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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第十八話 シャピロ襲来

              第十八話 シャピロ襲来
「ゴステロはどうなったのだ?」
撤退したバルマー軍は連邦軍の知らない場所に集結していた。そこで指揮官であったアーマス=ゲイルは部下達にゴステロの状況を聞いていた。
「かなりの重傷です」
「そうか」
ゲイルはそれを聞いても何も感情を見せない。
「生きてはいるのだな」
「脳に損傷を受けていますがそれでも」
「やはりな」
それを聞いて当然だと言う。
「では改造手術か」
「その予定です」
部下はそう彼に告げる。
「既に手術室に入っています」
「わかった。ならばいい」
彼はそれを聞いて報告を止めさせた。
「ならばすぐにでもまた戦場に出るな」
「はい」
「全く。グラドス軍も落ちたものだ」
彼は言う。
「一般市民を狙うなどとはな」
「ですがそれがハザル司令の御考えですし」
「司令のか」
ゲイルはハザルの名にも不快感を見せた。
「司令もな。こうしたことを続けていれば何時かは」
「隊長」
だがここで部下が彼を制止する。
「それ以上の御言葉は。何処に耳があるかも知れません」
「そうだったな。済まない」
ゲイルもそれに気付く。それで述べた。
「ではこの話はこれで止めよう」
「そうすべきかと」
「地球についてだが」
そのうえで話を止めてきた。
「辺境方面軍はどうしているか」
「既に地球圏に到達した模様です」
「早いな」
ゲイルはそれを聞いて述べた。
「思ったよりも」
「そうですね。それもかなり」
部下も彼の言葉に頷く。
「しかも他に何か考えているようです」
「何かとは?」
「そこまではわかりませんが」
部下はその問いには言葉を濁す。
「どうやら。かなり思い切ったことを考えているようです」
「そうなのか」
「はい。あの副官殿の策で」
「ロゼ殿か」
ゲイルはそれが誰なのかわかった。すぐに察しがついたのだ。
「彼女の策か」
「はい。そしてマーグ司令も地球に向かわれています」
「彼等も積極的に動いているのだな」
「それは間違いありません」
部下はそう述べる。
「ですから我々もまた」
「わかっている」
ゲイルは部下の言葉に頷いた。
「それではすぐに戦力の回復に入る」
「はい」
「そして。援軍も要請しておくか」
「それについてはもう決定しているようです」
部下はそうゲイルに述べた。
「既にまた本格的な軍勢が刻印に向かっています」
「そうか。ハザル司令も本気か」
「ええ」
「ならばそれは安心していいか」
「そうかと」
部下はそうゲイルに述べるのであった。
「ハザル司令はマーグ司令に遅れを取るまいと考えておられますので」
「そうだな」
それはゲイルもわかっていた。彼等の上司であるハザル=ゴッツォとマーグの対立はバルマーの中でも有名なことだからである。だからこそ知っているのだ。
「そのうえでです」
「援軍についてか」
「そうです。どうやらその援軍ですが」
部下はそれについて言及する。
「バルシェムを送り込むようです」
「バルシェムをか」
それを聞いたゲイルの目の色が少し変わった。
「司令は間違いなく本気であられるな」
「それは間違いなく」
部下も言う。
「これまでにない激しい戦いになるかと。司令御自身も地球に向かわれるつもりのようですし」
「そのようだな」
これはゲイルも予想していた。
「それでは。今後はかなり激しい戦いになるな」
「そうですね。それは確かです」
「バルマーにとっても正念場なのかもな」
ゲイルは何故か暗い顔をしだした。
「今は」
「といいますと」
「いや、何でもない」
しかしそれ以上は言おうとはしなかった。
「忘れろ。いいな」
「わかりました。それでは」
「まずは全軍戦力の再編成にあたる」
彼はそう指示を出した。
