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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第三十六話 ディーンの火

                 第三十六話 ディーンの火
一旦ゼダンに戻ったロンド=ベルだったが。彼等はここで情報分析から不吉なものを感じざるを得ない状況に置かれていた。それはどうしてかというと。
「やはりバルマーか」
「そうなのだ」
ブンドルがグローバルに対して応えていた。
「彼等の戦力がこれまでになく増強されている。これは」
「近々大きな攻勢があるか」
「間違いない」
ブンドルは言う。
「かなりの戦力を動員してくる」
「そうなるか」
「近頃バルマーの戦力の動員はかなりのものだが」
それはブンドルだけでなく他のメンバーもわかっていた。
「それ以上のもので来るだろう」
「本気になってきたということか」
「おそらくは」
ブンドルはそうグローバルに述べる。
「その攻撃ポイントまではわからないが」
「しかし。確実に来るのか」
「その可能性は九割を超えている」
「ではほぼ確実ですね」
クローディアがそれを聞いて言った。
「彼等の大規模な攻勢が近いということは」
「しかしだブンドルよ」
「何だ?」
ブンドルに対してカットナルが声をかけてきた。
「それはどちらのバルマー軍だ?」
「どちらか」
「そうだ、それが重要ではないか」
「その通りだ」
ケルナグールも言う。
「今バルマー軍は二人来ている」
「外銀河方面軍と銀河辺境方面軍がな」
「どちらが来るかだよな、確かに」
火麻もそれに頷いた。
「まさか両方なんてことはないよな」
「そのまさかだ」
しかしブンドルはここで言うのだった。
「考えてみるのだ」
「考えるのかよ。ちょっとそれはな」
火麻はブンドルの言葉には少し困った顔になるのだった。
「俺は苦手なんだよな、そういうのは」
「そういうのって、あの」
ミサトは今の火麻の言葉には眉を顰めさせた。
「火麻参謀は参謀ですよね」
「ああ、そうだが」
役職の上ではそうであるのだ。
「それがどうかしたのか?」
「それで考えるというのが苦手なのは」
「やっぱり。まずいのでは」
リツコも言う。
「俺は動く参謀なんだよ」
しかし火麻はそれでも言うのだった。
「そういう参謀がいてもいいじゃねえかよ」
「そうかしら」
ミサトはこう言われても首を捻るばかりであった。
「私はあまり。そうした考えには」
「ミサトも随分ずぼらだけれどね」
「それはそれ、これはこれよ」
こうリツコに言い返す。
「それに私だって考える時は考えて」
「参謀といっても色々です」
しかしルリはそんな火麻をよしとするのだった。
「火麻参謀は立派にやっておられます。ですから」
「いいのね」
「はい」
ミサトに応えて頷くのだった。
「私はそう思います」
「そうなのかしら」
「まあいいじゃない」
リツコが首を傾げるミサトに対して言ってきた。
「私も納得できないものがあるけれど」
「そうね。とにかく」
話を戻してきた。
「両方が同時に来たらまずいわよ」
「それはね」
リツコもそれははっきりわかっていた。
「あれだけの数の部隊を二つ同時に相手はうちでも苦しいわよ」
「その通りだ」
ブンドルもそれに頷く。
「如何に我々とてあの二つの軍を同時に相手にするのは困難だ」
「じゃあどうするんだよ」
火麻はそこを問う。
「そうした時に策はあるのかよ」
「いや、ない」
だがブンドルはないと言う。
「残念だが」
「何だとっ、それでは」
「何にもならんではないか」
カットナルとケルナグールはそれを聞いて怒りの声をあげた。
「両方相手をするのは難しいのだぞ」
「どうせよというのだ」
「その可能性はないからだ」
ブンドルの考えはそこにあった。
「ないだと」
「そうだ。そこだ」
ブンドルは言う。
「確かに今地球圏には二つのバルマー軍がいる」
「うむ」
「さっきから言っている通りな」
これがまずある。二つなのだ。
「彼等の仲はどうだ」
「どう見ても悪いだろう」
「敵同士のようだ」
カットナルとケルナグールはそうブンドルに述べた。
「その通りだ。そこなのだ」
「つまり共同作戦を採ることはないようなのだな」
「そう言いたいのか」
「その通りだ」
ブンドルが言うのはそこであった。
「わかったな。だから我々は個々に相手をすればいいのだ」
「向こうから来そうだな」
「今までの連中のパターンだとそうだな」
カットナル、ネルナグールはまた言い合う。
「ふむ。それでは」
「我々は奴等が個々に来たところを叩けばいいのか」
「その通りだ。しかし」
ブンドルは二人の同志に応えてまた言う。
「敵の数はこれまでになく多い。それは覚悟することだ」
「わかっておる」
「そうでなくてはやりがいもないしな」
三人はそれで意気をあげていた。しかしここでクローディアが言うのだった。
「しかしですね」
「どうしたのかね」
グローバルはその彼女に対して問うた。
「彼等にもそれぞれ切り札があります」
「そうでしたね」
ミサトもそこに気付いた。
「あのホワイトスターとディバリウム」
そこが問題なのであった切り札がそれぞれあるということがだ。
「二つの切り札がありますね」
「それね」
リツコもそこを言う。
「それを向こうがどう使ってくるかだけれど」
「まずディバリウムはここぞという時に来るわね」
ミサトはそう読んでいた。
「間違いなくね」
「そうね。あとホワイトスターは」
「あれはそうそう動かないでしょうね」
ミサトはこれに関しても読んでいた。
「むしろいざという時の補給基地かしら」
「拠点として使うと」
「あれはそういうものだと思うわ」
ミサトはまたリツコに応える。
「こちらから攻めない限りは直接的なダメージがないでしょうけれど」
「じゃあ。直接的な脅威は外銀河方面軍の方が問題ね」
リツコは言う。
「あくまで今のところはでしょうけれど」
「あまり考えたくはないけれど」
ミサトはここで不吉なものを感じていた。
「またズフィルードが出て来る可能性もあるわね」
「あれが?」
「ええ。バルマーの切り札といえばあれじゃない」
ミサトは言う。
「この前のバルマー戦役だってそうだったしね」
「バルマー軍の危機に出て来る」
まさに切り札と言えるものだ。
「あれね」
「今回も大規模な攻勢というのなら考えられるわ」
ミサトはそこを指摘する。
「丁度あの巨大戦艦も見えているしね」
「ヘルモーズだったな」
