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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第九話 立ち上がれ!勇気ある者達

               第九話 立ち上がれ!勇気ある者達
悩むトウマは特訓を続ける。しかし。
「駄目だな、そんなことでは」
相手を務める鉄也から言われた。
「駄目だっていうのかよ」
「そうだ。力が入り過ぎている」
そう彼に言われた。
「そんなことでは決まるものも決まらない。だから駄目なんだ」
「じゃあどうすればいいんだ」
彼は困り果てた顔になり言葉を返した。
「俺は。こんなことじゃ」
「焦っているな、トウマ」
鉄也はまた彼に言う。
「ああ、それはな」
自分でもそれを認める。
「だが今の俺は。早く」
「システムLIOHか」
鉄也はLIOHを出してきた。
「それだな」
「ああ、それだ」
それはトウマも認める。
「俺はあの力を全く引き出していない。このままじゃ」
「気持ちはわかる」
鉄也もそれはわかっていた。それで述べる。
「しかしだ」
「しかし?」
「焦っても何もならない」
そう言うのだった。
「わかるか、といっても今は」
「ああ、済まない」
トウマは曇った顔で鉄也に返した。
「今の俺には。とても」
「今はとにかく鍛えるんだ」
甲児と同じことを言う。
「雷鳳はパイロットの能力が大きく影響する」
「ああ」
「それはマジンガー以上だ」
マジンガーシリーズは操縦するパイロットの力が大きく影響する。雷鳳はそれ以上だというのである。
「それを引き出すには」
「俺は今より強く」
「確かに御前は強くなった」
鉄也はそれは認めた。
「だが。まだ足りないものがある」
「足りないもの。それはつまり」
「それは自分で見つけるんだ。俺でもわからない」
「鉄也でもかよ」
それを言われると何か突き放された気分になる。だがそれは違っていた。
「一人一人違うからな」
「一人一人か」
「ああ。俺と甲児君、大介さんがそれぞれ違うようにだ」
こう返す。
「トウマにもトウマの問題がある。それに気付いてそこをなおすんだ」
「わかったよ」
何が何なのかわからないまま答えた。
「俺はどうすればいいのか。それだな」
「今は悩むことも必要だ。だが」
「だが?」
「ミナキには気をつけろ」
そう言うのだった。
「ミナキに?」
「俺はトウマはこのままでいいと思う」
「鉄也はか」
「ああ。少しずつ力を引き出しているしな。だが」
「だが?」
「ミナキはそう考えていないかも知れない」
「ミナキは」
言われると不安が宿る。
「次の戦いも見ているだろう。しかし」
「しかし」
「そこでどう言うかわからない。気をつけろ」
「わかった」
答えはしても不安の色は消えない。
「とにかくやってみる」
「そうしろ。それでだ」
「今度は何だ?」
話が変わってきた。
「そろそろ休憩だが何がいい」
「何がって何がだ?」
「おいおい、ドリンクに決まってるだろ」
トウマのボケに苦笑いを浮かべて返した。
「そこまで思い詰めているのか」
「おっと、済まない」
言われてそれに気付く。
「そうだったな。それだ」
「それで何がいいんだ?」
「何かオルガ達がこの前飲んでいたのは何だ?」
それについて尋ねた。
「凄い美味そうに飲んでいたけれどよ」
「あれか」
鉄也はそれを聞いて暗い顔になった。
「飲まない方がいいぞ」
「それで何なんだよ」
「劇薬だ」
一言だった。
「ラクスの作ったジュースだ。巨象も一杯で倒す」
「おいおい、そんなやばいものだったのかよ」
これにはトウマも絶句した。
「飲みたいか?」
「いや、いい」
それはすぐに否定した。
「俺は死にたくないしな、まだ」
「けれどトウマ」
横からジュンが言ってきた。彼女もトレーニングに参加していたのだ。
「あの三人ミナキの料理も食べていたわよ」
「げっ」
またしても絶句するトウマだった。
「あいつ等、平気なのかよ」
「実はですね」
ここで何故かアズラエルが出て来た。
「彼等は元々普通ではないのですよ」
「あんたよりもかよ」
「貴方も結構言いますね、トウマ君」
流石にアズラエルである。この程度の皮肉では動じない。
「私は彼等をスカウトしたのですが」
「確か元々死刑囚だったのよね」
さやかが言ってきた。
「それで彼等を強化して」
「けれど元に戻ったんだろ?」
甲児も問う。
「それであれってどういうことなんだよ」
「ですから元々なのですよ」
答えが元に戻っていた。
「彼等の身体は丈夫でして」
「味覚もか」
異星人の大介だからこそ説得力のある言葉だった。
「彼等は」
「ええ、それも元々です」
駄目だしが来た。
「そういうところも全部なのですよ」
「何かある意味超人ね」
「そうね」
その言葉にひかるとマリアが頷く。
「凄いなんてものじゃねえな」
「ですからああして戦えるのです」
アズラエルはそうトウマに告げた。
「おわかりになられましたか?」
「ああ、よくな」
トウマはアズラエルのその言葉に頷いた。
「頑丈な身体が第一かよ」
「はい」
「だがトウマ」
ここで鉄也がまた彼が言う。
「御前はあの三人程身体が強くないぞ」
「ああ、わかってるさ」
それは自分でもわかっていた。
「だからこそ俺は」
「いいか、とにかくトレーニングは毎日やることだ」
鉄也は彼にそう告げる。
「毎日な。いいな」
「ああ、わかった」
「よし。では次はランニングだ」