「わかったな」
「了解」
バルマー軍とグラドス軍はプラントでの戦いの傷を癒すことを優先させた。その間にロンド=ベルもゼダンで補給を受け英気を養っていたのだった。
だがその彼等のところに。また敵襲の報告が入って来た。
「丁度いいタイミングだな」
アランはその報告を聞いてそう述べた。
「補給も終わり皆も大体気力を回復させたところだな」
「そういうところかね」
イルムはそれを聞いて述べる。
「俺はもうちょっと遊びたかったけれど」
「遊びか」
「ああ、カードな」
楽しげに笑ってアランに告げる。
「タスクとやり込んでるのさ、最近な」
「ポーカーか?」
「いや、ウノさ」
そう答える。
「あれもあれでかなり面白いぜ」
「そうなのか。では今度俺も入れてくれ」
「ああ。仲間は多い方がいいしな」
イルムもそれを受ける。彼等はすぐにゼダンを後にしてその報告があがった月周辺に向かうのであった。その彼等に報告したのはある意味懐かしい面々であった。
「あんた達にこんなことを言うとは思わなかったね」
ラー=カイラムのモニターにいたのはライラであった。彼女達ティターンズの面々は今は連邦軍に復帰しているのである。ただし階級は連邦軍扱いだ。
「あれ、あんたがそこにいるのか」
レッシィは彼女の姿をモニターに見て言う。彼女は今はディザートのコクピットからライラを見ているのだ。
「何か奇遇だね」
「腐れ縁ってやつだな」
ジェリドもそこに出て来た。
「ジェリド」
「暫くだな、カミーユ」
ジェリドはカミーユにそう挨拶をした。
「連邦軍にいるとは聞いていたけれど」
「まさかこうして会うとは思わなかったな」
ジェリドの方からそう言ってきた。
「そう言いたいんだろ?」
「あ、ああ」
カミーユは少し戸惑いながら答えた。
「まさかとは思ったけれど」
「俺もいるぜ、カミーユちゃんよ」
ヤザンもそこにいた。
「俺も今はこっちさ」
「あんたまでなのか」
「おっと、けれど勘違いするなよ」
ヤザンはそうカミーユに告げる。
「今は真面目な連邦軍のパイロットさ」
「真面目、ねえ」
ジュドーはそれを聞いても信じられないといった顔であった。
「あまり信じられねえんだけれどさ、悪いけれど」
「悪いよ、それは」
ライラが苦笑いを浮かべてジュドーニ言葉を返す。
「あたし達も軍事法廷からこうして復帰しているんだしね」
「ああ、そっちでは皆無罪判決だったんだな」
ジュドーはそう彼等に言った。
「よかったじゃねえか」
「ジャマイカンのおっさんとかバスク大佐に責任があるってことになった」
ジェリドはそう述べた。
「まあ死んでるけれどな」
「すっげえ政治的な話だな、おい」
ジュドーはそう突っ込みを入れた。
「何かそれってよ」
「気にするな」
ヤザンはあえてそう述べる。
「わかったな」
「じゃあ考えないことにするさ」
ジュドーはそっちについてはそうすることにした。
「それでいいんだよな」
「ああ、御前さんはそうしときな」
ヤザンはジュドーにそう告げた。
「それでだ」
そのうえで本題に入る。
「敵の数はかなり多いぜ」
「どれだけなんだ?」
カミーユはそうヤザンに問うた。
「ざっと見ただけで一千機だ。悪いが俺達が相手にしているのは一部だ」
「一部なのか」
「それでもかなりの数だ」
ジェリドが言う。
「悪いがそちらへ援軍には行けない。というよりは俺達が援軍を頼んだ」
「そういうことだったのね」
エマはそれを聞いて納得がいった顔を見せた。
「それで私達を」
「そういうことさ」
ライラが答える。
「悪いけれど頼むよ」
「わかった。じゃあそっちはそっちで頼むぜ」
ジュドーがまた彼等に告げた。
「それでな」
「了解。見当を祈る」
「ああ」
こうして旧ティターンズの面々との話を終えた。そうして敵に向かうのであった。だがその途中でさっきの話のやり取りでどうにも腑に落ちないものも感じていた。
「まさかなあ」
それをジュドーが言うのだった。
「あいつ等と味方同士なんてな」
「それが不服なの?」