ブンドルが応える。
「あの巨大戦艦は」
「あれの中にあるのよ」
ミサトはそれをはっきり覚えていた。
「それで撃沈すればその中から出て来るから」
「では用心しておこう」
ブンドルの目が光った。
「ヘルモーズもまた出て来る可能性が高いからな」
「さて、問題は」
ミサトはまた言う。
「何処に攻めてくるかだけれど」
「両方共ね」
「考えられるのは」
ミサトはここで己の考えを述べた。
「月や火星が危ないわね」
「星なのね」
「ええ」
またリツコに答える。
「両方共資源も豊富だし大規模な軍も展開できるし」
「その通りですね」
ミサトの言葉にサコンも頷く。
「あそこは確かにかなり」
「ではおおよそは絞れましたな」
ショーンの目が鋭く光った。
「月面及び火星に目を光らせるべきかと」
「そうです。当然他の場所にも警戒は必要ですが」
ミサトの目が切れ者のそれになっていた。完全にネルフの指揮の時の顔であった。
「まずはそれです」
「あとは。確かに協調性のない連中だが」
アムロが言う。
「同時に攻撃を仕掛けて来た場合も考えるか」
「その時はお任せ下さい」
ルリが言ってきた。
「そうした時の為にボゾンジャンプの用意もしていますから」
「ボゾンジャンプか」
「はい、ことが急を要するのなら」
ルリは言う。
「それも手段です」
「じゃあ私もその時は」
ユリカも声をあげた。
「やらせてもらいますね」
「俺もです」
アキトも名乗り出る。
「その時はやらせて下さい」
「能力者がいてくれるのは有り難いことだな」
クワトロは三人の名乗りを聞いて微笑む。
「どうやら我々は人材では申し分ない状況にあるな」
「そうだね。それに団結もね」
万丈も言う。
「それが一番いいことだと思うよ」
「団結か。そうだな」
アムロもそれに応える。
「それがある限り俺達は大丈夫か」
「少なくとも困ることではない」
クワトロがそのアムロに言う。
「そしてなければ非常に困るものだ」
「変わったな、貴様も」
ハマーンがそのクワトロに声をかけた。
「あの個人主義は何処に行ったのか」
「少なくともシャア=アズナブルではないのだからな」
クワトロの今のハマーンへの返答はこうであった。
「クワトロ=バジーナだ。だからだ」
「そうか。確かにここの雰囲気は悪くはない」
ハマーンもロンド=ベルの雰囲気は気に入っているようであった。
「最初は戸惑ったがな」
「ハマーンさんにも合っているということですね」
ラクスはハマーンのその言葉を聞いてにこりと微笑む。
「それは」
「そうなるか。しかし悪い気はしないな」
それを言われて微笑むハマーンであった。
「それも」
「何だかんだであんたも変わったと思うぜ」
ジュドーがハマーンに告げてきた。
「最初のあの刺々しい雰囲気がなくなったしな」
「そうか」
「そうです。本来のハマーン様のお顔になっています」
今度はラクスがハマーンに言うのだった。
「そのお顔のままでいて下さいね」
「それはわからないが。ただ」
ハマーンもラクスに言葉を返す。
「出来るだけこのままでいたいな」
「そうそう。あんたもまだまだこれからなんだし」
ジュドーはまた言う。
「その顔でいる方がずっといいぜ」
「そうだな」
ナタルがジュドーのその言葉に頷いた。
「人の顔は穏やかである方がいいものだ」
「ナタルさんの言葉だよな、今のは」
「それがどうかしたか?」
ナタルはジュドーに対して問うた。
「私だって変わるのだぞ」
「それもよくね」
マリューが微笑んできた。
「変わったわよね。奇麗にもなったし」
「それは」
マリューの言葉に頬を少し赤くさせる。
「私は別にそんなことは」
「なってるのよ。けれどあれね」
マリューはまたナタルに対して言う。
「ナタルも女の子なのね。何だかんだで」
「女の子ですか」
「そうよ。最近私服にも気を使ってるわよね」
「それはまあ」
実際にナタルは結構お洒落である。ズボンやロングスカートを見事に着こなしている。服装はシックな色を好んでいる。それがかなり似合ってもいるのだ。
「身だしなみに気を使うのは」
「女の子だからよね」
「うっ・・・・・・」
それを言われると弱かった。
「ここで今までだったら軍人だからと言うところよね」
「それはその」
「ナタルもそれだけ変わったということよ。可愛くね」
「そういえばナタルさんって結構ね」
「そうだよね」
エルとモンドが話をする。
「結構可愛いよな」
「最初は怖かったよね」
ビーチャとイーノも言うのだった。
「けれど今は可愛いわよね」
「そうだよね。それもかなり」
「よくなったな」
ルーもプルもプルツーも言う。皆今のナタルを好きになっていたのだ。
「けれどまだまだ怒りっぽいのがねえ」
「だよなあ」
ケーンとタップはそこにクレームをつける。
「まあその素直になりきれないっていうのも可愛いというか」
「また随分言われるな」
ナタルはライトの言葉も受けて呟く。
「私は素直ではないのか」
「まだもうちょっとですよね」
「そうね」
ファとエマがそう話をする。
「これでもう少し角が取れれば」
「かなりいいかも」
「からかわれてるのか。私は」
「まあまあ少佐」
いぶかしむナタルにヘンケンが言ってきた。
「それだけ少佐に魅力があるということさ」
「そうそう、そういうこと」
ジュドーはヘンケンのその言葉に頷いてみせた。
「ナタルさん可愛いよ」
「可愛い・・・・・・」
その言葉に顔が真っ赤になる。
「私がか」
「花の二十五歳だよなあ」
「そうそう」
「やっぱりいいよな」
「待て」
ドラグナー三人組の今の言葉には即座に反応を見せてきて言った。
「女性に年齢を問うのはだな」
「おっと失礼」
「そうでした」
「女性に年齢は」
三人もこれには恐縮するばかりだった。
「そういうことだ。以後気をつけるように」
「そんなの別にいいじゃねえか」
ここで言うのはシンであった。
「二十五歳なんておばさんだからよ。隠さなくても誰でもわかってるんだよ」
「あんた・・・・・・」
ルナマリアは今のシンの放言には完全に呆れた。
「今ここでそれを言うなんていつもながら凄い度胸ね」
「何がだよ」
「見なさいよ」
ルナマリアはナタルを指差してシンにまた声をかける。
「あれを」
「あれって何がだよ」
「まあシン」
今度はカミーユが彼に声をかけた。
「今すぐにここを去った方がいいぞ」
「大丈夫だって。二十五歳つったらもうよ」
それでもシンは言うのであった。
「お婆ちゃんじゃねえか。高齢期障害でよ」
「そうか、お婆ちゃんか」
ナタルから怒りのオーラが湧き起こっていた。
