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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第28話

「話を戻してほしいだけど、俺達はこの後どうなるの?」

上条は土御門と神裂が何が目的で此処に来たのかまだ知らない。
麻生は一緒にまとめるな、と少し上条を睨んでいるが土御門は気にせず話を進める。

「さっきも言ったが異変を調べた結果、どうにも「歪み」はカミやんと麻生を中心点にして世界中に広まっているらしいんだよにゃー。
 それでいて、中心に立つ二人は無傷ときたもんだ。」

「ちょっと待て。
 さっきも言ったが俺も巻き込まれた側だ。
 後、当麻が中心点だ。
 俺は関係ない。」

「俺だけ犯人扱いみたいにいうのはやめろよ!!
 てか、お前達も姿に変化ないじゃねぇか!」

上条はそう言うと土御門はにゃーと笑い神裂は途端に暗い顔をする。

「これでもオレや神裂は運が良いんだよ。
 カミやんを中心に展開された御使堕し(エンゼルフォール)が発動した時、オレと神裂ねーちんはロンドンにいたからにゃー。
 その時にウィンザー城っていう城に居てなその城の結界レベルは、あの「歩く教会」と同等かそれ以上のものだぜよ。
 これくらいの「距離」と「結界」の条件が合致して難を逃れられるって事。
 魔術師の多くは御使堕し(エンゼルフォール)に呑まれていて異変に気づいているのはほんの一握りだにゃー。」

「ふうん、何だか良く分からないけど、つまり不幸中の幸いって事か。」

「いんやあ案外そうでもないんだにゃー。
 ねーちんはともかくオレは最深部にいなかったから、城の城壁が三〇〇秒ほど御使堕し(エンゼルフォール)を食い止めている間にどうにか結界を張ったんだよ。」

「あれ、お前って魔法は使えないんじゃ。」

上条は三沢塾の学生達(のうりょくしゃ)は魔術を使った途端、拒絶反応のように身体を爆発させたことを思い出す。
そんな上条の意図を読み取ったのか土御門はわずかに口を歪めて言った。

「ああ、だから見えないところはボロボロだぜい?
 もっかい魔術使ったら確実に死ぬわな。」

土御門のアロハシャツの前が風になぶられた。
ぶわりと広がったシャツの中、左の脇腹全体を覆い尽くすように、青黒い内出血の痣が広がっていた。
それはまるで得体の知れないモノに浸食されているかのようにも見えた。

「だが、ここまでやっても完璧に御使堕し(エンゼルフォール)から逃れられた環ではないんだにゃー。」

それでも土御門は笑っていた。

「ウチらやカミやん、麻生は例外として周りから見るとオレは「入れ替わった」ように見えるらしいぜい。
 ちなみにオレの中身はアイドル「一一一(ひとついはじめ)」。
 なんか人気女優に手を出した事が週刊誌にすっぽ抜かれたみたくて、熱狂的アイドルファンの夢見る乙女と目が合うと金属バット片手に追い掛け回される愉快な人生を追体験中ぜよ。」

「それはまた大変だな。
 そうなると火織も誰かと入れ替わっているのか?」

さっきからずっと黙っている神裂に聞いてみるとぴく、と肩がわずかに揺れた。
そして重苦しい声で神裂はいった。

「中身は魔術師「ステイル=マグヌス」」です。
 世間から見ると私は身長二メートル強の赤紙長髪の大男に見えるそうですね。
 おかげで手洗いや更衣室に入っただけで警察に呼ばれるし、電車に揺れているだけで痴漢に間違われました。
 ええ、本当に驚きました。
 始めは世界の全てが私にケンカを売っているように見えてしまって本当にどうしたものかと。」

上条は神裂の平たい声の無表情に怯え、麻生は神裂は話した状況を思い浮かべ珍しく、くくくっ、と笑いを堪えている。
どうやら麻生の笑いのツボに入ったみたいだ。
それに気づかず神裂は上条を犯人だと本気で思っているのか涼しい顔のまま、がしぃ!、と上条の両肩を掴んでいった。

「本当にあなたは何もしていないんですか?
 本当は何かしたのではないですか?
 正直に告白しなさい、怒りませんから。
 私はもう嫌なのです、私はもうさっさと解決したいのです。
 道行く人々から「妙に女っぽいシナを作る巨漢の英国人」など、と呼ばれるのは耐え難い苦痛なのだと言っています。」

