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久遠の神話

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第十六話 上城の迷いその九


「一直線に向かって来る。つまりは」
「横には来ない」
「猪突猛進だよ」
 よく言われる言葉もだ。中田は出した。
「猪ってのは本当に一直線にしか動かないからな」
「左右からですね」
「一旦攻撃をかわす。いいな」
 中田はその目を赤く燃えさせる巨大な猪、テューポーンとエキドナの子であるその猪を見ていた。怪物は今にもだった。
 二人に向かって突き進もうとしている。その猪にだ。
 中田は不敵な笑みを浮かべてみせた。そして言うのだった。
「レプリカでもわかるよな。心はなくても知能はそのままだからな」
「・・・・・・・・・」
 猪は中田を見据え続けている。そのうえでの言葉だった。
「俺達があんたを倒してやるぜ」
「あの、挑発ですか?」
「心はなくても乗ってくるぜ」
 上城に応えながらのことだった。
「本能でな」
「レプリカでも本能はあるんですね」
「ないはずがないな」
 それは最早絶対だというのだ。
「本能があるからな」
「本能は、ですか」
「ああ、挑発は本能が反応するんだよ」
 心でそうなるものではないというのだ。
「だから乗るさ。こいつはな」
「そうなんですか」
「まあ見てなって」
 笑みを浮かべたままだ。中田は上城に話していく。
「来るからな、この猪は」
「その時にですか」
「闘牛士になるんだよ」
 戦い方についても話す中田だった。
「俺達は今はな」
「闘牛士っていいますと」
「攻撃をかわして」
 そしてだというのだ。
「かわしざまに攻めるんだよ」
「あれですか」
「見たよな、テレビとかで」
「はい、スペインとかでやってる」
「あれで行くぜ」
 こう中田に話すのである。
「それでいいな」
「わかりました。闘牛ですか」
「マタドールになるんだよ」
 中田は余裕のある笑みで上城に話す。
「それじゃあやるか」
「ええ。それに早速ですね」
「来たぜ」
 その猪が突進してきた。それに対してだ。
 中田も上城もだ。そのまま身構える。そうしてだ。
 猪、突進してくるそれをまじまじと見る。猪は赤い目で突き進む。
 その猪が急激に近付いてくる。そしてだ。
 今まさにぶつかる、その瞬間にだった。
 中田はだ。強い声で上城に言った。
「今だ!」
「はい!」
「かわすんだ、上城君!」
 彼の名前を呼んだうえでの言葉だった。それを合図にしてだ。
 二人はそれぞれ左右にかわす。その瞬間にだ。
 猪の首が二人のすぐ傍を通る。ここでだった。
 そのかわしざまにだ。二人はそれぞれ剣を突き出しだ。
 猪の首に刺す。二振りの剣が確かに刺さった。だがそれでもだった。
 猪はまだ死なない。一旦突き進むがすぐに引き返してくる。そのうえで再び突進してくる。
 それを見据えながらだ。身を翻してから剣なくして身構える、中田は右手の刀を持っていてそれを構えたうえでだ。二人は言うのだった。
「こうして、ですね」
「ああ、刺しただけじゃないぜ」
「そうですよね。これから」
「剣を握ってな」
 その突き刺した剣をだというのだ。今猪に刺さっている。 
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