| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

§28 広がる戦禍

「しっかし、なんでみっきー狙ったのかねぇ。四家相手に脅迫とか?」

 陸鷹化とかいう青年の腕は冷蔵庫に放置することにして、三人は後回しにしていた議題を話し始める。つまり、何故に幹彦が襲われたのか、ということだ。「腕なんて適当に埋めちゃえば?」なんて発言をかましてくれやがったお嬢様(えな)は部屋の外へ放り出した。「ぎゃふっ!」などと美少女にあるまじき奇声を発したのは気のせいだろう、きっと。扉の外から「冗談なのにぃー」などと聞こえてくるが聞かなかったフリ。

「マスタぁ……」

 嘘が真になったらたまらない。エルが非難の目で見てくるが黎斗としてはここで腕の埋葬案を承諾するのはごめんなのだ。理由は単純、腕を埋めたらそれを養分にして生えてきた野草を食すことになりそうで怖いから。これは考え過ぎなのだろうか? エルも恵那も気にしていないようだけれど。つまりはこのお嬢様の料理はワイルドすぎるということだ。これでマズければ文句も言えるのだが美味しいのだから始末に負えない。だが、上手いからといって黎斗はそんな物を口に出来るような精神構造の持ち主ではない。野草を食べるのがまずおかしい?それは気のせい。

「それはないでしょう。陸鷹化は羅濠教主から直接武芸を授かった唯一の弟子です」

「羅濠? 誰それ? 教主ってことは、なんか怪しい宗教の主かなんか?」

 杖をついた白髪のおじさんが「神を崇めよ、はぁあ〜!!」などと言っている姿を想像した黎斗はゲンナリとするが、その姿を見たエルがもっとゲンナリする。ここまで以心伝心だと、考えていることが即伝わることを喜ぶべきか少し悩む。

「羅濠教主は現在ヴォバン侯爵に次いで古い羅刹の君ですよ。……前もこんな話題になった気がするんですけど」

 白目で睨むエルから慌てて視線を逸らす。そういえば、そんな話を聞いたことがあるような気もする。

「あの御方が動かれるなんて、我々としてはたまったものじゃないですよ。なんてったって価値観が自然>>(超えられない壁)>>人間な御仁ですし」

 はて、どこかで聞いたような事だ。などと疑問符を脳裏に浮かべる黎斗に対し、エルがその答えをさらっと見せる。

「そこだけ聞くと一時期のマスターみたいですね」

 灯台下暗し。そういえば環境破壊の元凶達(にんげん)よりかは動物の言を聞いていることが多い気もする。ヴォバンが来た時などはそれが顕著だったか。思わず納得してしまいそうになったが、ここで納得してしまえば色々負けた気になるのでせめてもの抵抗を試みる。

「失敬な。僕は自然>人間くらいで済ますぞ」

「……自然優先は変わらないんですね」

 主従の会話に諦めたようなツッコミが甘粕から入る。その表情はどこか疲れているようにも見える。

「とりあえず、九法塚家の若頭の護衛をどうしましょう? 襲撃がもう一回無いとは限りませんし。黎斗さんや草薙さんだと過剰戦力ですし、かといってこちらの手の者では荷が重い。……もっともカンピオーネ(くさなぎさん)にこんなことで動いていただくのは恐れ多いですが」

「んなもん別に気にせずに護堂に頼めばいいんじゃないですか? 見学ついでに護衛で万事解決だと思うんですけど」

 黎斗の発言に苦い顔になる甘粕。はて、何か都合が悪いのだろうか?