「ランニングか」
「そうだ、格闘もいいが基礎も大事だ」
また言うのだった。
「そうだな。それじゃあ」
「ああ。ドリンクはここにある」
普通のドリンクを出してきた。
「飲んでからまたはじめればいい」
「わかった。じゃあな」
ドリンクを手に取ろうとする。だがそこでミナキがやって来た。
「ミナキ!?」
「トウマ・・・・・・」
ミナキはトウマを見て不安な顔を見せてきた。
「何か」
「いえ、何もないわ」
口ではそう言っても表情は違っていた。
「ただ。貴方は」
「俺は?」
「・・・・・・いえ、何もないわ」
やはり言わない。
「それじゃあ」
「あ、ああ」
暗い顔のミナキを見送る。トウマはう浮かない顔でそれを見送ってから言うのだった。
「やっぱり俺のせいか」
「自覚しているのか」
「ああ、正直な」
彼もまた暗い顔になって述べる。
「俺がシステムLIOHの力を完全に引き出していないからな」
「それはそうだな」
鉄也もそれは認める。
「そうか、やっぱりな」
「しかしだ」
彼はそのうえで言うのだった。
「御前は少しずつだが引き出していっている」
「少しずつか」
「そうだ、だからそれは安心していい」
微笑んで彼に述べた。
「少なくとも俺はそう思っている」
「悪いな」
「俺もだぜ」
「僕もだ」
甲児と大介も言ってきた。
「だから安心しなって」
「君はよく戦っている。貴重な戦力だ」
「そう言ってもらえると助かるぜ」
「まあそうですね」
それはアズラエルも認める。
「トウマ君はよくやってくれていますね」
「あんたが素直に認めてくれるなんてな」
「ふふふ。僕は素直なんですよ」
アズラエルは楽しそうに笑って述べてきた。
「時と場合に応じて」
「じゃあ全然だめじゃない」
「そうね」
さやかとジュンがそんな彼に突っ込む。
「まああんたに素直なんて」
「求めないけれど」
「また随分ボロクソですね」
マリアとひかるにも言われてどうにも格好がつかなくなっていた。
「僕はトウマ君に関しては結構誠実であるつもりですが」
「何の魂胆があるんだよ」
そのトウマにまで言われる。
「あんたがそう言うなんてよ」
「まあ些細な理由です」
楽しそうな笑みを戻して述べてきた。
「実はですね」
「実は?」
「宣伝をしてもらいたいのですよ」
そう述べてきた。
「宣伝!?」
「実はうちのグループのスポーツ部門のですね」
「あんたんとこそんなのもあったのかよ」
軍事だけかと思えばそうでないのでびっくりであった。
「何を言いますか。今時軍需産業なぞ」
「何なんだ?」
「大した実入りがないのですよ」
「実入りがないのかよ」
「そうですよ」
トウマの問いに平然と答える。
「莫大な設備と技術投資と維持費がかかる産業ですがそれでも」
「需要が限られているな」
凱が答えてきた。
「どうしても」
「そういうことです。ですから」
「俺に白羽の矢が立ったのかよ」
「トレーニングのCMを取りたいので」
笑ってまた述べてきた。
「トレーニング用品で。宜しいでしょうか」
「ああ、俺は別にな」
断ることなく頷いてみせた。
「構わないぜ。けれど素人でCMっていうのもな」
「それはそれでいいものです」
顔が敏腕プロデューサーのそれになっていた。
「例えばですね」
「ああ」
「バジルール少佐をモデルに使ってもいいですし」
「ああ、それはわかる」
トウマもそれには頷くことができた。
「あの美と美人でスタイルもいいしな」
「そういうことです。それで貴方は」
「俺は?」
「一生懸命さがいいのですよ」
そう言ってきた。
「一生懸命さが!?」
「それが中々絵になるのですよ」
プロデューサーの顔のまま述べる。
「ですから」
「出てくれってか」
「嫌なら別に構いませんが」
「いや」
そう言われると出たくなるのが人間心理である。流石にアズラエルはそれがわかっていた。
「だから別に構わないって言ってるじゃないか」
「そうですか。では決まりですね」
その言葉を聞いて笑みを変えてきた。にこやかな笑みに。
「貴方がトレーニング用品でサンシロー君は野球」
「やっぱりそれか」
これは容易想像がついた。
「洸君がサッカーで一矢君は空手です」
「それってまんまじゃねえのか?」
甲児がそう突っ込みを入れる。
「しかも声がよ」
「細かいことは気にしてはいけません」
そんなことを気にするアズラエルではなかった。
「ライオンロボ君は僕と共演です」
「あんたとかよ」
「はい、これからのスポーツについて雑誌で対談です」
「何で俺が雑誌で」
「まあ何となくです」
何処までもいい加減に決めていた。
「貴方は元々スポーツも万能でしたしね」
「それはそうだが」
「ならそれで決まりです」
そう述べるのだった。
「では。宜しいですね」
「ああ、わかった」
凱もそれに頷く。
「じゃあそれでいいぜ」
「それではこれで決まりです」
アズラエルはにこやかに笑って述べた。
「それでですね」
「それで?」
またトウマに顔を向けてきたのだった。
「システムLIOHとはどんなものなんでしょうか」
「あんた、それなりに知ってるんじゃないのか?」
「あくまでそれなりです。完全ではありません」
アズラエルはそう反論してきた。
「それで御聞きしたいのですが。どういったものでしょうか」
「俺に言われてもよ」
トウマはアズラエルのその問いに顔を曇らせてきた。
「何ていうかよ」
「わかりませんか」
「ある程度でいいか?」
そう前置きしてきた。
「それならいいけれどよ」
