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戦国異伝

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第七話 位牌その十二


「それはどうだろうか」
「そうですね。それは」
 忍の者も考える声を出す。そのうえで主に話す。
「悪くはありませんね」
「そう思うな」
「はい、思います」
 まさにその通りだというのだった。
「やはり。都に」
「三好がいるがな」
「三好長慶ですね」
「近頃あの男は勢いがないそうだな」
「その執権の松永久秀が実験を握ろうとしています」
「ふむ、左様か」
 宗滴は忍の話を聞いてまずは頷いた。
「主細川から実験を奪った男が今度は己がか」
「これも因果でしょうか」
「さてな。だがその松永という男」
「かなり危険な男のようです」
「そうであろう。あの男には気をつけておくべきか」
「若し三好長慶が死ねばどうなるでしょうか」
 忍の者はその場合のことも問うてきた。
「その場合は」
「分裂だな」
 そうなるというのである。
「その松永と三好の家の者達でだ」
「分裂して互いにですか」
「争う。近畿はそれでまた大きく乱れるであろう」
「そしてそれにより三好は力を失いますか」
「三好長慶は優れた者だった」8
 宗滴の長慶への言葉は既に過去形であった。その言葉で語るのだった。
「だが。衰えたな」
「確かに。それも思ったよりも早く」
「しかも酷いものだ」
 衰え方にも色々とある。長慶の衰えはその中でもかなり酷いものだというのである。
「最早昔日の面影はない」
「だからこそ松永に付け入れられるのですね」
「結果としてそうだ。弟達も失ったしな」
 長慶のその弟達の話にもなる。
「中には松永の讒言で殺してしまった者もいるな。早くに死んだその弟達もどうも松永の陰謀めいているが」
「恐れながらそれで間違いないかと」
 忍の者はまさにそれだというのだ。
「確かなことは掴んでいませんが」
「そうか、やはりな」
「松永弾正久秀、その出自も確かではありません」
「どの者かわかってはおらぬのか」
「はい、まだ美濃の斉藤道三の方がよくわかっています」
 その美濃の蝮の方がだというのである。その彼である。
「あの男はかつては寺の小僧であり油売りでありましたから」
「それであそこまでなった男だ」
「しかしその斉藤と比べてもです。松永の出自ははっきりとはしておりません」
「よからぬものを感じる」
「感じられますか」
「どうもな。しかしそれはわからぬな」
 宗滴は曇った顔で言葉を出した。
「そうだな」
「調べようとした者は多いです」
 それはだというのである。
「まず三好の家の者達がそうしております」
「しかし何もわからなかったのだな」
「何故か。調べようとした者はです」
 忍の者の言葉にもである。不吉なものが宿った。顔は忍装束の覆面の中に隠れている。だから声だけがわかるのだった。
「一人として長く生きてはおりません」
「消されたな、松永に」
「そうでしょう、やはり」
「ふむ。天下には怪しい者もいる」
 宗滴はこのことにあらためて実感するものを感じていた。
「他にもおるのやもな」
「左様でしょう。一向一揆といい」
「あの者達もだ。妙だ」
「確かに。殺しても殺しても出て来ます」
「あれだけ殺してもじゃ。越前の民が減った気配がどうにもせぬ」
「しませぬか」
「わしの気のせいであろうか」
 こう考えていた。彼はこのことで確かなものを掴んでいなかった。だから考えてそれで止めるしかなかったのである。確かなものを見ることはできていなかったのである。
「加賀を何とかしておきたいが」
「しかし我等の力はそこまで至っておりません」
「朝倉、もう少しの力が必要じゃ」
 宗滴は無念そうに語る。 
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