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茨の王冠を抱く偽りの王

作者:カエサル
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09.想定外

「それじゃ撮るよ。ヒロインが恋人の死を知るシーン......テイク5!」

「一週間?」

久しぶりに映研の活動の映画撮影をしている中、俺と集はガイと通信機で話す。

「リーダーがそんなに不在ってまずいんじゃない?」

『俺が行かないとまとまらない話もある。しばらくはおとなしく学校を楽しんでいろ』

「はいはい、いい子にしてますよ」

「久しぶりの休日か」

「.....カットカット!!」

颯太の大きな声が響く。





今日の撮影も終わり俺はシオンと夕暮れの帰り道を一緒にアジトに向かい歩いていた。

「ねぇねぇ王様、どこか寄り道していかない?」

急ぐ用事もないしな。

「別にいいけど、どこに寄ってくんだ?」

シオンは俺の右手を握って、いいからいいから、と言ってどこかに連れていく。

まぁ、シオンも行く場所は決めたなかったらしく俺とシオンはいろいろな場所に行った。

「今日のデート楽しかったね、王様」

「そうだな」

やっぱり今日の寄り道はデートだったらしい。
確かに俺とシオンははたから見たらカップルにしか見えないだろう。





俺とシオンがアジトに着く頃にはガイはもう任務に出かけており、葬儀社の主要メンバーのほとんどの姿がなかった。

「綾瀬は残ったの?」

いつも作戦会議を行う広間に綾瀬が足に毛布をかけて編み物をしていた。

「うん、私はガイに残るように言われたから」

「綾瀬さん、その編み物、誰にあげるんですか?」

シオンの問いに綾瀬はものすごく動揺する。

「えっ.....いや、あの....その」

その時、急にピピピピピとモニターが鳴る。
そこには、CALL Ouma Shu、と表示されている。
どうやら集からの通信らしい。

「シュウ?」

『ガイは?』

「もう出たけど」

少し間が空く。
そして何か思いついたように集が言う。

『保護してほしい人がいるんだ。アポカリプスの患者。もうキャンサー化が始まってる』

キャンサー化だって!!

「ちょ、ちょっと待ってよ!!四分儀さんに連絡してこっちから指示を......」

集は綾瀬の言葉を遮り話す。

『これからポイントイエロー1に向かう。一時間後にピックアップよろしく』

「ちょ、ちょっと!!シュウ!!」

集は通信を勝手に切ってしまった。

「なんなの、シュウは?とりあえず私は四分儀さんに連絡してみるわ。イバラはポイントイエロー1に向かってもらえる」

「わかった」

「それなら、私も王様についてくわ」

「シオンはここに私と残って」

「えぇ〜、つまんないじゃん」

「イバラ、何かあったら連絡してちょうだい、すぐに駆けつけるから」

「わかった」

アジトを出てポイントイエロー1へ向かう。
辺りはもう暗くなっている。
空には雨雲が立ち込め、今にも雨が降りそうだ。
.......何か嫌なことが起こりそうな予感がする。




ポイントイエロー1に向かう最中.....嫌な予感は的中してしまうことになった。

ポイントイエロー1に近づくにつれて右腕がうずき出す。
それと同時に大島の時のように羽虫がざわめき出す。

「うっ.....なんなんだ.....この感覚」

ざわめく羽虫の音の中に誰かの声がする。

『.......ボ.......そ...』

その声は徐々に大きくなっていく。

『.....あ....ボ......そボ.....』

大きくなる声とともに機械のエンジン音のような音がする。

「何なんだ、この声は!!?」

俺がこの感覚に耐えきれなくなって地面に膝をつけた瞬間にさっきまで聞こえていた声とエンジン音がハッキリと聞こえだす。

『あソボ!!!』

その声と音は俺の後ろから聞こえだす。
俺はざわめく羽虫の痛みをこらえ、直感的に聖骸布のヴォイドを取り出し自らの体に纏う。
聖骸布を纏うと同時に俺の体は吹き飛ばされていく。
聖骸布を纏っても体に痛みが走る。