「わかりました。それでは」
その言葉に頷いてから応える。
「宜しく御願いします」
「それはそうとしてよ」
話が一段落ついたところで甲児がまた口を開いた。
「何だ?」
「次の相手は。どうなったんだよ」
「どうもそれが変なことになりそうなんだ」
凱が彼に答える。
「変なことって?」
「どうも百鬼帝国と邪魔大王国が同盟を結んだらしい」8
彼はそう述べる。
「この前奈良に出た時はそうだったらしいな」
「奈良にかよ」
甲児はそれを聞いて顔を曇らせた。
「何となく邪魔大王国に縁が深そうな場所だしな」
「俺達は関西に向かっている」
次に鉄也が言った。
「その情報を受けてだ」
「わかった。じゃあ関西だな」
甲児はあらためて頷く。
「行くぜ。たこ焼き食いにな」
「いいだわさね」
それを聞いてボスも声をあげた。
「たこ焼き食えるのが最高だわさ」
「何言ってるんでやすかボス」
「そうですよ」
それを聞いてヌケとムチャが呆れた顔で彼に突っ込みを入れる。
「戦いに行くんでやんすよ」
「たこ焼き食べるんじゃなくて」
「そんなのわかってるだわさ」
わかっていない人間の言葉であった。
「それ位よ。ただ」
「ただ?」
「たこ焼き食べたいのは嘘はつかないだわさ」
結局はそうであった。
「ああ、早く食べられたらいいだわさね」
「しかしボス」
そんな彼に鉄也が言う。
「何だわさ?」
「今度行くのは滋賀だぞ」
「滋賀!?」
「そうだ、大阪じゃない」
彼はそう忠告する。
「それでもいいんだな」
「滋賀っていうと」
ボスはそれを聞いて自分の知識を辿った。
「あれだわさ?鮒寿司」
「鮒寿司!?」
それを聞いてマリアが首を傾げる。
「何、それ」
「おいマリア知らねえのかよ」
今のマリアの言葉を聞いて甲児が言う。
「そんなこともよ」
「だから何よそれ」
マリアは本当に何も知らなかった。
「教えてよ、そんなに言うんだったら」
「何だったっけ、大介さん」
実は甲児も知らないのだった。それで大介に話を振る。
「鮒寿司というのは鮒を発酵させて作るお寿司なんだ」
「発酵、ねえ」
さやかはそれを聞いて言うのだった。
「じゃああれ?納豆とかと同じなの?」
「近いな」
大介もそれに頷く。
「かなり匂いがするが好きな人はかなり好きらしい」
「ああ、あれはかなりいいですね」
ここでアズラエルが楽しそうに声をあげた。
「実は僕はあれが好きでしてね」
「そうだったの」
ひかるはそれを聞いてアズラエルを見た。
「アズラエルさんも通なのね」
「僕は変わった食べ物が好きなんですよ」
単なるゲテモノ好きなようだ。
「何かとね。例えば蝙蝠とか」
「ちょっと」
ジュンはそれを聞いて少し引いた。
「他にも色々と。そうですか、あれですか」
「たこ焼きよりも美味いだわさ?」
「それは人によります」
ボスにはそう返した。
「ただですね」
「ああだわさ」
「癖が強いので御注意を」
「そんなにかよ」
「そうだな。あれはかなりのものだ」
鉄也はそれを聞いて声をあげる。
「匂いも半端じゃないしな」
「そうなのかよ」
甲児はそれを聞いて複雑な顔を見せてきた。
「やっぱり納豆なんだな、それじゃあ」
「あのレベルじゃないかも知れない」
鉄也は彼にも言う。
「だから。注意しておいてくれ」
「楽しみですね」
全てを知った上で好きなアズラエルはこう言う。
「本場のあれが食べられるとは」
「だがまずはだ」
凱は話を締めるようにして言った。
「敵を倒してからだな、そういうのも」
「そうだな」
トウマは彼のその言葉に頷いた。
「じゃあ俺もやるか」
「トウマ、焦らないでいい」
そんな彼に鉄也が言う。
「御前は少しずつ雷鳳の力を引き出してきているからな」
「そうか」
「そうだ。かえって焦ると駄目だ」
「わかった」
トウマも彼の今の言葉に頷いた。
「じゃあ」
「彼はいいのですが」
そんな彼の側でアズラエルは呟く。
「彼女はどうですかね」
「何がだ?」
「いえ、ミナキさんですよ」
凱にも述べる。声が似ているのでどちらがどちらかわかりにくい。
「彼女が今のLIOHの状況を見てどう思うかですが」
「それか」
「ええ。君はどう思いますか?」
「焦っているな、彼女は」
凱は自分の目でそう述べた。
「何かおかしなことになりそうで嫌だ」
「君もそう思っていますか」
「トウマを見ている」
彼は今度はトウマを話に入れた。
「どうもあいつについて色々思っているみたいだな」
「そうですね」
それはアズラエルもわかっていた。
「だからこそ彼には頑張ってもらいたいのですが」
「トウマが好きみたいだな、あんた」
「少なくとも嫌いではないです」
自分でもそれを肯定した。
「ああした生真面目な性格はね。僕にはないですし」
「そういうことか」
「ここでそれは否定して欲しかったんですがね」
そう笑って返す。
「できませんかね」
「あんたに関してはな」
凱も笑って返す。
「どうにもな」
「やれやれ。困ったことですね」
とは言っても普通に笑っていて特に困った顔を見せてはいない。
「どうも僕は汚れていると思われているようで」
「実際にあまり善人とは言えないような気はするな」
凱も容赦がない。
「まあそのわりに何かと俺達を助けてくれているが」
「何、これも縁です」
同じ笑みで返す。
「これもね。ですから」
「ですから?」
「今後共宜しくを」
「ああ、こちらこそな」
凱も笑ってウィンクで言葉を返す。
「頼むぜ、社長」
「おっと、僕は社長ではありませんよ」
不敵な笑みになっての言葉だった。
