| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十七話 楽園からの追放者

             第四十七話 楽園からの追放者
ラミアが気付いた時。そこはベッドの上であった。
「う・・・・・・ここは」
辺りは暗闇であった。咄嗟に自分が捕虜になったのではとさえ思った。
「そんな筈がない。それに」
目が慣れたのを確認してから辺りを見回す。それであることがわかった。
「ロンド=ベルのどの艦でもない。だが状況は」
その時だった。不意に部屋の扉が開いた。
「!?誰だ」
「ご挨拶ね、W17」
「レモン様」
「ええ、そうよ」
レモンはラミアの言葉に答える。それから彼女のところに近付いてきた。ラミアは彼女に対して言うのだった。
「貴女がおられるのならここはシャドウミラーの。んっ!?」
ここは彼女はあることに気付いた。
「言葉が」
「言語中枢は直してあるわ」
ラミアにこう告げた。
「何時までもああいう喋り方では貴女のイメージがね」
「・・・・・・・・・」
ラミアは答えない。しかしレモンはその彼女にさらに告げるのだった。
「さて」
「むっ」
「わけを聞かせてもらいましょうか、W17」
「訳・・・・・・」
「ええ。貴女は心が動いたわね」
「そのことですか」
「否定しないのね」
ラミアがそれを否定しないのを確認してまた言ってきた。
「ということは事実なのね」
「彼等は一体何故」
ラミアにはそれがまだよくわからなかったのだ。
「私を」
「それがおかしいのよ」
「おかしい」
「ええ。貴女には、いえ」
レモンは言う。
「私のWシリーズには指令に対して疑問を持つどころかそれに逆らって行動するような思考ルーチンは組み込まれてないの」
「そうだったのですか。それでは」
ラミアはそれを聞いてある判断を出した。
「やはり私は壊れているのでしょうか」
「そうかもね」
今度はレモンが否定しなかった。
「付け加えて言うならそんな表情のパターンもね」
「この表情もですか」
「貴女それじゃあまるで人間よ?」
「レモン様」
ラミアはそれを聞いてレモンに問うた。彼女に顔を向けて。
「そこは修正して下さらなかったのですか?」
「するわけないじゃない」
しかしレモンはこうラミアに告げてきた。
「今までのWシリーズにはなかった完全な自我の確立」
「完全な自我の確立・・・・・・」
「そう、それに成功したのは貴女だけよ、W17」
「ですが私は」
「聞くのよ」
ラミアに今は黙るように言った。
「テストケースとしてW15にはゼンガー=ゾンボルトの人格をインプットしてあるけど」
「はい」
ヴォータン=ユミルのことである。
「それはオリジナルでなくコピー」
「コピー・・・・・・」
「擬似的なものに過ぎないわ」
こうも言うのだった。
「しかもW15を安定させるにはメイガス=ゲボの存在が必要だった」
「そこまで・・・・・・」
「けれど」
ここまで話したうえで話を動かしてきた。
「貴女には貴女の自我が生まれ」
そうラミアに語る。
「与えられた指令に従わず自分自身の意思で判断し、行動した」
「私が、ですか」
「ええ。つまり目覚めた方向が私のプランと全く正反対」
そこまで言った。
「素直には喜べないわね」
「それではレモン様」
ここまで聞いてようやくまたレモンに問うことができた。
「これから私はどうすればいいのですか?」
「これからなのね」
「はい。私が貴女やアクセル隊長なら捕らえた直後に処分するでしょう」
それはわかる。それがシャドウミラーの方針だからだ。ヴィンデルやレモン等限られた構成員以外は人形でしかないのである。
「それをしなかったということは」
「そう、決めてもらおうと思ったの」
「決める!?」
「そうよ。どう、戻ってこない?」
「レモン様がそうおっしゃるのならば」
それに応えてこう答えた。
「私は」
「駄目よ、それは」
しかしレモンはその答えは拒んだ。
「貴女が決めなさい」
「私がですか」
「ええ」
またラミアに述べた。
「Wシリーズとしての貴女自身の意思でね」
「私自身の意思で」
「そうよ。それでどうするの?」
じっとラミアを見据えて問うてきた。
「貴女の意思で。どうするのかしら」
「答えて宜しいのですね」
「ええ、いいわ」
答えることを保障してみせた。
「さあ、答えは」
「・・・・・・出ます」
それがラミアの答えであった。
「私はここを出ます。それで破棄されるのなら構いません」
「いいのね」
「彼等の真意を知りたいのです」
こうもレモンに答えた。
「だからこそ」
「わかったわ」
そこまで聞いて頷く。それと共に微笑んでもいた。
「後部格納庫にアンジュルグが置いてあるわ」
「アンジュルグが」
「そうよ。それに乗って行きなさい」
「えっ・・・・・・」
「安心していいわ」
またラミアに対して言ってきた。
「修理は完全、自爆装置は取り除いてあるわ」
「レモン様・・・・・・」
「味方が寝返る」
その言葉と顔が微笑んでいた。
「これも戦争の常よ。私達が望んだ世界にはつきもの」
「そうなのですか」
「ええ。ただ」
そのうえでまた言う。
「それが・・・・・・その世界を支えていくはずだったWシリーズの最高傑作だったのは皮肉だけどね」
「それが私の戦争なのですね」
「そうね。そして」
ここでレモンはまたラミアに問うた。
「ラミア」
「はい」
「行く前にもう一つだけ聞かせて」
「もう一つですか」
「ええ。ATXチームのエクセレン=ブロウニング」
今度はエクセレンの名前を出してきた。
「彼女はどんな子なの?」
「彼女とレモン様には関係が」
「あると言えば?」
「!?まさか」
この時のレモンの横顔を見てあることに気付いた。
「向こうではご姉妹では」
「さて、どうかしら」
「・・・・・・ですか」
今の言葉で真相がわかった。それもわかったのでラミアはそれ以上は聞かなかった。
「やはり」
「それで」
レモンはまたラミアに聞いた。
「どんな娘かしら」
「ベーオウルフのパートナー」
彼等の言うキョウスケのことである。
「掴み所のない不思議な方」
「そうなの、変わらないわね」
「私にもよくして下さいました」
こうもレモンに告げた。
「そして何処となく雰囲気が似ています。レモン様と」
「そう」
それを聞いてまたラミアに問うた。
「何故そのことを最初に報告しなかったの?」
「自分でもよく分かりません」
ラミアは俯いてこう答えた。
「ですが伝えてはいけないような気がしました」
「伝えてはいけないね」
「そしてそれはエクセレン=ブロウニングにも」
「わかったわ。じゃあラミア」
またラミアの名を呼ぶ。
「次に合う時は容赦しないわ」
「・・・・・・はい」
その言葉にこくりと頷いた。
「そういうこと。そしてね」
立ち上がり部屋を出ようとするラミアにまた言ってきた。
「まだ何か」