「二十五歳は」
「立派な婆だぜ。で、それがどうしたんだ?」
そのオーラを後ろから浴びながらも全然気付かない。
「ナタルさんの姿が急に見えなくなったしさ」
「それはそうでしょうね」
フォウは今の彼の言葉に突っ込みを入れた。
「獲物は後ろから狙うのが常識だし」
「だからさ。お婆ちゃんをお婆ちゃんと言っても別に悪くないんだよ」
「確かにそうかも知れない」
カミーユも一旦は彼の言葉を認める。
「しかし」
「しかし?」
「言葉には生死が関わる時もある」
そうシンに対して告げた。
「それを覚えておいてくれ」
「何かわからないけれどわかったぜ」
シンは完全にわかってはいなかった。
「それでこれからどうなるんだ?」
「一人パイロットがいなくなるかもな」
レイが冷静な声で告げる。
「それだけだ」
「それだけって。結局何が何だか」
「さて、少年」
ここでナタルの声がまたした。身体が真っ黒になり目だけが赤く輝いている。
「覚悟はいいな」
後はお決まりであった。こうしてシンはまた残骸になるのであった。
そうしたいつものやり取りの後でロンド=ベルのところに情報が入った。月近辺にバルマー軍が現われたのである。予想通りに。
「来たか」
「そのようですね」
グローバルに未沙が応えた。
「ではすぐに向かいましょう」
「うむ、全軍に告ぐ」
彼女の言葉に応えて言う。
「すぐに月に向かう。それでいいな」
「はい、それでは」
「すぐに」
「おそらく大規模な戦いになる」
これは先に話した通りであった。
「だからこそ。全軍気を引き締めていくぞ」
「了解っ」
「それでは」
全軍グローバルの言葉を受けて出撃する。そうして月近辺に到着するとそこにいたのはやはりバルマーの大軍であった。彼等はその大軍を見て言う。
「あれはどっちだ?」
「見たところロゼの戦闘機もいないしそれに」
二機のマシンに気付いた。
「あれは確か外銀河方面軍のマシンか」
「そうみたいだな」
ヴァルク=バアルとヴァルク=イシャーであった。その二機のマシンがいるのが何よりの証拠であった。
「あいつ等か」
「それじゃあ間違いないな」
外銀河方面軍であると確信したのであった。
そしてバルマー軍でも。相手の存在に気付いていたのであった。
「やはり来たか」
「そうだな」
キャリコとスペクトラはそれぞれ話をする。
「我等の存在を察知したか」
「では予定通り迎撃に向かうとしよう」
当然のように話をする二人であった。
「いいか」
そしてキャリコが全軍に告げる。
「まずはロンド=ベルを倒す」
「それから月を占領する」
スペクトラも言う。
「全ては予定通りだ」
「そう話を進めるぞ」
「わかりました」
フーレの艦長の一人がそれに応える。
「それではそのように」
「うむ。それでは全軍で」
「ロンド=ベルを倒す!」
彼等も向かってきた。ロンド=ベルの中には当然ながらアラドとゼオラもいる。二人はバルマー軍を見据えながら話をしていた。
「なあゼオラ」
「どうしたの?」
「イルイだけれどな」
「あの娘がどうかしらの?」
二人はイルイについて話をはじめていた。
「やばかねえか?」8
「やばいって何が?」
「いや、あいつ等よ」
バルマー軍を指差して言うのだった。
「何でも利用するタイプだろ?」
「そうね」
アラドもゼオラもバルマー軍はそうした『連中』だと思っている。
「そんな奴等にゼオラが見つかったら」
「やっぱり危険よね」
「とはいってもなあ」
ここでアラドは困った顔になるのだった。
「ロンド=ベルにいても戦争に巻き込まれるしな」
「それも嫌だしね」
「どうしたものかな、それって」
「そうね。イルイはガンエデンの」
「イルイ!?」
クォヴレーもその話を聞いていた。イルイという名前に不意に反応を見せてきた。
「!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「クォヴレー君!?」
「う、うう・・・・・・」
クォヴレーは頭を抱えて苦しみだしていた。明らかに異変が見られた。
「急に何があったんだ!?」
「頭痛!?」
「い、いや」
クォヴレーは頭を抱えたまま二人に応えるのだった。
「収まった」
「そ、そうか」
「ならいいけれど」
二人はそれを聞いてまずは安心した。
「けれど。大丈夫か?」
「戦える?」
「大丈夫だ」
そう応えて二人を安心させる。
「何ともない」
(しかし)
だがここで心の中で呟くのだった。
(何だ!?イルイ)
イルイという名について考える。
(その言葉を聞いた途端に頭が)
「これは」
(失った記憶と何か関係があるのか)
そうも考える。しかし答えは出ない。ここで彼は二人に対して聞くのであった。
「ところで」
「どうしたんだい?」
「そのイルイとガンエデンについて聞かせてくれないか?」
「あっ、そういえば」
ここで二人は気付いた。
「あんたイルイについては知らないんだったな」
「そうだったわね」
二人はクォヴレーが前の戦いには参加していないことを思い出した。
「それだったら」
「話していいかしら」
「ああ、頼む」
クォヴレーはあらためて二人に頼んだ。
「それでイルイとは何なんだ?」
「イルイは封印戦争中にロンド=ベルが保護した女の子なの」
「ロンド=ベルにか」
「ああ」
アラドが彼に対して応えて頷く。
「けれど」
「彼女はガンエデンという巨大な機械の神に選ばれた神子だったの」
「機械の神・・・・・・」
クォヴレーはその機械の神という言葉に考える顔になった。
「それがガンエデンなのか」
「人造神っていうんだろうな」
「そうね」
ゼオラは今度はアラドの言葉に頷いた。
「地球の守護神とも言ってたわ。そして」
「そして?」
「ガンエデンの目的は強力な結界を張って地球を封印することだったのよ」
「封印?」
「そうだったんだ」
またアラドが答えてきた。
「宇宙にいる者を地球に入れず、地球にいる者を宇宙に出さず」
それがガンエデンの目的だった。彼等にとっては運命の戦いでもあったのだ。
「そうやって地球を護ることが使命だと」
「地球をか」
「ええ」
「そうだったの」
「それでだ」
クォヴレーはその話を聞いてさらに二人に問うた。
「イルイとガンエデンはどうなったんだ?」
「最後の戦いで俺達はイルイを説得した」
アラドがクォヴレーに答える。
「そしてあの子は俺達を受け入れて」
「そして?」
「俺達はガンエデンを破壊した」
「ガンエデンは滅んだのか」
「ええ。それでね」
またゼオラが話す。
「イルイちゃんは助け出されて今は地球で暮らしているのよ」
「そうだったのか」