エマがそのジュドーに問う。
「いやさ、わからねえもんだと思ってさ」
シュドーはそうエマに答える。
「この前まであんなにいがみ合ってきたからさ」
「そうは言うけれどジュドー」
エマはそのジュドーに対して述べる。
「私も元々はティターンズよ」
「おっと、そうだった」
「彼等の正体に気付いて抜けたけれどね」
「そうでしたよね。エマさんもかつては」
ファがそれを聞いて言う。
「ティターンズでしたよね」
「そうよ。思い出してくれたわね」
「はい、まあ」
ファはそう言葉を返す。
「そうでした」
「そういうことよ。それに味方だとあれはあれで頼もしいじゃない」
「まあそうだけれどさ」
ジュドーもそれは認める。敵だったからこそわかることであった。彼等の強さは。
「じゃあここは頼りにさせてもらうか」
「そういうことよ。じゃあ私達はこのまま」
「敵に向かおう」
ヘンケンが言ってきた。
「それでいいな」
「了解」
「それじゃあそういうことで」
皆それに頷く。そうして敵軍に向かうのだった。
敵はライラ達の報告通り月面近くに大軍を擁して展開していた。そこにいたのはやはりバルマー軍であった。既に布陣を終えていた。
「何だ、今度の奴等は」
マサキはその彼等を見て言う。
「あのグラドスじゃねえな」
「それよりもさ、これって」
リューネが彼に突っ込みを入れる。
「あれだよ、何か馴染みだよ」
「この場合に使う表現か?」
ヤンロンがさらに突っ込みを入れる。
「それは」
「まあいいじゃないの、それよりも」
テュッティがそう言ってヤンロンを宥めてから言う。
「見たところ彼等は前に出て来た軍みたいよ」
「じゃああれ?」
ミオはそれを聞いてすぐに気付いた。
「タケルのお兄さんの」
「その通りだ」
聞き覚えのある声が返って来た。
「久し振りだな、地球の愚か者達よ」
「あんたかい」
沙羅はその声を聞いてすぐに顔を顰めさせた。
「相変わらず。そっちにいるんだね」
「そうだ」
その声の主はシャピロであった。彼は戦艦の中にいた。
「どうやら元気そうだな」
「おかげさまでね」
雅人もまた嫌悪感を露わにして言葉を返してみせた。
「あんたもそうみたいだね」
「私は崩れることはない」
シャピロはそう雅人に言葉を返した。
「神となるまでな」
「まだそんなことを言っているのか」
亮はそんな彼を侮蔑する目で見た。
「戯言を」
「やい、シャピロ!」
最後に忍がシャピロに対して叫んだ。
「ここで会ったが百年目だ。今度こそ覚悟しやがれ!」
「藤原、御前もまた相変わらずだな」
いつもの己だけを高みに立てた言葉であった。
「そうして何時までも怒鳴っているだけか」
「それが悪いのかよ!」
忍はそんな言葉を聞くつもりもなかった。
「少なくともな。手前みてえに分不相応なことは考えていねえぜ!」
「分不相応だと」
シャピロは今の藤原の言葉にその眉をピクリと動かした。
「それはどういう意味だ」
「言わなくてもわかるだろうがよ」
忍は多くは言わなかった。こう言い返すだけであった。
「そんなことはよ」
「私が器でないというのか。神になる」
「馬鹿言ってんじゃねえ」
それは忍の返答であった。
「御前はただの人間だ。神になんかなれる筈がねえ」
「愚かな」
怒りを隠して言葉を出す。
「私に対してそのようなことを言うとは」
「いや、この場合は藤原中尉が正しいね」
ここで万丈が言うのだった。
「破嵐万丈か」
「そうだよ。今の言葉は彼が正解さ」
「フン、御前にもわからないことだ」
「いや、悪いけれどわかるんだよ」
万丈はまた彼に言い返した。
「僕も色々あったからね。少なくとも君は神なんかにはなれない」
「まだ言うのか」
「よかったら何度でも言うよ」
万丈は平然とした態度を保ち続けている。それに対してシャピロは表面上はともかくその感情はさらに荒れようとしていた。
「君はただの人間さ。神なんかには到底なれないってね」
「それ以上話すことは無駄なようだな」
これはシャピロの痩せ我慢であった。