「エクセレンの話をしてくれた御礼に一つだけ教えてあげる」
今度はこう言うのだった。
「アギュイエウスの扉」
不意にこの言葉を出してきた。
「間も無く開かれることになるわ」
「!?若しやシステムXNが?」
「例の機能回復にはもう少し」
今度はこう述べてきた。
「後はコアを手に入れさえすれば」
(コア・・・・・・ヘリオスか)
それは彼等だけが知っている男であった。
(だがあの男の行方はまだ)
「システムXNの設置は最も安全な場所」
レモンはまたラミアに告げた。ラミアはそれを聞いてわかったようであった。
「ということはやはりツヴァイザーゲイン」
「さ、急ぎなさい」
その質問には答えずこう言うだけだった。
「またすぐに出撃するのだから」
「レモン様」
「何かしら」
「この世界だけではなく戦いを望む者には何処にも居場所などないのかも知れません」
不意にこう思ったのである。それを言葉にも出したのだ。
「特に私の様にその為だけに生まれた者には」
「それはどうかしらね」
「違うのでしょうか」
「それについてはこれからの戦いが」
答えずにこう言うのだった。
「それを証明してくれるでしょう」
「これからの戦いがですか」
「ええ。だからラミア=ラヴレス」
またその名を呼ぶ。
「行きなさい。貴女の運命が導く先にね」
「・・・・・・はい」
ラミアは部屋を出た。そしてシャドウミラーも。彼女は今探しに出たのだった。己とは何なのかを。それを探し見つけ出す為に出たのであった。
ラミアが出てから暫くしてから。シャドイミラーは軍事作戦に入っていた。指揮官はアクセルであった。
「進み具合はどうだ」
「順調です」
部下の一人が彼に答える。
「このまま和歌山に上陸が可能です」
「ならばいい」
アクセルはそれを聞いてまずは満足気に頷いた。
「ではこのまま進む。いいな」
「はっ」
「隊長」
しかしここで別の部下から報告が入った。
「どうした?」
「基地で異変が起こったそうです」
「異変!?」
「はい」
その部下が報告する。
「人形が一人いなくなったそうです」
「人形がだと。そういえば」
ここでアクセルはあることに気付いた。
「今回の作戦だが」
「何か」
「W15と16が見当たらんな」
主要な作戦には必ず参加する彼等がだ。そのことに気付いたのだった。
「後詰めに回ったか?それか」
彼は異変はそれかと思った。しかしだ。
「こちらアクセルだ」
彼は後方の基地に通信を入れた。そのうえで問うた。
「応答しろ・・・・・・何っ」
「何かありましたか?」
「馬鹿な」
アクセルはまずはその話を信じなかった。
「そんな筈がない」
「何かあったのですか?」
「W17が出撃した」
「W17がですか」
「そうだ、そんな筈がない」
アクセルは何故かそれを必死に否定するのであった。
「あいつは廃棄処分となった筈だ。それがどうして」
「何故でしょうか」
「わからん。俺もはじめて聞いた」
アクセルですらそうであった。だがそれは当然であった。全てレモンの独断だからだ。
「隊長」
ここでまた別の部下から報告が届いた。
「どうした、今度は」
「アンジュルグが来ています」
「何っ!?では」
それに乗るのは一人しかいない。わかっている。
「どういうことだ。さらにわからんぞ」
「そのアンジュルグが今」
姿を現わしたのだった。ラミアの前に。
「W17か」
「そうだ」
ラミアはアクセルの問いに答えた。
「御前は解体処分だと聞いていたぞ。何をする気だ?」
「戦うつもりだ」
それをアクセルに告げてみせた。
「私の意思で」
「何っ!?」
それを聞いてアクセルはさらにいぶかしむ顔になった。その顔で問うた。
「貴様、一体」
これはヴィンデル達も見ていた。ヴィンデルはレモンに対して尋ねた。
「レモン」
「ええ」
「何故W17があれに乗っている?」
彼女に顔を向けて怪しむ顔を見せていた。だがレモンは答えずにこう言うのであった。
「流石私の最高傑作」
微笑んでさえいた。
「逃げられたみたいね」
「貴様・・・・・・!」
「あら、本気だったら」
しかしレモンは笑ったまままた言うのだった。
「もうちょっと逃がすタイミングを考慮するわよ」
「・・・・・・ふん、まあいい」
ヴィンデルはこれ以上聞いても無駄だと思ったのかこれで話を止めた。
「今はな」
前線ではアクセルはさらにラミアに問うていた。警戒の目を露骨に向けてさえいる。
「W17」
「何だ?」
「御前は壊れたままのようだな」
アクセルはそう見ていた。やはり人形として見ていたのだった。
「そうかもね。けれど」
「けれど。どうした?」
「しかし・・・・・・それが今の私だ」
これが今のアクセルの言葉であった。
「今のな」
「言っている意味がわからん。しかしそれはいい」
アクセルはそれには構わなかった。それよりもであった。
「ここで処分してやる。いいな」
「処分か」
「そうだ。いいか」
ここで彼は周りに声をかけるのであった。
「他の者は手を出すな」
「えっ」
「隊長、それは一体」
「奴の相手は俺がする」
こう部下達に告げる。
「そういうことだ。いいな」
「ハンデというわけか?」
ラミアはそれを聞いてこう考えた。
「アクセル=アルマー」
「壊れた人形の始末など俺一人で充分だ」
それが彼の答えであった。
「御前達はこのまま和歌山に向かえ」
「和歌山にですか」
「そうだ」
部下達に言う言葉はこれであった。
「わかったな」
「・・・・・・ではここは隊長が」
「そうだ。わかったな」
「はい、それでは」
「お任せします」
こうして彼等は和歌山に向かう。といってももうすぐそこに和歌山の海岸が見えている。アクセルはあらためてラミアと対するのであった。
「W17」
「ええ」
二人は対峙していた。完全に。
「来い」
「わかったわ」
ラミアも彼の言葉を受けて頷く。
「アクセル、私は貴方を倒して」
それを彼にも言う。
「自分の道を切り開くわ」
「この状況でか」
「そうよ」
その言葉にも頷いてみせる。
「どうあってもね」
「ふん」
それを聞いてもアクセルはどうとも思ってはいなかった。
「分析能力も壊れているようだな」
彼は言う。
「だが気にする必要はない。御前はここで完全に壊れることになる」
「私は死なない」
しかしラミアは壊れるとは言わなかった。
「何があろうとも」
「ならば・・・・・・壊れてしまえ!」
アクセルが先に攻撃に入った。
「俺のこの手でな!」
「私は・・・・・。生きる」
そのアクセルの攻撃をかわしながら言う。
「これからの未来の為に・・・・・・何があっても!」
「そうしてあがけ」
攻撃を一撃かわされてもアクセルは戦意を衰えさせてはいなかった。
「そして・・・・・・完全に壊れろ!」
また攻撃を繰り出そうとする。その時だった。
「隊長!」
「今度は何だ!」
「敵です」
あらたな報告であった。
「和歌山の海岸に。敵が現われました!」
「何だと!?まさか!」
「はい。そのまさかです!」