「とりあえず話はこれまでだな」
アラドはここで話を打ち切ってきた。
「もう来たしな」
「敵がか」
「クォヴレー君はセンターを御願い」
ゼオラが言ってきた。
「アラドは左、私は右よ」
「ああ、わかった」
アラドもそれに答える。そしてクォヴレーも。
「了解した」
「敵の数が多いから注意してね」
「だったらゼオラの出番だな」
ビルトファルケンのスプリットミサイルのことだ。
「頼むぜ」
「そうね。それにこの数だから近寄ってくる敵も多いわ」
ゼオラはそれも読んでいた。
「近寄って来た敵はアラドが御願いね」
「わかったぜ。早速来たしな」
「やらせないわよ!」
ゼオラは早速スプリットミサイルを放った。それでバルマーのマシンを数機倒す。
「アラド!」
「ああ!」
ゼオラは敵を倒すと共にアラドに声をかけてきた。
「来たわ!」
「わかったぜ!」
アラドもすぐにそれに応える。そうしてそのコールドメタルソードで前にいる敵を両断する。それだけでなく他の敵のマシンもガトリングガンで屠っていた。
二人の動きに合わせてクォヴレーも動く。敵は次から次に来るがそれを各個撃破しながらロンド=ベルはバルマー軍に対していた。
「確かに数は多い」
その中でカイが言う。
「だがそれだけで勝てるとは限らない」
「私も行く!」
ギリアムが彼の後ろから出る。
「前からだ!」
「頼む!」
「スラッシュリッパーーーーーッ!」
前に出ると同時にスラッシュリッパーを放った。それを敵の小隊に向けて放つ。
スラッシュリッパーは敵の中で荒れ狂い切り刻んでいく。それでまた敵をまとめて屠るのだった。
「ならば次は俺だな」
カイも前に出てゲシュペンストの拳を繰り出す。一撃でバルマーのマシンが吹き飛ぶ。彼もまたその腕を思う存分発揮していた。
「くっ、やはり手強い!」
「この数でもか!」
バルマー軍はロンド=ベルの攻勢を受けながら呻く。
「しかしまだだ」
「そうだ」
だがこの程度で怯む彼等でもなかった。
「増援を出せ、少し早いがな」
「了解!」
こうして増援を出した。しかしロンド=ベルは落ち着いていた。
「また出たか」
「まあ想定の範囲内だな」
そう言って冷静に向かう。だがそれと合わせて攻勢を仕掛けてきた中に黒いマシンを見たのであった。
「あの黒い機体」
カミーユが言う。
「クォヴレーを襲った奴だ!」
「あの黒い奴が来たぜ!」
「クォヴレー君!」
アラドとゼオラが声をかける。
「そこいいたか」
「御前は」
「自分から来たな」
クォヴレーは自分からその黒いマシンの前に出ていた。キャリコは彼の姿を見て笑ってきた。
「俺の気配を感じ取ったか?それとも御前の内なる存在が御前に教えたか?」
「答えろ」
クォヴレーが彼に問う。
「御前は何者だ?」
「それはこちらの台詞だ」
だがキャリコの返答はこうであった。
「何っ!?」
「アインよ」
クォヴレーをアインと呼んだうえで問うてきた。
「御前の中にいるのはどちらだ?」
「その名で呼ぶな」
クォヴレーはアインという名に対しt不快感を見せてきた。
「不愉快だ」
「ほう、まるで感情があるかのような言い方だな」
「感情!?」
クォヴレーはその言葉にも顔を曇らせた。
「どういうことだ」
「わかぬか、まあいい」
キャリコはそれを今は無視して言葉を続けてきた。
「御前にはここで消えてもらうぞ」
「そうはいかない」
しかしクォヴレーはその言葉を拒む。そして言う。
「俺には果たさなければならぬ任務が、知らなければならぬ事実がある!」
「任務か」
「そうだ」
クォヴレーはそれに応える。
「だからこそ。死ぬわけにはいかない」
それを御前に与えたのはこの俺なのだがな」
「戯言を!」
「事実だ」
しかしキャリコは言うのだった。
「全てな」
「何っ、なら」
クォヴレーはその言葉を聞いて気付いた。
「俺は・・・・・・記憶を失う前の俺は」
「そういうことだ、アイン」
「!!」
驚くクォヴレー。だがそこにキャリコの攻撃が迫る。
「死ね」
その一撃で決めるつもりだった。だがそれはアラドとゼオラの言葉によって遮られた。
「クォヴレー!!」
「よけて!!」
「!!」
慌てて上に避ける。そこに二人の声が飛ぶ。
「おいクォヴレー!」
「何やってんのよ!敵の的になるつもり!?」
「俺は」
クォヴレーはその二人に応えて言う。
「何っ!?」
ゼオラ「!?」
「奴等の一員だったらしい」
「ええっ!?」
「な、何言ってんだ!?」
「俺は帝国監察軍の人間だった」
驚く二人に言うが。それはキャリコによって否定された。
「人間だと?違うな」
「どういう意味だ」
「御前はただの兵器」
それがキャリコの言葉であった。
「そう、この俺と同じくな」
「兵器だと、この俺が」
「そうだ、そして」
彼はさらに言う。
「我等の兵器としての役目を果たさなくなった御前に生きる意味はない」
「消すというのか」
「そうだ。欠陥を持つ兵器は俺の部隊には不要だ」
「おい、待てよ!」
「そうよ!」
それを聞いたアラドとゼオラがキャリコに抗議する。
「誰が兵器だと!?ふざけんじゃねえ!!」
「そうよ!クォヴレーは人間よ!」
二人はこう反論する。
「そしてな!」
「私達の仲間よ!!」
「仲間だというのか」
クォヴレーはその言葉に顔を動かさせた。その表情のない顔に。
「俺を」
「そうだろ?」
「一緒に戦ってるのに」
二人はまたクォヴレーに言う。
「そうなのか。この俺が」
「その通りだ」
「ヒイロか」
「俺もいるぜ!」
「俺もだ!」
デュオとウーヒェイも出て来た。
「三人共。どうしてここに」
「いや、まだだ」
「僕達も!」
トロワとカトルもいるのだった。
「皆、どうしてここに」
「どういうことなの、これって」
「話は聞いていた」
ミリアルドもいた。ノインとヒルデもいる。
「ウィングチームが総勢で」
「まさか、こんな」
「今の話を聞いて君をそのまま彼等にやらせるわけにはいかなくなった」
ミリアルドが言う。
「僕達は仲間として君を守ります!」
「カトル・・・・・・」
「だから生きて下さい!」
カトルはまたクォヴレーに言う。
「自分自身の意志で!」
「生きる」
「そうだ!」
「その通りだ!」
デュオとウーヒェイも彼に言う。
「自分の意志で動け」
ヒイロもまた。
「それでいいな」
「成程な」
キャリコはそんな彼等の言葉を聞いて冷笑を浮かべるのだった。
「地球人という人種は報告されていた以上に愚かだな」
「愚かだというのか、我々が」
「そうだ」
キャリコはミリアルドの言葉を肯定するのだった。
「我等の間にお前達のような感情は存在せん」
