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戦国異伝

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第七話 位牌その三


「男ならばそれを目指すべきではありませぬか」
「そうだな。そしてそれ以上にか」
「わしはこの国の民を栄えさせてみせます」
 このことをだ。己の天下以上に見据えているのである。
「その為に天下をその手に治めるつもりです」
「民をか」
「戦ばかりでは栄えませぬ。やはり太平でなければ」
「天下を統一し太平にしてか」
「それは駄目でしょうか」
「いや、天下を望むのは誰でもできる」
 それはだというのだ。誰でもだというのである。
「しかしそれからを見据えている者は多くはないからのう」
「わしはその辺りの小者とは違います。天下を手中にするならばです」
「この国も民もか」
「栄えさせてみせましょう」
「楽しみだな、そなたのこれからが」
 信秀は我が子の話を聞いているうちにその笑顔をさらに深いものにさせていた。そうしてそのうえでさらに話をするのであった。
「見ていくことにするか」
「ではわしに」
「家督を譲ることになるな」
 深い笑みのまま我が子に告げた。
「家臣達もそれで異存はあるまい」
「爺だけは色々と言いますが」
「ははは、あ奴は昔からああだからのう」
 平手のことはだ。信秀も大きな声で笑って済ませた。彼のことをよく知っているからこそだ。その言葉に対して笑ってみせたのである。
「ああして小言が多いのじゃ」
「権六や新五郎より遥かに多いです」
「あの二人もかなり口煩いのだがな」
「爺はそれ以上です」
「そうだな。しかしじゃ」
 ここで信秀はこんなことも話した。
「権六や新五郎もそうだがな」
「はい」
「あ奴は見所のある者しか叱らぬ」
 そういう男だというのだ。
「そなたの家臣には色々と若い者もいるな」
「又左や五郎八や内蔵助達ですか」
「その者達にも怒るな」
「慶次に至っては殴られています」
「おお、あの武辺者か」
「御存知ですか」
「尾張一の傾奇者で悪戯者だったな」
 信秀は慶次のことを悪戯のところからも知っているのだった。
「あ奴にも悪戯をしおるか」
「茶に塩を入れたりしております。それを爺が飲み」
「それは怒るであろうな」
「わしが止める程です。困ったものです」
「しかし慶次はどうじゃ。見事か」
「戦の場ではあそこまで強い者はおりませぬ」
 信長はその慶次について述べた。
「己の武勇では権六や又左よりも上でありましょう」
「左様か」
「そしてあれで学問も好みます」
 それにも秀でているという。
「教養もあります」
「中々の優れ者か」
「ですが政や戦で兵を指揮することには興味がありません」
 信長は慶次のそういうところも見ているのであった。そのうえで信秀に対して述べる。
「他の者はどちらもできるか戦か政のどちらかで指揮もできますが」
「慶次だけはそうしたことには興味はないか」
「あれは風来坊です。そこが又左と違います」
「同じ前田の者であってもか」
「家督にも興味はありませぬ。欲のない男です」
「ただ傾奇を通すだけか」
「それが余りにも過ぎるので爺に怒られている次第で」
 それでだというのである。
「爺に言わせれば。もっと政や戦での兵の操りを覚えろとのことですが」
「しかし言っても聞かぬか」
「そういうのを見れば慶次には素養があります」
「そういうことじゃ、平手は見所のある者しか怒らぬ」
 ここまで話してだ。信秀は信長に対して平手についてこう述べたのであった。 
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