そして眉一つ動かさず神裂は人間離れした恐るべき力でがっくんがっくん、と上条の首を前後に揺さぶっている。

「誰かコイツを何とかして止めてくれ!!
 ていうか御使堕し(エンゼルフォール)ってのは魔術なんだろ!
 だったら超能力者の俺に魔術が使えるか!!」

ピタリ、と上条を揺さぶっていた神裂の手が止まる。
神裂は眉を寄せて困ったような顔になって言う。

「それでは八方塞がりです。
 犯人が天使を使って何をしようとしているかも分からない以上、一刻も早く御使堕し(エンゼルフォール)を食い止めなければらないのに。
 私はこれから一生「日本語は上手だけど何故か女言葉の巨漢外国人」として生きていかなければならないのでしょうか?」

上条は自分が悪くないのに何故か罪悪感に似た感傷を受けてしまう。
土御門は助け舟を出すかのように神裂に言った。

「こればっかりは一からやり直すより他に道はないぜよ。」

「しかし、彼の側には禁書目録がいます。」

「神裂ねーちんも三沢塾のレポートは見ただろう?
 もしカミやんが御使堕し(エンゼルフォール)を使えば確実にこんなに健康体ではないぜよ。」

土御門の説明を受けて捜査がやり直しになってしまい一気にテンションが下がる神裂。
しかし、此処にもう一人の例外がいる事に気づく。
麻生恭介の存在を。
神裂の矛先が上条から麻生に移り変わる。

「やはり貴方の仕業でしたか。
 貴方でない事を私は願っていましたが・・・」

そう言うと腰にある刀に手が触れる。
神裂はインデックスと麻生が戦っている時に麻生が魔術の様な術を使っているのを見た事がある。
だから、この御使堕し(エンゼルフォール)も発動したのも麻生だと思っている。

「貴方の実力がどれ程のモノかは前回の時に既に分かっています。
 ですから手加減なしで行きます、もし術を解くつもりなのなら今のうちですよ。」

満更でもない雰囲気を醸し出す。
上条はえ?これから此処でバトルが始まるの?、と土御門に聞き、土御門もさぁ~どうなるかにゃ~、とのんきな事を言っている。
神裂が戦いの雰囲気を出しているにも拘らず麻生は面倒くさそうな顔し大きくため息を吐いて言った。

「お前、早くこの入れ替わりを解決したいからって無理矢理俺を犯人に仕立て上げるな。
 それで俺が犯人じゃなかったらどう責任をとるつもりだ?
 後、俺が御使堕し(エンゼルフォール)を発動したって証拠は?」

麻生の正論にさっきまでの雰囲気はどこ行ったのかうっ、と声をあげて神裂は怒られている子供の様な表情になる。
そんな神裂を気にせず麻生はざくざく攻めていく。

「確かに俺は魔術は使えるけど御使堕し(エンゼルフォール)を発動して何の得がある?
 俺はお前みたいにどこかの魔術結社に所属している訳でもない。
 早くこの事件を解決したい理由は自分にかかっている入れ替わりを治したいだけだろ?
 そんな自分勝手な理由で俺を犯人にされてこっちはいい迷惑だ。」

麻生が言い終わる頃には神裂は明らかにどんよりとした空気に包まれていた。
土御門は神裂に聞こえない様にそっと話しかける。

「麻生、少し言い過ぎだにゃー。」

「俺は正論を言ったつもりだが?」

「そういう訳じゃなくて。
 ねーちんも此処に来るまで精神的にかなりダメージを受けてたにゃー。
 それに加えて麻生のあの言葉はまさにダメ出しぜよ。」

土御門に言われちらりと神裂の様子を窺う。
麻生の言葉が相当効いたのか未だに暗い空気を纏っている。
土御門は麻生の肩を叩いてGO!!、のサインを送る。
麻生は頭をかきながら以前と立ち直る兆しが見えない神裂に話しかける。