「では何があるというのだ?」
「決まっている」
トロワの問いにも平然と答えてみせる。
「異なるアイデンティティを持つ者達の間にある関係、それは」
「それは?」
「支配するか、支配されるかだ」
「寝言を言ってんじゃねえっ!!」
それはすぐにアラドによって否定される。
「そんなことしか考えられねえのかよ手前は!」
「答えるつもりはない」
あっさりとして言い返す。
「目障りだ。それならば」
照準を合わせる。大勢を前にしても臆することはない。その理由は。
「貴様から死ね」
「!!」
「新手か!」
赤いマシンが出て来た。そうしてアラド達に向かって来た。
「ゴラー=ゴレム」
クォヴレーは彼等を見て呟く。
「出て来たのか」
「いいタイミングじゃねえか!」
「読んでいた!」
そこに五機のガンダムが向かう。まず前に出たのはデュオとウーヒェイであった。
サイズとトライデントが唸り赤いマシンの部隊ゴラー=ゴラムを殲滅していく。そこにカトルも加わり後方射撃をヒイロとトロワが加える。
「確かに手強いかも知れない。だが」
ヒイロは言う。
「心がない相手は機械と同じでしかない」
「俺達は機械じゃない。機械には負けはしない」
ヒイロとトロワは冷静に敵を撃ち抜く。そうしてそこに加えてカトルが切り込む。それでゴラー=ゴレムを一掃してしまうのだった。
「まだですね」
カトルはゴラー=ゴレムを切り裂きながら言う。
「彼等はまだ」
「出て来るっていうんだな」
「ならば!」
デュオとウーヒェイはさらに敵を切り裂いていく。だがそれを見てもキャリコは余裕のままであった。
「御前達のその柔軟性はいずれ命取りになる」
「どういうことかな、それは」
ミリアルドもノインやヒルデ達と共に戦いに加わっていた。その中でまた彼の言葉に対して問うていた。
「人間とは正邪を併せ持つ存在だからな」
「それが悪いというのか!?」
「どういうことだ」
ノインとヒルデにはそれが見えない。それにキャリコはそれを二人に対して言っているのではなかったのだ。
「アイン」
クォヴレーに声をかけていたのであった。
「以前の御前はそのことを認識していたのだがな」
「違う」
しかしクォヴレーはキャリコのその言葉を否定するのだった。
「どういうことだ?」
「俺はアインではない」
「ほう」
クォヴレーのその言葉に対してまた口の端を歪めて笑ってみせる。
「では何だ?」
「俺はクォヴレー」
彼はそれに応えて笑った。
「俺はクォヴレー=ゴードン!ロンド=ベルの戦士だ!」
それを宣言してキャリコに切りつける。キャリコはそれを己の剣で受け止めてみせた。
「しかしだ」
キャリコは激しくぶつかり合うその二本の剣を見ながらクォヴレーに言う。
「アインよ」
「まだその名を言うのか」
「一つ言っておく」
「何をだ?」
「今の御前では俺には勝てん」
「何っ!?」
「何故なら俺は」
そこから先を言おうとする。だがそこに今度は金色のマシンが姿を現わしたのであった。
「!?」
「甘いわね」
クォヴレーに照準を合わせて攻撃を仕掛けてきた。クォヴレーはそれを見てすぐに後ろに跳び退いた。それで何とかその攻撃をかわしたのであった。
「誰だ!?」
「応えるつもりはないわ」
スペクトラであった。その冷酷な笑みと共に言うのであった。
「悪いけれどね」
そのうえで言う。
「アイン」
クォヴレーのかつての名を。
「キャリコに代わって相手をしてあげるわ」
「この女も俺の過去を知っている」
「アインよ」
キャリコはスペクトラの横に位置した。そこからまたクォヴレーに対して言う。
「御前の内なる存在を呼び出せ」
「内なるだと!?」
「そうだ」
またクォヴレーに告げる。
「御前だけではそのミューティションを使いこなすことは出来まい」
「俺の内なる存在」
クォヴレーにはそれがわからなかった。
「それは一体何なのだ!?」
「前にも言ったはずだ」
だがそれはクォヴレーにはわからない。どうしてもだ。
「俺達にとって最も忌むべき存在だと」
「それは御前にとっても俺にとっても敵なのか」
「そうだ」
キャリコはクォヴレーのその言葉には答えた。
「その通りだ」
「どういうことだ、一体」
「それは」
「けれど。違うわ」
また誰かが姿を現わした。
「その男の言葉に惑わされてはいけない」
「!!」
それはヒュッケバインであった。それに乗っているのは。
「ヒュッケバインマークスリー!?」
「ヴィレッタ大尉!?」
「貴女もか」
ゼオラもアラドもクォヴレーも彼女の姿を見て言う。そして彼女の姿を見たスペクトラが仮面に隠れた顔を歪ませた。
「ヴェート・・・・・・。やはり現れたか」
「ええ、そうよ」
ヴィレッタもその彼女に答えた。
「御前達を倒すためにね」
「俺達をか」
「そして来たのは私だけではないわ」
「何っ!?」
そこに三機のマシンが姿を現わした。アルテリオンとベガリオン、そして。
「あんた、また出て来たのね」
「御前は・・・・・・」
「忘れたとは言わせないわよ!」
セレーナであった。きっとスペクトラのヴァルク=イシャーを見据えて言うのであった。
「ここで会ったが百年目よ!覚悟はいいわね」
「!?おい」
「どうしたの?」
ゼオラはアラドの言葉に応えるのであった。
「いや、セレーナさんだけれどよ」
「どうしたの?」
「何かあのスペクトラってのを知ってるみたいだな」
「そういえばそうね」
アラドに言われてゼオラも気付いたのであった。
「何かあったみたいだけれど」
「そういえばセレーナさんって」
アラドはまた言う。
「素性もはっきりしないしね」
「一応特殊部隊にいたらしいけれど」
一応それは知られてはいる。
「それでもわかっていない部分多いよな」
「そうよね」
「スペクトラ」
キャリコはここでスペクトラに声をかけてきた。
「どうしたのかしら」
「御前はヴェートの相手をしろ」
そう彼女に言うのだった。
「では貴方はやっぱり」
「そうだ。俺の相手は決まっている」
クォヴレーをここで見据えていた。
「アインよ」
「やはりやるというのか」
「御前だけは消す」
彼はクォヴレーを見据えたまま言うのだった。
「我々の存在意義のためにな」
ク「存在意義だと」
「そうだ」
また言ってみせる。
「御前の内なる存在と共に消滅しろ」
「何度でも言う!」
クォヴレーはまた叫ぶ。
「真実を知るまで俺は死なない!」
「・・・・・・・・・」
その時だった。何かが出て来たのだった。
「!?」
「・・・・・・ディーンの火」
その何かがクォヴレーに対して語った。
「この声は!?」