「会長です。アズラエルグループの」
「そっちか」
「まあ複数の会社の社長でもありますが。さて」
またトウマを見やる。
「彼に何かあった時の用意でもしておきましょうか」
「何かか」
「はい。用心の為です」
そう凱に述べてからクサナギに戻る。そうしてそこの自室で何かをするのであった。
まずは邪魔大王国が琵琶湖南岸に姿を現わした。それなりの数であった。
「やはり滋賀だったな」
大文字は彼等の姿を認めて言う。
「予想通りだ」
「そうですね。ただ」
その横にいるサコンが言葉を付け加える。
「もう一つの相手がまだですが」
「おそらくは時間差で来る」
大文字はそう呼んでいた。
「だから油断は決してできはしないな」
「そうですね。それじゃあ」
「敵の援軍に警戒しつつ陣を敷いてくれ」
そう全軍に伝える。
「いいな、まずは前方だ」
「わかったぜ」
トウマがそれに応える。
「じゃあ前に出て、と」
「あの、トウマさん」
クスハが彼に声をかけてきた。同じ小隊にいるからである。
「何だ?」
「御気をつけて」
そう彼に言ってきた。
「何か緊張されているみたいですけれど」
「いや、俺は別に」
トウマはクスハの今の言葉に目を少し丸くさせて言葉を返した。
「そんなことはねえけれどな」
「そうですか?」
「ああ。何でそう思ったんだ?」
「いえ、動きが」
「俺もそれは感じました」
ブリットも言ってきた。
「トウマさん、緊張はかえって」
「別にそんな気はねえんだけれどな」
彼にも言われてどうにも不思議な気分になった。
「何か。おかしいのかね」
「私達の気のせいでしょうか」
「それじゃあ」
「俺は別に」
自分ではそう返す。
「何ともねえけれどよ」
「だったらいいんですけれど」
「けれどトウマさん」
ブリットはまだ言う。
「本当に焦ったら駄目ですよ」
「ああ、それはわかっている」
トウマは別に嫌な顔をせずにそう返した。
「だから安心してくれよ」
「わかりました。それじゃあ」
「前方の敵接近してきます」
ここでミドリからオペレートが入った。
「邪魔大王国です」
「よしっ」
トウマは彼等の姿を確認して気合を入れる。しかし。
ミナキは彼のその姿を見て何かを考えていた。だがそれを口に出すことはなくただ彼を見ているだけであった。それはミサトも見ていた。
「これはまずいかもね」
「気付いたのね」
「ええ、まあね」
リツコにも答える。
「責任転嫁ってやつかしら」
またミナキを見て言う。
「よくあることだけれど。あまりいいものじゃないわね」
「そうね。ただ」
今度はリツコが言った。
「本人は気付いていないわ」
「そのことにも」
「よくあることよ」
人生経験がここでは出ていた。二人はそれに基いてミナキを見ていたのである。
「けれど。それを自覚しないと」
「傷つく人が出るわね」
「そうね。どうしたものかしら」
「正直どう思う?」
ミサトはふと話を変えてきた。
「どう思うって?」
「彼よ」
こう言うのだった。
「彼、頑張ってるわよね」
「そうね。それは確かに」
リツコもそれはわかっていた。だからこそ今頷いたのである。しかし。
「少しずつだけれど実力を発揮しているし」
「システムもね。ちゃんと」
そこが問題であり二人もはっきりと認識していた。
「やっていってるけれど」
「気付いていないのは彼女だけね」
リツコはその整った口をいささか歪めさせた。その歪んだ口こそが今の彼女のミナキへの感情を表わしていた。ミナキはそれにも気付いていないが。
「下手すると。あれよ」
「あれ?」
「彼女、取り返しのつかないことをしてしまうわよ」
リツコは大人の女の言葉を出した。
「このままだと」
「その可能性・・・・・・高いわね」
ミサトも今それを感じた。直感で。
「この戦いが終わったら。騒動になるわ」
「正直私ね」
リツコはまた言う。
「彼は。嫌いじゃないのよ」
「年下に目覚めた?」
ミサトの言葉は何処かリツコをからかうものだった。
「あんたも」
「まあ嫌いじゃないわ」
リツコも微笑んでそれを認める。まんざらではないようだ。
「年下もね」
「ふふふ、可愛いわよ」
ミサトの声がさらに笑ったものになる。楽しむ感じだ。
「年下の子って。ロンド=ベルはハーレムだし」
「ハーレムなの」
「私にとってはね」
やはりここでもミサトは笑うのだった。笑みが増していく。
「いい感じね」
「私もそっちに行こうかしら」
「どうぞ。待ってるわよ」
ミサトは誘う笑いになっていた。リツコがその対象なのは言うまでもない。
「花園へ」
「トウマ君のね、あの熱血な感じがいいわね」
「そうそう、熱血もいいものよ」
ミサトはさらに話に乗る。
「シンジ君とかキラ君みたいな大人しい子もいいけれどね」
「そうねえ。じゃあシン君は?」
「あれはあれでいいと思わない?」
実は二人はシンも嫌いではなかった。
「一途だしアグレッシブだし」
「かなり口が悪いけれどね」
「その都度ぶっ飛ばすだけだけれどね」
ミサトにリツコもシンをかなり袋にしている。彼の口の悪さが災いを招いているのであるが二人は実はそれも楽しんでいるようだ。
「困った子もいいし」
「中々奥が深いわね」
「そうよ。じゃあ」
「ええ、今はね」
二人はトウマを見守っていた。彼は必死に雷鳳を操り戦っていた。だがそれでも今一つ万全の状態とは言えないものがあった。
「トウマさん!」
横からクスハが出て来た。そしてトウマの側面から襲おうとしたハニワ幻人のマシンを粉砕した。
「ク、クスハちゃん」