「死ね。私が言うのはそれだけだ」
「藤原」
アランが忍に声をかけた。
「わかっているな」
「ああ、わかってるぜ!」
もうダンクーガを前に出してきていた。他のマシンもそれに続く。
「やああああああってやるぜ!」
そう叫んでから突っ込む。これが戦いのはじまりであった。
ロンド=ベルの方から突き進む。それに対してシャピロも突撃を命じる。
「前に出ろ!」
「前にですか」
傍らにいる参謀の一人が驚いた顔で彼に問う。
「そうだ。何か問題があるか?」
「シャピロ様、御言葉ですが」
彼は驚いた顔のままでまた述べた。
「この場合はやはり」
「やはり。何だ?」
「守り手するべきかと思います」
彼はそう己の意見を述べた。
「数は我が軍の方が優勢です。ですから」
「構わん」
だが彼はその言葉を退けた。
「このまま行く。いいな」
「左様ですか」
「そうだ。許せん」
感情が見えた。
「神になろうとする私を侮辱するとは。だからこそ」
「左様ですか」
「わかったな。では全軍前に進め」
しかも全軍に告げる。
「伏兵も何もかもだ。いいな」
「わかりました。それでは」
それを受けて策略の為に隠していた伏兵も予備戦力も何もかもを出してきた。そしてそれでロンド=ベルに対して一気に攻撃を仕掛けるのであった。
それはロンド=ベルにも見える。彼等もこれには驚いた。
「おいおい、マジかよ」
デュオもこれには呆れていた。
「ここで全部出すっていうのかよ」
「完全に我を忘れているな」
ウーヒェイはそう読んでいた。
「愚かな話だ」
「けれどこれだけの数だと」
カトルはそこを問題にした。
「危ないですよ、それもかなり」
「それはない」
だがトロワはそう彼に述べる。
「冷静さを失っている敵なぞ恐れることはないのだからな」
「随分また強気ね」
「相変わらずと言うべきか」
ヒルデとノインはそんな彼等を見て言うのだった。
「けれどその強気に」
「乗らせてもらうぞ」
「大したことはない」
ヒイロがウィングゼロカスタムを前に出してきた。
「数が多いのなら。それだけ倒せばいいだけだ」
「そうだな」
その言葉にミリアルドが頷く。
「では。私も行かせてもらおう」
「ただし。巻き込むつもりはないが」
ヒイロは両腕にバスターライフルを持つ。そうしてそれを放つと共に派手に回転するのだった。
「注意しておけ」
「わかった」
ミリアルドは既にその外にいた。そうして彼の攻撃をかわしていた。
ヒイロのその回転で敵は次々に倒れていく。光の帯が貫きそうしてその周りで火球が次々とあがるのだった。死の証が。
シャピロの冷静さを失った指揮の下で突き進むバルマー軍。だがそれでも彼等の数は圧倒的でありそれで押し切らんばかりの勢いであった。
それに対してロンド=ベルは特に標的を定めずに派手に攻撃するだけだった。しかしそれで充分過ぎる程の状況になっていた。
「あまり数が多くてもなあ」
ジョナサンもその中にいた。敵の中に切り込み剣を振り回している。
「的が多いだけなんだよ!」
「ジョナサン、上だ!」
そこでシラーの声がした。
「気をつけろ!」
「わかってるぜ!」
それに応えると剣を上で一閃させた。それで敵を一機真っ二つにした。
「この位なあ!」
「わかっていればいいがな」
「シラー、おめえもやってるんだろ!」
ジョナサンはそうシラーに言い返す。
「そこはどうなんだ!?」
「安心しろ」
シラーは言っている側から一機横薙ぎにした。
「この程度の敵ではな」
「大丈夫なんだな」
「どうということはない」
しっかりとした返事であった。
「むしろ有り難い位だ」
「有り難いか?」
「そうだ。私とて戦っている」
彼女は言う。
「ならば思い切りやらせてもらいたいからな」
「そういうことかよ」
何はともあれ戦いは激しいものであった。しかし質で優勢に立っているロンド=ベルが次第に押してきていた。それに戦術も見事であった。
「広範囲でいい!」
ブライトが砲撃に対して指示を出す。
「敵は多い!ならばまとめて撃て!」
