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仮面舞踏会

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第一幕その四


第一幕その四

「ここは一度確かめるべきではないのか」
「確かめる」
「そう、彼女が偽者か本物か。そしてそれが人を助けているかどうかな。それから判断を下しても遅くはないだろう」
「では陛下御自身が」
「ここにいる諸君等も聞いて欲しい。一度皆の目で確かめてみてはどうか」
「私達の目で、ですか」
「そうだ」
 彼は言った。
「皆の目で見れば誤魔化すことはできないだろう。オスカル、これでどうかな」
「それでよいかと思います」
 彼はにこりと笑って一礼した。
「それならば彼女が本物であることが皆にわかることでしょう」
「そう。そして私も行こう」
「陛下も」
「そう、変装してな。これならいいだろう」
 そしてオスカルに対して囁く。
「漁師の服を用意しておいてくれ」
「わかりました」
 それを端から見るホーン、リビングの二人の伯爵はまた囁き合っていた。
「好機かな」
「さてな」
「御言葉ですが陛下」
 そしてアンカーストレーム伯爵も彼等と同じことに気付いていた。だが彼が取る行動は全く逆であった。
「それはあまりにも危険です」
「変装しているのにかい?」
「勘のいい者ならば見破るでしょう」
 彼は言った。
「それを考えますと。止められた方が宜しいです」
「だが一人の女性がわけもなく追放されるのはどうか」
「しかし」
「まあここはこの宴の続き、次の仮面舞踏会の前の余興だと思ってくれないか」
「余興」
「そう。だからここは許してくれないか」
「ううむ」
 伯爵はそれを聞いて難しい顔をした。だがそんな彼もここは折れた。
「わかりました」
 彼は言う。
「では陛下の御身は私が命にかえても」
「すまないね、いつも」
「いえ、これも家臣の務めです」
 彼は落ち着き、そして隙のない声でこう応えた。
「御気になさらぬよう」
「わかった。では明日の三時に」
 彼は言った。
「皆その占い師の館に集まろう。そしてその偉大な魔術を見ようではないか」
「はい」
 彼等はそれに賛同する。だが賛同する者の中には彼を敬愛する者ばかりではなかった。
「我等も行くか」
 二人の伯爵はまた囁いていた。
「そうだな。ここは行ってみよう」
「機会があればやるぞ」
「うむ、剣を用意してな」
 彼等はどうあっても王を暗殺するつもりであった。彼等が想うかつての尚武のスウェーデンの為に。それがこの時代に合うかどうかは別にして。彼等もまたスウェーデンを愛していた。その為に王を狙っていた。国を愛しているという意味では彼等もまた王と同じである。だがその目指す姿が違っていたのであった。
「人間は厳しいだけでは駄目だ」
 王は言った。
「時には楽しむことも必要じゃないか」
「だから皆で行くのですね」
「そう、魔法を確かめると同時に」
 オスカルにも言う。
「宴の続きとはじまりとして」
「皆で行きましょう」
「ですが陛下」
 アンカーストレーム伯爵はそれでも言う。
「御身は何があっても」
「頼むよ」
「はい」
 彼等は頷き合う。そこには強い絆があった。
「では我等もな」
「うむ」
 そしえ二人の伯爵も。彼等も備えようとしていた。
「では明日の三時に」
「わかりました。三時に」
 客達は王の言葉を繰り返す。
「また御会いするということで」
「わかりました」
 これでこの場は終わった。だがそこには宴と血が両方感じられる白い光と赤い光が輝いていた。シャングリラはそこに光と闇を同時に映し出していたのであった。
 
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