「気をつけて下さい、敵は何処からも来ますよ」
「あ、ああ」
トウマは戸惑いながらクスハに答える。
「済まない」
「何かあったら私達がフォローしますから」
「そうです。だから」
ブリットも言う。
「安心して下さい」
「いや、けれど俺は」
トウマは二人のその言葉には納得しなかった。
「システムLIOHを。それでも」
「動かすんですね?」
今度はブリットがトウマに問うた。
「ああ、完全にな」
「わかりました」
ブリットにもトウマの心が伝わった。あくまで真剣な彼の心を。
「じゃあ俺も」
「私も」
クスハも言う。
「全力でフォローします、任せて下さい」
「有り難う」
トウマはその二人に礼を述べる。そうしてそのまままた前に突っ込む。
そこにいたのは百鬼帝国のマシンだった。彼等も戦場に姿を現わしていたのだ。
「俺だってな!」
トウマはその敵に一直線に突き進みながら言う。
「負けるわけにはいかないんだ!自分自身に!」
「ガオオオオオオオオ!」
トウマの突進に敵も突き進む。そうして攻撃を繰り出そうとする。
その動きはかなり速い。しかしトウマはそれを紙一重でかわして反撃を浴びせた。クスハはそれを見て満足した顔で頷いた。
「やりましたね、トウマさん」
「ああ、けれど」
それでもトウマは浮かない顔をしていた。
「俺はまだ」
「トウマさん」
クスハはトウマのその浮かない顔を見て気遣う顔になった。
「けれど今敵を」
「システムLIOHを完全に使いこなしていないんだ」
それがトウマの顔が浮かない理由だった。今彼自身がそれを口に出した。
「だからまだ」
「今はまだいいです」
クスハはそう言って彼を庇う。いや、慰めた。
「だって戦いをはじめたばかりだし」
「けれどまだ」
「そうです。トウマさんはよくやってます」
ブリットもトウマに言う。
「ですから。かえって気落ちしたら」
「よくやってもそれでも」
トウマはまだ浮かない顔を見せていた。
「システムを完全に引き出さないと」
「焦っては駄目です」
クスハはまた彼に言った。
「焦ったらそれで終わりですから」
「ええ。戦いは皆でやるんですよ」
「皆で、か」
「その通りだ」
ゼンガーも彼に言ってきた。
「ゼンガーさん・・・・・・」
「戦っているのは御前だけではない」
また彼に言う。
「それを忘れるな。さもなければ御前もまた修羅となる」
「何故修羅に。俺が」
「それもわかるかも知れない」
答えずにこう述べるのだった。
「わかる状況になれば」
「どういうことなんですか、それは」
「言ったままだ」
やはり答えはしない。まるで突き放すように。
「まだ戦いは続いている。ならばそこに向かえ」
「は、はい」
その言葉にはすぐに頷いた。
「じゃあ行きます。俺も!」
「トウマさん、横は俺が!」
「私が!」
竜虎王は虎竜王になった。その姿で敵に一直線に進む。
そうしてその手に持っている立ちで雷鳳の周りの敵を薙ぎ払いトウマをフォローする。ミナキはそんな彼等も見ていた。
そのうえで呟く。無念と嫌悪に満ちた声で。
「駄目だわ」
次に雷鳳を見た。そうしてまた言うのだった。
「全然力を引き出していないわ。お父様の開発された力を」
「これは」
ミサトはそんな彼女の呟きを聞き逃さなかった。懸念が現実になっていくのを感じていた。
「いよいよまずいわね」
「嫌な予感が当たったわね」
リツコもそれに応える。
「本当にこの後大変なことになるわね」
「ええ」
「やっぱり・・・・・・無理なのね」
ミナキはトウマの戦いを見ていた。そのうえで唇を噛み締めていたのだった。
戦いは佳境に入っていた。トウマはフローカのオロチに向かっていた。
「フローラだったな!」
「ええ、その通りよ」
フローラは不敵な笑みを浮かべて彼に応える。
「そうか。じゃあやってやる」
「私を倒すとでもいうのかしら」
「そうだ、その通りだ!」
全身に力を込めて言葉を返す。
「ここで貴様を。そうして」
「生憎だが無理ね」
「何だとっ!?」
トウマはその言葉に顔を上げた。侮りを受けたと感じた。
「俺では御前は倒せないっていうのか!」
「その通り。さあ」
オロチを動かして攻撃に入る。
「返り討ちにしてあげるわ。覚悟!」
「くっ!」
トウマはオロチのその攻撃をかわそうとする。だが反応が遅れた。今まさに炎に包まれようとしていた。
「うわっ!」
「危ないっ!」
そこにレーツェルのトロンベが来た。すぐにスラッシュリッパーでその炎を退けた。
「レーツェルさん!」
「間に合って何よりだ」
レーツェルは穏やかな笑みをトウマに向けて言った。
「すいません」
「何、礼はいい」
彼はそうしたことにはこだわらなかった。彼は。
「困った時はお互い様だからな」
「けれど俺は」
「私も君に何度か助けてもらっている」
レーツェルはここでまたトウマに言った。
「えっ!?」
「聞こえなかったか。君に何度も助けてもらっていると」
「そんな、それは」
「私は嘘はつかない」
気品のある笑みで彼に言うのだった。
「君が気付いていないだけでな」
「俺が」
「そうだ。しかしだ」
レーツェルはまた言う。
「君の他にも気付いていない娘がいるな。これが問題だ」
「気付いていない娘!?」
トウマはそう言われてまた声をあげた。
「あの、俺悪いけれど女の子にもてたことなんか」
「それに気付いていない場合もある」
また笑って述べる。
「はあ」
「だが。今度は少し事情が違うようだ」
「ですか」
「一つ言っておきたい」
ここまで話したうえでまた述べてきた。