「あ~、火織。」

麻生に名前を呼ばれゆっくりと顔をあげる。

「ここでへこたれていても何の解決にもならない。
 俺も手伝うから元気を出せ。
 さすがに知り合いが入れ替わっていたら俺も困るからな。」

俺は悪くないのに何で俺が悪い雰囲気になっているだ?、と疑問に思ったがそれをツッコんでしまえば当分、神裂は立ち直れないような気がしたので言わないでおく。
麻生の慰め?を受け少しずつ暗い空気が無くなっていく。

「そ、そうですね。
 ですがこれでは八方塞がり、手がかりは何もありません。」

「そんな事ないぜい、少なくとも御使堕し(エンゼルフォール)はカミやんを中心に起きているんだし。
 犯人はカミやんの近くにいるって可能性が高いにゃー。」

「え?そうなのか?」

「かと言って犯人が必ずしも上条当麻に接触してくるとも限りません。」

「いや、こいつの不幸は折り紙つきだ。
 その不幸が当麻と犯人を引き合わせるだろう。」

「ちょっと待て!!
 それじゃあ、あれか俺はいつかこの御使堕し(エンゼルフォール)っていう魔術を発動した犯人に襲われるって事か!?」

「そうなるからウチらがカミやんを「犯人」から護って、カミやんには御使堕し(エンゼルフォール)の儀式場の魔方陣破壊に付き合ってもらう。
 ギブアンドテイクのステキな取り引きだと思うんだがにゃー。
 そこら辺はどうなのよカミやん?」

土御門に聞かれ上条は少し考えた後その取り引きに応じる事になった。
夏の夜は午後八時になってようやく訪れた。
海の家の一階、丸テーブルを囲むように上条一家はそこにいた、と言ってもメンツはヘンテコ入れ替わりメンバーであるが。
このヘンテコなメンツに「上条と麻生の友人」としてごく自然に神裂火織がテーブルに就いてた。
もっとも周りから見ると「むさ苦しい赤髪外国人のヤロウの友達」に見えるらしいが。
ちなみにこの場に土御門はいない。
彼は上条と麻生と神裂以外の人間から見ると「問題ありの男アイドル」に見えるからだ。
今頃、消波ブロックの陰にでも隠れてフナムシと戯れているかもしれない。
早くご飯を食べたいのだが何故か店員の姿は見えず、テレビも火野神作という死刑囚が脱獄したまま発見されないとかいう陰鬱なニュースしか流れていないので話題作りにもならない。
ちなみに、上条の事をおにーちゃんと呼んでいる美琴についてインデックス(母)に聞くと従妹らしい。
それならおにーちゃんと呼ばれても不思議ではないのだが、如何せん外見があれなので鳥肌が出る事に変わりはない。
すると、どすどすと大きな足音を立てて浜の方の入り口から店主がやってきた。

「おう、悪りぃな店を空けちまって。
 浜の有線放送が壊れちまって、そっち直すのに時間食っちまった。」

声に店主から一番近くにいた神裂が振り返りながら言う。

「お気になさらず、それは津波の情報や災害救助にも利用される設備でしょう。
 人命に関わるものならば優先してしかるべき・・ってステイル?なん、馬鹿な!?」

「すている?何かの流行語かそりゃ?
 それはそうと今から晩飯だよな。
 メニューは少ねえがその分マッハで用意するんで勘弁してくれな。」

どうやらステイルは思いっきり御使堕し(エンゼルフォール)の影響を受けているらしい。
土御門や神裂のように以上に気づいている人間の方が稀なのだ。
注文を取った巨大な店主がどすどすと店の奥に消えていくと、インデックスが頬に手を当てながら神裂の方を見て言った。

「あらあら、それにしても随分と日本語が達者なのね。
 おばさん感心しちゃったわ。」

神裂は一瞬ビクッと肩を動かしてしまう。

「あ、いや、はい、お気遣いなく。」

神裂とインデックスは同じイギリス清教の人間だが、とある事情で絶交状態なので急に話しかけられると対処に困るのだ。

「あらあら、物腰も丁寧で、大柄でがっちりした人だからおばさん最初はもっと違うイメージを抱いていたのだけど。」

ぴく、と神裂の肩がわずかに動く。
だが、周りはそんな変化に気づく訳がない。
今度は美琴が率直な感想を言う。

「けど、その言葉遣いってちょっとニュアンスずれているわよ。
 だって、それじゃ女言葉っぽいもの。
 そんなガタイしてるのなら、少しずつでも男言葉に直していかないと。
 仕草もちょっとだけ女っぽいよ?」