彼等はこう報告し続ける。
「ロンド=ベルです。もう布陣を終えています!」
「来たのか!ここにまで!」
「おい、今度は和歌山かよ!」
シンもいる。彼が敵に対して叫ぶ。
「相変わらず何処にでも出て来るよな!手前等!」
「くっ、ここにも来たのか」
アクセルはそのことをまた呻いた。
「しかしだ。だからといって退くつもりはない」
「そうかい。じゃあ撃退してやるぜ!」
シンらしい言葉であった。
「ここでな。覚悟しな!」
「覚悟なぞという言葉は知らないな」
アクセルの言葉は冷淡な響きを持っていた。
「ただ戦うだけだ。それがシャドウミラーだ」
「相変わらずだな、あんたも」
今の彼の言葉を聞いたカガリが呟く。
「いい加減わかろうとはしないのか」
「御前と同じ頭なんだろ」
そのカガリにシンが言う。
「構造レベルがな」
「何だとっ!?」
「うっ、またはじまったのか」
アスランはそんな二人を見て顔を顰めさせていた。
「どうしてあの二人はこう」
「御前に言われたくはない!」
カガリはムキになってシンに言い返す。
「御前だって何だっていうんだ!」
「俺はザフトのトップガンなんだよ!」
「それがどうした!」
「士官学校だって首席だったんだ!」
「嘘つけ!」
カガリは速攻でそれを否定する。
「御前が勉強できる筈がない!」
「記憶力だけはよかったからな」
「そうですね」
ディアッカとニコルはそれは知っていた。
「一応問題憶えるのだけはしていたからな」
「あと実技はできましたから」
結局士官学校の成績では頭はわからないということであった。
「どうして御前みたいな馬鹿が!」
「俺が馬鹿だと!」
「それ以外に何が見える!」
「じゃあ御前は宇宙一の馬鹿だ!」
言うに事欠いてシンもかなりのことを言う。
「この馬鹿女!胸も尻もないマナ板!」
「マナ板ァ!?」
「しかも背も高くないしな」
「いや、シン君もねえ」
「はい」
それを後ろから聞いているユウナとアズラエルが話をしていた。
「いつもながら見ているねえ」
「全くですね」
「こら、御前等!」
カガリはその二人にも矛先を向ける。
「御前等が言ってどうする!」
「だってねえ」
「本当のことですから」
二人も情け容赦がない。
「いや、僕としてはね」
「何だ、ユウナ」
「このまま嫁の貰い手がいないんじゃないかって本気で心配だし」
「気持ちはわかります」
アズラエルも同じことを考えていた。
「このままでは確実に無理かと」
「やっぱりそうですよね」
「そこまで言うか」
「では言われないようにだね。してもらわないと」
「少なくともお姫様らしくです」
「無理だろ」
二人に続いてまたシンが言わなくていいことを言う。
「時空を超えるより難しいぞ、それは」
「おい、それは前にやったぞ」
だがそれにリュウセイが突っ込みを入れる。
「満を持してってわけじゃなかったけれどな」
「あっ、そういえばそうか」
シンも言われてそれを思い出した。
「俺はいなかったけれどな」
「そうだったな。まああの時はあの時で大変だったぜ」
「そうらしいな」
「けれどよ、カガリはやっぱり」
「何で私はこうも皆から言われるんだ」
彼女にとっては不機嫌極まりない話ではある。
「全くどうしてだ」
「それはいいからカガリ」
ユウナが話を打ち切ってきた。
「どうした?」
「戦いがかなり激しくなっているんだけれど」
「んっ!?」
見ればシャドウミラーの軍勢が次々と来る。しかも。
「何か敵が本気になったらしくて。ほら」
「なっ、あれは」
ヴィンデルのマシンまで来ていた。
「ヴィンデル=マウザーまでだと!?」
「だからさ、お喋りしていたら怪我するよ」
ユウナはこうカガリに告げた。
「わかったね。じゃあクサナギも今敵を相手にしているからこれで」
「ああ、またな」
「しかしあれだな」
リュウセイがここでまた言う。
「何だ?」
「クサナギって結構狙われてねえか?」
彼はカガリにそう述べた。
「いっつも敵に囲まれたりしてるよな」
「そういえばそうだな」
カガリも言われてそれに気付く。
「何でだ、また」
「ユウナさんがそうした星の巡り合わせになるんだろ」
シンはそう見ていた。
「不幸を招き寄せるっていうかな」
「不幸ねえ」
「そうした顔してるしな、あの人」
「そうね。それは確かに」
今のシンの言葉にルナマリアが頷く。
「何かあるとすぐにトラブルには巻き込まれるって感じよね」
「そうなんだよ。何かあの一はな」
「カガリといいね」
「また私なのか」
そんな話をしながらも彼等も戦っていた。その中でギリアムはヴィンデルに対して向かっていた。そうして通信を彼に対して入れる。
「応答せよ」
まずはこう問う。
「シャドウミラー総帥ヴィンデル=マウザー」
「何者だ?」
ヴィンデルはその通信に応え彼に問うた。
「ヘリオス」
まずギリアムはこう名乗った。
「こう言えばわかるだろう」
「何だとっ!?」
「まさか!」
それを聞いてヴィンデルだけではなくレモンも驚愕の顔を見せてきた。
「馬鹿な・・・・・・」
アクセルもまた同じだった。
「顔はともかくあの声は」
「ふん・・・・・・」
だがヴィネルはすぐに何とか冷静さを取り戻した。そうしてギリアムに対して言うのであった。
「久し振りだなヘリオス」
まずは彼をこう呼んだ。
「ヘリオス=オリンパス。それが御前の素顔か」
「そうなるな」
こうヴィンデルに答えた。
「ヘリオス=オリンパスだと」
「ギリアムのことか」
ゼンガーとレーツェルはそれを聞いてそれぞれ呟いた。その間にも二人のやり取りは続く。
「ヴィンデル博士、再び御前と会うことになるとはな」
「貴様が残したシステムXNのおかげだ」
ヴィンデルは彼に応えてまた述べる。
「やはりアギュイエウスの扉はファーストジャンパーである貴様に通じていたようだな」
「かもな」
「ヘリオス」
今度はレモンが彼に言ってきた。
「随分と捜したのよ、貴方を」
「お互いにな」
「何時気付いた?」
「シュウ=シラカワより前に」
それがギリアムの答えであった。
「最初にこの世界で御前達を見た時からだ」
「最初からわかっていたのね」
「そうだ。新たな謎の勢力」
彼は言う。
「それだけで察しがついた」
「すぐにか」
「そしてだ」
さらに言葉を続けてきた。
「システムXNはお前達に制御できるものではない」
「何っ!?」
「その機能は限定されているとは言え下手に使用すれば世界の因果律が狂う」
深刻な顔であった。ヴィンデル達を見据えながら。
「アギュイエウ、そしてリュケイオスの扉は二度と開かれてはならないのだ」
「確かにね」
レモンは笑ってギリアムのその言葉に応えた。
「貴方ですらこちらに飛ばされる位の不安定さだからね」
「その通りだ」
「おかげで私達も多くの仲間を失ったわ」
レモンは言う。そしてギリアムもまた。
「システムXNはこの世界に存在してはならない。そして」
「そして?」