「それは一体」
「何があっても。焦ってはいけない」
そうトウマに告げる。
「決してな。それはわかっていてくれ」
「皆そう言いますね」
トウマはレーツェルにも言われてそう呟いた。
「今の俺を見て」
「不安だからな」
レーツェルは今度はそう言うのだった。
「今の君は。どうにも」
「どうにも、ですか」
「わかったな。焦ってはいけない」
また言う。
「それだけはわかってくれ」
「わかりました。それじゃあ」
「それと一つのことにはこだわらないことだ」
こうも述べた。
「一つのことにな。いいな」
「は、はあ」
「わかったらまた進むのだ」
「進む・・・・・・」
「道を」
まるで人生を諭すようだった。少なくともレーツェルはトウマに対してただ戦いのことだけを教えているわけではないのがわかる。トウマにも。
「いいな」
「わかりました。じゃあ」
「おのれ!」
その横ではフローラが戦い続けていた。相手は凱である。
「ガオガイガー!小癪な!」
「フローラ!ここはやらせない!」
ブロウクンマグナムを放ちながらフローラに言い放つ。
「この街は俺達が守る!」
「戯言を!」
フローラはきっとした顔で凱に言い返す。
「貴様等ごときが我が邪魔大王国を倒せると思っているのか!」
「ああ、その通りだ!」
凱はそれに応えて言う。
「御前達の野望、俺達が止めてみせる!」
「おのれ!」
彼等が戦いを続ける中他の者達も次々と敵を倒していく。それは百鬼帝国のマシンに対して集中していた。彼等を率いるハドラーはそれを見て選曲の劣勢を感じていた。
「まずいな」
「はい」
側にいる士官が応えた。
「今回は退くべきかと」
「うむ」
ハドラーはその士官の言葉に頷いた。
「では今のうちにだな」
「ええ」
「撤退する。すみやかにだ」
「了解」
百鬼帝国の将兵はすぐに撤退を開始した。その撤退は完全に邪魔大王国を無視したものだった。フローラ達は見捨てられた形になった。
「フローラ様」
それを見たハニワ幻人達は凱と激戦を続けるフローラに言ってきた。
「百鬼帝国が」
「くっ!」
この事態にはフローラとて戦局の不利を悟らずにはいられなかった。彼女も決断を迫られる形となってしまったのである。
「ここは撤退されるべきです」
「どうか御決断を」
「・・・・・・止むを得ないのだな」
「残念ながら」
ハニワ幻人達はそう意見を具申する。
「どうされますか」
「・・・・・・わかった」
苦い顔で答えた。
「ここは退く」
「はい。それでは」
「全軍撤退だ」
フローラはそう指示を出した。苦い顔のままで。
「よいな」
「はっ」
「ガオガイガー!」
最後に凱を睨み据えて言った。
「今日のところは勝負を預ける。いいな」
「何時でも受けて立ってやる!」
凱もそれに応える形で叫ぶ。
「そして御前達を倒してみせる!」
「できるものならな!」
邪魔大王国も去った。こうして戦場にはロンド=ベルだけが残った。だが彼等は勝利を喜ぶことはできなかったのだ。
「えっ、おい」
皆が思わず声をあげた。
「そんなことは」
「幾ら何でも」
「決めたんです」
ミナキは毅然とした声で言うのだった。
「トウマ、やっぱり貴方は」
トウマを見ていた。まるで敵を見るような目で。
「システムLIOHに相応しくありません。ですから」
「雷鳳を降りろっていうんだな」
「そうです」
言葉にも一片の容赦もなかった。
「貴方が操縦していても何の意味もありませんから」
「ちょっとあんた」
そのあまりにも思いやりのない言葉にアスカが切れた。
「幾ら何でも言い過ぎでしょ。確かにトウマさんはセンスないけれど」
「おい、アスカ」
その言葉にはトウジが少しクレームをつける。
「ここでそれはないわよ」
「と、とにかくね」
トウジに言われて少し顔を赤らめさせながらもまた言う。
「トウマさんだって必死にやってるじゃない」
「必死などうかは関係ありません」
ミナキは全く変わらない。
「そんなことは」
「あんた・・・・・・何様よ」
アスカはいい加減本気で頭にきていた。
「トウマさん雷鳳乗りこなしてるじゃない。ある程度だけれど」
「ある程度だからです」
ミナキの口調は変わらない。
「そんなことではシステムLIOHは」
「そんなに大事なの、それ」
「当然です」
やはり毅然とした、いや無慈悲な言葉だった。
「あれはお父様の形見。だから」
「お父様ねえ」
アスカはその言葉にさらに怒りを増した。
「私だってね、ママいなくなったわよ」
あえて自分のトラウマを出してきた。
「けれど何とかやってるわよ。そんなの逃げよ!」
「逃げってそんな」
「ちょっとアスカ」
海が彼女を止めようとする。
「厳し過ぎるわよ」
「そうですわ。もっと穏やかに」
風も言う。
「それは私の流儀じゃないしね」
二人に制止されてもまだ言う。
「第一。トウマさんのこと全然考えてないじゃない!」
「それはそうだ」
光がアスカのその言葉に頷いた。
「ミナキさん」
そのうえで彼女もミナキに言う。
「トウマさんの戦い、見ていたな?」
「ええ」
それは事実だ。だからこその言葉でもあるのだ。
「だったらどうして」
「だからLIOHを」
「そんなのどうでもいいのよ!」
アスカがまた激昂した。
「トウマさんにあんまり酷いじゃない!」
「そんなことは関係ありません!」
「関係あるわよ!」
「そうだ!」
「そうよ!」
フレイも参戦してきた。
「トウマさんの頑張りとか見ないでそんなこと言うなんて。ミナキさん、貴女一体何様よ!」