「ディーンの火を使え」
また言う。
「ディーンの火・・・・・・」
クォヴレーにはそれが何なのかわからない。
「何だ、それは!?」
「ベルグバウの真なる力」
そしてさらに。
「そして御前の力」
「俺の・・・・・・力だと」
「そうだ。今こそそれを」
「!?」
「何かが起こったのか!?」
キャリコもスペクトラもそれを見て言う。明らかにクォヴレーが変わろうとしていた。
その髪の色が青く染まっていく。それと共に表情までもが。別のものになっていっていた。
「俺の力・・・・・・」
彼はその中で呟くのだった。
「そう、俺の力だ」
「ま、まさか!?」
冷静なヴィレッタも驚きを隠せない。何故なら。
「あの男が現れたか」
「コード入力」
クォヴレーはキャリコの呟きも無視してコード入力を開始した。
「テトラクテュス=グラマトン」
「このコードは!?」
「何かしら」
アラドとゼオラにはわからにものだった。他の者達にも。
「何なのだ、これは」
「わからないわ」
ノイン、ヒルデも同じだった。彼女達にしてもだ。
「ディーン=レヴ。アキシオン=バスター起動」
そこまで入力し。言う言葉は。
「さあベルグバウよ、御前の力を俺に示せ」
そうしてベルグバウの腹部から巨大な砲を出した。そうしてそこから黒い光を放つのであった。
黒い光はそのまま放たれヴァルク=バアルを撃つ。その速さ、威力はキャリコとてかわせるものでも凌げるものでもなかった。
「ぐうっ!」
「な、何だ今のは!?」
「アキシオン=バスター」
クォヴレーはそうアラドに答えた。
「それが今の技の名だ」
「アキシオン=バスターだと!?」
「ヘ、ヘッキシオン!?」
ヴィレッタとアラドが同時に言う。しかしここでクォヴレーが言うのだった。
「アキシオン=バスターだ。それはベルグバウの新たな力」
「け、けれどよ。なあ」
「え、ええ」
アラドとゼオラは戸惑いながらお互いに言い合う。
「何か今のクォヴレーってよ」
「普段と全然っていうか。これって」
「まさか」
ヴィレッタは戸惑いながら呟く。
「まさかあの少年は」
しかしそれは有り得ない。それもわかっているのだった。
「そんなことは有り得ない。彼はあの時に」
「そうらしいわね」
「オウカさん」
「来られたんですか」
「ええ」
オウカは二人に答えた。彼女も来たのであった。
「フフフ、待っていたぞ」
だがキャリコはここで不敵な笑みをまたクォヴレーに向けるのであった。
「御前が現れるのをな」
「キャリコ=マクレディ」
クォヴレーはキャリコに対して問うた。
「御前に俺が倒せるか?」
「無論だ。だが」
しかし彼は言うのだった。己の置かれた状況を踏まえて。
「仕切り直しだ」
気力を使った。そうして復活するのだった。
「御前もまた」
「行くぞ」
キャリコはなおもクォヴレーに向かおうとする。
「アインの内なる存在よ」
「来るがいい」
クォヴレーの中のその存在が言うのだった。
「我が写し身よ」
「俺を写し身というのか」
「そうではないのか?」
言葉もクォヴレーのものではなくなっていた。
「御前は」
「違う・・・・・・」
何故かここでキャリコの言葉に感情が篭った。
「俺はそうではない。俺は」
「ヴェートよ」
スペクトラもまたヴィレッタに向かおうとしていた。
「アイン同様御前の存在も我々にとって目障りだ」
「そうでしょうね」
それはヴィレッタもよくわかっていた。
「貴女も私なのだから」
「言うわね。それじゃあ」
「待ちなさいよ!」
しかしここでセレーナが二人の間に入って来た。
「御前は」
「セレーナ!?」
「あんた、ここで見つけたが百年目よ!」
セレーナはスペクトラに対して突き進む。
「覚悟しなさい!」
「どくのだ」
だがスペクトラは彼女を退けようとする。
「私が用があるのは御前ではない」
「あんたに用がなくてもね」
だがセレーナもここで意地を見せるのだった。
「あたしにはあるのよ!」
一直線に向かう。だがそれはやはりスペクトラに無視されようとしていた。
その横ではクォヴレーとキャリコの戦いが続いている。クォヴレーの内なる存在はキャリコを寄せ付けず戦いを有利に進めている。キャリコもこれに対しては歯噛みするしかなかった。
「くっ、あれがミューティションの真の力か」
「そうだ」
クォヴレーは彼の言葉に対して答える。
「そして覚えておけ」
「覚えておけだと」
「そうだ。御前は俺には勝てない」
そうキャリコに対して告げるのだった。厳かなまでの声で。
「決してな」
「だがそれはこちらの台詞だ」
しかしキャリコも負けてはいない。また言い返してきたのだった。
「覚えておけ」
彼もまた言う。
「俺はオリジネイターを抹消しその機体を手に入れる」
「あくまでそのつもりか」
「そうだ」
声には怒りが含まれていた。
「何があろうともな」
しかしここで。何かが起こった。
「!?」
ヴァルク=バアルに通信が入った。キャリコはそれを見て顔を顰めるのだった。
「一時撤退せよというのか」
「それは本当なの、キャリコ」
「ああ、そうだ」
スペクトラに対しても答える。
「援軍と合流してな。命令だ」
「命令か。それならば仕方がないわ」
「残念だがな。それでは」
「ええ、わかったわ」
二人は撤退をはじめた。それは彼等だけでなくバルマー軍全体がであった。戦いは一旦はこれで終わるのであった。
「敵が退いていくな」
「そうね」
アラドとゼオラはそれを見て言う。
「けれど追跡は無理か」
「そうね。こっちもダメージが大きいから」
その通りだった。ロンド=ベルも今回の戦いでかなりのダメージを受けてしまっていた。少なくとも連戦は今は無理な状況であったのだ。
「とりあえず今は月の基地に入りましょう」
オウカがこう提案してきた。
「それで次の戦いに備えるのよ。いいわね」
「そうですね、ここは」
「そうしましょう」
アラドとゼオラも彼女の言葉に頷く。こうして戦いは一先は終わるのであった。
「う、うう・・・・・・」
戦いが終わるとクォヴレーは頭を抱えだした。そうして苦悶の声をあげるのであった。
「おい、クォヴレー」
「大丈夫なの!?」
「俺は一体・・・・・・」
髪の色が元の薄紫に戻っていた。そうして彼は言うのだった。
「何をしていたんだ、一体」
「っておい」
「覚えていないの!?」
「あの少年」
オウカも含めて三人はそんな彼を見て呟く。
「記憶をなくしているというの?」
「そうかもな」
「あれは」
「し、しかしよ」
だがここでアラドはクォヴレーに声をかけるのだった。
すげえな、さっきのヘッキシオン何とかって奴」
