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戦国異伝

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第八話 清洲攻めその一


                  第八話  清洲攻め
 清洲城に向けて進撃する織田信長の軍勢のところにだ。一人の随分と身体が大きく毛深い男が向かっていた。顔も濃い髭があり髷は総髷である。
 その彼がだ。周りの者達の声を受けていた。
「あの、家攻様」
「本当にいいのですか?」
「あのうつけ殿に仕えるとは」
「宜しいのですか、それで」
「本気ですか?」
「無論本気じゃ」
 その男蜂須賀正勝は堂々とした大きな声でこう周りに返した。
「さもなければここまで来るか」
「どうしたんですか、一体」
「そうですよ。これまでは中立を守ってきたというのに」
「国人として力もありますし」
「それでもいけたのに」
「それもこれで終わりじゃ」
 また周りに言う蜂須賀だった。彼は黒い大きな馬に乗っている。その大きさは周りの者達のそれと比べて二周りは大きい。
 その彼がだ。大きな声で言うのであった。
「わしはこれからそのうつけ殿に仕えるぞ」
「どうしてもですか」
「本気なんですか」
「やっぱり」
「本気も本気じゃ」
 こう言って憚らない蜂須賀であった。
「よいな、間も無く那古屋じゃ」
「ううん、何か未来が怖いな」
「これからが」
「一体どうなるか」
「これで蜂須賀家も終わりかな」
「遂に」
「何が終わるものか」
 それは全力で否定する蜂須賀だった。やはり声が大きい。
「これから蜂須賀家はじゃ」
「滅亡ですね」
「うつけ殿と一緒に」
「ふん、うつけはうつけでもじゃ」
 蜂須賀はさらに話すのであった。
「あの御仁はおおうつけじゃ」
「やっぱりうつけじゃないですか」
「それも上に言葉がつくみたいな」
「洒落になりませんね」
「そんな人に仕えるって」
「一体全体何を考えておられるんだか」
 周りの者はこうは言ってもである。一人も離れようとはしない。不思議と蜂須賀の周りに集まってだ。彼を慕っているのであった。
「まあそれでもですね」
「蜂須賀様が言われるならです」
「わし等は行きますよ」
「そのうつけ殿のところへ」
「何じゃ、来るのか」
 蜂須賀本人も彼等のその言葉を聞いて思わず笑い声を出した。
「あれこれ言ってもか」
「ですから。わし等は蜂須賀様に惚れてますから」
「それならですよ」
「例え火の中水の中」
「行きますよ」
「最初からそう言え。むっ」
 ここで彼等は前にあるものを見たのだった。それは。
「ふむ、兵達じゃな」
「青い鎧に青い旗に青い陣笠ですね」
「あれは確か」
「そのうつけ殿の軍じゃな」
 蜂須賀が言った。
「あのうつけ殿は軍を青でまとめておるそうじゃからな」
「武田が赤、上杉が黒で北条が白」
「毛利が緑であの御仁は青ですか」
「色だけは見事ですな」
「全く」
「いやいや、これはじゃ」
 しかしここで蜂須賀は笑って言うのであった。
「面白いのう」
「確かに色は面白いですね」
「それは」
「それだけですが」
 周りの声が冷めていた。 
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