「見学だとひかりさんを連れて行くことになりますよ? マスター。危険地帯に連れて行くのはいかがなものかと」

「あっちゃー…… ようじ……もとい少女を連れていって事件になったらトラウマになりかねないか」

 危険地帯にひかりを連れて行くのは教育的によくないか。媛巫女の修業がどんなものか黎斗にはわからないけれど、グロ状況を見る修業があるとは思えない。護堂だけで行くのも「なんで行くの?」と言われたら説得力に欠ける。第一、魔王様(カンピオーネ)を人間の護衛になどつけようものなら他の人間に何を言われるかわかったものじゃない。そうしてみるとこれは難しい問題だ。もともと陸鷹化と戦える位の強さでなければならない時点で相当絞られるというのに。

「誰か適任者がいな——「恵那が行くよ?」……え?」

 後ろに目を向ければ三人分と一匹分のお茶菓子を持ってきた恵那が侵入してきた。

「だから、恵那が行くって。片腕のあの子なら恵那でも優位に戦えるよ。今度こそ任せといて!」

 誇らしげにボリュームのある胸を張る恵那。正直目のやり場に困る……などと普段なら言う(し、今も実際そう思う)のだが、今回は残念ながらそんな動揺出来そうにない。なぜならば。

「……大丈夫? その発言は死亡フラグにしか見えないよ?」

 戦闘能力的な問題で考える。片腕の青年ならば普段の恵那でも優位に戦えるだろう。神祖(といっても現在これは疑惑にすぎないのだが)の少女は洗脳(ディオニュソス)権能(チカラ)で昏倒させたから当面起きることは無い。だが、あれは咄嗟にかけたものだ。神クラスの存在が呪力にものを言わせて力押しで解呪してきたら呆気なく解けてしまう可能性も否定はできない。だが羅濠教主とやらが果たしてそこまで気に掛けるだろうか。さっき聞いた価値観的教主とやらは人命軽視の傾向があるように見受けられる。願わくば神祖の救助をスルーしてくれるとなんとかなるのだが。そんな期待に身を任せてもよいのだろうか?

「まぁそんな期待が既にフラグな気もするよね」

 口に出して思わず苦笑。ゲームなどではないのだから、フラグ云々は考えすぎか。ゲームのやりすぎで、どうも思考が二次元に染まっているようだ。

「……とりあえず保険に暗示(ディオニュソス)を仕掛けておくか。神格貸与が出来ればよかったんだが……まぁいいか。無い物ねだりしてもしょうがない」

 八雷神は完全に権能を掌握をしていない。同時期に簒奪した迦具土や大国主はだいぶ掌握できているのだが、彼らの権能よりも八雷神の方が制御も含めて甘いのだ。制御の方は日々雷龍を顕現させて慣らしているのだが、まだ完全制御には時間がかかるというのが正直な感想だったりする。大雑把な、もといアバウトな性格がこんなところで災いするとは。雷龍制御ですらこれなのだから、神格貸与や権能改竄など推して知るべしではある。自分にする程度ならまだしも、こんな有様では恵那に護身用に神格の委譲をすることが適わない。下手に貸与しようとして暴発したらこと(・・)だ。

「どしたの?」

 小声で呟いたつもりが断片的にでも恵那の耳には入っていたらしい。野生児の聴覚恐るべし。曖昧な笑いで誤魔化して、恵那の持ってきた羊羹を見やる。

「おぉ……」

 素晴らしい。そんなことを思いながら、均等に切り分けられた羊羹と抹茶に黎斗の目が留まる。手が勝手に羊羹への伸びた。まず、一口。とろけるようなまろやかな、それでいてクセの無い甘みが羊羹独特の香りと共に味覚と嗅覚を愉しませる。抹茶の苦みと芳香がそれを更に引き立て、羊羹を食べる手が進む進む。

「目がキラキラしてますな……」

 呆気にとられた様子の甘粕を尻目に至高の時間を満喫する黎斗。適度な歯応えの羊羹は、柔らかすぎず、しかし硬すぎず。甘粕から見ても一流の物であるとはわかるのだが、ここまでおいしそうに食べられるのは一種の才能ではないか、などと思わず思考が脇道に逸れる。見ているだけでこっちまで幸せになってくる食べっぷりだ。