「御前達もな」
「私もまた」
ラミアはそれを聞いて呟く。
「この世界には・・・・・・だが」
そんなラミアをよそにヴィンデルはギリアムを見据えて言うのであった。
「貴様に言えることか」
「だからこそだ」
またギリアムは言う。
「俺はこの世界で待っていた。システムXNを悪用する者を、追放者達を」
それが彼等だというのだ。
「その存在を抹消する為に」
「ヘリオスよ」
だがヴィンデルはここでそのギリアムに対して言うのであった。
「我等に降るのなら今のうちだぞ」
「答えはわかっている筈だ」
しかしギリアムの返事は即答であった。しかも有無を言わせぬ口調である。
「断る」
「ならば力ずくでも従わせるまでだ」
「来るか。ならば」
「ここで決着をつける」
ヴィンデルはさらに言ってきた。
「貴様等ロンド=ベル全員まとめてな」
「いえ、博士」
「貴様は」
ラミアがここでヴィンデルに言ってきた。
「それはまず・・・・・・今の彼等相手では」
「むっ、あれは」
レーツェルも彼女に気付いた。
「どういうことだ。あちらに戻ったのではないのか」
「Wシリーズ」
ここでギリアムははじめて彼女に声をかけた。それまで一言として声をかけてはいなかったというのにだ。今ここではじめてであった。
「問おう。君は我々の味方なのか?」
「信じてもらえるのなら」
「信じてもらえるだと」
「私は・・・・・・まだ自分がわからない」
その声には彼女が今まで見せたことのない感情があった。迷いであった。
「だが。それをロンド=ベルで見つけられるのなら」
「そうか、わかった」
彼女のその言葉を受けて頷くのであった。
「いいだろう。ゼンガー、レーツェル」
そのうえで二人の戦友に問うた。
「異存は?」
「ない」
「行動でその証を立てるのであれば」
それが二人の言葉であった。この二人が言うのであれば他の面々にも異存はなかった。彼等にはそれだけの重みがはっきりとあった。
「・・・・・・了解」
こうしてラミアは再びロンド=ベルに戻ることになった。しかしその彼女にアクセルが言うのであった。
「甘いな」
表情を変えることなく言う。
「その甘さが新しい世界の妨げになるとわからんようだな、御前には」
「今まではわかろうともしなかっただけだ」
だがラミアはここでこう言葉を返すのだった。
「私は指令さえこなしていれば良かった。だがその味を知ってしまった」
「その味?」
「そうだ」
またアクセルに対して告げる。
「それだけだ、アクセル=アルマー」
「ふん」
しかしアクセルはラミアの今の言葉も一笑に伏すのであった。彼はまだわかろうともしていない。だからこそであった。
「ならば御前はこの世界をどうする気だ?」
こうラミアに対して問う。
「戦いを終わらせ平和をもたらすつもりだとでも言うのか?」
「それは」
「W17よ」
今度はヴィンデルが彼女に言ってきた。
「平和は何も生み出さん。ただ世界を腐敗させていくのみ」
それこそが変わらない彼の思想であった。
「そして闘争を忘れた者達は兵士を・・・・・・軍を切り捨てる」
こうも言う。
「我等の存在を否定するのだ」
「わかっておられないようですね、ヴィンデル様」
だがラミアはこうそのヴィンデルに言い返すのだった。
「何だと?」
「戦いに他人を巻き込み、殺すことでしか存在を見出せない」
こう語る。
「その後に何が残りますか?生まれるものと失われるもの」
次にこう。
「それは等価値ではない彼等の中の一人もそう言っていたはず」
「貴様・・・・・・」
「ラミア」
今度はレモンが彼女に声をかけてきた。しかしそこには何故か優しい響きが込められている。
「知恵の林檎を食べたアダムとイブは楽園から追放された」
聖書の楽園追放であった。
「それでいいのね」
「承知です」
だがラミアはそれも受けた。毅然として。
「ならば私は自分の足で次の楽園を探しましょう」
「わかったわ」
ラミアはアクセルとの戦いを続ける。ロンド=ベルは上陸しようとするシャドウミラーの軍勢を水際で撃退していく。それを見てヴィンデルは呻いた。
「くっ、相変わらずしぶとい連中だ」
「流石というべきですか。それで博士」
「どうした?」
「連邦軍の追撃部隊も後方に向かってきてるようですが」
「連邦軍のか」
「このままでは挟み撃ちに遭います」
「そうだな。しかも」
(システムXNはまだ完全ではない)
ヴィンデル自身が最もそれをわかっていた。
(そして戦力の立て直しも図らねばならん。ここでの無理は禁物か)
「レモン」
考えたうえでレモンに問うのだった。
「基地の補給作業は」
「完了しています」
「そうか。ならばエルアインス隊を出撃させろ」
「はっ」
こうしてまた部隊を出した。それをロンド=ベルに向けるのだった。それと共に。
「ヴィンデルが逃げる!?」
「そして」
その新たな部隊を見て皆気付いた。
「こちらの足を止める気か!?」
「待て、ヴィンデル=マウザー!」
レーツェルとギリアムが叫ぶ。とりわけギリアムが。
「逃がしはせん!」
「ヘリオス」
しかしヴィンデルはそのギリアムに対して言うのだった。
「例えファーストジャンパーの御前であっても我等を止めることは出来ん」
「何っ!」
「レモン」
そう言ったうえでレモンに顔を向けて継げた。
「はい」
「システムXNを使うぞ」
そしてこう告げた。
「通常転移だ」
「えっ!?ですが」
レモンはヴィンデルの言葉を聞いて驚きの声をあげた。
「あれの修理はまだ終わっていません。今の状態では距離が」
「構わん」
しかしヴィンデルは言うのだった。
「この場から離脱できればいい」
「ですが博士」
それでもレモンは言う。
「私達がずっと捜していたヘリオスを放っておいてですか」
「万が一にもここでシステムXNをこれ以上損傷させるわけにはいかん」
「そうですか」
「そうだ。それに」
またヴィンデルは言った。
「例えコアを手に入れたとしてもシステムが壊れては意味がない」
「では」
「最悪の場合奴なしでもあの機能は発動できる」
こうもレモンに告げた。
「我々がこちらへ来たようにな」
「その分確実性には欠けますが」
「よい。ではアクセルよ」
「いや、私はまだ」
しかしアクセルはまだ退こうとはしないのだった。
「決着がまだ」
「本当かしら」
しかしレモンが悪戯っぽく笑ってそのアクセルに言うのだった。
「ベーオウルフが来るのを待ってるのではないの?」
「何とでも言え。だが」
アクセルはそれは聞き流してレモンに述べる。
「後で合流地点を教えろ」
「わかったわ。それじゃあ」
「それでいい」
二人はこれで撤退しようとする。しかしそれをギリアムが制止しようとする。
「待て!!」
「待てと言われて待つつもりはないわ」
レモンはこう告げて撤退に入るのだった。
「じゃあね、ヘリオスさん」
「また会おう」
ヴィンデルも彼に言ってきた。
「例の機能を回復させた後でな」