「?」
しかしクォヴレーはその問いに答えられなかった。怪訝な顔をするだけであった。
「何のことだ、それは」
「ベルグバウが胸から撃ったビームのことだけど」
「胸から?」
「そうよ」
アラドも彼に告げる。
「それで敵を撃ったんだけれど」
「胸から・・・・・・んっ!?」
だがここで彼も気付くのだった。ベルグバウにあるデータに。
「ディーン=レヴ?アキシオン=バスター?これは」
「本当に覚えてねえのか!?」
「嘘!?」
二人はクォヴレーが本当に何も知らないことに気付いてまたしても驚いた。
「そんなことってありかよ」
「どういうことなの!?」
「だが。俺は」
しかしクォヴレーも覚えていることがあった。
「俺はゼ=バルマリィ帝国軍の兵士だった」
それは覚えていたのだ。
「その事実が判明した以上記憶がないとは言え、もうαナンバーズにはいられないな」
そう呟きながら母艦に戻る。早速彼を囲んでの話になった。
「まさかな」
ブライトがまずクォヴレーに対して言った。
「君がバルマーの人間だったとはな」
「その記憶はありません」
クォヴレーはそれも正直に話した。
「ですがあのキャリコという男によればそうだと」
「任務内容は何だったのか」
ブライトは次にそれを考えた。
「ロンド=ベルの内情調査だろうか」
「ということはだ」
大文字もここで気付いた。
「連邦軍にある君に関するデータは偽造されたものだったということか」
「おそらく」
クォヴレーも彼の言葉に頷く。
「それでだ」
大文字はさらに彼に問う。
「過去の記憶を失った点についてキャリコという男はどう認識していたのかね?」
「ベルグバウのことも含めて予測外のことだったようです」
こう答えた。
「そしてキャリコは記憶を失った自分を欠陥品と呼んで処分しようとしました」
「その件に関しては他の者からも報告を受けている」
「そうですか」
今度はブライトの言葉に応えた。
「ではやはり」
「君の記憶が戻らない以上これ以上の詮索は無意味だが」
大文字はまた彼に声をかけた。
「問題は君の処遇についてだ」
「拘留、あるいは処刑ですか」
「いや」
それは大河が否定した。
「君の場合利敵行為に当たる行動は一切見られない。これは他のメンバーの証言でも明らかだ」
「よって君を処罰する理由は今のところない」
また大文字が言ってきた。
「しかし」
だがクォヴレーは自分から言ってきた。
「自分はロンド=ベルの敵。ゼ=バルマリィ帝国の人間です」
「今はどうなのかね?」
しかし大河はその彼自身に問うた。
「今の君は」
「今の自分ですか」
「そうだ。それはどうかね?」
「ロンド=ベルの」
クォヴレーはそれに応えて話しはじめた。
「ロンド=ベルのメンバーだと自分では認識しています」
「ならそれでいい」
「えっ!?」
大河の言葉に思わず顔を上げた。
「それは一体」
「君をロンド=ベルのメンバーとして認めると言っているのだよ」
「自分をですか」
「意外かね?」
驚くクォヴレーに対してまた声をかける。
「ですが」
しかし彼は言う。
「記憶が戻れば自分はロンド=ベルの敵になるかも知れません。それに」
「それに?」
「現に今自分がここにいることで敵に情報が漏れている可能性もあります。それでも構わないと?」
「君の身体に関してはGGGの方でも調べさせてもらった」
「そうだったのですか」
これもあらたにわかったことであった。
「その結果特に問題はないと思われる」
(なら)
しかしクォヴレーはそれを聞いて心の中で思うのだった。
(あの声は何だというのだ?)
「君の記憶が戻り敵対行動を見せた場合は然るべき処置を取らなければならないが」
大河はまた言う。
「現時点では君を敵と認識してはいない」
「そして」
今度は大文字が言った。
「君のロンド=ベル所属に関しては、ゼオラ=シュバイツァー少尉やアラド=バランガ少尉以下多くの者達から嘆願書が出ている」
「ゼオラやアラド達が俺を」
「彼等は君を仲間として認めている」
そうクォヴレーに告げるのだった。
「後は君の判断次第だ」
「俺のですか」
「それでだ」
ブライトが彼に問うてきた。
「君の本音はどうなのだ」
「自分は」
クォヴレーはそれに応えて言う。
「ロンド=ベルへの所属を希望します」
「了解した」
これで全ては決まった。
「では以上だ。行きたまえ」
「はい」
これで決まりであった。彼はロンド=ベルに留まることになった。彼は一旦退室しブライトはそれから大河に対して声をかけるのであった。
「これでいいのですね」
ブライトはクォヴレーがいなくなってから大河に声をかけてきた。
「彼をロンド=ベルにこのまま入れることで」
「うむ」
大河はまずはその問いに頷いてみせた。それからまた言う。
「確かに問題は多い」6
「やはり」
「しかしです」
だがここで大文字が言う。
「こちらで調べた結果彼は遺伝子操作を受けて生まれてきた人間だということが判明しています」
「やはり」
ブライトはそれを聞いて呻いた。
「そうだったのですか。では彼は」
「間違いなくバルマーの側の人間だな」
アムロが彼に応えて言った。
「あのラオデキア=ジュデッカ=ゴッツォのクローン達とそうした意味では同じだ」
「そうだな」
「そしてです」
大文字はまた言ってきた。
「あのベルグバウというロボットですが」
「あれですか」
「そうです。あれは」
「バルマー戦役中に確認されたエアロゲイターの機体と特徴が似ています」
サコンが述べる。
「その似ているマシンですが」
「アストラナガンか」
「その通りです」
サコンもブライトの言葉を認めるのだった。
「もっともその機体とベルグバウの関係は今の所不明ですが」
「そうか」
「しかし確か」
これは大河も知っていることだった。
「アストラナガンもイングラム少佐も」
「いや、それはわからねえぞ」
だがここでリュウセイが言い出してきた。
「わからない!?」
「そうだよ、イングラム少佐はあの時言ったじゃねえか」
あのガンエデンとの最後の戦いの時のことだった。
「絶対に戻って来るってよ」
「そうだったな」
大河も覚えている。だからここはまずはリュウセイの言葉に頷くのだった。
「あの時に彼は」
「彼はあのバルマー戦役の終結の時に一旦姿を消した」
ブライトの話はさらに遡るものであった。
「しかし戻って来た」
「どういうわけかわからねえが」
リュウセイはまた言うのであった。
「あの人は何があっても戻って来る。だから今も」
「生きているというのだな」
「それは間違いねえ」
彼はそう確信していた。