ぴくぴく、と神裂の頬の筋肉がわずかに引きつる。
神裂は口の中で何かを呟いている、ちょっとだけって、と確実に呟いている。
上条はやばい、と気づき麻生は必死に笑いを堪えている。
ダメ押しで刀夜が言った。

「こらこら、やめないか二人とも。
 言葉なんてものは正しいニュアンスが伝わればそれでいいんだ。
 おそらく彼は日本人の女性に言葉を教わったからこうなっただけだろう。
 見た目がどうだろうがそんなものは関係ない。」

ピクビギ!、と神裂の身体のあちこちが小刻みに震えている。
上条が何かフォローを入れようとした時だった。
神裂の視界の端に麻生が必死に笑いを堪えている姿が映った。
ゆらりとゆっくり立ち上がるとがしっ!!、と麻生の襟首をつかみそのままズルズルと引きずられていく。
麻生が自分の失態に気づいたのは少し引きずられた後だった。
人目のない所まで連れ去らわれた後、抗議と苦情を麻生に述べる。
麻生は俺に言っても何の解決にもならないのでは?、と思ったがそんな事を言っても無駄だろうなと考え、適当に相槌を打ちながら聞いている。
そこで神裂はふと近くにある曇りガラスの引き戸を発見したようだ。

「言われてみれば海の家には風呂場もあるのですね。
 こんな事を明言するのもどうかと思いますが、トラブル続きでロクに湯浴みもしていない状態なのです。」

「お前、今この状況を分かって言ってるのか?」

「私情を挟んでいられない状態なのは心得ているのですが、いけませんね。
 あの子に笑顔を向けられる事に私はどうしても慣れる事ができないようです。
 私にはそんな資格はありません。」

何かを噛み締めるように神裂は言った。
麻生は神裂がなぜそう思っているかを知っている。
だからこそ何も言わずに話を変える事にする。

「それで俺をここまで連れてきた理由なんだ?」

「貴方に頼みたいのは簡単に言えば見張りです。
 そこの風呂は温泉や銭湯と同じく共用なのでしょう?」

この小さな海の家に「男湯・女湯」という区別はない。
風呂場は一つなので男が使っている時は男湯になり女が使っている時は女湯になるのだ。
そして、神裂は他の人から見ると「ステイル=マグヌス」に見えるのだ。
よって神裂が入っていると男が入っていると思い、他の男性が入ってくる可能性がある。
神裂はそれでは頼みましたよ、と言って脱衣所に入って行った。
麻生は曇りガラスの引き戸に背中を預けると通路の方から土御門が堂々と歩いてやってきた。

