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戦国異伝

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第七話 位牌その六


「それが心配でならん」
「まあ平手殿落ち着かれよ」
 佐久間がその平手に見かねたように告げてきた。
「今ここであれこれ話しても仕方ありませぬぞ」
「牛助、そう言うがじゃ」
「殿は必ず来られますぞ」
 平手にこうも告げる佐久間だった。
「来られない筈がありません」
「そう言えるのか」
「来られるして何をされます?ここで来られるして」
「ううむ、そう言われると」
「ここは言うならば戦の場です」
 佐久間はまた言ってみせた。
「それならば殿が来られなければ話になりませぬぞ」
「そうだな。まずわし等がいる」
 柴田もここで再び口を開いた。
「では殿が来られない筈がない」
「何なら殿を務めましょうか」
 佐久間は冗談めかしてこんなことも言ってきた。
「よければ」
「ではわしが先陣じゃ」
 柴田も佐久間に合わせて言う。
「さて、どれだけ暴れようか」
「おお、お二人が動かれるとなると」
 何といつもは静かな丹羽もここで出て来た。
「それがしは兵糧や武具の用意をせねばなりませんな」
「政の場ですと銭ですな」
「そうですな」
 村井と松井の言葉だ。
「戦にはそれも必要ですが」
「ではこの大殿の葬儀にもそれ以上に」
「よし、早速大暴れの準備だ」
「うむ」
 前田と佐々がここで立ってみせる。
「槍の又左の力見せようぞ」
「さて、わしも縦横に暴れるか」
「全く。御主等はどれもこれも」
 そんな彼等にもだ。平手は愚痴るばかりであった。
「どうしたのじゃ、殿に影響されてばかりではないか」
「しかしですぞ、平手殿」
 これまで黙っていた池田も彼に言ってきた。
「殿といるとこれが何かと面白くて」
「左様、見るものが違いますから」
 九鬼もここでようやく出て来た。
「面白いではないですか」
「わしも戦だけでなく政もやらされるからのう」
「わしもじゃ」
 原田と川尻である。
「それもまた楽しいしのう」
「色々とためになるわ」
「まあ多くの家臣がいるのはよい」
 平手はとりあえずそれはよしとした。しかしここでさらに言うのが彼である。
「だが。あれだけ無作法では」
「爺、そろそろだぞ」
 その彼に信行が言って来た。
「いいな」
「あっ、もうですか」
「そうだ、時だ」
 信行はこう彼に言うのだった。
「皆の者もだ。行くぞ」
「はっ、わかりました」
「それでは」
「兄上は葬儀の場でお待ちしよう」
 信行が最も冷静であった。
「弟や妹達も揃っておるな」
「はい、それはです」
 林通具が彼に答えた。
「どなたも来られております」
「市はどうじゃ」
 信行は彼女のことも問うた。
「来ておるな」
「無論です。ただ大殿が亡くなられ今は」
「涙が止まらぬか」
「左様です」
「あれは心優しい」
 信行の言葉がここで曇った。表情は何とか平静を保ってはいるがだ。 
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