「どうやって戻って来るかまではわからねえけれどよ」
「それだな」
ブライトはそこを指摘する。
「そこなんですか」
「そうだ。アストラナガンに似ているあのマシン」
そこがまた注目される。
「やはり。何か関係があるのだろうか」
「それ以外にもだ」
大河は話を変えてきた。
「彼が正規の手順を踏み我々に配属されてきたという点が気になる」
「はい」
ブライトはここであることを言う。それは。
「その事実は今回の帝国監察軍の手の者が連邦軍内部に入り込んでいることを示唆しています」
「彼等が何を目的としてクォヴレーを我々側へ送り込んできたか」
グローバルはそこを見た。
「それを考えるとだ」
「どうされますか?」
「その事実が判明するまで彼を手の届く範囲内に置いておくべきだと思う」
「そうですな」
大河はグローバルのその提案に賛成した。
「確かに。それが最も安全かと」
「そう。それにだ」
ここでグローバルは言うのだった。
「私は信じてみたい」
「信じるのですね、彼を」
「そうだ」
そうブライトにも答えてみせる。
「自らの意志でロンド=ベルと共に戦うと言った彼をな」
「そうですな」
「確かに」
それには大河もブライトも頷くのだった。
「私もそうしたいです」
「やはり私も」
そして賛同の言葉を述べる。
「ここは彼を信じましょう」
「はい」
こうしてクォヴレーは彼等の中に入ることになった。その時彼は一人だった。一人で考えていたのであった。己のいる部屋の中で。
「俺は決めた」
そう呟いていた。
「俺は人間だ。だから」
「ああ、ここにいたのね」
「よお」
その彼にゼオラとアラドが声をかけてきた。
「聞いたわ。自分で選んでくれたのね」
「俺達と一緒に戦ってくれるんだな」
「御前達」
クォヴレーは二人に顔を向けた。
「どうしてここに」
「どうしてって」
「同じ小隊じゃねえか」
「小隊!?ああ、そうか」
その言葉でふと思い出した。
「そうだったな。俺達は」
「そうよ。それに」
「それに。今度は何だ?」
ゼオラに顔を向けて問うた。
「私達嬉しいのよ」
「そうなんだよ」
「嬉しい。何がだ」
「貴方がロンド=ベルに残るって決めてくれたことよ」
「そうだよ」
アラドも言ってきた。
「俺達結構いい感じで三人でやっていけると思うぜ」
「三人でか」
「ええ、そうよ」
ゼオラもそれを言ってきた。
「きっとね。絶対に」
「俺はバルマーの人間だった。それでもか」
「そんなのねえ」
「なあ」
だが二人は全く気にしていないようであった。
「全然関係ないわよ」
「うちじゃあな」
「そうなのか」
「ギャブレーさんだってバーンさんだって」
「最初は敵だったしな」
二人は彼等を話に出してきた。
「他にもねえ」
「マイヨさんだってそうだしな。ジョナサンさんだって」
「そういうばそうか」
「そうよ」
ゼオラの声が明るくなった。
「私達のスクールだって最初は連邦軍と敵対する感じだったし」
「まあ何かの縁でオウカさんやラトゥーニとまた一緒にやっているけれど」
「御前達もだったのか」
「そうよ。けれど」
「今は違うさ」
二人は明るい声で言うのだった。
「自分の意志でここにいるのよ」
「俺だってそうさ」
「そうなのか」
「ええ、だからね」
「過去なんてどうでもいいんだよ」
そう彼に声をかけるのだった。
「気にしなくていいわよ、そういうのは」
「少なくとも俺達は気にしないさ」
アラドがまた言うのだった。
「御前の過去がどうでも俺は気にしないさ。御前が俺達を仲間だって思ってくれるんならな」
「それだけでいいのか」
「ええ、それだけよ」
「他には何もいらないぜ」
こうまで言う。
「だからクォヴレー君」
「これからも一緒にやろうぜ」
「仲間、か」
「そうよ、仲間よ」
「俺達は仲間なんだよ」
「だが」
しかし彼はここで言うのだった。
「俺が記憶を取り戻した時だが」
「その時は?」
「どうなるっていうんだ?」
「御前達のことをそう認識できるかどうかはわからない」
「そん時はそん時さ」
「そうよね」
しかし二人はそう言われてもあっさりとしたものであった。
「記憶が戻っても今のクォヴレーのままでいられるかも知れないしさ」
「だから気にはしてはいないわ」
「楽観的だな」
クォヴレーはそれを聞いて思うのだった。
「御前達は」
「へへッそれが信条だからね」
「とにかくね」
二人はまた彼に言う。
「これからもよろしくねクォヴレー君」
「ああ」
(しかし)
彼はこの中でふと感じるのだった。
(不思議な気分だ。温かい・・・・・・安心感か)
それを今感じていた。
(これが仲間か)
「そういえばだ」
その感触を感じながら二人に声をかけてきた。
「何だ?」
「どうしたの?」
「俺の為に嘆願書を出してくれたそうだな」
それを二人に対して言うのだった。
「俺の為に。そうだったな」
「ええ、そうよ」
「皆でな」
「皆で課」
「だってそうじゃない」
またゼオラが言ってきた。
「仲間なんだから」
「当然じゃなえか」
「そうか」
クォヴレーはそれを聞いて微笑むのであった。
「礼を言う。有り難う」
「御前そんな顔もできるんだな」
アラドはそんな彼の顔を見て言うのだった。
「何か意外だな」
「当たり前でしょ」
しかしゼオラが彼にクレームをつける。
「人間だもの」
「そうだな。人間だからな」
「そりゃあんた程表情は多くはないけれど」
「俺は表情多いのかよ」
「自覚しなさい」
そう言い返すゼオラであった。
「かなり多いわよ。それに悪いことじゃないじゃない」
「それもそうか」
「そういうことよ。じゃあまたすぐに戦いよ」
「そうだったな」
まだバルマー軍は近くにいる。また月を巡る戦いがあるのは明らかであった。
「また助っ人も来るらしいしね」
「助っ人!?今度は誰だ?」
「連邦軍とプラントからよ」
ゼオラはそうアラドに述べた。
「十二人程度。戦艦も一隻来るわ」
「また随分派手に来てくれるな」
「正直有り難いじゃない」
ゼオラの言葉は笑っていた。
「戦いはどんどん激しくなっているし」
「それもそうだな。それじゃあ」
「ええ。また頑張りましょう」
「そうだな」
(そうだ」
クォヴレーはまた心の中で呟いていた。
(俺は人間だ。少なくともロンド=ベルでは)
それを心の中で確かめる。そうしてまた戦いに向かうのだった。彼の戦いは今本格的にはじまったと言えた。全てが今はじまったのだ。

第三十六話完

2008・1・8  
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