「そんなに堂々と歩いて良いのか?
 他の奴に見つかったらひどい目に会うんじゃないのか?」

「なにバレなきゃ良いんだにゃー、これ土御門さんの基本概念でね。」

そうか、と言って視線を土御門から古い木で作られた通路に移す。

「そういえば麻生はどうやって御使堕し(エンゼルフォール)から逃れたんだ?」

「俺はてっきりお前が俺の能力について調べていると思ったんだが。」

「麻生の能力は学園都市が開発している能力とは違う能力だ、かといって魔術でもない。」

「それはイギリス清教として俺の能力を探る為に聞いているのか?」

麻生は視線を通路から再び土御門の方に移し質問する。
土御門は少し笑いながら答えた。

「半々ってとこだにゃー。
 どちらかと言えば個人的に知りたいの方が大きいかなにゃー。」

それを聞いてどっちでも俺は構わないが、と言って土御門に教える。

「俺が持っている能力のおかげで俺の存在や身体に直接干渉してくる能力、魔術は俺の許可がなければ自動的に無効化(ディスペル)されるようになっている。」

それを聞いた土御門はふむふむ、と麻生の能力について考えているようだ。

「一つ聞きたいんだが麻生はどうやってその力を手に入れたんだ?」

土御門の問いに麻生は答えない。
そして夜空に浮かんでいる月を見ながら答えた。

「小さい時に突然目覚めてな。
 けど、何で星はこの能力を俺に与えたのか全く分からないんだ。」

麻生は独り言のように呟く。
土御門はそうか、とそう一言だけ告げた。

「んじゃ、ブルーなイベントはここまで。
 こっから本題ですたい。」

突然のテンションの違いに麻生は土御門を警戒するが、とりあえず何をするか聞いてみる。

「何を考えている?」

「よくぞ聞いてくれました。
 ざざん!夏のドキドキ神裂ねーちん生着替え覗きイベント!!」

携帯を取り出して高らかに宣言する土御門だが麻生はそんなイベントに興味がない。

「そんなくだらないイベントをするなら一人でやってくれ。」

「あれ、麻生は神裂ねーちんの脱いだ姿に興味はないのか?」

「ああ、全く。」

即答する、麻生。
土御門はこんなにも早く断られるとは思ってもみなかったらしくさらに思わぬ反撃を受ける。

「というよりお前、舞夏の事を愛しているみたいなことを言っているのに別の女の生着替えとか見て大丈夫なのか?
 あいつ、なかなか鋭い所があるからすぐにばれるんじゃないのか?」

麻生はかなり冗談のつもりで言ったつもりだった。
だが、土御門は違った。

「あ、ああああああいしているって、な、なにを、根拠に!?」

満更でもない反応を見た麻生は。

「お前もしかして一線を越えたのか?」

「ばばばばばばバカやろう!!!!そんなのあるわけがないにゃー!!」

「土御門・・・・」

「そんな眼で見てくるんじゃない!!
 それ以上そんな眼をしてくるならお前の眼球を取り除いてやる!!」

今にでも飛び掛かってきそうな土御門だったがきし、と床板が小さく軋んだ瞬間忍者のように物陰から物陰へと移動していく。
それと同時にインデックスと美琴がやってきた。

「あらあら、麻生さん。
 どこかに行ってしまったと思ったらこんな所にいたのですね。」

「何か俺に用があったのですか?」

「あらあら、違いますよ。
 ただ料理を出すのに時間がかかるらしくて、その間にお風呂をいただこうかと思ったんだけど。」

「ねぇねぇ、誰か入っている?」

美琴は曇りガラスの引き戸に目を向けて言った。

「ああ、入っているな。」

「それっておにーちゃん達のお友達でしょう。
 だったら、一緒に入ったらいいじゃん。」

は?、と麻生は美琴の言葉を聞いて絶句する。
そして思い出す。
彼女達から見れば神裂火織はステイル=マグヌスに見える事を。

「ちょっと待て、俺はそのあれだ。
 一人で入りたいんだ、他の人がいると落ち着いて入れないんだ。」

「えー、そんなの待っていたら料理が出来て絶対に冷めているよ。
 別に他の人がいてもいいじゃん、男同士さっさと一緒に入っちゃってよ!!」

「おい、ちょっと待て!!」

「はいはーい、ごめんよごめんよー。」

遠慮なく開けられる引き戸、情け容赦なく脱衣所に放り込まれる麻生恭介。
その目の前に文章で表現してはいけない格好の神裂さんが立っていた。
どうやらタイミング悪くちょうど風呂から出てきた所らしい。
特に何も身につけず、お湯に濡れた髪を束ねようと両手を後ろに回し、髪を束ねる紐を口で小さく咥えた姿勢のまま彼女の時間は止まってしまったようだ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

密室に下りるは沈黙の重圧。
神裂の顔には一切の表情がない、その手はゆらりと壁に立てかけられた長い黒鞘へと伸びていく。
黒曜石のように黒く輝く神裂の瞳は言っている。
最後に何か言う事は?
さすがの麻生もこれは何も言っても避けられないと直感しているが、それでも小さな希望にかけて言った。

「これって俺のせいじゃないよな?」

その直後麻生の顎に向かってアッパーするかのように黒鞘の先が襲いかかる。
麻生は腕をクロスしてその鞘を何とか防御するが相手は聖人。
人間では考えられない力を出し、加えて麻生も何の強化もしてないのでそのまま曇りガラスの引き戸を突き抜けて後ろの草むらまで吹き飛んでしまう。
麻生は頭上に輝く月を見て一人呟いた。

「こういう展開って俺じゃなくて当麻の担当じゃあなかったけ?」 
 

 
後書き
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