが彼女はそう言われても信じようとはしなかった。
「私をからかっているのではないですか?」
「滅相もない」
 だがアリドーロはそれを否定した。
「宜しいですか」
「はい」
「御心を高く持って下さい。貴女はその気高く優しい御心故に救われるのですから」
「あの」
 だがチェネレントラはそれでも表情を暗いままにしていた。
「一体何のことかわからないのですけれど」
「それでしたら」
 彼はそれを受けて語りはじめた。
「貴女も神は信じておられますね」
「はい」
 チェネレントラはそれに答えた。
「勿論です」
「ならば話が早い」 
 アリドーロは話を続けた。
「神は心優しき者をお救いになられます。そう、貴女のような方を」
「私を」
「そうです。その為に私はここに来たのです。神は常に天界の玉座にて貴女を見ておられます」
「何と」
「神が貴女を救われるのですよ。今までの苦労、そしてその御心をお知りになられて。聴こえませんか」
 チェネレントラに語る。
「神の御声が。さあここを出ましょう」
「けれど」
「御心配なく。彼等も宮殿に向かいます。貴女に対して何かを言う者はいません」
 そう言ってチェネレントラを安心させた。そして彼女を裏から台所から出して導く。しかしチェネレントラはそれでも行こうとはしなかった。
「おや」
 アリドーロはそれを見て言った。
「まだ戸惑っておられるのですかな」
「はい」
 彼女は首を縦に振ってそれに応えた。
「信じられません、そんなお話」
「今はそうでしょう」
 彼はにこりと笑ってそう言った。
「ですが徐々にわかってきます」
「そうでしょうか」
「ですからこちらへ。そして馬車に乗りましょう」
 彼女をさらに導いた。チェネレントラは戸惑いながらもそれに従いついていくことにした。
 見れば表からはマニフィコと姉達が出ていた。そして馬車に乗せられ宮殿に向かう。チェネレントラはそれを横目で見ながらアリドーロに従って進む。
「さあ、これに」
 そしてアリドーロの馬車に一緒に乗った。そして彼女も何処かへ向かうのであった。
 
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