「了解!」
サエグサがそれに応える。そうして実際にそうして砲撃していた。
これは正解だった。派手な砲撃でバルマーの軍勢は数を減らしていく。そこにマシン達の攻撃が加わりそうして勢いを得ていたのであった。
「おのれ・・・・・・」
シャピロは自らの軍が劣勢になっていっているのを感じていた。それで歯噛みしていた。
「あがくか、何処までも」
「司令、全軍の損害が四割を超えました」
ここで報告が入った。
「何っ、もうか」
「敵の広範囲の攻撃を防ぎきれません」
それが理由であった。
「このままでは」
「だが数ではまだこちらが遥かに上だ」
やはりシャピロは完全に冷静さを失っていた。普段の彼ならばこう判断したりはしない。
「このまま押し切れ。いいな」
「押し切るのですか」
「異論はあるか!?」
「い、いえ」
凄まれると階級が下ならば弱かった。彼もバルマーにおいてそれなりの爵位を与えられているからだ。やはりバルマーは階級社会なのである。
「それは」
「ないな。ではこのまま攻めろ」
彼はまた言う。
「わかったな。押し切るぞ」
「わかりました」
シャピロは頑迷なまでに指示を出した。バルマー軍はそのまま押し切りにかかる。しかしロンド=ベルはそんな彼等に対して派手な波状攻撃で向かいそれを防ぐのであった。
「今日のシャピロは普段のシャピロではないな」
それにアランも気付く。
「冷静さがないな、いつものな」
「どういうことですか、それは」
それに一矢が問う。
「冷静さがないって」
「見てみればわかる」
アランはそう一矢に述べた。
「いつものあの男ならあの時に一気に戦力を出さないな」
「そういえば」
一矢もその言葉に頷けた。彼も気付いたのだ。
「だが一気に出してきた。そうして損害が出ても向かって来る」
「そこですか」
「そうだ、そこだ。明らかに冷静さを失って指揮を執っている」
「あの言葉だな」
京四郎はそこまで聞くとすぐにわかった。
「藤原達の言葉か」
「それだ」
彼はアランにそう言葉を返した。
「そのせいだ。あの冷静さを失った様子は」
「プライドの高い男だが」
アランはシャピロのことをよく知っていた。だからそこに考えを及ばしたのであった。
「だとすれば。そのせいで今」
「だとしたらこっちには好都合だ」
京四郎はそう判断する。
「あの滅茶苦茶な指揮ならやりやすいってものだ」
「そうだな」
アランもそれに同意して頷く。
「それなら。そこに付け込むだけだ」
「いいか、一矢」
京四郎は今度は一矢に対して言う。
「このまま周りの敵を倒すだけでいい、わかったな」
「わかった」
一矢もその言葉に応える。
「後ろは頼むぞ京四郎、ナナ」
「わかった」
「任せておいて、お姉ちゃん」
二人もそれに応える。そうして遮二無二敵を倒すダイモスのフォローに回るのであった。
戦いは戦術もなく突っ込むだけのバルマー軍に対して敵の勢いを逆に利用して時として各個撃破に、また時として広範囲に攻撃を浴びせるロンド=ベルの攻撃が効果を出してきていた。そうしてそれが次第に彼等の優勢を揺るぎないものにしていっていたのだった。
「勝てるな」
シナプスは戦局を見て言う。
「それも思ったより遥かに楽にな」
「そうですね」
それにジャクリーヌも頷く。
「最初はどうなるかと思いましたが」
「やはり戦術だ」
シナプスもそこを指摘する。
「今のバルマー軍はただ攻めているだけだからな」
「そうですね」
それにパサロフも同意する。
「今の彼等はこれといって狙いを定めてもいませんし」
「冷静さもない。楽なものだ」
「数だけですか」
パサロフはまた言う。
「ということは」
「そうだな。しかもそれももうすぐ終わりだ」
見ればバルマー軍はその数を大きく減らしていた。間も無く数のうえにおいてもロンド=ベルの方が優勢に立とうとしていた。
「まだだ!」
だがシャピロはそれでも諦めようとはしない。
「このまま攻めろ!まだだ!」
「ですが閣下」
また部下が彼に対して言う。
「最早我々は」