二人の姿が消えた。完全にであった。
「反応が消えた」
レーツェルがヒュッケバインのレーダーを見ながら呻く。
「追跡は・・・・・・不可能か」
「くっ!」
ギリアムはそれを聞いて歯噛みした。
「ここまで来て・・・・・・!」
「まだだ」
だがここでアクセルが彼等に告げてきた。
「まだ終わりではないぞヘリオス」
「知るまい」
その彼にギリアムは言うのだった。
「御前達は知るまい」
「!?何をだ」
「この世界は我々という異物を受け入れながら奇跡的なバランスで保たれている」
「何っ!?」
「本来なら崩壊していてもおかしくはない」
そう言うのだった。真剣な顔で。
「有り得ないのだ、この様な世界は」
「ならば」
アクセルはその言葉を聞いて怪訝な顔になった。そして言う。
「何故俺達はこの世界は存在し続けている?」
「何かの力が」
ギリアムは呟く。
「何者かの意思が作用しているのだ」
「何者かのだと?」
「さながらこの世界はその者が作り出した実験室のフラスコ」
ギリアムはこの世界をフラスコと表現した。
「その実験の結果が出た時我々の存在は」
「だから干渉をやめろと言うのか」
「そうだ」
ギリアムは言う。だがアクセルも言うのだった。
「もう遅い」
「遅いだと」
「そうだ。この世界を創り出した者が何であろうと俺達を導いた者が誰であろうと」
こう言うのだ。
「俺は俺の意思で俺の信じるものの為に戦っている」
「・・・・・・・・・」
ラミアはそれを黙って聞いていた。あえて何も言わない。
「だからだ。退かん!」
「ならば!」
ゼンガーがそれに応えて叫ぶ。
「ここは退けん。我等もまた己の信念の為に」
叫ぶのだった。
「この世界を存続させる為に戦っている!」
「いいだろう。ならば」
アクセルもゼンガーのその言葉を受けた。
「どちらの方法が正しいか、ここでその答えを出すまでだ!」
そしてソウルゲインのスイッチを押した。
「リミット解除!ソウルゲインよ御前の力を今一度奴等に示せ!!」
その力を解放する。それでラミアではなくゼンガーに対して突き進むのであった。
「相手にとって不足なし!」
ゼンガーもその彼に受けて立つ。
「いざ尋常に勝負ッ!!」
二人が激突しようとする。しかしその時だった。
「待ってくれ」
キョウスケが来たのだった。
「どういうわけだ」
アクセルを見ながら言う。
「今の御前を見ていると俺は」
「来たか」
アクセルはそのキョウスケを見て笑みを浮かべた。憎しみに燃え戦いに飢えている笑みであった。
「ベーオウルフよ」
「ベーオウルフだと」
「あちらの世界の御前だ」
ギリアムが彼に説明する。
「御前はアクセルと因縁があったのだ」
「そうだったのか」
「今まではこの牙を見せないでいた」
アクセルはこうも言う。
「だが。これからは!」
「気をつけろ、ナンブ」
ギリアムは今度は忠告してきた。
「あの男は。強いぞ」
「そうか」
「それでもいいのだな」
「構わない」
それもいいとするのだった。
「俺はそれでも。闘うだけだ」
「そうか。ならいい」
「うむ」
キョウスケは前に出る。そうしてアクセルに対して言ってきた。
「アクセル=アルマー」
まずは彼の名を呼ぶ。
「行くぞ」
「撃ち貫けると思うな」
アクセルはその彼に言い返してきた。
「この俺を」
「賭けるか?」
だがキョウスケは臆するところがない。逆にアクセルを見据え返してまた言ってきた。
「チップは互いの命だ」
「いいだろう」
そしてアクセルもそれを受ける。
「来い!」
「アクセル=アルマー」
キョウスケはまた彼の名を呼んだ。
「ケリをつけさせてもらうぞ」
そのまま突き進む。アクセルと同じく。両者の拳が激しく撃ち合った。
力が拮抗していた。しかし最初に崩れたのはアクセルであった。
「ぬうっ!」
「言った筈だ」
崩れその顔を強張らせるアクセルに対してまた告げる。
「俺は分の悪い賭けは嫌いではない。そして」
さらに言う。
「多くの場合それに勝ってきたとな」
「まだだ!」
劣勢に陥りながらもまだ力を出すのであった。だが。
それも適わなかった。アクセルのソウルゲインが後ろに吹き飛ばされる。何とか踏み止まった時その全身が傷ついてしまっていた。
しかし。それでもまだ彼は立っていた。口元に血を滲ませながらも立っていた。
「まだだ・・・・・・」
その血と共に呻く。
「勝負はまだだ。俺は・・・・・・!」
「そこまでよ」
しかしここで声が届いた。
「アクセル、戦いを止めて」
「レモンか」
「ええ。こちらは無事に転移したわ」
こうアクセルに告げた。
「今から合流地点の座標を送るわね」
「水を差すな!」
だがアクセルはそれを拒むのだった。
「俺の戦いに!」
「何を言っているのかしら」
しかしレモンはそんな彼の激情に冷淡な声をかけた。
「私達の、でしょう?」
「むっ!?」
「それとも」
そしてさらに言う。
「同じ過ちを繰り返すつもりなのかしら?」
「同じか」
「そうよ。言うわ」
さらに言葉を付け加えてきた。
「重要なのはこれからよ」
「これからか」
「だから目先の結果に囚われないで」
「・・・・・・わかった」
遂にアクセルもその言葉に頷くのだった。そしてキョウスケに顔を向けて言った。
「ベーオウルフ」
まずはこの名を。
「この勝負、預けるぞ」
そう告げて戦場を離脱する。またしても瞬間移動であった。
「くっ、あれがシステムか」
「そうだ」
キョウスケにギリアムが答える。
「あれがある限り。用意には」
「わかった。では諦めるしかないか」
「そういうことだ。シャドウミラーの軍勢もいなくなった」
見れば彼等も撤退していた。いつものように。
「これもだ。以前からそうだったな」
「そうだな。だがタネはわかった」
どうして彼等が姿を消して去るのか。それがわかったのだった。
「ではな。今は」
「大阪に戻るか」
「そういうこと。それに」
ここでエクセレンが話に入ってきた。
「どうした?」
「帰ったらパーティーよ」
にこりと笑っての言葉であった。
「美人さんの帰還にね」
こう言うのだった。こうして何はともあれロンド=ベルはラミアと共に大阪に戻った。
ラー=カイラムで。ラミアはブライトの前にいた。そこに皆が集まっている。
「つまりだ」
ブライトがまず言った。
「ゼンガー少佐達が言ったことは正しかったということか」
「私を信じて下さって有り難うございます」
「うん、それではだ」
それからブライトがこう述べた。
「ここにいる皆に真実を話してもらおう」
「わかりました。それでは」
それに応えてまずはこう前置きしてきた。
「何からお話しましょうか」
「そうだな」
ブライトはそれを聞いて顎に手を当てて考える顔になった。それからまた述べた。
「シャドウミラーとは何者か、からでいこう」
「彼等は地球連邦軍特殊任務実行部隊」
「特務隊のことか!?」
カイはそれを聞いてかつての自分のいた部隊を思った。
「だが名称が違うぞ」