「ちょっとフレイ」
「怒り過ぎよ」
トールとミリアリアが何時にも増して凄まじい剣幕のフレイに対して言うのだった。
「わかてるわよ。けれどね」
「気持ちは抑えられないってわけか」
「それはわかるけれど」
カズイもサイもそれはwかる。だが。
「それにね」
フレイはまだ言う。
「何か。ミナキさんって昔の私みたいで」
「貴女と一緒にしないで!」
ミナキはまた言った。今度はフレイに。
「お父様はね、システムLIOHを地球を守る為に」
「私だってお父様死んだわよ!」
フレイも遂に激昂した。目から涙が溢れだしていた。
「えっ・・・・・・」
「戦争でね!それもシンに殺されたのよ!」
「じゃあ貴女あの」
「そうよ。アルスター事務次官が私のパパだったのよ」
フレイは泣きながら言った。
「そのことでキラに酷いことも言ったし人を一杯傷つけたわよ。ミナキさんのやってることはそれと全く一緒なのよ。前の私と」
「じゃあシン君、貴方が」
「そうさ」
シンは苦い顔でミナキの問いに答えた。
「俺だよ。フレイの親父さんを殺したのは。戦艦ごと沈めてな」
シンもまた苦い顔をしていた。話したくはないのがすぐにわかる。
「俺がやったんだ」
「そうなの」
「シンもキラも憎んだわよ」
フレイはそれも言う。
「それで酷いことしたし言ったし。それと同じなのよ!」
「同じじゃないわ!」
ミナキはやはりわからない。わかろうとしない。
「私はそんなのとは!」
「じゃあ何でトウマさんにあんなこと言うのよ!」
またアスカが激昂して叫んだ。
「あんまりでしょ!トウマさんを切り捨てるなんて!」
「不適格だって言っただけよ!」
「同じじゃない!」
また叫ぶ。
「それがね!よくそこまで思いやりのないことが言えるわね!」
「そんなのいらないわ!」
ミナキは気付いていないのだ。自身のエゴイズムに。だからこそ言う。
「だってあれはお父様の!」
「お父様お父様ってね!」
アスカはまた言う。
「それを楯にして他の人傷つけて!それでも!」
「地球を守る為よ!」
「あんたなんかに地球は守れないわよ!」
「どういうことよ、それ!」
「自分で考えなさい!」
アスカはさらに怒りを爆発させようとしていた。
「トウマさんのことをね!」
「だから言ってるじゃない!」
ミナキは何もわからないまま相変わらずの反論をするだけだった。
「トウマは不適格だって!」
「ちょっと、本当にあんたそれでも人間なの!」
フレイもまた叫んだ。
「思いやりとかないの!本当に!」
「そんなことよりお父様のシステムLIOHは!」
どうしてもわかろうとしない。
「使いこなせる人がいないと駄目なのよ!」
「ああ、そう」
いい加減フレイも呆れだした。それでも言う。
「そんなに大事なのならね!」
叫ぶ。これまでになく。
「自分で乗りなさいよ!」
「それができていたらそうしてるわ!」
身勝手な言葉は続く。
「トウマが駄目だから降りてもらうだけじゃない!それで何でここまで!」
「わかっていないのなら自分に聞け!」
「そうだそうだ!」
本気で怒ったシンとディアッカが叫んだ。
「あんた何だ!?黙って聞いてりゃ好き勝手なことばかり言ってよ!」
「じゃあトウマさんは何なんだよ!」
「不適格って言ってるだけじゃない!」
「そうか、あくまでそう言うか」
イザークも激しい憤怒をその目に見せてきた。
「あんたは。人の優しさがないんだな」
「何でそうなるのよ」
「・・・・・・そうとしか思えないな、俺には」
イザークは言う。
「はっきり言おう!あんたは人間として最低だ!」
「何よそれ!」
「こっちからあんたみたいなのは願い下げだ!」
「思いやりがここまでないなんてな」
オデロもトマーシュも言うのだった。
「一つ言っておくさ、あんたに」
ディアッカがミナキに告げた。
「優しさもわからない人間に誰かを守ったり救ったりはできないぜ」
「ましてや人の心を踏み躙っても平気な人間にはな!」
「どうしてそうなるのよ!」
ミナキは皆に言われて困惑する。しかしそれでもわかろうとはしない。
「私が。どうして」
「ちょっと皆さん」
見かねたニコルが口を開いた。
「落ち着きましょう。けれど」
そのうえでミナキに彼も言う。
「ミナキさん、やっぱりトウマさんは」
「絶対に駄目よ!」
それでもミナキは拒む。頭から何もわかろうとせず。
「適正ないのにどうしてよ!」
「まだ言うかあんたは!」
「だからシンも!」
シンはキラが止める。
「落ち着くんだよ!」
「じゃあキラ!」
シンは自分を止めるキラに対して問う。
「御前はどう思ってるんだ!このままじゃトウマさんがあんまりだろ!」
「わかってるさ。けれど」
キラもシンと同じ考えだった。だから彼のことはわかる。
「ここでミナキさんに言っても。それは」
「それでもだ!」
「そうだ!」
カガリも入る。
「ミナキ!あんたこそ出て行け!」
「何でよ!」
ミナキはその言葉に真っ青になりカガリに言い返す。
「どうして私が!」
「人を追い出す奴は自分もそうなる!」
カガリはそう言い放った。
「因果応報だ!覚えておけ!」
「全くだぜ!」
ケーンも言い捨てた。
「こんな思いやりも何もねえとな!全然同情も何もできねえってやつだ!」
「ああ、そうだな」
「ケーンの言葉に同意させてもらうよ」
タップとライトも続く。
「ミナキさんよお」
ケーンはミナキを睨んでいた。
「あんた、そんなに偉いんなら一人でやればいいじゃねえか」
「なっ・・・・・・ケーンさんまで」