「そうです」
他の部下達もたまりかねて上申する。
「数においても劣勢になろうとしています。このままでは」
「打つ手がなくなります」
こうも言う。
「撤退することすら」
「くっ」
それを聞いて周りを見る。見れば確かに周りには味方が殆どいない。敵の数が目立ってきていた。彼もそれは認めるしかなかった。
「このままではか」
「そうです。もう限界です」
「残念ですがここは」
「・・・・・・わかった」
ここに至ってシャピロもこう言うしかなかった。認めるしかなかった。
「では。撤退だ」
「はい」
「わかりました」
「後ろには無人機を置け」
彼はその中で指示を出した。
「足止めにだ。いいな」
「わかりました。では有人機は」
「動けるものは回収する」
当然の判断であった。
「艦艇に収容してだ。わかったな」
「了解」
「その後撤退する」
彼はそうも告げる。
「以上だ」
こうして彼等はギリギリで撤退に入った。それは何とか間に合いシャピロは間一髪で戦場から離脱することができた。だが彼にとっては苦い敗戦であった。
「覚えているがいいロンド=ベルよ」
彼は戦場を離脱する時に呟いた。
「神を冒涜した罪を償わせてやる」
そう言い残して去った。戦場にはロンド=ベルだけが残っていた。
「楽勝だったね」
「そうだね」
沙羅は雅人の言葉に頷いた。
「あいつがまともな指揮をしていなかったからね。そのせいさ」
「そうだったね。全然冷静じゃなかったよ」
雅人にもそれはわかった。
「あの言葉か」
亮はすぐに察しをつけた。
「それで冷静さを失ったな」
「へっ、ちゃちな奴だぜ」
忍はそんな彼をこう評するのだった。
「あんな程度の言葉でよ。頭に血が上るなんてな」
「それについては忍は言えないんじゃ?」
「その通りだね」
雅人と沙羅はそう彼に突っ込みを入れた。
「忍もねえ」
「あんただけは言えないだろ」
「へっ、そうかよ」
言い返しもせずに悪態をつく忍であった。
「どうせ俺はよ」
「しかしだ」
ここで亮は言う。
「あの男はすぐにまた来るな」
「そうだな」
それにアランが頷く。
「間違いなくな。来るぞ」
「その時はまた返り討ちにしてやるぜ」
忍だけでなく他のメンバーもそれについては同じ考えであった。
「今みたいにな」
「その通りだ」
アランもそれは同じだ。そうした意味で彼は獣戦機隊と同じであった。
「また倒せばいいだけだ」
「そういうことだな。またやってやるぜ」
忍の言葉が最後を締めた。何はともあれ戦いはこれで終わりであった。
戦いが終わり撤収したシャピロはある場所でマーグ、ロゼと会っていた。ロゼが険しい顔をシャピロに向けていた。
「話は聞いている」
「そうか」
「敗北か。しかも戦力の八割以上を失った」
「否定はしない」
シャピロ自身もそれが事実だと認めた。
「月の占領も失敗した」
「それも聞いている」
ロゼはそれにも答える。
「失態を認めるのだな」
「隠すつもりもない」
シャピロはまた述べた。
「全てその通りだ」
「わかった」
ロゼはそこまで聞いたうえで頷いた。そうして懐から銃を取り出し右手で構えを取った。
「ならばこれまでの失態と合わせて。命を以って償うがいい」
「私を処刑するというのか」
「そうだ」
ロゼはやはり険しい顔で彼に述べる。
「しかも罪状はそれだけではない」
「何が言いたい」
「貴様がマーグ司令に対して叛意を抱いているのも知っている」
これも事実であった。それどころかバルマーの霊帝にとってかわろうとも考えている。それもまたロゼに知られていたのである。
「全てな。ならば処刑の理由は充分だ」
「待て、ロゼ」
しかしここでマーグがそのロゼを制止したのであった。
「司令」
「処刑には及ばない。彼が私をどう思おうがそれはいいことだ」
「しかし」
「私がいいと言っているんだ」
まだ何か言いたげなロゼに対してまた言う。
「わかったな。わかったらその銃を」
「・・・・・・わかりました」
マーグの言うことなら仕方がなかった。ロゼは銃を下ろした。