「マスターは羊羹とラーメンが大好きですから。マスター、私の分も入ります? キツネ一匹分の羊羹なんてたかが知れてますけど」

「おぉ……!! さっすがエル、話が分かるぅ!!」

 上機嫌でぺろりと平らげる黎斗。一口で平らげた後、もっと良く味わって食べなかったことを後悔して絶望に打ちひしがれる。この光景を見て「今度来るときは和菓子を持ってきましょうかねぇ」などと甘粕が考えたりするのだがそれは別の話である。





「……まさか教主様が猿猴神君の復活を投げるとは」

「あてが外れたな。さて、どうする?」

 どこか遠く、離れた場所で。魔女王は庇護者と二人、想定外の事態に頭を抱える。神祖(アーシェラ)魔王(きょうしゅ)を用いて鋼の軍神である”中華の大英雄”を覚醒させる。使える駒が少ない彼女にとって、教主の持つ戦力がごっそり抜けたことは戦略の崩壊を意味する。———だが。

「いえ、まだです。まだここからです。幸い教主様はこちらの邪魔をしないと仰ってくださいましたし、生贄(アーシェラ)も返してくださいました。更に教主様ご自身もあちらへいらっしゃるようですし」

 日本はこれから忙しくなるとみてまず間違いないだろう。最凶の妖人が襲来するのだ。各地の警護に割く人員の不足はもはや決定事項だろう。本格的に彼女が動くならば大混乱は避けられない。それも首都に襲来するとなれば、なおさらだ。そう思い、事態を打開する可能性はゼロではないと自身を鼓舞す。

「予想外の状況に転がりましたが寧ろ僥倖かもしれません。これだけ大事になってきますとわざわざ私を追ってきてくださる黒王子様もそう易々とは動けないでしょう」

 アレクは彼女以上に顔が知られている。それだけでも術者が集結するであろう土地では相当動きにくくなるはずだ。おそらく彼も情報網は東京周辺にあるのだろう。日本の機関がこの近辺に集中しているように。だが、そうはいってもここはホームグラウンドではない。ならば如何に神速の術を持っていたところで、派手に動けば発覚するのも時間の問題。一国の首都(とうきょう)神殺しの魔王(カンピオーネ)が三人。地雷原という表現すら生温い状況。

「更にアーシェラの事、そろそろ大陸の冥王様にも伝わる筈です」

 ここにジョン・プルート・スミスが加わったらどうなるか。トドメを刺し損ねたアーシェラを追って現地入りする可能性は十二分に存在する。そうなれば情勢は誰も読むことが出来なくなる。

「それも計画通りかね?」

 ”彼”のからかうような声に苦笑いしながら、彼女は計画を練り直す。

「まさか。元々露呈すると思っておりました。ただあの娘(アーシェラ)が他人に姿を見られたことで少々早まっただけですわ。これも嬉しい誤算です。」

 一都市に魔王が計四名という状況になってしまえば、彼女自身の存在などあってないようなものだ。不確定要素が入り乱れすぎていることが、逆転の可能性を導き出す、気がする。毒を持って毒を征す。どうせ教主に接触したことは賢人議会に伝わっているだろう。ならば、リスクを覚悟で欧州の剣王(サルバトーレ)東欧の侯爵(ヴォバン)にも接触すべきか。東京にこれだけ集結すれば、まず彼女の目論見は露呈しないだろう。金管楽器を演奏している隣の家でガラスが割れても誰も気にすることがないように。

「つきましては叔父様、少々お願いが……」

 あとは陽動の為に彼女の庇護者(・・・)欧州(こちら)での目撃があれば十分だろう。欧州で隙をついて策謀を起こすように見せかけられればそれで目的は達したも同然。あくまでも庇護者を「偶然発見した」という形で済ませなければならない、ということが難易度を上げるが大して難易度が上昇する訳ではない。

「気取られる前に、全て終わらせます」

 確固たる決意と共に、魔女王は目的地を只々目指す。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