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チェネレントラ

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第三幕その四


第三幕その四

「男爵」
「お願いしたいことがあるのですが」
 マニフィコはどういうわけかかなり慌てている様子であった。
「何でしょうか」
「私の娘達のことですが」
「はい」
「急に熱が出たようでして」
「それはお気の毒に」
「それでお願いがあるのです」
「はい」
 マニフィコはダンディーニの素っ気無い様子にも一向に気付いてはいなかった。自分のことだけで頭の中が一杯であったからであった。
「僭越ながら」
「はい」
「ご選考を早くお願いしたいのですが」
 そう言って上目遣いにダンディーニを見た。彼の顔色を窺っているのだ。
「宜しいでしょうか」
「そんなことでしたら」
 ダンディーニは笑ってそれに応えた。
「もう済んでおりますよ」
「本当ですか!?」
「はい」
 飛び上がらんばかりのマニフィコに対してそう答えた。
「もうとっくに」
「それは有り難い。そして」
「はい」
 やはりダンディーニの醒めた態度には気付かない。
「それでは娘達のどちらが」
「いずれわかりますよ、すぐにね」
「どちらですか?ティズベですか?クロリンデですか?」
「まあまあ」
 彼ははやるマニフィコを嗜めた。
「そんなに焦らないで」
「しかし私は二人の父親ですので」
「秘密です」
「それはわかっておりますが」
「余程心配なようですな」
「はい」
 彼はそれを認めた。我慢なぞできる筈もなかった。
「仕方ないですな」
 ダンディーニはそれを受けて演技を再開することにした。
「それでは」
「はい」
 ダンディーニはここで辺りを見回した。
「誰もいませんな」
「蠅一匹として」
「ならばいいでしょう。それでは」
「はい」
「まあ落ち着いてお話しましょう。どうぞ」
 彼はここでマニフィコに椅子に座るように薦めた。マニフィコもそれに従った。
 二人は席に着いた。そして向かい合って話をはじめた。
「これで宜しいですな」
「はい」
 ダンディーニは頷いた。
「まあこれからお話することですが」
「はい」
「実に奇妙な話ではあります」
「奇妙な話!?」
「はい」
 マニフィコはそう言われて心の中で考えた。どうにもわからなかった。
(それは一体どういうことだ)
 ここで彼は妙なことを考えはじめた。
(わしと結婚したとかそういうことではないだろうな)
 だがそれは幸いにして違っていた。ダンディーニは言った。
「まずお約束願いたい」
「はい」
「誰にも言いませんな」
「勿論です」
 マニフィコは自信を以ってそう答えた。
「私程口の固い者はそうはおりませぬ」
「そうですか」
「はい。私は心に鍵付箱を持っておりますからな」
「それは何よりです」
 あまり信用してはいないような口調であったがマニフィコはそれには気付かなかった。そしてダンディーニはまた言った。
「それでは言いましょう」
「はい」
「貴方にだけに」
 あえてもったいぶってそう言う。マニフィコは神経を集中させた。
「賢明にして年老いた方は」
「はい」
「常に良き忠告を為さるものです」
「そのようですな」
「そうした方のご令嬢と結婚したならば妻をどのようにして遇するべきでしょうか」
(やった!)
 マニフィコはそれを聞いて心の中で小躍りした。
「そうですな」
 そして答えに入った。
「厚く遇するべきだと思いますが」
「そう思われますか」
「はい」
 彼は笑顔で答えた。
「そしてその賢者も厚遇するべきだと思いますが」
「ふむ」
「賢者を厚遇するのは国の務めでございます」
「それはそうですな」
「はい」
 彼は何とか自分の有利な方に話を持って行こうと考えていた。そして話をしていた。
「礼服の召使を三十人程」
「はい」
「馬も百十六頭程」
「はい」
「賓客がひっきりなしに来てもいいような屋敷」
「はい」
「宴の場にお菓子に馬車。多くのものが必要となります」
「また豪勢なものになりますな」
「御言葉ですが」
 彼はそれでもさらに付け加えてきた。
「それでもまだ足りないと思います」
「といいますと」
「はい」
 彼は答えた。
 
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