「それにだ」
今度は霧生が言った。
「シャドウミラーなんて特務隊は聞いたことがないんだけれどな」
「しかし」
ラミアは彼等のその疑問に答えた。
「向こう側の連邦軍には存在していたのです」
「というとですね」
イーグルはその言葉で気付いた。
「セフィーロのあったあの世界と同じようなものでしょうか」
「あっ、そうじゃな」
アスカもイーグルのその言葉に頷く。
「別世界というわけじゃな」
「そうやけど何か」
「どうしたの、タータ」
「微妙にちゃうみたいやで」
「そうなの」
「タータ王女の言う通りです」
ラミアはこう答えた。
「違う世界?」
「そう。今からそれについてご説明しましょう」
今度はレフィーナに答える。そこから説明をはじめた。
「新西暦一六〇年代から盛んになったスペースコロニーの独立自治権獲得運動、ID4」
まずはそこから話すのだった。
「それは地球政府とコロニーの間に大きな確執を生みました。コロニーの台頭を恐れた地球連邦政府はID4を弾圧し」
「大体それはこっちと同じみたいだな」
「そうだね」
カイとハヤトはそれを聞いて頷き合った。
「連邦とコロニーの対立は激化し、ついには機動兵器を使用したテロ事件が数多く発生しました」
「何処でも一緒かね」
「愚かな話だ」
デュオとウーヒェイは呻くように呟いた。
「そしてある事件によりコロニーの命運は大きく変わることになったのです」
「もしやそれは」
レフィーナはそれを聞いて察した。
「エルピスで起きた」
「はい。地球至上主義のテロリストがスペースコロニー=エルピスへ潜入」
レフィーナ達に述べる。
「内部で毒ガスを使用し、住人の大半を死に至らしめた事件です」
「!?おかしいわ」
エマがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「あの事件はそな結末じゃ」
「犠牲者の中には連邦宇宙軍総司令マイヤー=フォン=ブランシュタイン」
「何っ!?」
「父上がか」
ライとレーツェルはその名を聞いて目を光らせた。しかし話はそれで終わりではなかった。
「その長男エルザムと彼の妻であるカトライアも含まれていました」
「なっ!?」
「何だと!?」
それを聞いてさしものレーツェルとゼンガーも唖然となった。
「馬鹿な、そんなことが」
「起こったというのか」
「義姉上だけでなく父と兄までもが」
ライも驚愕の顔のまま固まっていた。彼にしては有り得ないものであった。
「まさか・・・・・・」
「いや、待つんだ」
ここで光が言う。
「じゃあ今ここにいるレーツェルさんは誰なんだ!?」
「まさか幽霊!?」
「本当ですの!?」
海と風も光の言葉を耳にして慌ててレーツェルを見る。しかし彼はこう言葉を返すのだった。
「悪いが私の足はご覧の通りだ」
「そうだよ。じゃあ」
「ラミアの言う向こうの世界って」
「まさか」
「そうだ」
ギリアムが光達に答える。
「並行世界、パラレルワールドだ」
「それかよ」
カチーナはそれを聞いて納得した顔になった。だが歯噛みもしていた。
「世界は常に分岐の可能性を持っている」
ギリアムは言う。
「我々が存在するこの世界とは別の並行した世界」
「バイストンウェルとかとは別のだよな」
トッドが問うた。
「そうだ。極めて近く、そして限りなく遠い世界」
ギリアムはこう表現する。
「それがパラレルワールドだ」
「はい」
ラミアも彼のその言葉にうなずいて述べる。
「我々はその中の一つからやって来ました」
「そうだったのか」
「それでなのか」
ダバとショウもそれを聞いて頷く。
「そして」
ラミアはさらに言葉を続ける。
「私がいた世界とこの世界では多くの事柄が異なっています」
「ではエルピス事件の後は?」
ライはそれを問うた。
「コロニーの治安維持とID4の弾圧が強化され結局コロニーが独立することはなかった」
まずはこう説明が為された。
「そしてDC戦争が勃発」
「DC戦争!?」
「ディバイン=クルセイダーズとの戦争だ」
そうタスクに答える。
「あちらの世界では連邦軍と彼等が戦ったのだ」
「そうだったのかよ。あのビアン博士と」
これもこの世界とは全く違うことであった。
「我々連邦軍は苦戦の末ビアン博士を打ち倒し勝利を収めた」
「それからは?」
今度はリョウトが問うた。
「その後ビアン博士が示唆した異星人の脅威を重く見た連邦軍は地球圏防衛の為に大幅な軍備増強を敢行。その結果多種多様な機動兵器が開発された」
「多種多様?」
「そう、Z&R社のヴァルキュリアシリーズ、FI社のアサルト=ドラグーン」
リョウトに応えて説明を続ける。「イスルギ重工のリオンシリーズ、マオ社のパーソナルトルーパー等だ」
「最初の二つは聞いたことがないメーカーだな」
イルムはそれを聞いて首を捻った。
「そこも違うんだな」
「そしてその中でも数多く生産され連邦軍の主力兵器となったのが」
ラミアの説明は続く。
「マオ社のゲシュペンストマークツーとイスルギ社のリオンだ」
「ゲシュペンストマークツーが数多く生産!?」
「何か凄いな」
それを聞いてリュウもスレッガーも顔を顰めさせる。そのうえdえまた尋ねた」
「それでどれぐらい作られたんだ?」
「およそ三千機」
「三千だと!?」
「こちらと桁が違いすぎるぞ!」
これを聞いて二人だけでなく皆驚きを隠せなかった。
「しかしだからか」
だがイルムはこれを聞いてあることを納得するのだった。
「シャドウミラーの兵器の数の謎が解けたぜ。全部御前達が向こう側から持ってきた機体だったんだな?」
「そうです」
やはりその通りだった。ラミアはイルムのその質問に答えたのだ。
「やっぱりな」
「それでだ」
今度はリンが問う。
「こちらのゲシュペンストと仕様が違うのは向こうで改良が重ねられたからか」
「はい。そしてそれは他の機体にも同じことが言えます」
「他の機体も」
「数も性能も違ったのはそれでか」
「そうです。その結果です」
ラミアの答えは的確だった。少なくとも彼等が今までシャドウミラーに対して抱いていた疑問が次々と解けていった。そして。クワトロは核心を問うた。
「では最大の疑問に答えてもらおう」
「・・・・・・・・・」
「シャドウミラーがこちらの世界へ来た理由だ。
彼は問う。
「そしてその方法は」
「理由・・・・・・」
ラミアはまずは言葉にワンクッション置いた。それからまた言う。
「私はよく知りませんがデータはあります」
「データがか」
「そうです。緩やかな腐敗」
まずはそれであった。
「平和という安息を隠れ蓑に連邦は、いや世界は少しずつおかしくなっていったと言います」
さらに言う。
「ヴィンデル様はその世界を憂いクーデターを起こしました」
「絶えず争っている世界を作る為にだな」
「そう、戦争は終結してはならない」
今度はアムロの言葉に答えた。
「その後に待つのは平和という名の腐敗。だが闘争が日常である世界ならそれは永遠に起こることはない」
