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仮面舞踏会

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第四幕その二


第四幕その二

「どうも」
 二人はまず挨拶をした。
「ここに来るのははじめてだったか」
「宴等では何回か会っているな」
「そうだったな。まさかこんなところで話すことになるとは」
「だがあえて呼ばせてもらった」 
 伯爵は二人に対して言った。
「重大な話の為にな」
「ほほう」
「それは」
 二人は探る目で伯爵を見据えた。
「まず言っておくが君達のことはわかっている」
「何をだ?」
「計画のことをだ。以前より王を暗殺しようと計画していたな」
「昨夜のあれでわかるだろう」
 ホーン伯爵は居直ったようにして返した。
「それがどうしたのか」
「実は私は以前よりそれを知っていた」
 アンカーストレーム伯爵は二人を見据え返して言う。
「その証拠も持っている」
「だったらどうするのか?」
「我等をここで消すつもりか。生憎そう簡単にやられるつもりはないぞ」
 二人は身構える。
「むざむざな」
「これは以前から王に出すタイミングを見計らっていた」
 だが彼はここでさらに言った。
「それが掴めないでいた。だがもうそれを出すことはない」
「わかった」
「ではここで死合うとするか」
「待て」
 だが伯爵は二人を制止した。
「出すことはないというのは私にその意志がなくなったからだ。君達を殺すつもりもまたない」
「では何故だ」
「我等をここに招いた理由は」
「それが重大な話なのだ。私は君達の同志になりたい」
「何っ!?」
 二人はそれを聞いて思わず動きを止めた。
「我等の仲間に入りたいだと」
「そうだ。君達の同志となり王を暗殺する仲間になりたいのだ」
 彼は強張った顔でこう言った。
「駄目だろうか」
「信じられないな」
 だがリビング伯爵はそれを疑った。
「卿が。王の第一の腹心であった卿が」
「何故急にそんなことを」
 ホーン伯爵もそれは同じだった。だが彼等には思い当たるふしもあった。
「昨夜のことか」
「理由は聞かないでくれ」
 彼は言った。
「だが加わりたいことは事実だ。何なら我が子を人質に差し出そう。それでいいか」
「そこまで言うのなら」
「信じよう。ではここに誓うぞ」
「うむ」
 アンカーストレーム伯爵はここで召使を呼んだ。そして杯を一杯持って来させた。
「ここにそれぞれの熱き想いを入れて」
「飲み干して誓いとしようぞ」
 彼等は手に傷をつけてそこに血を注ぎ込む。そしてその血を混ぜ合わせたものを回し飲みした。彼等は今血の誓いを固めたのであった。
「これで我等の心は一つ」
 声を揃えて言う。
「恥辱も復讐も一つだ。そして我等が恨みを王に晴らそう」
 かってバイキングが支配していた頃の心に戻っていた。今彼等の心はキリストから離れていた。そこには復讐に燃える荒ぶる神々の青い目が燃え盛っていた。
「そして君達に一つ頼みがある」
「何だ?」
 二人は伯爵に尋ねた。
「復讐は。私の手で」
「いや、それは駄目だ」
 だが二人はそれは認めようとはしなかった。
「私も彼も。王とは長きに渡る因縁がある」
 ホーン伯爵が言った。彼等は軍人として、政治家として。二人はかねてより王と因縁浅からぬ関係にあった。だからそれは容易には認められるものではなかったのである。
「十年来の因縁だ。それを容易に渡すことはできぬ」
「その通り、私とリビング卿の間ですらどちらが王を殺すかで問題になっている。それを容易には」
「そうか。ではどうすれば」
 アンカーストレーム伯爵は顎に手を当てて思案に入った。だがここで夫人が部屋に入って来た。
「お邪魔します」
「別れの挨拶は済ませたか」
「はい。それで御客様が来られました」
「御客様」
「小姓のオスカルさんですが」
 彼女は言った。
「如何致しましょうか」
「少し待ってもらえ」
「はい」
「いや、待て」
 だが伯爵はここであることを思いついたのであった。
 
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