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仮面舞踏会

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第四幕その四


第四幕その四

「お待たせしました」
「いえ、それ程待ってはおりません」
 オスカルは夫人の沈痛な声に対して明るく返した。
「気持ちのうえでは」
「そうですか」
「伯爵」
 彼はアンカーストレーム伯爵に対して恭しく一礼した。
「ホーン伯爵もリビング伯爵も。三人が一緒なのは珍しいですね」
「そうか」
「ええ。また面白い顔合わせです」
「そうかもな」
 三人はそれを受けて顔に暗い笑みを浮かべた。
「そして何の用件で」
「今宵の宴のことです」
 オスカルは軽やかに言った。
「仮面舞踏会を開くことになっております」
「仮面舞踏会」
 それを聞いた三人の伯爵の目が光った。
「そういえばそうだったな」
「仮面舞踏会を開くのだったな」
「左様で。覚えておられましたか」
「まあな。それでだ」
「はい」
 彼等は言葉を続ける。
「それに我々を招待して頂けると」
「その招待役として参りました」
 オスカルはまた言った。
「伯爵御夫妻も。どうぞおいで下さい」
「オスカルさん」
 ここで夫人は何か言おうとした。
「何か?」
「いえ」
 だがそれは言えなかった。彼はアンカーストレーム伯爵の妻である。一度心は裏切ったとしてもその心はまだ夫のもとにある。それなのにどうして夫を裏切ることができようか。
「何でもありません」
「左様ですか。今夜はとりわけ華やかな宴となるでしょう」
「仮面舞踏会とは好都合だな」
「うむ」
 三人の伯爵達はヒソヒソと話をする。
「仮面が何もかも隠してくれる」
「我等の憎悪と憤怒に燃えた顔も」
「そして私の殺意も」
 三人を代表するかのようにアンカーストレーム伯爵が言った。
「何もかもを覆い隠してくれるだろう」
「そして計画を成功に導いてくれる」
「全ては天の配剤だな」
「その通りだ」
 その言葉に頷く。
「青白い美女との死の舞踏会が」
「今この幕を開く」
「卑劣な裏切者は私の手によって果てるのだ」
「間違いないわ」
 夫人はもう全てがわかってしまっていた。
「あの壷に書かれていたのはあの方の死が書かれていた」
 その顔はさらに青くなっていた。何処までも青くなっていた。
「そしてその死をもたらすのは」
 三人集まってヒソヒソと話をする夫の顔を見る。
「あの人。何と恐ろしいこと」
「さて、今宵は楽しい宴」
 オスカルだけは朗らかな調子であった。
「美女と美酒で彩られ。今から楽しみだなあ。今日はどんな花を追おうか」
「何とかしないと」
 夫人は決意を固めた。
「あの人にお知らせして」
 何とか王を救いたかった。愛する者同士が殺し合う。それだけは何として避けたかった。
「奥様は今宵の主役になられることでしょう」
「え、ええ」
 オスカルの話はもう半分耳に入ってはいなかった。
「今からなら若しかして」
「そしてだ」
 三人はなおも話をしていた。
「合言葉を決めておこう」
「それは」
「死、だ」
 アンカーストレーム伯爵が強い声で他の二人に言った。
「これでどうかな」
「悪くはないな」
「いや、むしろ相応しい」
 リビング伯爵がそれに賛成した。
「今の我々にはな。違うか」
「言われてみれば」
 ホーン伯爵もそれに頷いた。
「ではそれでいいな」
「うむ」
 三人はまた頷き合った。
「今宵全てが決まる」
「あの男の死が」
 三人は今暗い怒りに燃えていた。黒く、静かに、だが熱く燃え盛っている黒い炎の中にいた。
「そして運命が」
 彼等はその中に身を置き夜を待っていた。華やかな宴は今その影に暗い闇を抱えようとしていたのであった。
 
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