「そんなもの!」
カミーユはその言葉を一言で言い捨てた。
「理論上のものだ!起こる筈がない!」
「理論上と言うよりは確率の問題だ」
しかしラミアは彼にも言う。
「闘争を日常とする世界であれば腐敗が起こる可能性は低い」
「なら何故それをこちら側で実証しようとする?」
「無責任な言い方かも知れないけど向こうでやってよって感じ?」
キョウスケは無表情だがエクセレンは顔を顰めさせていた。
「そうよね、全くよ」
ミレーヌもそれに同意する。
「迷惑よ、そんなの」
「シャドウミラーがこちら側に来た理由」
だがラミアはまた語りはじめた。
「それはある部隊に敗れたからです」
「その部隊ってもしかしてヴィンデルって人が言ってた」
リオが問う。
「そう。ゲシュペンストマークスリーIを隊長機とした連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズ」
まずはこう答えるラミアだった。
「隊長はキョウスケ=ナンブ大尉」
「俺か」
「ああ、それでなのね」
エクセレンもここでわかった。
「どうして彼がキョウスケにこだわったのかね。お姉さんわかったわよん」
「つまりあっちの世界で中尉にコテンパンにされたのね」
「そうだな」
カーラとユウキはこう考えた。ラミアはそれにも答える。
「データでは互角だったと聞いています」
「データではか」
「しかしベーオウルブズは今のロンド=ベルとほぼ同じ戦力を持ち」
「俺達とか」
「結果シャドウミラーは彼等に追い詰められてしまったのです」
「それでこちらに移転したのね」
「はい」
タリアの問いに頷く。
「じゃあその方法は?」
リツコが尋ねる。
「どうやってここに」
「それについては俺が説明しよう」
ここでギリアムが出て来た。
「話はもうわかっているな」
「あ、ああ」
「あんたもだったな」
皆それはもうわかっていた。だからこそ彼の言葉に頷くことができた。
「向こうでの俺はテスラ研でシステムXNという装置の研究に従事していた」
まずはこう言う。ツグミはそのシステムに目を止めた。
「システムXN!?」
「空間、次元転移装置のことだ」
ギリアムはすぐにそれに答える。
「二基存在しそれぞれ『アギュイエウス』、『リュケイオス』という」
「そうなのですか」
「だが俺はアギュイエウスの起動実験に失敗し」
ここからが重要であった。
「単身この世界へ飛ばされてしまった」
「ではヘリオス=オリンパスという名前は」
「向こうの世界での俺の名だ」
ファに対して答える。
「そして元の世界へ戻れなくなった俺はギリアム=イェーガーと名乗りこの世界で生きる決意をした。その後は皆が知っている通りだ」
「何と・・・・・・」
「それで今ここに」
「皆には今まで真実を話さずすまなかったと思っている」
それは謝罪した。
「だが後続者が現れる可能性がある以上…俺は素性を明かすわけにはいかなかった」
「それはシステムXNを使って転移してくる者のことか?」
「そうだ」
ゼンガーの言葉に応えた。
「アギュイエウスとリュケイオスが向こう側に残っている以上俺と同じようにこの世界への転移を試みる者は必ずいる」
彼はそう察していたのだった。
「だがもしそれがテスラ研の人間ではなくシステムXNの悪用を目論む者だったら」
「その場合は?」
「その者は俺を捜し出し己の目的の為に利用しようとするだろう」
「利用!?」
アキトがそれを聞いて首を傾げさせた。
「それは一体」
「アギュイエウスは作動の確実性を向上させる為俺とリンクするように作られていた」
これが答えであった。
「つまり俺はシステムXN、アギュイエウスのコアとも言える存在なのだ」
「それで御前は
「そうだ。こちら側で素性を隠し次なる転移者を待ち続けた」
ギルアムはまたゼンガーに応えて語る。
「そしてその結果現れたのが」
「シャドウミラーだったというわけか」
カイが述べるとギリアムはまた答える。
「ええ。ただ俺と彼らの転移タイミングには大きな差があったようです」
「そう。シャドウミラー転移したのはファーストジャンパーのヘリオス、いえギリアム少佐が転移してから約二年後のことでした」
「あれだけの数をか」
「同一世界内での空間転移とは異なり、時空転移は不安定かつ不確定要素が多い」
ラミアは一応はこう言う。
「しかしギリアム少佐の頃と違いあちらにも拠点がある。だから戦力は」
「かなりのものというわけですね」
「そうです」
カラスの言葉に答えた。
「だが私の言語回路がやられたのもその転移の影響だ」
「言語回路!?」
「ラミアさん、貴女はひょっとして」
「私の正式名称はW17」
ラミアはこうブリットとクスハに答えた。
「指令を忠実に実行する為だけに存在する」
そしてこうも言う。
「アクセルの言葉を借りれば人形だ」
「つまりアンドロイドってわけかよ」
宙はこう考えた。
「そう。シャドウミラー隊ではWシリーズと呼ばれている」
そしてラミアもその言葉を認める。
「その中でも優秀な性能を持ち特殊任務を遂行する者がナンバーズ」
「ナンバーズ・・・・・・」
タケルがその言葉を復唱した。
「そして私は十七番目にロールアウトした最新型。故にW17」
ラミアはそう語った。
「今後はそう呼んでもらって構わない」
「名前がナンバーって」
「それは」
アラドとゼオラはそれを聞いて顔を曇らせた。そうして言う。
「それでいいんスか、ラミアさん!?」
「いいわけないですよね!」
そうラミアに問う。
「名前がナンバーだなんて」
「そんなことが」
「アラド=バランガ」
ラミアは答えずにアラドの名を呼んだ。
「はい!?」
「御前にはナンバーはないのか」
「ナンバーっていうか」
「私達もその」
ここでゼオラも言葉を濁らせる。
「スクール出身ですけれど」
「それはその」
「スクール出身でも」
ここでオウカが言うのだった。
「人よ。それは間違いないわ」
「人ですか」
「そうよ」
そう二人に告げる。ラミアにも。
「例えどんなであろうともね。ラトゥーニも」
「私も」
「スクールはなくなったし私達の仲間も離れ離れになったけれど」
「それでもですね」
「ええ、だから安心して」
そう彼等に語る。
「私達は同じだから」
「そうですか」
「ですよね」
二人はオウカの今の言葉に心を救われた気持ちになった。それで微笑む。
「じゃあ俺達はこのまま」
「人として」
「ええ、生きていけるわ。そして」
それからラミアを見る。しかしここでゼンガーがそのラミアに問うのであった。
「もしや」
「はい」
「あの男」
それはゼンガーと因縁のある男であった。
「ウォーダン=ユミルも御前と同じくなのか」
「そうです」
ラミアは彼の言葉を受けて応える。
「名称はW15。向こう側のゼンガー=ゾンボルト少佐のデータを基にして作られたナンバーズです」
「向こう側の俺をか」