「命拾いしたな」
「・・・・・・ふん」
だがシャピロは自分の命を救ったマーグに対して礼は言わない。あくまで不遜な態度を続けていた。
「シャピロ」
だがマーグはそのシャピロに声をかけるのだった。
「また出撃してくれ」
「わかりました」
シャピロはマーグのその言葉に頷いた。
「それではすぐにでも」
「攻撃目標は君に任せる」
マーグはこうまで言う。
「好きにすればいい」
「わかりました。それでは」
頭を垂れてからまた述べる。
「すぐにでも」
「うん」
そこまで述べてあらシャピロは姿を消す。ロゼはその後姿を剣呑な目で見た後でマーグに対して言うのであった。
「司令はあまりにも優し過ぎます」
「ロゼ」
「あのような者は放っておけば大きな災厄になります。ですから私が」
「だからそれには及ばないんだよ」
マーグはロゼに対しても優しい顔で語り掛けるのであった。
「それにはね」
「私はそうは思いません」
ロゼはなおも言う。
「司令に害を為す者は」
「許せないのかい?」
「その通りです」
じっとマーグの目を見詰めて述べた。
「ましてやあの男は」
「それは言っては駄目だよ」
口をさらに尖らせるロゼをまた嗜めた。
「いいね」
「それで。宜しいのですね」
「だから。私は構わないんだ」
マーグの言葉には棘がない。ロゼもそれに鋭さを除かれたのであった。そうして彼に述べた。
「わかりました」
「わかってくれればいいよ。さて」
マーグはそのうえで話を再開させるのであった。
「まだ本隊も来れないし」
「あれの準備に手間取りました」
ロゼは苦い顔になった。
「残念なことに」
「あれは予想以上だったね」
マーグもそれに頷く。
「あそこまで手間がかかるなんて」
「ですがそれだけの価値はあります」
しかしロゼはそれにはこうも言及する。
「手間だけのものが」
「あれがあるのとないのとでは全く違う」
「そうです。ハザル司令も刻印を使ってきました」
「グラドスの刻印をね」
「ならば我々もです」
顔をあげて強い声で述べた。
「手を打っておかなければ」
「焦ることもないと思うけれどね」
「いえ」
マーグの穏やかな言葉はすぐに否定された。今度は。
「そうはいきません。ハザル司令はシャピロよりも危険です」
「ハザル=ゴッツォだね」
マーグの顔も曇る。
「確かにね。彼は」
「目的の為には手段を選ばないだけでなく」
それで済む男ではないとまで言う。マーグとロゼはハザルという男を本能的に危険視し嫌悪しているのが今の会話ではっきりとわかる。
「権力志向の塊です。必要とあらばおそらく」
「私の命もか」
「マーグ様、いえ」
ここでは慌てて言葉を訂正する。
「司令は何があっても私がお守りしますので」
「君がか」
「そうです。ですからそれについては御安心下さい」
ロゼはバルマーにおいても屈指の超能力者である。その実力はバルマーにおいては知らぬ者がいない程である。そこまで凄まじい力なのだ。
「宜しいでしょうか」
「任せるよ」
マーグは穏やかな笑みを浮かべてロゼに告げた。
「それはね」
「有り難うございます。それでは」
「しかし。何か悪いよ」
そのうえでこう言うマーグであった。
「君にばかり負担をかけて」
「御気になさらずに」
だがロゼはうっすらと微笑んでその言葉を受けるのであった。
「私は副司令ですから」
「司令を補佐するのが務めだから。いつも言っているね」
「その通りです」
それがロゼの口癖になっているのであった。
「私はその為に今ここにいますから」
「そう。それじゃあ」
「ハザル=ゴッツォであろうと誰であろうと」
ロゼの声がまた鋭くなった。今度はその決意によるものであった。
「司令を傷つけさせはしません」
その整った美しい顔に決意を見せるのであった。そうして今彼等もまた彼等の手を打つのであった。

第十八話完

2007・10・26
 
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