「そうして一方的にトウマさんが駄目だっていうんだろ?じゃあ俺達だってそう一方的に決めたっていいってことだよなあ」
「そんなこと私は」
「同じだよ」
沙羅の言葉も嫌悪に満ちている。
「自分の立場になって考えればいいんだよ」
「トウマにロンド=ベルを出て行けって言ってるわけじゃないじゃない。どうしてそこまで」
「人はね。努力するものなんだ」
雅人もミナキに言う。その目は沙羅のそれと全く同じだ。
「それが見えないかわかろうともしないのは」
「人として最低だ」
亮は冷たく言い放った。
「少なくとも誰かを救うことも守ることもできはしない」
「くっ・・・・・・」
「頭冷やすかちょっとトウマの心も考えやがれ」
忍は今にも彼女に背を向けそうであった。
「それができねえっつうんならもうあんたは雷鳳にも近付く資格はねえ」
「トウマさん、気にしたら駄目です」
「そう、そうですよ」
シンジとミレーヌがトウマをフォローしていた。
「こんな人の言うことなんか」
「気にしないで。また雷鳳で」
「いや」
だがトウマはそんな彼等の言葉に対して首を横に振るのだった。
「皆に気持ちは有り難いけれど俺は」
「どうしたんですか?」
「一体何が」
「俺が・・・・・・雷鳳に合わないっていうんなら」
彼は寂しい言葉で言う。
「それでいいさ。俺は降りるよ」
「そ、そんな・・・・・・」
「あんな冷たい人の言うことなんか!」
「いいさ。やっぱり俺は」
「何言ってるのよ」
ミサトが彼に言った。厳しい声と顔で。
「そんなこと許さないわよ」
「ミサトさん」
「次の任務があるでしょ」
ミサトは言う。
「次の任務!?」
「そうよ。邪魔大王国も百鬼帝国もまだいるから」
「けれど俺はもう」
「誰が戦えって言ったの?」
ミサトはあえてこう言う。
「えっ、けれど」
「偵察よ」
ここですっと微笑むのだった。
「トウマ君明日の担当よ。忘れたの?」
「えっ、いやそれは」
「じゃあ行って来てもらえるわね」
「けれどミサトさん」
まだ何もわかっていないミナキはミサトにも言おうとする。
「トウマはもう」
「これは命令です」
ミナキには絶対的に峻厳な声で言うのだった。
「いいわね。命令よ」
「命令・・・・・・」
「異議があれば貴女が降りてもらうわ」
「そうしろ!」
シンが言い放つ。
「もうあんたみたいなのとは一緒にいたくもないからな!」
「そうよ!」
アスカもそれに続いた。
「トウマさんはいていいからあんたがね!」
「だから黙っているんだ」
ナタルがそんな二人を宥める。
「それだと彼女と一緒だぞ」
「けれどナタルさん」
「あんまりだから」
「だが落ち着け」
ナタルはここは年上の女として二人に接した。
「いいな。多くは言わないが」
「ちぇっ」
「仕方ないわね」
二人は何とか収まった。他の面々もベン軍曹達が何とか宥めていた。
「お気持ちはわかりますが」
彼はケーン達を中心にして話していた。
「トウマ君を見守ってですな」
「降りるわけじゃないんだな」
「そんなことはありません」
そう述べて一同を安心させる。
「ですから」
「わかったわ」
「それじゃあ」
皆やっと落ち着いた。まだミナキを睨み続けているがそれでも落ち着くものは落ち着いたのだった。
「明日。頼むわね」
「はい」
トウマはミサトの言葉に頷く。
「わかりました。それじゃあ」
「じゃあこれで解散」
ミサトはあえて笑顔を作って言った。
「皆各自で好きにやって。いいわね」
「了解」
「じゃあ飲むか」
皆それぞれ解散する。だが誰もがトウマに温かい声をかけミナキに対しては冷たい目を向ける。その有様は実に対象的なものであった。
ミサトはそれを見てもあえて言わない。だがリツコと二人になるとそれは変わった。
「困ったわね」
「彼女ね」
「ええ。あれはないでしょ」
ビールを飲みながら言う。二人でミサトの部屋で飲んでいた。
「思いやりがなさ過ぎるわ」
「そうね」
リツコも親友の言葉に頷く。
「私も聞いていて腹が立ったわ」
「今だから言うわよ」
ミサトは言う。
「ひっぱたいてやろうかって思ったわよ」
「同じね。私もよ」
「何でああも思いやりがないのかしら。シン君達が怒るのも当然よ」
「一つのことに捉われているからね」
リツコはそう述べた。
「多分」
「そうなのじゃあやっぱり」
「彼女は彼女なりに必死なのよ」
それは認めるのだった。
「けれどね」
「言っていいことと悪いことがあるわね」
ミサトはこう答えた。
「やっぱり」
「そういうことよ。やっていいことと悪いことも」
「それがわからなくなっているのね」
「雷鳳のことばかり見ているうちにね」
「雷鳳ねえ」
ミサトはふとその名に不吉なものを感じた。
「何か。危険な感じがするのよ」
「危険な感じ?」
「何処となく。人を壊していくような」
「そうかしら」
リツコはそれは感じていなかった。それでミサトの言葉に首を捻る。
「私は別にそれは」
「感じてないの」
「ええ、リツコは違うのね」
「そうね、科学者の勘かしら」
リツコはそう言うのだった。
「それとも」
「女の勘?」
「だといいけれど」
まんざらといった感じでない笑みだった。
「まあそれもおいおいわかるわね」
「ええ」
戦いは嫌な方向にも流れていた。二人はそれを感じながらも今は見守るしかなかった。他にできることはそれを笑みで隠すことだけであった。

第九話完

2007・9・15
 
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