「そうです」
こう答えるのだった。
「わかった。そしてだ」
ゼンガーはさらに問うた。
「奴が乗る特機は?」
「向こう側で入手したグルンガスト参式をこちらで改造したものだと思われます」
「しかしだ」
ここでレーツェルが疑念を述べた。
「彼等は何故ゼンガーの写し身を?」
「そういえばそうですね」
カントもそこに気付いた。
「どうして少佐を」
「戦力にする為なのは間違いないんじゃないのか?」
ナッキィはそう予想を立てた。
「だからコピーしたとかよ」
「その通りだ」
そしてラミアの返答はこうであった。
「ベーオウルブズの対抗手段とする為に」
「そうか、やはりな」
レーツェルはそれを聞いて納得して頷いた。
「そういうことか」
「それで」
ゼンガーがまたラミアに問うた。
「向こう側の俺は?」
「データによればアースクレイドル内乱後行方不明となっています」
「そうか」
ゼンガーはそれを聞いて頷いた。それを受け入れたのだ。
「そしてだ」
今度問うたのはキョウスケであった。
「ヴィンデルはアクセルやラミア、ウォーダンらと共に」
「シャドウミラーの力でなのね」
それを聞いてエクセレンが言う。
「向こう側で果たせなかった目的をこちら側で果たすつもりか」
「そうです」
そしてラミアはキョウスケのその問いにも答えた。
「その為にここに」
「そうか、それもやはりな」
「永遠の闘争」
「戦い続けることでバランスを取る世界か」
「美しいかも知れないな」
カットナル、ケルナグール、ブンドルはそう捉える。しかしこうも言うのだった。
「だがそれはな」
「何かおかしいぞ」
まずはカットナルとケルナグールが言った。
「戦うのはいいがな」
「そればかりでは産業が育たん」
「美もまた偏ったものになってしまうだろう」
三人はそれがわかっていたのだ。
「政治家としてそれは好ましくないな」
「フライドチキンが売れんぞ」
「偏ったもの・・・・・・それは」
ブンドルが言う。
「美しくない」
「まあそうだけれど」
「何故だ。この人達が言うと」
アイビスとスレイはそんな三人を見て言うのだった。
「何か怪しいものがあるな」
「どういうことなんだ」
「戦いの度に技術は進歩していった」
今度はツグミが言う番であった。
「確かにそれは間違っていないけど」
「戦いを望む者にとっては理想の世界かも知れない」
エクセレンも言う。
「でもそうでない人達にとっては地獄ね」
「そうだよ」
ヒメがそれに頷く。
「あの人達はそれがわかっていないんだよ」
「つまりエゴだ」
大河はそう結論付けた。
「彼等はそれしかないのだ。
「その通りだな」
ハマーンがここで微妙な顔をしながら述べた。
「しかしあの者達はそれに気付いていないのだ」
「視野が狭いということなのね」
ミネバはハマーンの言葉をそう捉えた。
「簡単に言うと」
「その通りです。ですから彼等を放ってはおけないのです」
ハマーンはこうミネバに答えた。
「だからこそ彼等は」
「問題であるのね」
「そういうことだ」
キョウスケがまた言ってきた。
「シャドウミラーはそれがわかっていない」
「だから何としても彼らを阻止し」
ギリアムもまた言う。
「彼等が持つシステムXNを破壊せねばならん」
「その通りです」
そしてラミアは。彼の今の言葉を肯定するのであった。
「破壊か」
「はい。何としても」
ここまでギリアムに答えそれからブライトに顔を戻すのだった。
「ブライト艦長」
「うむ」
ブライトは彼女に応えた。
「私の話は以上で終わりです」
「そうか」
「それで」
ここまで話したうえでまたブライトに問う。
「これからの彼女の処置は?」
「現状維持だ」
「えっ!?」
これはラミアにとっては驚きの言葉であった。
「現状維持といいますと」
「だから言ったままだ」
またラミアに告げる。
「そういうことだ。不服か?」
「しかし私は」
ラミアは言葉を濁らせる。そうして言うのだった。
「シャドウミラーの人形でありました。それでも」
「そんなことは構わない」
しかしブライトはそれを問題としないのだった。一言で終わらせた。
「素性と過去はどうあれ今の君の意思は我々と同じなのだろう?」
「・・・・・・はい」
それはわかっている。だからこそ頷くのだった。
「ならばそれでいい」
それがブライトの考えであった。そのうえで皆に対して問う。
「他に異論のある者は?」
なかった。だがカチーナはここで言った。
「けれどよ」
「中尉、一体」
ラッセルが今の言葉に顔を顰めさせるがそれは杞憂だった。
「二度あることは三度ある」
「三度もですか」
「だからだよ」
ラッセルに応えてまた言葉を出す。
「四度目もあっていいんじゃねえか?」
「中尉・・・・・・」
「そういうことね」
ラッセルも皆もカチーナが何を言いたいのかわかったところでエクセレンが言ってきた。
「お帰りなさい、ラミアちゃん」
「エクセ姉様・・・・・・」
「何はともあれ」
そしてここで言うのだった。
「またこれで美人四姉妹が揃ったわけね」
「四姉妹!?」
「若草物語!?」
しかしそれは違っていた。
「大体これって」
「何スか、それ?」
タスクが皆を代表してエクセレンに問う。
「初耳ッスけど」
「んふふ、知りたい?」
「知りたくなくても話してくれますよね」
「まあね」
それがエクセレンであった。
「だから是非」
「わかったわん。メンバーはね」
既にメンバーも決まっていた。
「ヴィレッタお姉様と私、それにアクアちゃんとラミアちゃんの四姉妹よん」
「あ、な~る」
「って、あれ!?」
ここでアクアがふと気付いた顔になった。
「何時の間に私が!?」
「私もだ」
ヴィレッタも表情は変えないがアクアと同じ考えであった。
「何時の間になのだ」
「そもそもよ」
入っていないカチーナが言う。
「自分で言ってりゃ世話ねえけれどな」
「まあまあ」
「ラミア」
そんな中でヴィレッタがラミアに声をかける。
「これからの戦いで貴女の存在はなくてはならないものとなる」
「私が」
「そうです」
今度はブリットがラミアに言った。
「ラミアさん、だから」
「私達にに力を貸して下さい」
クスハもそれに続く。ところがここでタスクが。
「それに」
「それに?」
「ラミアさんみてえなボインちゃんがいなくなっちゃうのは寂しいし」
「タスク?」
それを聞いたレオナが早速怖い顔を見せる。するとタスクは縮こまる。
「じょ、冗談でございますですレオナ様」
「全く。私だって胸は」
実は結構あるレオナであった。そんな中でラミアは呟いていた。
「素直に受け取っておこう」
こう呟くのであった。
「悪くない、そう悪くない気分だ」
こうしてラミアはロンド=ベルに戻った。また仲間が新たに加わったように。

第四十七話完

2008・3・6
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