「な、なんだ!!」

向こうの方で砂煙がたっている。
その中に見覚えのあるシルエットと砂煙の中に赤い光が浮かび上がる。

「あれは.....綾瀬のシュタイナー?」

砂煙が晴れて姿を現したのは、綾瀬のシュタイナー.....ではなく形は全く一緒だが色が黒色のシュタイナーだ。

『アソぼ.....アそボうよ!!』

黒色のシュタイナーは俺の方に向かってくる。
俺はヴォイドを聖骸布から処刑剣へと入れ替える。

処刑剣から斬撃を放つ。
だが、黒色のシュタイナーの動きが速すぎて斬撃が捉えることが出来ない。

「何だよ、あの速さ!」

黒色のシュタイナーの速さは綾瀬シュタイナー以上に速く反応速度は人間とは思えないくらいに速い。

クッソ!!どうすれば!?
今の俺が知る限りこいつを倒せそうなヴォイドがない。
処刑剣.....斬撃が当たらない。
赤子のオルガン.....地面を喰らおうにも反応速度が速すぎてバランスを崩さない。
聖骸布......自分を守ることしか出来ない。
戦輪.......これも相手の反応速度が速すぎて当たるかどうか。

あいつを止めるには新たなヴォイドに頼るしかない。
俺の右腕の中にいくつのヴォイドが入ってるかわからない。下手したら今までのヴォイドが全てかもしれない。
.......でも、可能性に賭けるしかあいつを倒す方法はない。

「.......頼む、俺の声に答えてくれ」

右腕が今だ見たことがないくらいに光り出す。

.....光から出てくるのは剣か?それとも銃か?それともまったく違うものか........鬼が出るか蛇が出るか.......それとも......
この状況を打ち砕く武器を今こそ現れろ!!

右腕の光から現れたのは、俺の身長の倍ぐらいある長身の槍。
その槍を言葉に出すならまさにその姿は"ロンギヌスの槍"だ。

『アはッ!!あハははハっ!!!』

笑い声をあげながら黒色のシュタイナーが迫り来る。

迫り来るシュタイナーにロンギヌスの槍を突き刺す。
シュタイナーは後ろに引くようにして避けるもその一瞬の隙を俺は逃さない。
後ろに引く瞬間に槍をシュタイナーめがけて投げる。
槍はシュタイナーの腹部に完璧に突き刺さる。

『アあ"ッァぁぁァ!!痛イ!いタイ!イたい!』

「止まれ、シュタイナー!!」

腹に突き刺さっている槍をさらに奥まで突き刺すために機動力の鈍ったシュタイナーに近づき槍を奥深くまで突き刺す。

『痛イ!!イたい!!いタ......』

黒色のシュタイナーの目に灯っていた赤い光が消え去り、聞こえていた声も消え去る。

「はぁ....はぁ....はぁ...」

息切れがヤバイ。
突然、ピピピピピと通信機が鳴りだす。

「はい」

『あっイバラ、大丈夫なの!?』

相手は綾瀬だ。

「あっ、あぁ。何とか無事だ」

俺の声を聞いて綾瀬は少し安心したようだ。

『良かった。.....やっぱりなんかあったんじゃない!!なんで連絡してこないのよ!?』

綾瀬は少し怒鳴りだす。

「連絡する間もなかったんだよ、ゴメン」

『まぁ、いいわ。それより、シュウの居場所がわかったわよ。今からそっちに地図を送るわね』

綾瀬から通信機に集がいる場所の地図が送られてきた。

場所はポイントイエロー1のすぐ近くの工場だ。

「ここに集がいるんだな」

『えぇ、そうよ。なんか嫌な感じがするから早く行った方がいいと思うわ』

俺はダメージを受けた体を少し引きずりながら急いで集の元へと向かう。





地図に示された工場へ向かう。
工場に着くが全ての出入り口がシャッターに閉ざされている。
だが、隙間から漏れる赤い光と誰かの叫び声が聞こえる。

『アァァァァっ!!!』

叫び声が消えたと思ったらシャッターが開き、中から八尋を背負った集が現れる。

「しゅ.....う?」

集の顔からは生気がない。
集が出てきたシャッターの中を覗くとそこは、まさに地獄だった。

燃えさかる炎、横たわるエンドレイブ、そのうちの一体はキャンサー化でもしたかのように結晶化している。
......そして一人子供が横たわっている。

「なっ、なんだよ......これ」

集は八尋を背負ってどこかへ姿を消す。



やはり、雨が降ってきた。
まるで、今の集の感情を写しているかのように今日の雨は冷たかった。
 
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